「借りてきた猫」の意味
「借りてきた猫」とはことわざで、その意味は「普段と違っておとなしい様子」です。「借りてきた猫」の類語には「内弁慶」が挙げられ、普段騒がしい人がいつもと環境が違う場所で静かにおとなしくなってしまうことをあらわしています。何気なく使っている言葉の由来や語源には意外な背景があることがあります。「借りてきた猫」にはどのような由来があるのでしょうか。
「借りてきた猫」の言葉の由来
猫を飼っている方ならわかるかと思いますが、猫は環境の変化を嫌う生き物ですよね。そのため、いつもと違う場所に連れてこられると静かになってしまうことが由来となっています。その由来について掘り下げてみましょう。
「借りてきた猫」の言葉の由来~歴史~
「借りてきた猫」という言葉には歴史があり、それは飛鳥時代、奈良時代までさかのぼります。その時代は、中国から様々な物が日本へと船を使って運ばれていました。中には大切な経典もあったのですが、ネズミがそれをかじってしまうなどの被害があったのです。その経典を守るために、猫を中国から船に乗せてネズミ対策をしていました。
輸入された猫は、紐でつながれ愛玩動物としてかわいがられたり、ネズミ対策の仕事をしたりしていました。しかし、猫はなかなか繁殖が進まずとても貴重な動物だったのです。そのため、ネズミの被害を防ぐためには、猫を飼っている家から借りてこなければなりせん。猫を連れてきてネズミ対策のために働いてもらおうとしたのですが、働くどころか猫は動きませんでした。これが「借りてきた猫」の由来と歴史です。この内容が広まり、ことわざとなりました。
猫の歴史を少し掘り下げると、飛鳥時代から奈良時代の間に中国から猫が輸入されたとされていますが、実はそれよりも前の弥生時代には猫がいたとされています。長崎県の遺跡から猫の骨が出土しているのです。しかし、古くから日本に猫がいたことを示す書物などの物証がなく、書物に出てくるのが飛鳥時代のため、猫はこの頃に輸入されていたと考えられているようです。また、江戸時代初期までは繁殖が進まず貴重であったため、養蚕のお守りに猫が描かれるほどでした。
「借りてきた猫」の言葉の由来~猫の特徴~
「犬は人に付き猫は家に付く」という慣用句があります。犬は人との生活になじみ、猫は家などの建物や場所になじむという意味で、分かりやすくすると「建物や場所の環境の変化にとても敏感」ということなのです。ネズミ対策のために、普段生活している家や場所から違う場所に連れてこられても、環境が変わってしまい、不安や緊張で動けなくなってしまうということなのです。これが「借りてきた猫」という言葉の由来の一つです。
猫は縄張りを持つ生き物で、縄張りの外に出るなど環境が変わると不安を感じたり緊張することがあります。猫は防衛本能で、「シャーッ!」と鳴いて威嚇をしたり、しばらくじっとしていたりしてその場をやり過ごそうとします。ですが、非常にまれですが不安や緊張、興奮が大きくなってしまうと、突然脱力してしまう情動脱力発作(カタプレシキー)が起きることがあるようです。
縄張りをめぐって猫はケンカになることもありますが、なるべくケンカにならないように行動をしています。顔見知りの猫がいたときは、目を合わせないことでケンカを避けます。仲の良い猫同士では縄張りを共有することだってあるのです。しかし、顔見知りではない猫が突然現れた場合は、ケンカになる可能性があります。それだけ、猫には縄張りが重要なのです。
ちなみに、「犬は人に付き猫は家に付く」という慣用句は、「犬と比べて猫は飼い主のことをすぐに忘れてしまう」という意味もあるようですが、実際は猫の記憶力は2年ほどある事がわかっています。飼い主さんを忘れてしまうというより、猫は環境が変わることがとても苦手だということです。さらに、猫の性格によっては、犬のように飼い主さんがそばに入いればどこでも平気というタイプもいます。例えば、引っ越しをして環境が多少変わっても平気な猫や、旅行も問題なく行ける猫などです。
「借りてきた猫」の使い方
「借りてきた猫」の使い方、例文
「普段と違い、おとなしい様子」や「いつになく静かな様子」の人を表現するときに使います。例文をいくつかご紹介します。
- 「いつもはおしゃべりな彼女が、今日は借りてきた猫のようだ」
- 「借りてきた猫のように、子どもたちは静かになった」
- 「人前に出るのが苦手なので、こういう場所では借りてきた猫になってしまいます」
- 「好きな人の前では借りてきた猫のようだ」
「借りてきた猫」英語では?
「借りてきた猫」を英語であらわすと「being quiet and meek」「He is (as) meek as a lamb 」となります。「meek」は「大人しい、従順」、「lamb」は「子羊」という意味で、「猫」という言葉が入っていません。
他の言い方には「quiet as a mouse」がありますが、「ネズミのようにおとなしい」という意味です。猫とネズミ、日本とは反対の使い方なんですね。
さらに「quiet as a cat」という言い方があります。直訳すると「猫のようにおとなしい」となりそうですが、「気づかれないように猫のような忍び足で行動する」という意味があるそうです。
こんな「借りてきた猫」もいます
おとなしい様子の人をあらわす言葉ですが、猫に使われることもあります。例えば人間の赤ちゃんと猫です。普段は触られのを嫌がり、他の猫とケンカをするような気性の激しい猫が、赤ちゃんにべったりになってしまい、しっぽをつかまれても耳を引っ張られても怒らず、まるで「借りてきた猫」の様になってしまうのです。猫は守らなければならない命を分かっているとされています。赤ちゃんにされるがままになってしまうなんて健気ですよね。
次の動画は赤ちゃんが何をしても怒らずに子守をしている猫さんです。引っ張られても上に乗ってきてもおとなしくしています。
この動画の猫さんはベストになっているハーネスか何かを装着していますが、そのせいで「借りてきた猫」いや、「借りてきた猫のぬいぐるみ」のようにパタンと倒れてしまいます。ベストをはずしてもらうと元気よく歩いて行ってしまいました。
まとめ
「借りてきた猫」の意味には歴史的な一面がありました。ネズミ対策のために、中国から輸入された働く猫たちが由来となっていたのです。その頃は、現在と違って猫がとても貴重でした。現在も猫にリードを付けることはありますが、当時はネズミ対策のために輸入していたこともあり、相当貴重であったのだと想像できますね。そんな猫をネズミ対策のために働いてくれると思って、借りてきたのにおとなしくなって動かなかったのが語源です。当時の人たちは猫に期待していた分、動かない猫を見てとても驚いたのかもしれませんね。
英語で「借りてきた猫」を表現するときは、「猫」という言葉を使用しないのは歴史や文化の違いなのかもしれません。反対に「ネズミ」という言葉を使って「借りてきた猫」と同じ意味を表現するのは意外ですよね。
もし、緊張して「借りてきた猫」になってしまうときは、思い切って猫になったつもりになってしまえば、少しは心がほぐれるかもしれませんよ。