猫の伝染性腹膜炎の余命や延命治療について

猫の伝染性腹膜炎の余命や延命治療について

猫の伝染性腹膜炎の余命についてまとめました。「不治の病」とされる猫の伝染性腹膜炎を発症した場合の余命はどれくらいなのでしょうか。猫の伝染性腹膜炎の原因や治療法、その治療にかかる費用についてもご紹介します。

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記事の監修

山口大学農学部獣医学科卒業。山口県内の複数の動物病院勤務を経て、ふくふく動物病院開業。得意分野は皮膚病です。飼い主さまとペットの笑顔につながる診療を心がけています。

猫の伝染性腹膜炎の余命

182253513 首をかしげる猫の写真

①予後不良

猫の伝染性腹膜炎(FIP)は致死率100%の病気とも言われることから、発症後の余命は「非常に短い」とされています。

猫が患う感染症の中でも、伝染性腹膜炎は予後不良であることが多く、診断後の生存期間中央値は9日間とされています。そのため、伝染性腹膜炎の確定診断後、安楽死という選択が提示されることもあります。

②延命治療

ただ中には生後数か月で伝染性腹膜炎と診断されてから数年、中には寿命を全うしたというケースもあります。と言っても猫の伝染性腹膜炎の診断は非常に難しく、そもそも伝染性腹膜炎ではなかったというケースも考えられるため、信頼性の高いデータではないと言われることもあります。

猫の伝染性腹膜炎の余命に関しては個体による差が大きいため、一概に何か月、何年と表すことはできません。ただ今現在の日本の動物医療では救えない命があるのも事実です。

ただ安楽死を選ぶ時は、早合点をしないよう慎重に確定診断を行うことを心がけましょう。

猫の伝染性腹膜炎は完治する?

84666330 見上げる猫の写真

猫の伝染性腹膜炎は完治するのか?答えは基本的には「しない」です。と言っても、完治の概念は非常に難しいもので、何をもって「完治」とするのかというところによって答えは異なるようですね。

例えば、ふだんどおりの生活を送れるようになったら「完治」とするのか、投薬が終了した時点で「完治」するとするのかということですね。

そしてそれらを完治と呼ぶしても、完治した例は非常に少ないというのも事実です。現在、猫の伝染性腹膜炎に特効薬はなく対症治療が主となります。これらの過程で稀に、健康な猫と同じように元気に生活できるようになった猫もいるようです。

猫の伝染性腹膜炎の治療方法

101696510 薬と猫の写真

残念ながら、現在猫の伝染性腹膜炎に特効薬はありません。猫の伝染性腹膜炎の治療では、対症治療を基本として、猫の伝染性腹膜炎の原因となっているコロナウィルスに属する猫の伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)に対する抗ウイルス薬や、免疫調整剤などが用いられることが多いようです。

と言っても、これらの効果については実験、調査段階であるものも多く、確立された有効な治療法はありません。

ただ、日々進化する動物医療界において猫の伝染性腹膜炎に効果的な延命薬の研究、開発が行われており、中には猫の伝染性腹膜炎に対して高い効果が得られる可能性があるとされる薬剤も存在します。それらには日本未承認の薬剤もあり、個人輸入を試みている獣医師も少なくないようです。

いずれこれらが猫の伝染性腹膜炎の治療薬、特効薬になることを望むばかりですね。

猫の伝染性腹膜炎の治療費

101258252 お金と電卓の写真

①検査費用

抗体検査、遺伝子検査は6,000円~10,000円前後、血液検査が5,000円程度であることが多いようです。

猫の伝染性腹膜炎の検査は非常に難しく、抗体検査や血液検査などの様々な情報を元に判断することが必要になります。そのため検査費用も内容によって異なります。

②投薬

多くの場合、1か月に20,000円以上の治療費が必要になることが多いようです。

猫の伝染性腹膜炎の治療法は抗生剤やステロイド剤、インターフェロンなどの投与が主になります。これらの他にも対症治療として必要になる内服薬、点滴などもあるため、一概には言えません。

治療費については、症状や用いる治療方法によって様々です。前もってしっかりと獣医師と相談しておきましょう。

猫の伝染性腹膜炎の症状

103600603 獣医と猫の写真

猫の伝染性腹膜炎の症状についてご紹介します。猫の伝染性腹膜炎の症状は、その特徴によって「ウェット型」「ドライ型」の2つに分けられます。

①ウェット型

猫の伝染性腹膜炎のうち80%~90%がウェット型(滲出型)とされており、血管からタンパク質が滲出し、体の空洞部に体液が溜まってしまう状態のことをいいます。

なかでも、猫の腹腔に浸出液が溜まり、お腹がぽっこり飛び出すのが特徴です。他にも胸腔、心膜腔に体液が溜まり、重度の胸水、心嚢水を引き起こすこともあります。

②ドライ型

ドライ型(非滲出型)は、免疫細胞から分泌されたタンパク質を分解する酵素が、正常な細胞までを破壊してしまうことによって様々な症状を引き起こします。猫の腎臓や肝臓の機能障害、リンパ節、眼球に炎症が起こることもあります。

猫の伝染性腹膜炎のウェット型、ドライ型についてご紹介しましたが、複合型であったり、明確に分類できない中間型とされることもあります。ウェット型、ドライ型に共通している初期症状には発熱、食欲不振、体重減少、元気消沈、下痢嘔吐などがあります。

猫の伝染性腹膜炎は、初期症状が出始めてから急激に進行し、末期症状が起こることも少なくありません。異変を感じた場合は、なるべく早くかかりつけ医を受診しましょう。

猫の伝染性腹膜炎の原因

171213052 2匹の猫の写真

猫の伝染性腹膜炎の原因は、コロナウィルスへの感染ですが、猫だけに感染する「猫腸管コロナウィルス(FECV)」は、保護施設などの密飼い環境で80%~90%、単頭飼いであっても30%~50%の猫が感染したことがあるとされるほど、非常にありふれたウイルスです。

本来、この猫腸管コロナウィルス(FECV)は病原性の弱いウイルスであるため、感染したとしてもほとんどの場合が無症状、もしくは軽い下痢などの症状が出る程度で自然治癒します。ではなぜ猫伝染性腹膜炎を引き起こすのかというと、残念ながらこの伝染性腹膜炎ウイルスの発生原因ははっきりと解明されていません。

猫腸管コロナウィルス(FECV)が何らかの原因で突然変異を起こし、猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)を生み出してしまうという体内変異説や、そもそも猫腸管コロナウィルス(FECV)と猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)が併存しているのではないかというウイルス併存説などがあります。

感染経路については、猫腸管コロナウィルス(FECV)に感染した猫の糞便などの排泄物を口にすることによって感染します。と言っても、他の猫にうつる可能性があるのはあくまで病原性の弱い「猫腸管コロナウィルス(FECV)」であって、「猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)」がうつることはありません。

体内に入ったFECVが何らかの理由により猫の体内でFIPVに変位するとFIPを発症します。残念ながらなぜこの変異を起こしてしまうのかは不明です。多頭飼いの場合は注意しましょう。

猫の伝染性腹膜炎の予防法

197186407 猫とトイレの写真

①生活環境の見直しをする

まず、猫の伝染性腹膜炎を予防するためには猫腸管コロナウイルスに感染しないことが重要になります。とは言っても、このウイルスは非常にありふれたウイルスであり、日本ではワクチンもないため、予防が難しいのも事実です。

ただ、猫の完全室内飼いの徹底によって多少感染のリスクを抑えることができます。また、多頭飼いの場合は頭数分のトイレを用意し、排便後はなるべくすぐに片付けるようにするなどの工夫をしましょう。

②猫を触る前には必ず手を洗う

年齢(子猫や高齢猫)、免疫抑制剤の投与、疾患(猫白血病ウイルス感染症、猫エイズウイルス感染症、汎白血球減少症など)などが原因となる免疫力の低下によって、猫腸管コロナウィルスが猫伝染性腹膜炎ウイルスへと変異するリスクが上昇する可能性があるとされています。

そのため、飼い主さんが外出から帰った時は手を手洗い、消毒をしてから愛猫に触れるようにすることを心がけましょう。愛猫家として心苦しくはありますが、病歴が不明な猫ちゃんには触れないようにするのも一つの手です。

まとめ

193914980 医療イメージ写真

猫の伝染性腹膜炎の余命についてご紹介しました。猫の伝染性腹膜炎は、非常にありふれたウイルスが体内で変異することによって引き起こされるという非常に厄介な病気です。

猫伝染性腹膜炎は、猫エイズウイルス感染症、猫白血病ウイルス感染症と並び「難治性三大疾病」と呼ばれるほど命に危険が及ぶ病気であるのにも関わらず、その原因はいまだに解明されていません。

ただ、動物医療も日々進化しています。人の医療でも数十年前では不治の病と恐れられた病気でも、現代の医療なら完治することができる病気もあります。いつの日か、猫の伝染性腹膜炎も「不治の病」でなくなることを心から願っています。

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