【私と愛猫との出会い〜楓屋ナギさんの体験談〜】
これは私が実家の近くにいたノラ猫家族と出会ってから、怒涛の日々を過ごしたお話です。
一人暮らしの父が猫を飼っていました。ある日父が亡くなり、猫が残されてしまいました。そのため、猫の世話をするために実家に通うことに。
ほどなくその猫も父の後を追うように虹の橋を渡りました。本当は、そこで私の役目は終わるはずだったのです。
私の猫
父の猫から食べ残しをもらっていたノラ猫がいました。年齢不詳、茶白のオスです。食べ物を譲ってくれる猫がいなくなってからも、実家の離れにある猫用玄関から入り、お皿の前でじっとごはんが出てくるのを待っています。
もちろん、私には養う義理も責任もありません。すぐに猫用玄関を塞いで無視するべきだったのかもしれません。でも、私はそうはできませんでした。
「このノラ猫に愛情を注いでやれるのは自分だけだ。」と思ったのです。もしかしたら、自分の「孤独」をその猫に投影したのかもしれません。そのままご飯をあげる日々を過ごしました。
3ヵ月も経つと、薄汚れてぼさぼさだった猫の毛並みがきれいになって、まるで飼い猫っぽくなってきました。柔らかな毛皮を撫でさせてもらったり、猫の気が向けば膝に乗せて抱き上げたりすることもできるようになりました。
やはり警戒しているのか、私以外の人間には近づきませんでした。それが、ちょっと嬉しくもありました。
5月。十分懐いたのを見計らって去勢手術に踏み切りました。動物病院の診察券には、猫の名前が書き込まれました。「ダイちゃん」と私は『家族』になりました。
困った
軽率な行動のツケが回ってきたのは、6月の半ば。ダイちゃんのガールフレンドが子猫を連れてやって来ました。子猫たちは全部で7匹。私が不在の間に猫用玄関から入り込み、2匹の母猫と一緒に離れに住みついてしまったのです。
メス猫たちに飼い主はいませんでした。おそらく血縁関係があって、共同保育をしていたのでしょう。獣医さんの見立てによると、子猫は当時生後1ヵ月半くらい。すでにドライフードが食べられるくらいに成長していました。可愛い盛りです。ずっと眺めても飽きることがありません。
ですが、困りました。『外飼い』のオス猫が1匹。ノラの母猫が2匹。子猫が7匹。全てを養うのはどう考えても不可能です。
どこもかしこも「子猫ラッシュ」
『自分が飼っている猫が産んだ子』ではなく『ノラ猫が産んだ子』です。まず、保健所と動物愛護センターに相談しました。結論から言いますと、助言はいただけても助けてはいただけませんでした。
「保護猫活動をしているボランティアさんに連絡してみてください」とのこと。猫の出産ピークは春先から梅雨入り前。6月半ばという時期は、里親を求める猫たちであふれかえっているのです。
ボランティアさんのところにも相談が殺到しており、連絡も取りづらい状態でした。人に懐いていない子猫を引き取る余裕はありません。悩んでいる間にも子猫は成長していきます。友人・知人、あらゆる伝手を総動員して片っ端から助けを求めました。
自分にできることをするしかない
『地域猫活動』というものを初めて知りました。飼い主のいない猫たちを「地域全体で許容し見守っていこう。そして将来的には飼い主のいない猫の数を減らしていこう」という考えに基づく活動です。
行政に相談すると不妊・去勢手術の際に助成金が出る場合もあります。しかし、これは地域全体で取り組む活動です。1件の家に猫が集まっても、それは個人宅の問題です。個人からの要請では公的機関も動けません。
私のSOSに、一度だけですが保健所の担当者さんがわざわざ訪ねて来て下さいました。それだけでも十分としなくてはいけません。
私は腹を括りました。友人たちと作戦を立て、ご近所の方と獣医さんの協力を得て実行しました。
まず猫用玄関を塞ぎました。子猫たちを家の中に保護し、母猫たちを外に閉め出します。区長さんが板を打ち付けてくれました。
その次に、捕獲器を仕掛け母猫たちを捕獲します。子猫たちと離れれば、また母猫たちが妊娠・出産する可能性が高くなります。その前に避妊手術をしなければなりません。捕獲器は獣医さんが無償で貸してくださいました。「掛かったらすく手術するから」とありがたいお言葉までいただきました。
そして子猫たちの里親を探しました。1匹でも多く、幸せを掴んで欲しい。そんな思いでチラシを作成し、友人たちを通じて里親を募りました。
あとは事態が動くのを待つだけです。子猫たちは家の中で無邪気に遊んでいます。ほぼ実子ではないだろうに、ダイちゃんは甲斐甲斐しく子猫たちの世話をしています。出ないお乳までやっています。『イクメン猫』という言葉もこのとき初めて知りました。
流れが来た
「子猫を引き取りたいという人がいる」と、高校の後輩から連絡が来ました。2匹一緒に引き取って下さるそうです。一気に心が軽くなりました。
日を置かず、区長さんから連絡が入りました。「猫が捕獲器に入っているよ」何度も捕獲器を確認して、夜中に囮のエサを補充して下さっていたようです。
1回目は1匹だけがかかり、先に避妊手術を済ませました。2回目は2匹同時にかかってしまい、仕方なく手術済の猫も一緒に動物病院に運びました。
入院はなし。日帰りでした。抜糸もエリザベスカラーも必要ありません。「耳の印はどうしますか」獣医さんに聞かれました。「飼い主はいないけれど避妊手術は済んでいます」という印です。切り込みが桜の花びらに似ているので、この印を持つ猫を『さくらねこ』と呼ぶそうです。
2匹のノラ猫はこの地域初の『さくらねこ』になりました。
夏の終わり
さらに2匹の子猫が里親に恵まれました。この2匹も同じご家庭に引き取られていきました。そのお宅にはすでに2匹の猫がいるとか。「さらに2匹も猫が増えて大丈夫ですか?」と伺うと「高齢の猫が亡くなって寂しくなったから」というお返事が返ってきました。
もともと多頭飼いをしていたお家なら安心です。病気の検査をしてからお渡ししました。やんちゃな子猫たちが先住猫たちの生活を乱さないとよいのですが。
さて後に残されたのは。オス猫のダイちゃん。子猫3匹。母猫のさくらねこ2匹。母猫たちは、手術の翌日には何事もなかったような顔でごはんを食べに来ました。イヤなことをされたから、この家には来なくなるかと思っていたのですが。猫というのはたくましい生き物です。
3匹の子猫たちも生後半年を目途にして避妊・去勢手術をしました。ワクチンも接種して、『保護中の子猫』から『飼い猫』になりました。
まとめ
あれから1年が経とうとしています。子猫たちは大きくなり、そこそこ懐いてくれています。母猫たちにはまだ触ることができません。ここを拠点とする『さくらねこ』のままです。
今もあちこちで子猫が生まれているのでしょう。願わくは、みんな幸せになれますように。