【私と愛猫との出会い〜ふくたろうさんの体験談〜】
野良猫の親子
「家に猫がいると、野良猫が集まってくる」と聞いた事があります。この地に住んで20余年、猫を飼うまでは、野良猫を見かけた事はありませんでした。保護猫をお迎えしてからは、野良猫が入れ替わり立ち替わり来るようになりました。
やがて何匹か来る猫のうち、さび猫が子猫を連れてやって来ました。子猫は警戒心が強く、私を見るとすぐに逃げて行きました。母猫が「ここは大丈夫、安心しなさい」と言うように子猫を呼びます。
何度か餌を与えるうちに慣れてきたのか、逃げなくなりました。
そして数ヵ月後、独り立ちした子猫がひとりで来るようになりました。朝昼晩、毎日ご飯を貰いに来ました。長毛の三毛柄でメス猫でした。
避妊手術を受けさせたいと思っていたのですが、経済的に厳しく躊躇しているうちに秋が過ぎ冬が過ぎました。そして春が来て、三毛猫のお腹が大きくなってきました。妊娠したのです。
堕胎をすすめる人もいましたが、芽生えた命を奪う事は私には出来ませんでした。出産を待って避妊手術を受けさせ、子猫は責任を持って里親を探そうと決めました。
5月に入り、三毛猫が出産しました。どこで何匹産んだのか、子猫の生死すら分かりませんでしたが、毎日ご飯を貰いに来て、家の中で何時間か眠って帰る日が続きました。
子猫の姿を確認できないまま1ヵ月が過ぎ、もしかしたら子猫は命を落としたかも、育児放棄したのかも…。そんなことを考えるようになっていました。
避妊手術を受けてもらおうと考えていた矢先、三毛猫が子猫を1匹連れて来ました。すぐに親子共に保護しました。離乳をまだしていない様だったので、半月ほど様子を見て母猫は避妊手術後リリースし、子猫は家で引き取ろうと決めました。
まさかの5兄弟
三毛猫が子猫を連れて来た4日後、近隣のアパートの倉庫から子猫の鳴き声がしました。もしや、三毛猫の子供では?と思い、アパートの管理人さんに事情を説明して、倉庫の鍵を開けてもらいました。
扉を開けると、子猫が4匹。最初に保護した子猫と同じ柄の子がいたので、間違いない、三毛猫の子供だ!と確信しました。倉庫の物を一旦外に出して子猫を保護。母猫のケージに入れると、皆必死におっぱいを吸い始めました。
母猫と離れて4日、よく生きていたなと驚きました。あと1日遅ければ命を落としていたかもと思うと、全員の命を助ける事が出来て良かったと思う反面、先住猫を含め7匹もの猫を抱えることに…正直な所、どうしたものかと途方に暮れました。
母猫、子猫共に病院で診てもらい、健康状態に問題はなかったので里親探しをする事にしました。5匹の子猫のうち2匹は家で引き取り、1匹は知り合いが引き取ってくれました。残る2匹は里親募集サイト等に掲載してもらいましたが、縁がなくあっという間に3ヵ月が過ぎました。
お世話をしているうちに情が湧いてきて、残る2匹も家で引き取る事にしました。最初に母猫と1匹を保護した時は、まさか先住猫も合わせて5匹の多頭飼いになるとは思いもよりませんでした。
命の線引き
三毛猫が出産する半月ほど前に、とある保護猫活動をしている団体にメールで相談をしました。「妊娠している猫がいて助けたいが、家では保護出来ないので、お力を貸していただけないでしょうか?」と。
私はお腹の子も助けたい、里親を探してあげたいと訴えましたが「生ませる方がかわいそうだ、堕胎手術をするべき」、「仮に保護して出産したとして、フード代や医療費、全て負担出来ますか?」「その親子を助けたいなら、ご自分で保護する努力をしてください」とお返事が来ました。
確かに助けたい、どうにかしてあげたい、そう思った人が費用も負担するべきなのでしょう。それが出来ればそうしていますが、出来そうにないから相談しているのに…。
経済力がなければ、助けたいと思うことすら許されないのでしょうか?かわいそうな猫を増やさないというのは分かりますが、生まれた命は助けるのに、芽生えた命、これから生まれてくる命は助けないのでしょうか?
たくさんの猫を助けるためには、命の線引きをどこかでしないといけないのでしょうが、私はどうしても納得出来ませんでした。お金さえあれば…自分の無力さを痛感すると共に悔しさで一杯になりました。
経済的な事、先住猫の精神面、色んな不安はありましたが、保護しないという選択肢はなかったので自然に体が動きました。私には何も出来ないと悔しくて泣いたあの日から約2ヵ月、全員の命を助ける事が出来て本当に良かったです。
猫それぞれ
先住猫は保護猫を譲り受けたのですが、生い立ちや正確な年齢は分からないので、家にお迎えした日を誕生日と決め、推定6歳としました。普段はおとなしく騒いだりしない猫ですが、親子を保護した時は見た事のない怖い顔で威嚇をしました。
2年半位ずっと愛情を独り占めしてきたのに、突然親子6匹が自分の縄張りに現れたのですから、戸惑った事でしょう。恐怖も感じたかもしれません。今でも子猫達が近づくと威嚇したり、時にはパンチを繰り出します。
一方の4兄弟はというと、威嚇されても何のその。平気な顔をして部屋中を走り回っています。長男格のハチワレはお調子者。イタズラも率先してやります。
次男格の茶トラは寂しがりや。兄弟の姿が見えなくなると、皆どこ行ったの?と鳴き出します。
三男格の白ブチは食いしん坊。保護した時は一番小さかったのに、今では一番大きくなりました。
紅一点、三毛猫は女王様。でも内弁慶で病院に行く時は震えてしまいます。
猫それぞれ個性があって面白く可愛いです。毎日賑やかで大変ですが、楽しいです。
ちなみに、もらわれていったもう一匹の兄弟は里親さん宅で幸せに暮らしています。そして三毛母猫はというと、避妊手術をしてリリース。地域猫としてお世話しています。今でもご飯を食べに来て、家の中で寛いで帰っていきます。
まとめ
今回はたまたま、全員の命を助ける事が出来ましたが、めでたしめでたしではありません。元はと言えば、野良猫に餌をあげていた事により増えてしまいました。可哀想だからという気持ちだけで餌をあげ続ける事はとても無責任な行為でした。
避妊去勢をしないままだと、更に可哀想な猫を増やしているのです。経済的な理由で手術を躊躇している人もいるかと思います。私も今回の事で初めて知ったのですが、自治体によっては補助を受けられます。申請手続きも簡単なので、野良猫の手術を迷っている方は問い合わせてみてほしいです。
少しでも可哀想な猫が減り、安心して暮らせるお家が見つかるよう願うと共に、自分に出来る範囲でそのお手伝いをしていけたらと思います。