運命の保護猫兄弟
友人からメールが来たのは梅雨の真っただ中。その頃、私はとても落ち込んでいました。2ヶ月前に流産を経験したばかりだったのです。でも、友人からのメールに、私は心を動かされました。子猫を保護したのだが、飼ってもらえないか、という内容だったのです。
何でも、自宅敷地内で子猫が2匹いついてしまったとのこと。ご近所の方のお話では、何日も付近をうろうろしていて、どの家でも追い払われていたのだそうです。ただ、友人の家には先住猫がおり、子猫を威嚇するので、引き取れそうもない。かといって、このまま見捨てることはできない。とても困っている様子でした。
私は、すぐにでも子猫を引き取りたい気持ちでした。でも、当時住んでいたのはアパートで、ペットは飼えません。そこで、徒歩圏内の実家で飼ってもらえないか、母に聞きました。
実家では20年近くともに過ごしてきた猫を、老衰で亡くしたばかりでした。もう猫は飼わないと言っていた母でしたが、保護猫を飼ってもいいと言ってくれました。
そして、保護猫は実家で飼われることになったのです。子猫が産まれたのは、ちょうど私が流産した頃と重なります。お腹の子が、戻ってきてくれたかのような、不思議な温かい気持ちになりました。
友人の車でやってきたチャムとスズ
子猫を引き取ることが決まりましたが、母は、2匹とも同時に引き取ることには迷っている様子。それまで多頭飼いの経験はありましたが、母自身も年を取っていくなかで、複数の猫を飼うのは難しいのではないかというのです。
でも、それはすぐに解決しました。母の友人が、子猫を1匹引き取ってくれることになったからです。母の友人の家では、私の実家で生まれた子猫を引き取って飼ってくれたという経緯があります。その猫も亡くなってしまい、母の友人もまた猫を飼いたいと言っていたのだそうです。
友人が子猫を連れてくる日が決まりました。友人は、子猫たちを動物病院に連れて行き、健康に問題がないかどうか診てもらってから連れてくることになりました。私は、子猫用のフードや新しい食器、トイレなどを準備して、母や母の友人とともに実家で待っていました。
あれは、梅雨の終わり間近の、蒸し暑い日だったと記憶しています。友人宅は茨城県。私は群馬在住です。子猫たちは、友人の車に乗ってやってきました。
長旅の疲れも感じさせない、元気な子猫たちでした。おそらく兄弟だろうと思われましたが、茶トラのオスの方が大きく、手足も太くがっしりしていました。小さい方のメスは、華奢な子でした。
実家では、これまで犬や猫を何匹も飼ってきましたが、なぜかすべてメスだったので、今回もメスの方を引き取ることになりました。名前は、スズとつけました。
オスの方は同市内に住む母の友人が引き取り、チャムと名づけられました。
保護猫が来てから…まるで姉妹のスズと娘
元気いっぱいの子猫が来てから、私の気持ちも明るくなっていきました。その1年半後に、私は女の子を出産します。
ベビー布団で寝ている生まれて間もない娘のそばに、スズはよく寄り添っていました。一緒のお布団で寝ていることもありました。引っかいたり、噛んだり、イタズラするようなことはなかったです。
娘の方も、生まれた時から一緒にいるスズのことが大好き。まるで姉妹のように仲良しです。
大きな病気をすることもなく、成長したスズ。今でも元気です。
スズが来てから3年後、父が亡くなり、飼い犬もいなくなってしまいましたが、ひとり暮らしの母も、スズがいることで生活に張りがあるようです。抱っこや膝にのることは苦手なスズですが、毎晩母と一緒の布団で寝ています。
保護猫との出会いを大切に
あの時、スズを引き取って本当によかったと思います。友人宅に引き取られたチャムは、残念ながら3年前に病気のため急死してしまいましたが、最後まで大切に可愛がられていました。
当時は、まだ幼い2匹でさ迷い歩き、どの家でも追い払われていたところ、優しい友人に命を助けられたチャムとスズ。自分で飼うことはできなくても、必死で子猫を助けようとした友人を通して、チャムとスズは私たちのところへ来てくれたのです。
それまでも、実家でお迎えした猫や、今の自宅で一緒に暮らしている猫のほとんどは、元の飼い主さんが飼えなくなってしまって、引き取った猫ばかりでした。
里親になろうと思って、こちらから譲ってもらいに行ったこともありましたが、予期せず相談をもちかけられたことの方が多かったです。
猫を飼うことは、簡単ではありません。エサやトイレ、その他の猫用品をきちんと準備してお迎えする必要があります。費用はどのくらいかかるのか、病気になったらどうしたらいいのかなど、知識も大切です。
でも、導かれるようにして出会った命。愛情をかけて育てていくうちに、猫はかけがえのない家族になるのです。