ステロイドは恐怖の薬?
犬に比べると猫はステロイドに対する受容体が少なく副作用は現れにくく、用量に関しても犬の倍量近くで処方することもしばしばです。これは一昔前に何にでもステロイドを打ついわゆる「ステロイド獣医」の影響だと思いますが、今でも大学病院などの二次病院でもよく使われています。
またステロイドと胃薬は一緒に服用するべきものとの古い常識が今も多くの獣医師の中で残っているようですがヒト医療の方ではステロイドが胃を障害する可能性は極めて低いと複数の論文で示されており、獣医領域でも一部の高用量症例を除き胃薬の必要性に懐疑的な論文がで出しています。
インターネットの情報が先行するこの時代、ステロイドという名前を聞くだけで拒絶反応を示される飼い主さんは多いように感じます。確かに使い方によっては副作用が起きやすい薬ではあるのですが、病気によっては使わざるを得ないこともしばしばです。
今回はそもそもステロイドって何?具体的にどんな副作用が怖いのかをメインにお話ししていきたいと思います。
そもそも「ステロイド」とは?
ステロイドとは体内で生成されるホルモンの一種であり、生化学的には構造の中にステロイド核を持つホルモンの総称です。
- エストロジェン
- プロジェステロン
などの性ホルモンや
- グルコ(糖質)コルチコイド
- ミネラル(鉱質)コルチコイド
がこれに該当しステロイドと一括りにできないほど作用は様々です。
その中で獣医領域において一般的に「ステロイド」と言われているのがグルココルチコイドであり、ほぼ全ての細胞・器官に影響することができると言われています。
ステロイドの用法・用量
使用目的
グルココルチコイドの使用目的は大きく炎症を抑える目的(抗炎症作用)と免疫機能を抑える目的(免疫抑制作用)に分けられます。
動物病院でよく処方される薬
最もよく用いられるプレドニゾロンでの用量で抗炎症作用では1日に体重1kgあたり0.5~1mg、免疫抑制作用では1~2mgとされています。
また急に休薬してしまうと体内では突然なステロイド不足が起き、元気消失・嘔吐・下痢・血圧低下などの様々な障害が発生してしまう可能性があるので休薬する際は徐々に減量して行かなければなりません。
副作用の可能性
用法・用量を守っていない場合はもちろん、守っている場合でも様々な副作用が起きる可能性があります。またわんちゃんとは異なる挙動を示す副作用もあるので1つずつ説明していきたいと思います。
易感染性
白血球、マクロファージ、リンパ球の反応を阻止し免疫を抑制することにより病原体に感染しやすくなります。
多食
中枢神経に作用し食欲を増進させることで多食傾向になり体重が増加する。
医原性糖尿病
医原性とは治療のために行う医療行為が新たな疾患を引き起こすことであり、ステロイドを長期投与するとインスリンの作用が抑制され糖尿病に罹患しやすくなります。また体内で新たに糖を作り出す糖新生も行われるのでさらに糖尿病を助長します。
胃潰瘍
胃酸の分泌促進、胃粘液の分泌減少により胃壁を障害し潰瘍が発生する場合がありますが、この副作用は猫ちゃんでは出にくいと言われています。よくステロイドと胃薬がセットで処方されるのはこの副作用を避けるためなのですが、胃薬の効果は疑わしいとの考え方も出ています。
またヒトの消化器病学会のガイドラインでは「ステロイドは消化管潰瘍の原因とはならない」と記されており、猫とヒトとは違うとは思いますが私は高用量で用いる場合を除き胃薬は処方しません。
ステロイド肝症
脂肪の貯蔵が増加し、空胞性肝障害や肝酵素の上昇が見られる場合があります。わんちゃんではよく見られる副作用の1つですが、猫ちゃんでは肝酵素の上昇はあまり呈さない印象です。またこの病態は一過性のステロイド誘発性の変化ですのでステロイドを休薬すれば戻ります。
皮膚症状
脱毛や皮膚の菲薄化(薄くなること)により皮膚が裂けやすくなることがあります。
腹部膨満
ステロイド肝症による肝臓の腫大、筋萎縮により筋肉が落ちていくことによりお腹が膨らんで見えることがあります。
骨粗鬆症
成長ホルモンの阻害、カルシウムの排泄などにより骨が脆くなることがあります。
多飲多尿
バソプレシンという抗利尿ホルモンの抑制と体液バランスの乱れによりたくさんの尿をしてたくさんの水を飲むという症状が現れます。また医原性糖尿病の影響で多飲多尿が発現することもあるのでステロイド投与中は飲む水の量に要注意してください。体重1kgあたり50ml以上では多飲とされています。
まとめ
ステロイドは昔から非常によく使われてきた薬剤なのですが、使い方を間違えれば大きな副作用が出ることもあるお薬です。
ずらっと挙げた副作用の中にはほどんど見ないような副作用もありますが、低用量でも長期的な使用により多飲多尿、多食、糖尿病は比較的出やすいです。
愛猫ちゃん処方された場合は、ステロイドという名前に過敏にならずまずどういう目的で必要なのかを知り、必要なくなった場合には徐々に減量していき安全に使ってあげたいですね。