刃物で切られ瀕死の状態で保護…亡き両親の遺したスーパーサバイバル猫

刃物で切られ瀕死の状態で保護…亡き両親の遺したスーパーサバイバル猫

亡き両親から引き継いだ猫。両親からは「公園で拾った猫」と聞いていたのですが、かかり付けの獣医さんの話で、とんでもない虐待を受けていた過去が発覚しました。

30万円のスコティッシュフィールド様?

もう、10年以上前の話です。

当時、私は実家を離れて一人暮らしをしており、月に1度程度、何か美味しいものを食べさせてもらいに…ではなくて、両親を安心させるために実家に顔を出していました。

そんなある日の事。

いつものように「ただいま」と実家に帰ると、何やら、耳の小さな、足の短い、なかなか個性的な顔をした猫がトコトコとやってきて「ひゃぁ」と掠れた声で、私を出迎えてくれました。ん?この、何かと丸っこいお嬢ニャンは何者だ?

オババ登場

「そいつ、30万円。『スコティッシュフィールド』様や」

と、ニヤニヤする父に、思わず、声をひっくり返してしまいました。「はぁ、30万の猫ぉ?(…アホちゃうか)」

いや、私は別に、ブリーダーさんなどから血統書付の猫ちゃんを迎えることを否定はしません。それどころか、一生に一度くらいは「本にナニナニと名前が載っている猫」を飼ってみたいとすら思っています。

だって、そういう子達の場合、「どんな猫ちゃんですか?」と聞かれたときに「ノルウェージャンです」などと答えれば「あぁ、毛の長い大きな子ね。」と、すぐに分かっていただけて、話が早そうじゃないですか?

それに比べて、我が家のニャンどものような素性の分からない雑種の場合、「普通の猫です。」では、ちょっと分かっていただけません。「ハチワレで、シッポが短くて、お口が臭いんです」などと余計なプライベートまで明かすハメになってしまい、非常に面倒くさいのです。

それはさておき。

心の中でつぶやいていたはずのカッコ内の声が、母に聞こえたのでしょうね。

「うそうそ、公園から連れて帰ってきたんよ。」

おいおい、それは勝手に連れて帰ってきてよかったのか?確かにコヤツ、見た目は思いっきりスコティッシュですから、30万くらいしそうな気もしないでもないです。

私はとても心配になって、根掘り葉掘り話を聞いてみました。思えばあんなに父と喋ったのって、初めてのような気がします。

当時父は、近所の公園に毎日のように通いつめて、ある一匹の野良猫を口説こうとしていました。

とても美人の色っぽい三毛猫で、気位が高くむやみには触らせないものの、父が行くとシッポを立ててお出迎えし、手から煮干しを食べ、帰る時には公園の出口までは送ってくれるといった、節度あるけれども充分に潤ったサービスをしてくれる、一流クラブのママさんのような猫でした。父としても「彼女とはこれくらいの距離がいい」と、連れて帰って家で飼うのは諦め、公園での逢瀬のみを楽しむようになっていました。

そのうち、何やら個性的な顔をしたチーママ的な猫が一緒に来るようになりました。こちらは最初から、やたらと距離が近く、ゴロゴロと喉を鳴らしてすり寄ってくるような、お嬢ニャンです。

さて、頭が良くて控えめな非の打ちどころのない美女よりも、人懐っこくてオットリして少しだけオカメちゃんの方がモテる、と言うのは世の習いです。そして、実は、そういう女の方が強かである、と言うのも、コレ、人間も猫も共通な様子。しばらくすると、ママさん猫は来なくなってしまい、「じゃぁ、お前、来るか?」とお嬢ニャンを連れて帰って来た。

…と、まぁ、こういう話です。

お嬢ニャンは老夫婦のもと、蝶よ花よチーズよチクワよと、わがまま一杯に育てられ、数年が過ぎました。やがて、思いのほか早くに父が亡くなり、バタバタと追うように母も亡くなり、私がお嬢ニャンを引き取ることになりました。

私の家に連れて帰る前に、かかり付けの獣医さんに、ミミダニの薬を貰いがてら、持病など、気を付けないといけないことを確認に行きました。

一通りの健康診断をしてもらった後で、獣医さんがポロリと

「いや、この子はホントに運が強いですね」

などとおっしゃるのです。何のこと?

「お父さんからお聞きになってないですか?この子ね、瀕死の状態でお父さんが連れてきはったんですよ」

獣医さんの話では、一時期、近隣で野良猫を刃物で切りつける犯行が頻発しており、お嬢ニャンも、お腹をザックリとバッテンに切り裂かれた状態でいたのを、父が運び込んだそうです。

相当危ない状態だったようで、獣医さんは「安楽死を考えるのもひとつ。その場合は費用は要らない」と言ってくださったらしいのですが、「とりあえず出来ることをお願いします」と父に頼まれたそう。

そういえば、ちょうど美人ママさんがいなくなった頃だったでしょうか、私の友人宅の猫が、やはり刃物に切られた大きな傷を負って帰宅したことがありました。件の公園も、そういった、心無い奴らの「狩りの場」になっていたのかもしれません。

こういった事実を私には言わなかったことが、なんだか、うちの両親らしいなぁ、と思ったりしたのでした。

先住猫との共存

さて、そのころ、我が家には先住のオッサンニャンズが2匹おり、とても平和に暮らしておりました。

オッサン2匹

茶トラニャンは、動物病院の前に捨てられていたのを子猫の時に引き取った子で、人懐っこくて騒がしいウェルカムなタイプ。一方、ハチワレニャンは、友人宅で生まれたのを引き取った筋金入りの箱入り坊ちゃんで、かなりの引っ込み思案です。

ここに、美人三毛猫との女の戦いを制しただけでなく、心無い虐待者の刃物の傷にも負けない生命力を持った百戦錬磨のサバイバルお嬢ニャンが参入してくるわけですね。

茶トラニャンはともかく、ハチワレニャンがまともに対処できるとは思えず、オッカナビックリの対面となりました。ところが…

「こんなオッサンたちと一緒にしないでちょうだい!アンタたち、近寄らないで!!」とばかりに、シャーシャーと盛大に威嚇しまくるお嬢ニャン。

それに対し、ハチワレニャンは「なんか、吠えてはるなぁ…」と非常に冷静です。引っ込み思案で、怖がりのハチワレニャンが、このようなクールで男前な反応をするなんてビックリでしたが、逆にダメダメだったのが茶トラニャン。持ち前の好奇心とイチビリ根性で、そーっと近づいて行ったところ、「寄って来るな、コラァ!」とばかり、真正面からシャーッとやられて、まん丸のどんぐり眼になって固まってしまいました。

その後、ハチワレニャンは全くお嬢ニャンの存在を気にすることなくマイペースで暮らし、お嬢ニャンはすっかり我が物顔で、一番暖かい場所を独占するなど傍若無人っぷりを発揮していました。

我が物顔のオババ

可愛そうなのは茶トラニャンです。お嬢ニャンが動くたび、ビクビクビックル。ハチワレニャンにくっ付いて回る非常に情けない姿で、食欲も減退しました。茶トラニャンは尿結石の治療食だったので、オヤツをあげて元気を出させることもできず、カリカリの治療食にパッカンの治療食を混ぜてグレードアップして、ご機嫌をとりました。

とはいえ、そんな状態も1か月程度。少し肌寒い日が続くと、猫たちは「暖かい場所」に集合します。最初はハチワレニャンにくっついて、お嬢ニャンとは距離を置いていた茶トラニャンでしたが、それでも、だんだんと自然に3匹で集まるようになりました。

窓辺の3匹

そのうち、半年ほどでお嬢ニャンと茶トラニャンは仲良くなり、取っ組み合って遊ぶようになりました。

お嬢ニャンは、もともと活発なタイプだったのか、遊び相手ができて楽しそうでした。茶トラニャンも、遊びは大好きですので、今まで少し年上の大人しいハチワレニャンでは、ちょっと物足りなかったところ、思う存分遊べるようになったようです。

やがて、一足先に高齢猫になったハチワレニャンが1人でジッとしていることを好むようになる頃には、茶トラニャンとお嬢ニャンは、すっかりラブラブでした。

寝ている2匹

数年が経ち、オッサンニャンズは2匹とも先に逝き、お嬢ニャンもすっかりオババニャンとなりました。

若いころから貫録のあるルックスではありましたが、今では中身も追いついたようです。若いニャンコから、多少、足蹴にされても怒らないくらいの、大人の余裕が身に着きました。

今のオババ

それぞれに個性がある猫たちが、特に飼い主が何をしなくても、自分たちで勝手にお互いの存在に折り合いをつけて、上手く距離をとって暮らしている様子を見ていると、「上手くやるもんだなぁ」と感心してしまいます。

私自身、人づきあいがとても下手で、なかなか人と親しくなれないことがコンプレックスだったりするので「まぁ、普通にやってれば、何とかなるのかなぁ」なんてことを思ったりします。

最後に

私は、保護猫を飼うことだけが素晴らしい!みんな保護猫を飼いましょう!!ブリーダーもペットショップも廃止!!!なんてことは、コレっぽっちも思っていません。

血統書のある猫ちゃん達も可愛いし、純血種を守る必要もあると思います。

売られてる猫ちゃんもヒトツの命ですし、猫ちゃんを「買って飼う」のもヒトツの命との縁なのだから、そこに甲乙をつけるのは、ちょっと違うんじゃないかな?と思っています。

保護猫でも、ブリーダーさんからでも、ホームセンターなんかのペットショップからでも、「うちの子になってもらうんだ」と決めたなら自分たちで最期までキチンと飼う、最期まで飼えないなら手を出すな、というだけの話だと思っています。

ただ、保護した猫ちゃんたちには「出会い」に至るまでの濃いドラマがあって、「私の所にやって来た」という特別感がハンパないんですよね。

猫ちゃんたちの背負っているシビアな背景、出会いの時の偶然性や、それにまつわるエピソードが「ウチに来るべくして来たんだ!」と言う特別感で、「わが猫愛」をメラメラと燃え上がらせてくれます。

これは残念ながら、買ってきた猫ちゃん達では、ちょっと味わえない感覚かもしれませんね。

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