ペットロスの渦中で。
先代猫が虹の橋を渡ってから
当時の私は12年間飼っていた先代猫が亡くなって落ち込んでいました。俗にいうペットロスというやつです。なにもない空間にむかって先代猫の名前を呼びかけたり、家事をしている最中にいきなり泣き出したり情緒不安定な状態が続いていました。そんな折、「もう一度猫を飼ってみては?」と家族から提案がありました。
当初、私はもう一度、猫を迎えることに少し迷いを感じていました。先代猫は病気の影響で食事をとることもできず、強制給餌と自宅での点滴を続けましたが、徐々に痩せ細って亡くなりました。3.5キロあった体重が、亡くなる直前には僅か2キロになってしまったのです。とても安らかとは言い難い最期でした。
ペットを亡くした後に「あんなにも悲しい思いをするのは嫌だから、もう二度と動物は飼わない」という決意をする人が多いと聞きます。でも、私はそうは思わなかったのです。悲しいことばかり思い出しては、愛したペットに申し訳がないと思いました。
楽しかった日々を思い出す
繁華街の店裏でダンボール箱に入れられて捨てられていた先代猫との出会いはかけがえのないものでした。一人暮らしをしていた私を慰めてくれましたし、家族ができて広い部屋に越してからも、明るい鳴き声で朗らかな気持ちにさせてくれました。悲しい思い出などより、楽しい思い出の方が圧倒的に多いのです。
猫と暮らすのは楽しい。先代猫がそう思わせてくれました。冷静に考えてみると、飼わない理由を探す方が難しいと思いました。そして、新しい猫を探すにあたっては、保護猫を引き取ろうと決めました。
半分、野良猫
知人の紹介で、お店の軒先でご飯をもらっている子猫を紹介されました。近辺の人たちから大変可愛がられていたらしいのですが、周囲は交通量も多く、ちゃんと家の中で飼ってもらった方が幸せだろうと考えたようです。
預かりさんの家まで行き、面会しました。およそ生後半年くらいで、灰色の猫は大変愛らしく、一目惚れして連れ帰りました。
臆病なペロリスト、でもアスリート
顔の前に手を差し伸べると、すぐに指先をペロペロと舐めてくれるので、人懐っこい猫だと思っていました。ですが、どうやら不安の裏返しだったようです。警戒心の強い猫だったので、しばらくのあいだは懐きませんでした。
家に来て2日目、朝の10時に姿を隠し、夜になっても出てきません。ベッドの下から冷蔵庫やエアコンの上、押入れや収納の中のものをすべてひっくり返しましたが、まるで見当たりません。結局、玄関にある靴箱下のデッドスペースからひょいと出てきたのは夜の10時でした。あの時ほどヒヤリとしたことはありません。
トイレの場所はすぐに覚えてくれましたが、夜中の運動会には参りました。みんなが寝ようとする時間帯になると、突如、リビングを駆け回り、飛び跳ねます。時折、カーテンレールの上に登り、プロレスラーばりに飛び降ります。着地位置にマットを敷き詰めたりしましたが、騒がしかったです。
また、運動会だけではなくパトロールも日課と課していました。私は夜寝るときに、寝室の戸を閉め、つっかえ棒までしていたのですが、執拗に爪でカリカリと開けようとしてきます。30分以上経過しても、あきらめる気配がありません。あれはちょっとしたホラーでした。
気がつけばいつも中心に猫がいる
再び猫を迎え入れたことで、家の中が明るくなりました。先代猫のことを忘れてしまったり、記憶の中で薄れてしまうかもしれないと、危惧はありましたが、そんなことはなかったです。
今の猫と比べて、先代猫はあーだったこーだったと話す機会が増えました。話の内容も先代猫を偲ぶというよりは、ただ単純に思い出として話せているので重い気分にはなりません。
それと、猫がまるで家族の緩衝材になっているようにも感じています。家族の機嫌が悪い時も、猫を話の中心に持っていくことで明るい雰囲気が生まれます。人間同士が口喧嘩をしている時は、ニャアニャア鳴いて、あいだに入ってくれます。「仲良くして」と訴えているんでしょうか?とても優しい猫です。
内弁慶の極み。危険な外から安全な世界へ
うちに来てから3年半が経ちましたが、あいもかわらず警戒心は強めです。宅配の人がインターホンを鳴らすと、すごい勢いで押入れに隠れます。だけど家族の前では心を許してくれているのか、だらしのない姿を頻繁に見せてくれます。そのギャップが面白くもあり、可愛くもあるところです。
完全に室内飼いで外には出していませんが、脱出癖はなくて助かっています。マンションの裏が緑地になっていて、鳥の多い環境なのですが、外で鳥がけたたましく鳴いていると速攻で窓際に行き、窓を開けてくれとせがみます。鳥たちと友達になりたいのか、狩りの対象として見ているのか判断に迷います。
先代猫はまったくテレビに関心がなかったのですが、今の子はテレビっ子です。特に大好きなのが、世界ネコ歩きやダーウィンがきた!などの動物番組です。テレビに齧り付かんばかりの勢いで見入り、画面内の鳥たちに肉球パンチをかますこともしばしばです。
まとめ
最近は動物番組が増え、猫ブームもいまだ続いています。新型コロナウィルスで家にいる時間が増え、猫を飼いたいと思う人も増えていることでしょう。
私は、心から不幸な犬や猫が減ること願っています。今の日本では年間4万頭以上もの犬や猫が殺処分されているという悲しい現実があります。もし猫を迎えたいと考えた時は、保護団体や保護猫カフェ、里親募集サイト、保健所などからお迎えして欲しいです。すぐに懐かなくても、一緒に長い時間を過ごしているうちに、かけがえのない存在になるでしょう。
そして、ペットロスで悲しみに暮れている方には、もう一度、勇気を出して保護猫を迎えてみてはどうでしょう?と伝えたいです。あなたが心から愛した先代の子は、新しい子があなたのそばにいても決して怒るようなことはないですし、それよりもあなたがずっと悲しんでいる姿を見ている方が辛いのではないかと思うのです。
先代の子と似たような子を探さなくても、別にいいんです。人間と同じように、猫にも色々な個性があって面白いものです。私は猫のことを好きになれて、本当に良かったと思っています。