猫に去勢手術を受けさせる時の値段や助成金制度について

猫に去勢手術を受けさせる時の値段や助成金制度について

去勢手術を受けていないオス猫は縄張り意識が高いため、臭いが強いオシッコをかけるマーキング行為をします。そのため多くの飼い主さんが去勢手術を考えていると思います。その際に住まいの地域によっては去勢手術にかかる費用を負担してくれる助成金制度が設けられていることをご存知でしたでしょうか?助成金制度とは一体どんな決まり事でどれくらい負担してくれるのか、また猫の去勢手術をおこなう大まかな流れとともにお話ししたいと思います。

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記事の監修

山口大学農学部獣医学科卒業。山口県内の複数の動物病院勤務を経て、ふくふく動物病院開業。得意分野は皮膚病です。飼い主さまとペットの笑顔につながる診療を心がけています。

猫に去勢手術は必要?

術後服を着ている猫

猫に去勢手術はさせたほうがいい

よく飼い主さんから「猫の去勢手術は受けた方がいいの?」と質問されることが多いです。健康な猫に麻酔をかけて去勢手術をおこなうことはマイナスなイメージを持たれやすいですが、去勢手術はメリットデメリットがありますが、手術を受けることで防ぐことができる病気やオス本来の習性などがありますので、飼い主さんに勧めるようにお話ししています。

尿スプレーによるマーキング行為の予防

猫の去勢手術で最大のメリットは尿スプレーによるマーキング行為がなくなったり、性格が穏やかになります。これらは性ホルモンによる発情が大きく影響しています。

特に尿スプレーによるマーキング行為はオス猫に多くおこりやすい行動でもあります。メス猫と比べて縄張り意識が高いため、自分の存在を相手にー示すために自分のオシッコをかけるのです。

オシッコの臭いで相手の猫の年齢や性別、いつ頃したものかなど様々な情報を知ることができるため、尿スプレーの際は更にオシッコを濃くして噴射するのでオシッコよりも臭いがとても強くなります。

しかし去勢手術を受けていないオス猫はほぼ毎日尿スプレーをするようになり壁や床、家具などを傷めてしまったり衛生上好ましくありません。

生殖器系の病気の防止

去勢手術をおこなうことにより精巣腫瘍などの生殖器系の病気を予防することができます。猫の場合は腫瘍の約8割以上が悪性なため、場合によっては肺などに転移している可能性があるので予後があまりよくありません。

発症させないためにも去勢手術を受ける必要があります。去勢手術をしていないオス猫は発情行動に伴い脱走しやすい傾向があり、野良猫との接触により感染症に感染することがあります。

猫の感染症の中には治療法がなく発症すると命を落とす危険なものもあります。ですが去勢手術を受けることで発情行動をおさえることができるため脱走がなくなり、その結果感染症にうつるリスクも下げることができます。

停留睾丸

猫の場合は極端におこることはありませんが、稀に睾丸が片方しか確認できなかったり両方確認できないことがあります。このように睾丸が陰嚢まで降りてこない場合(停留睾丸)は、通常よりも10倍以上の確率で精巣腫瘍になりやすいため去勢手術をする必要があります。お腹のどこに睾丸があるのか分からないケースもあり場合によっては開腹手術をすることになります。

望まない繁殖を防ぐ

去勢手術は生殖器である精巣を摘出するため繁殖を防ぐことができます。オス猫はメス猫と違い妊娠・出産することはもちろんありませんが、望まない妊娠を防ぐためにはメス猫だけではなくオス猫も去勢手術を受けることが大事です。

犬同様に猫にも発情期がありますが、少し異なる点があります。猫は交尾した時に排卵する「交尾排卵動物」です。そのためほぼ100%の高確率で交尾すると妊娠してしまいどんどん猫の数が増えてしまいます。

残念ながら殺処分される対象の猫の中にはそのような望まない妊娠により生まれてきた猫たちも多く含まれます。特に子猫を生ませる予定がない限りは1匹でも殺処分される猫を減らすためにもメス猫は避妊手術、オス猫は去勢手術を受けさせる必要があるのです。

猫に去勢手術を受けさせる手順

触診中の猫

手術できる年齢

飼い主さんから「去勢手術はいつ頃からできますか?」と聞かれることがよくあります。一般的に猫の去勢手術はおよそ生後6ヶ月以降であり体重が2kg以上であれば手術を受けることができます。

猫の成長期は生後6ヶ月程といわれており、その頃になると性成熟の成長も終わり発情期を迎えます。そのため私は生後6ヶ月過ぎた頃になると飼い主さんに去勢手術を受けるようにお話しをしています。

一回でも発情期を迎え尿スプレーをしてしまうと去勢手術しても改善しないケースがあります。また性格も攻撃的なまま変化しないこともあるからです。

しかし逆に早い時期がいいからと生後6ヶ月未満に達していない場合はまだ成長期なため、ホルモンバランスが崩れてしまい様々な臓器に影響を及ぼす可能性があるので去勢手術は早過ぎても良くはありません。

手術前にすること

ワクチンの接種

去勢手術を受ける際は事前にワクチン接種を済ませる必要があります。猫の去勢手術を含め、手術を受ける際は猫を一時的にお預かりをしておこないます。

動物病院では様々な病気や感染症にかかっている動物たちが来院するため院内感染のリスクがあります。

そのためワクチン接種をしていないと病院内で預かっている間に感染してしまう可能性が高くなってしまうからです。特に猫の場合は猫風邪にかかりやすく、場合によっては症状が慢性化してしまう恐れがあるからです。

猫の去勢手術前日は絶食・絶水

手術の際は全身麻酔をかけるので食事をとってしまうと麻酔の影響で消化管の動きが悪くなり嘔吐したり、場合によっては誤嚥性肺炎をひきおこす恐れがあるため手術前日の夜から絶食、水も控える必要があります。

必ず手術の予約入れる際に動物病院から絶食絶水の時間などを含めた注意点の説明がありますので必ず確認してください。

去勢手術は健康な猫に対しておこなう手術なため、万が一猫が少しでもご飯やオヤツを口にしてしまった場合は嘔吐やそれに伴う誤嚥性肺炎のリスクが高くなるため手術を延期することがあります。もし猫が食べてしまった場合は必ず動物病院に連絡してください。

去勢手術の方法

全ての手術も含め、去勢手術も事前に予約が必要になります。また予約する際に猫の一般状態の確認のため診察を受けましょう。基本的に猫の去勢手術は陰嚢を切開し、精巣を摘出する手術です。

精巣は2つあるため両方摘出します。動物病院によって術式が異なりますが精巣を摘出後、陰嚢部分を縫合したり専用接着剤で傷口を閉じる方法もあれば、傷口自体が小さく出血量も非常に少ないため縫合しない方法もあります。

ちなみに私が勤務している動物病院では一糸、縫合をし最後に専用接着剤をつけます。

猫の去勢手術でかかる時間

避妊手術のような開腹手術ではないため、去勢手術自体はだいたい10分程で終わりますが全身麻酔をかけるためトータルでおよそ30分ぐらいかかります。

術後のケア

去勢手術後は猫が傷口を気にして舐めたりいじっていないか注意する必要があります。動物病院によって手術に使う縫合糸が違うため去勢手術後に抜糸が必要な場合があり、傷口をいじり過ぎたことにより縫合糸が取れて傷口が開いてしまう恐れがあるからです。

また傷口を舐め過ぎて赤くただれてしまうこともあるため、そのような場合は首にエリザベスカラーを付けたり術後服を着させるなどの方法で傷口をいじれないようにしましょう。

抜糸の有無関わらず去勢手術しておよそ1週間後に傷口の確認や抜糸に受診する必要があるため、せめて術後の診察までの間は猫の様子はよく見るようにしてください。

猫の去勢手術にかかる費用

お金に触れている猫

動物病院によって猫の去勢手術にかかる値段が異なりますが、平均にておよそ10000円〜15000円かかります。血液検査や内服薬、鎮痛薬などを処方される場合は別途料金になります。 猫をはじめペットの保険会社が増え、加入する飼い主さんも増えてきましたが基本的に避妊手術も含め、去勢手術は生殖器系の病気や発情行動を予防するためにおこなう手術なので保険対象外となり全額支払いです。

また猫の状態によっては入院させたり、術前検査をおこなう場合もありますのでそれぞれ入院費、検査費用が別としてかかることがあります。事前にどれくらいかかるのか確認しておくとよいでしょう。

猫の去勢手術に関する助成金制度

猫(兄弟)

基本的に猫の避妊手術も含め、去勢手術は自己負担となりますが猫は交尾排卵動物なため、避妊手術・去勢手術を受けていないと猫の数がどんどん増えてしまいます。

そのため各地域によっては「助成金制度」が設けられており、猫の去勢手術・避妊手術の費用を地方自治体で負担してくれます。しかし住まいの地域や自治体によっては助成金制度が設けてなかったり、対象となる条件として飼い主のいない猫(野良猫も含む)など異なります。

都道府県の中から東京、愛知県、大阪府、福岡県、北海道の5つの地域の助成金制度についてまとめてみました。

東京

東京では世田谷区や新宿区などの23区をはじめ多くの地域が助成金制度が設けられており、それぞれ地域によって負担してくれる助成金が異なります。また対象となる猫が世田谷区のように飼い猫と飼い主がいない猫両方対象なところもあれば、中央区のように推進員により飼い主がいないと認められた猫だけなどと条件も地域によって違います。

世田谷区

(1)飼い猫の場合 去勢手術3000円、避妊手術は6000円まで
(2)飼い主のいない猫の場合 去勢手術5000円、避妊手術は10000円まで
世田谷区

中央区

「中央区動物との共生推進員」が飼い主がいないと認めた猫のみの場合 去勢手術17000円、避妊手術20000円まで
(および妊娠中の場合は25000円まで)
中央区

新宿区

(1)飼い猫の場合 去勢手術2500円、避妊手術は4000円まで
(2)飼い主のいない猫の場合 去勢手術5000円、避妊手術は9000円まで
新宿区

愛知県

愛知県も名古屋市をはじめ多くの地域で助成金制度があり、中には飼い犬も対象となる地域があったりマイクロチップの場合も費用の一部を負担してくれます。

名古屋市

(1)野良猫の場合 去勢手術10000円、避妊手術は20000円まで
(2)飼い猫の場合 去勢手術1050円、避妊手術は2100円まで
名古屋市

大阪府

大阪市はありませんが、茨木市や堺市などの一部の地域では助成金制度があります。また地域によっては飼い主不明猫や地域猫も対象となるところもあります。

茨木市

(1)飼い猫の場合 去勢手術2000円、避妊手術は3000円まで
(2)所有者不明猫の場合 去勢手術および避妊手術ともに5000円まで
茨木市

堺市

(1)市内飼い猫の場合 去勢手術および避妊手術ともに3000円まで
(2)地域猫の場合 去勢手術および避妊手術ともに8000円まで
堺市

福岡県

福岡県は福岡市や春日市など一部の地域で助成金制度があります。中には飼い主がいない猫も対象となる地域がありますが負担額については詳細が不明なため問い合わせが必要です。

福岡市

飼い猫の場合 去勢手術および避妊手術ともに7500円まで
(手術時にマイクロチップ装着することが条件)
福岡市

春日市

飼い主のいない猫の場合 去勢手術15000円、避妊手術は25000円まで(補助金上限額)
春日市

北海道

私が住んでいる北海道は大都市札幌市を含め、多くの地域では助成金制度自体が設けられていません。しかしボランティア団体により去勢手術および避妊手術費用の一部を負担してくれています。

旭川市

飼い主のいない猫の場合 去勢手術および避妊手術全額負担
旭川市

自治体の制度は変更になる場合がありますので、詳しくは各自治体で確認してください。

まとめ

女性獣医師と猫

猫に去勢手術を受けることで尿スプレーによるマーキング行為がなくなったり、生殖器系の病気の予防、望まない繁殖を防ぐことができます。およそ成長期が終わる生後6ヶ月以降から去勢手術をすることができます。なるべく早めにおこなうことでこれらの予防率が一段と上がります。

しかし早い時期の方がいいからと生後6ヶ月よりも前に去勢手術をおこなうことは、まだ成長期段階なため様々な臓器に影響を与えてしまうので基本的におこないません。

猫の去勢手術の場合も一時的に預かっておこなうため、事前に院内感染予防のためにワクチン接種を受けること、去勢手術の予約をする必要があります。

全身麻酔をかけておこなうためご飯を食べてしまうと嘔吐したり誤嚥性肺炎を引き起こしたりする可能性があるので絶食絶水させなければいけません。絶食絶水の時間などの注意点については手術の予約を入れる際に必ず動物病院側から説明がありますので、しっかり確認しましょう。

去勢手術後は抜糸の有無関わらず、猫が傷口を気にしていじっていないか注意する必要があり、術後の診察(抜糸)までは猫の様子をしっかり見るようにしてください。病院によっては傷口の保護のためにエリザベスカラーを抜糸までつけるように指示が出ることがあります。

猫の去勢手術にかかる値段は動物病院によって異なります。またお住まいの地域によっては費用を負担してくれる助成金制度が設けられているので、これから去勢手術を考えている場合はどれくらい費用がかかるのか、また住んでいるところが助成金制度があるのか事前に確認しておくとよいでしょう。

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