「欲しかったのは独り占めできるぜんぶ」多頭飼育崩壊から来た我が家の猫

「欲しかったのは独り占めできるぜんぶ」多頭飼育崩壊から来た我が家の猫

我が家の愛猫は多頭飼育崩壊現場で生まれ育ちました。センターに保護されたものの、突然の変化についていけず、引きこもってしまっていた猫でした。「いつかそのうち馴れてくれればいい」と我が家に迎えたのですが、その後の展開は予想外のものに。崩壊からの保護猫をお迎えした1つの例としてご紹介します。

保護猫だった愛猫との出会い

2018年6月、猫の多頭飼育崩壊が起きていた名古屋の市営住宅の一室で、強制退去が執行されました。市の動物愛護センターに保護された猫たちは、当日生まれた子猫も含めて45頭。市長による「全頭殺処分せず」との異例の指示もあり、当時はたびたび報道に取り上げられていました。

その時の私はペットロスの真っ只中で猫と暮らす自信はありませんでした。しかし、「センターの収容限界を超え、里親を募集している」そんな文言を見るたびに、どうにも目が離せなくなり、思い切ってセンターに連絡したのです。

センター掲示物

お見合い当日。職員さんに案内されて立ち入ったセンターの収容施設は、猫がたくさんいるのに臭いも無く、ケージごとに貼られたメモからは猫たちが大切にされている様子が伝わってきました。

猫たちは、イカ耳でこちらを窺う子、目が合うだけで威嚇する子、逆にケージに体を押し当ててアピールする子と、じつに様々です。紹介してもらいながら進んでいくと、ふと隅のケージが目につきました。

「E」と仮称のついたその猫は、ふてくされた顔をしてトイレの中でうずくまっていました。怯えもせず、威嚇もせず、しかし友好的な気配はゼロです。撫でさせはするものの反応はなく、ただもう何もかもが心底、嫌そうでした。

不機嫌な猫

現場で生まれ育った2歳の雄で、保護当初は大変お喋りだったのに、去勢後は猫が変わったように引きこもっている事。大部屋では他の猫からごはんを奪うので、1頭だけ隔離されている事。自分でケージを開けて出てきてしまうので、扉が鍵付きな事。

そんなエピソードと、不機嫌すぎる表情が私のツボに刺さりました。どうせふてくされているのなら、センターにいても我が家に来ても同じことです。是非この子を、とお願いして連れ帰ることにしました。

トライアル3日目に驚きの変化

移送中も不機嫌顔のままじっとしていたEは、家に着くなり自らキャリーを出て、そそくさとケージに入ってしまいました。ごはんは躊躇なく食べるものの、あとはじっとしたまま。手からチュールをあげようとしたら、軽く噛まれました。

2日目。トイレも問題なく使えているし、ごはんも完食。しかし、昨日と変化はありません。じっとこちらを見つめては、時折瞬きを繰り返しています。「敵じゃない?」と確認しているようでした。とりあえず目が合ったら瞬きを返しておきました。

ケージの中の猫

変化が訪れたのは3日目。帰宅した私に対して訴えるように鳴きました。ケージを開けると、積極的に出てきて、激しい頭突きをしてきます。地団駄のようにせわしない足踏みは、フミフミのつもりなの?と、オモチャを差し向けてみると、勢いよく遊び始めるではありませんか。

ボール遊び

爪とぎの開封も待ちきれない様子で板にすがりつき、猛然とガリガリスリスリ。今までだんまりを決め込んでいたのが嘘のように、目をまん丸にして興奮していました。

爪とぎガリガリ

センターとの電話で、すっかり変わったEの様子を伝えたところ「彼はそちらでやっていく気があるようですね」と言われてハッとしました。お恥ずかしながら、それまで私は「私が」猫を試すような気持ちになっていなかったでしょうか。トライアルしていたのはEも同じ。彼も我が家をお試ししていて、そしてOKを出してくれたのです。

即座に正式譲渡をお願いし、彼はうちの猫となりました。

保護猫をお迎えして大変だった事

崩壊した多頭飼育の環境の中でネグレクト状態のまま育った猫は、当然ながら人間と暮らすルールを知りません。職員さんの話では、当初は壁を駆け上がって天井から襲ってくる猫もいたとか。トイレの概念がないので、ケージの下段に他の猫がいても、平気で頭上に垂れ流してしまうような有様だったそうです。

我が家の猫は、幸いにしてセンターを介していたおかげで、人間という存在にも慣れ、トイレも覚えさせてもらっていたため、お迎えしてから特に大変だったという事はありません。ただ、頑固な顎ニキビと四肢の黄ばみが保護以前の状態を物語っていました。洗っても落とせず、毛の生え代わりを経てようやくきれいになりました。

口を開けた猫

また、図体は大人ですが、オモチャで遊ぶことにかけては初心者マーク。紐のついたものや、噛み心地の良いものは勢いで食べてしまいます。飢えていた時期が長かったせいか、普通は猫が欲しがらないようなものまで食べようとするので、注意が必要でした。

そして去勢手術はしっかりとトラウマになっていました。今でも病院に行くためにキャリーに詰め込むと、雄たけびを上げながら盛大に漏らします。こればかりは仕方ないですね。

保護猫をお迎えして良かったなと思う事

猫は居るだけでもう「良かった」のかたまりです。あえて保護猫ならではという部分を挙げるならば、やはり以前とのギャップでしょうか。

ビフォアアフターの様子

当初は触られるのも嫌そうだった猫が、当たり前のように人間の膝へ飛び乗ってきて、ウットリとこちらのお腹をフミフミ揉んでくる時、今の暮らしを気に入ってくれているようだなあ、と幸せな気持ちになれます。

ぬいぐるみと猫

心を開いてくれた途端に、両の肉球で人の手をプニッと掴み、撫でて欲しいところに持っていくだなんていう熟練の可愛さをみせてくるのが、猫のポテンシャルです。お迎え1週間目にして、作業中の書類の上にスライディング&仰向けにゃんこポーズをキメてきた時などは、言葉を失いました。

猫のこういうのって、いったいどこでおぼえてくるんでしょうね。センターでは「飼い主イチコロ☆愛され猫のモテテク講座」でもあったのでは、と勘ぐっています。

愛猫の現在の様子

愛猫のいた群れに生後半年以上の猫はおらず、成猫の死骸も見つかりました。食べ物も足りないまま、避妊去勢を全く受けずに繁殖し切った猫の群れ、その過酷な環境は想像に難くありません。

保護前の家の床面積を単純に頭数で割ってみたところ、1頭当たりのパーソナルスペースは半畳程。猫たちの中には喧嘩による傷を負った子も多く、我が家の猫も耳が破れ、頭や肩に古傷があります。

彼が生まれた時、群れは既に飽和状態だったようです。子猫らしい子猫時代も送れず、ずっと「いろんなものを独り占めしたい」と思っていたのかもしれません。自分だけのごはんと空間を手に入れた途端、彼はすっかり子猫に戻ってしまいました。

上目遣いの猫

飼い主を見るとしっぽをピンと立ててビリビリ震わせ、前足は常にフミフミ、寝転がれば手のひらは左右交互にグーパー。鳴くときも顔の下半分を目いっぱい使って、口角を盛大に持ち上げる子猫の要求鳴きをします。

半年ほどは、些細な事(掃除機が動いた、窓が開いた、顎を拭かれた)でこわばり、引きこもってしまう事もありましたが、現在ではもう、「生まれた時からここにいたの」というような顔をしてのんびりと暮らしています。

目を閉じた猫

まとめ

多頭飼育崩壊からの猫というと、「それって懐くの?」と訝しがられることも多いです。崩壊猫には無秩序に育ったイメージがつきまとい、実際に問題を抱えている場合もあって、普通の保護猫より貰い手が見つかりにくいこともあるのだとか。

しかし、どんな環境に育っていても、猫は隙あらば「機嫌よく暮らしたい」と思っている筈です。そして適切な飼育環境を整え、猫にご機嫌な暮らしを提供できるのは飼い主だけなのです。

多頭飼育崩壊からの猫たちにも他の保護猫たちと等しく、良いご縁があるように願っています。

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