猫の避妊をするベストな時期
メス猫の避妊手術で1番良い時期は、生後6〜8か月ぐらいの子猫の頃といわれています。
猫が生後6か月になると体の成長が終わり、体重の増え方が緩くなり、乳歯から永久歯に生え変わります。また性成熟の成長も終わり、いつでも妊娠できる体になっています。
人の女性や犬は一定期間の性周期があり、排卵を行う「自然排卵動物」ですが、メス猫は年に3〜4回の性周期があるといわれ、オス猫と交尾をする際に排卵をする「交尾排卵動物」です。
そのため、オス猫と交尾した場合、ほぼ100%の確率で妊娠してしまいます。特に多頭飼いで去勢していないオス猫がいたり、外に出入りする機会があったりすると、オスの野良猫と接触する可能性があるため、猫の避妊手術を早めの時期に行うことで望まない妊娠を防ぐことができます。
その他にも、猫に避妊手術をすることによって乳腺腫瘍や子宮蓄膿症など、メス猫特有の病気を防ぐことができます。特に猫の乳線腫瘍の約8割が悪性腫瘍といわれており、転移や再発がしやすく、予後が良くありません。
また、避妊手術を早い時期にすることで性ホルモンにより発情期がなくなるので、ストレスの緩和や、発情期におこる過度な行動(問題行動)を抑えたり予防したりすることができます。
発情時期は大体4〜10日間続き、そのときに見られる特徴な行動をいくつかあげてみました。
独特な鳴き声
ふだんはご飯などの欲求があるときだけ鳴きますが、発情時期になると避妊していないメス猫は交尾相手のオス猫を自分の元に呼ぼうと、頻繁に鳴くようになり、落ち着きがなくなります。
また、この時期の猫の鳴き声も特徴があり、「みゃおぉーん」や「うおぉーん」「あおぉーん」などといつもと違う鳴き声を発します。猫に避妊手術をすることで、ある程度過剰に鳴くことがなくなります。
家具や床などに体を擦り付ける
猫は、フェロモン(自分の匂い)を出すところが頬や額、足裏、肛門周りなど体のあちこちにあります。特に避妊していない発情時期のメス猫は、相手のオス猫に自分の存在を知らせるために、家具や床などに体を擦り付けて自分の匂いを付けています。
個体差によりますが、メス猫も避妊手術していない場合、尿スプレーによるマーキング行為をすることがあります。
お尻を高く持ち上げる
ふだんでも、猫の腰や尾の付け根をポンポンと叩いてあげると、お腹を床に付けたままお尻が高く上げる姿勢をします。腰や尾の付け根付近には、多数の神経が通っており、生殖器に繋がっているため気持ちいいと感じているからです。
特に発情時期中のメス猫は、腰や尾の付け根を叩くととても気持ちよいと感じているようです。
またその姿勢は、「いつでも交尾してもいいよ」とオス猫を受け入れるための行動で、ロードシスといいます。多頭飼いで避妊していないメス猫と去勢していないオス猫がいる場合は、注意しなければいけません。
猫の避妊をさせる時期が遅いのは大丈夫?
発情中は避妊手術を延期
猫に避妊手術を予定していたが、発情時期に入ってしまうケースがあり、こういうった場合は基本的には手術を延期させます。私が勤務している動物病院でも、避妊手術を事前に予約していたが発情がきてしまった場合は、手術を延期し、発情が終わって猫の状態が安定した頃をみて避妊手術を行っています。
発情中はメス猫の卵巣や子宮や血管が、通常より発達するので手術の際におこる出血量が増えます。通常、避妊手術は健康な猫の体にメスを入れて、卵巣や子宮を摘出するため出血リスクが通常よりも高い発情中の避妊手術はよほどの事情がない限り、中止し延期します。
メス猫は明確な発情サイクルがないので、個体差によっては発情時期が長く、発情を終わるのを待っていたら次の発情がきてしまい、なかなか避妊手術をするタイミングが難しい場合があります。
必ず動物病院に連絡をし、獣医師の診断の元で安全な時期を狙って避妊手術を行うことがベストです。
メス猫特有の病気の予防率が低下
猫に避妊手術をすることで、乳腺腫瘍や子宮蓄膿症などメス猫特有の病気を防ぐことができますが、手術を行う年齢や時期が遅いと、その分病気の予防率がガクッと低くなります。
初めての発情時期前に避妊手術をした場合、約100%の確率で乳腺腫瘍を防ぐことができますが、出産後や発情を何回もきてしまったり年齢が中高齢になってしまったりすると、猫に避妊手術をしても乳腺腫瘍が発症する確率は下がりません。
乳腺腫瘍のほとんどが悪性腫瘍である場合が多いので、猫に避妊手術を行う場合は初めての発情前など早い時期に行う方が良いです。
過剰な鳴き声やマーキング行為が改善しない
猫に避妊手術をする時期が遅いと、その間に何回も発情がきてしまいます。発情中にみられるメス猫の行動は個体差がありますが、過剰な鳴き声だったり、マーキング行為が酷かったり、収まる前に次の発情がきてしまって、常に落ち着かない場合があります。
猫に避妊手術することでメス猫の行動が落ち着くといわれていますが、何回も発情がきてしまった影響で、避妊手術してもマーキング行為や過剰に鳴く行動が当たり前になってしまうと抑えることが非常に難しいです。
猫に避妊手術させる時の流れ
事前にワクチン接種を済ませる
避妊手術を含め、手術を行う際は猫を一時的にお預かりをします。人の病院と同じく、動物病院もたくさんの動物たちが来院をし、病気や感染症にかかっている子も当然来るので、預かっている間に感染症をもらってしまう恐れがあります。
特に猫は猫風邪など感染症に非常にかかりやすく、中には一度感染するとウイルスが体の中に残り、症状が慢性化しやすいものもあるため、必ず手術する前にワクチン接種を行い免疫力をつけさせます。
ワクチン接種してから大体1〜2週間で抗体が得られるので、はやくてそのあたりにようやく猫に避妊手術することができます。
術前検査
全身麻酔をかけて猫に手術を行うため、安全に避妊手術ができるかどうか血液検査を含めた術前検査をする場合があります。肝臓や腎臓は麻酔薬を分解し代謝を行う大事な働きをもつ臓器であり、血液検査で正常かどうか確認しています。
また、血球系で白血球が高くて炎症が起きていないか、貧血や脱水がないか、血小板がしっかり働いて止血機能に問題はないかなども確認をします。
手術前日
麻酔をかけると消化管の働きが悪くなるので、胃に食べ物が入った状態だと猫は吐きやすくなります。嘔吐物が気管に入ってしまう誤嚥性肺炎を引き起こし、命に関わってくる危険性があるので、猫の避妊手術前日は絶食絶水をしなければいけません。
避妊手術の予定を入れたときに病院から、「食事は前日の◯時以降から絶食し、水は当日の◯時まで」と必ず説明されます。
病院によって多少絶食絶水の時間に差はありますが、私が勤務している病院では「食事は前日の21時以降から絶食をし、水は当日の朝6時までに済ませるように飼い主さんに伝えています。
猫が隠れ食いしないように、フードの管理や同居猫がいる場合も食事の与え方に注意しなければいけません。もし少しでも食べてしまったり食べた疑いがあったりする場合は必ず病院に連絡をしてください。通常は猫の避妊手術は健康な状態時に行うので、安全面を考えて延期することがあります。
手術当日〜退院まで
手術当日は猫に避妊手術を予約したときに「◯時までに来院してください」と説明されますので、必ず指示された時間までに連れてくるようにします。
当日の朝やここ最近猫の調子が良くなかったり、発情の兆候がみられたりした際は、獣医師及び病院スタッフに伝えてください。
猫の体調が優れない場合や、発情がきてしまった場合は避妊手術を延期することがあります。避妊手術後は病院によって日帰りするところもあれば、1〜2日入院することもあります。
特に避妊手術当日に退院した場合は、麻酔の影響で消化管の働きが良くないので食事の量を通常の半分くらいに抑える必要があります。担当医からこれらも指示されると思いますので、かならず守りましょう。
手術後
避妊手術した後の傷口は、絆創膏や包帯などを付けていますが、猫が気にして舐めていないか注意する必要があります。
特に抜糸が必要な場合は、いじって糸が取れてしまい、傷口が開いてしまうことも考えられますので抜糸が終わるまでは、なるべく猫に目が届く範囲にいるように心がけてください。
どうしても気になる猫の場合は、首にエリザベスカラーを付けたり、術後服を着させたりするなど対策をしなければいけません。
避妊手術の費用
動物病院によって猫の避妊手術の料金が異なりますが、およそ3万円かかります。通常の避妊手術は、予防のために手術を行うので保険対象外になります。
また、住まいの地域によって猫の避妊手術に対する助成金制度があります。しかし地域によっては助成金制度自体していないところもあれば、対象が飼い主がいない猫のみなど様々です。
東京都新宿区のように、一部の地域では飼い猫と飼い主がいない猫両方が対象となる場合があります。
まとめ
早い時期に猫に避妊手術することで、メス猫特有の病気を予防できたり、発情時にみられる行動やマーキング行為などが収まったりします。
しかし、年齢を重ねるごとに、猫に避妊手術しても乳腺腫瘍になったり行動が常に落ち着かず、過度に鳴いたりマーキング行為が続きやすいため、できれば発情前の生後6〜8か月くらいの時期に避妊手術をすることを勧めます。
子猫の場合は、ワクチン接種で動物病院にくる機会があると思うので、その際に獣医師と相談するのも良いでしょう。
どの動物病院でも避妊手術する際は、感染予防のために事前にワクチン接種をしなければいけません。ワクチン証明書に、次回接種予定日が必ず記載されています。
猫の避妊手術が無事終わって猫を家に連れて帰っても、それで完全に避妊手術自体が終了したわけではありません。再度抜糸や傷口の確認で来院をしますが、抜糸が終わり、傷口も良好と診断されるまではお家で猫の調子や傷口の管理をする必要があります。
猫がお家に帰宅して3日ぐらいたっても元気や食欲がなかったり、傷口をいじって糸が出たり取れて傷口が開いてしまった場合は、必ず動物病院に連絡してください。