最初は怖かった!
母がちぃちゃんを保護したのは12月30日の雪がちらつく寒い日で、ちょうどそのとき予備校講師だった私は「呪いのダイアモンド」から始まって、最後は「呪いの人形」と言う、怖い入試問題ばっかり集めたオリジナルテキストでの講義の最終日でした。
帰宅すると、箱に薄汚れて目がぎょろぎょろしたお地蔵さんのような人形が入っているので、怪訝に思って「これ、どうしたの?」と母に聞くと「拾った」というので、なんでこんな呪いの人形みたいなものをわざわざ?認知症になったの?と思ったその瞬間、ギョロッと目が動いのです。
「きゃあ!目が動いたぁ〜」と叫ぶと、「だって猫だもの」と母が顔色を変えずに答えました。息ができないほど怖かったのが、ちいこ姫との出会いでした。
よく聞くと、すでに獣医には連れて行ってくれていたらしく、弱りすぎていて呼吸を確保するために仰向けで箱に入れていたそうです。ブドウ糖も受け付けないほど弱っていて、点滴は水でした。一晩持たないと言われていたので、きっと看取ることになると思いました。
「今日が、この世の最後の晩になる」と確信したので、とびきり柔らかな温かいタオルで体を拭いてベッドをしつらえ、苦しくないようにこたつ布団を半分だけ掛けてあげました。「これで寒くも暑くもないね。安らかに天国に行ってね」と語りかけている間中、ごろごろと。いじらしくて、涙がこぼれました。
翌日、あの子の亡骸に対応しないとと思い2階に行ってみると、前日より少ししっかりした瞳でこちらを見つめてくれる生きた猫がおりました。きっと、今まで辛い思いをしてきたのでしょう、怖がりで痩せこけているので、少しの間だけでもとびきり可愛い名前で呼んであげようと「ちいこ姫」にしました。
骨盤骨折
ちいこ姫は骨盤骨折をしていて便が詰まってしまい、避妊手術を入れると5回も開腹手術をすることになりました。骨盤骨折をしている野良猫は意外と多くて、主な原因は自転車でのひき逃げや子猫の時に怖くて逃走、落下という事故、そして想像したくもありませんが、心無い人からの虐待だそうです。
レントゲンを撮って判明してから、お薬を飲ましたり、母がお腹を押して毎日出すようにしていました。それでもどうしても残るらしく、開腹手術になってしまいました。
あれよ、あれよという間に…
お正月もなく毎日獣医に連れて行き、点滴が水からブドウ糖になりました。
ご飯を食べ始めたら2階の部屋を全て独占して隠れるように。母は毎日姿を見ていたようでしたが、日中仕事に行っている私には幻の猫となり、ご飯とお水とトイレの世話だけをする日が続きました。
1ヵ月ほど経ったある日のことでした。ドカドカと音がするのでそちらを見たら、見たことのない白くてでかいのが走ってきて…。思わず「きゃあ!」と声が出たのですが、それはまぎれもなく、ちいこ姫でした。
「あほとちゃう?」とは言いませんでしたが、そんな目で私を見て「早くご飯!」と今まで隠れていたのが別猫だったように、しらっと近づいてきてくれて嬉しいやらびっくりするやら。その時の複雑で奇妙な気持ちは到底言葉では言い表せません。
ちいこ姫との毎日
時々すごく共感してくれる
ある晩ヘトヘトに疲れて、家族が寝室に行った後も動けずリビングでぼーっと1人座っていました。ちいこ姫が「どしたん?」という顔をするので「すごく疲れているの」と声に出していうと涙がこぼれてしまいました。
すると、ちいこ姫は「それは、いかん!絶対にいかん!」という本当に心配そうな顔をして、大きな声で「にゃーん」と答えてくれました。一気に元気200倍!
ちいこ姫のおかげでしょうか。その後、あれよあれよとお声がかかり転職することになったのです。
時々、ものすごく頼りになる
結局5回も開腹手術をしたのに全然へこたれず、相変わらず家の中で正義を貫いている姿は心の支えになっていきました。
下剤のせいでポトポトと便を落として歩くことが時折あり、その時だけすごく情けなそうな顔をするので、わざと「いいもの見つけたー!宝物やん」と言って褒めることにしたら、ちょっとだけ嬉しそうな顔をするのです。それがいじらしくて。
新築に引っ越した時、箱からテカテカ光る布のハンガーを出したときのこと。なんと、3mぐらい先に居たちいこ姫の目が光ったと思ったら、すぐさま近くで唸り声が聞こえたのです。次の瞬間、バスッという音がして気がついたらまっさらの障子にハンガーが刺さっていていました。
何が起こったか分からずちいこ姫の顔を見たら、「守った!」とでもいうように誇らしげな顔をしていたので、叱れませんでした。きっと、私を襲う蛇か何か邪悪なものと思って退治してくれたのでしょう。
ひきつりながら「ありがとう」と伝えると、「ふん、私に怖いものなんてないのよ」という表情でふんぞり返っていたので思わず笑ってしまいました。本当は、障子破っただけなんだけどね。
普段は気難しいのよね
お酒を飲んで「宝くじ買ったら当たるかな〜?もう、働かんでいい?」などとふざけたことを言おうもんならビンタが飛んできます。爪を出したまま、ほっぺたにパシッ!ですから。ちいこ姫の前ではだらけていると指導が入るので怖いのです。
普段は気難しく、同居の雄猫が近づくと「気安く近づかないで!」と怒ります。6.5kgもあるので雄猫たちもタジタジ。ただ1匹…雌の黒猫が大好きなようで、その黒猫はちいこ姫より更に女王様体質。しっかりしていて王子様みたいで…その子にだけは踏まれても我慢しています。
それでもときどき、好きすぎて自分を抑えることができないときがあるようです。その大好きな同居の黒猫をドカンドカンと6.5kgの巨体で追いかけるのですが、その姿は滑稽で愛らしくて家族みんなに笑みをもたらしてくれます。
運命の猫とは?
母の方が世話をしているにも関わらず、なぜかちいこ姫は私を躾けたり、庇ったり、助けたりしてくれます。母が意地悪なことを言って「そんなこと言わないで〜」とベソを書いた途端に、母も爪だしビンタを食らいました。
辛い時は、ちいこ姫が5回も開腹手術を頑張ったことを思い出し、私も頑張れています。大好きだよ、ちいこ姫。
運命の猫の条件を挙げてみましょう。
- 唐突に出会う
- 知らないうちに心の中に入ってきている
- 今まで経験したことがなかったような世界を見せてくれる
- 猫のほうも何かと気にかけてくれるが、そのポイントがこちらにとって重要である
- その子と触れ合うと元気が出る
- 生きる支えになる
どうですか。あなたの猫ちゃんもきっと運命の猫ですね!