猫の病気のサインを見逃さない方法
猫の健康な状態を把握する
”猫は病気になったり、具合が悪くなると姿を隠す”とよくいわれているように、気づいたときには病気が進行しているケースが多く、実際に末期状態で来院してくる猫が多くみられます。
状態もかなり悪く、治療をしても手遅れで予後も厳しい状況に陥ってしまうため、早い段階で病気のサインに気づいてあげることが非常に大事です。
多くの飼い主さんが口を揃えて「昨日まで特に変わりなかった」「全然気づかなかった…」という声が多く聞かれます。
いち早く気づいてあげられるためにも猫の健康時の状態を知っておくことが何よりも大切なことです。
ですが具体的に健康時の状態とはどのような状態なのか疑問や不安に思うかと思います。
飼い主さんに向けて以前私が猫の健康を見分けるチェックリストをご紹介したことがあり、これを機にぜひ愛猫の健康チェックをしてみてはいかがでしょうか。
日頃の動作や習慣をよく観察する
冒頭でお話しした通りに猫は具合が悪かったり、死期が近づいてくると姿を隠したり冷たいところを好むといわれています。
猫は本来、群れで行動しない動物だったために、自分の身は自分で守らなければいけないことからこのような行動をとると考えられており、体調が悪いサインでもあります。
いつもと猫の行動や様子が違う場合は具合が悪かったり、何らかの病気にかかっている大事なサインかもしれません。普段どのように過ごしているのか日頃の様子を気にしてあげることで、その大事なサインにすぐに気づくことができます。
排泄物を定期的にチェックする
オシッコやウンチといった排泄物は猫の健康状態を知ることができる大事なサインでもあります。特に猫は尿路結石症や膀胱炎、腎不全といった泌尿器系の病気になりやすく、場合によっては尿道に結石や結晶が詰まってオシッコが出なくなり急性腎不全に陥り命を落とす危険や後遺症を残してしまう恐れがあります。
腎不全の場合は腎機能の低下により尿を濃縮することができないので透明に近い薄い色のオシッコを大量にするようになるなど、健康時と比べ排泄物に違いや変化が現れてきます。
特に慢性腎不全は猫にかかりやすい病気ですが、治療は主に食餌療法や対症療法となってしまうため早いうちに発見してあげることで寿命が伸び長生きすることができます。
ウンチに関しても元々飲水量が少ない猫は便秘になりやすく、コロコロとした小さなウンチをするようになります。便秘がひどくなると自力で排便できなくなり結腸にウンチがたまる巨大結腸症という病気になる恐れがあり、場合によっては命を落とすこともあります。
そのためトイレ掃除の時にただ排泄物を処理するのではなく、排泄物の色や匂い、量などをチェックする習慣を身につけましょう。
ですが猫1匹だけなら排泄物のチェックをおこなうことができますが、多頭飼いの場合だと、どの猫の排泄物なのか曖昧になってしまいます。
最近では猫の顔を認識してトイレの回数や量などを計測して教えてくれる「toletta 」というアプリや、大手メーカーのSHARPが開発した「猫用システムトイレ型ペットケアモニター」があり、個体識別ができるため多頭飼いでも、どの猫が排泄したのか分かることができます。
猫の病気のサインの例
猫の病気のサインの例①嘔吐
猫は嘔吐しやすく健康で元気な場合でも吐くことがありますが、その嘔吐のサインが命に関わる緊急性の高いものや病気の可能性も考えられます。
緊急性が低い嘔吐の原因としては「フードを噛まずに丸呑みする早食い」「朝方に多い空腹時による嘔吐」「グルーミングで飲み込んだ毛玉を吐く」「環境の変化などによるストレス」があげられます。
このような嘔吐のサインは一時的なものなので元気や食欲は変わらず、吐く回数も個体差によりますが月に1〜2回程度です。
緊急性がある嘔吐のサイン
- 何回も吐く
- 嘔吐物に血や虫が混ざっている
- 元気がない
- 食欲がない、食べない
- 体重減少
- 下痢や痙攣など嘔吐以外の症状が見られる
病気や緊急性が高い場合に考えられる原因としては異物誤飲や毛球症による胃腸炎やそれに伴う消化管の通過障害で嘔吐をします。特に異物誤飲や消化管腸閉塞の場合は嘔吐を繰り返します。
誤飲事故でも殺虫剤や人間用の薬、ユリなどの観葉植物やネギ類など猫にとって中毒を起こすものがあり、このような場合には嘔吐のほかに、よだれを垂らしたり下痢や痙攣などが起き、場合によっては命を落とすこともあります。
また猫は泌尿器系の病気になりやすく腎不全や尿石症による尿路閉塞などが原因で体内の老廃物を排出することができず尿毒症となり嘔吐や元気・食欲不振、下痢、さらには貧血や脱水などの症状が見られることもあります。
他にも嘔吐で考えられる病気については糖尿病による代謝性ケトアシドーシスや回虫の寄生により嘔吐物に虫が出てくるなど多岐に渡ります。また、炎症性腸疾患やパルボウイルス感染症などでは激しい嘔吐や下痢が起こります。
猫の病気のサインの例②排泄
猫は泌尿器系の病気になりやすく排泄物から猫の健康状態を知ることができるため、ウンチやオシッコの回数や量などは大事なサインでもあります。
個体差によりますが、健康な猫では1日におよそ3〜4回の排尿、排便では1日に1回か2日に1回といわれています。
緊急性がある排泄によるサイン
- 頻尿(トイレに何回も行く)で1回の尿量が少ない
- オシッコが全く出ていない
- 血尿
- 排尿痛(辛そうな声で鳴く)、いきんでいる
- オシッコがキラキラ光っている
- 多飲多尿
- 下痢
- 便秘(硬くてコロコロと小さい)
- 血便
- ウンチに寄生虫が混ざっている
猫に多い尿石症や膀胱炎の病気の場合にはトイレに何度も行くがオシッコの量が少なかったり血尿や排尿痛などのサインが見られます。特に尿路に結石や結晶が完全に詰まってしまうとオシッコが全く出なくなり急性腎不全により亡くなることもあります。
一方、明らかにオシッコの回数や水の飲む量が多い場合には慢性腎不全や糖尿病を代表とした内分泌疾患などの疑いがあり、尿の色や匂いなどを注意深くみてあげましょう。
またウンチからも健康状態を知ることができ、下痢でもストレス性やアレルギー性、食事の食べすぎで起こることがありますが、中にはパルボウイルス感染症や猫伝染性腹膜炎といったウイルス感染症もあれば、回虫症などの寄生虫感染でも下痢の症状を起こすこともあります。特に回虫症ではウンチの中に虫が混ざっていることがあります。
逆に便秘では多飲多尿で脱水傾向にある猫や高齢による筋力の低下で起こりやすく、元気な状態でも元々水をあまり飲まない猫は便秘になりやすいです。食事量によりますが2日以上ウンチが出ていない、ウンチが出ても小さくて硬い、嘔吐、食欲不振などのサインがみられた際は早めに対処する必要があります。
また、詳しい猫の病気のサインについてはリンコさんが投稿した「猫の体調不良を見分ける5つのサイン」に記載されています。
猫の病気のサインを見つけたときは
自己判断に任せず動物病院へ連れて行く
私たち人と違い猫は言葉を使って相手に伝えることができません。問題ないと思っていたことが実は重篤な病気にかかっていたり、緊急性が高く命に関わることもあります。
多くがそのサインに気づいていても「とりあえず大丈夫じゃないかな」「そのうち元気になるだろう」などという自己判断により様子を見過ぎてしまいその結果、病気の発見が遅れて手の施しようがない状態に陥る恐れがあります。
実際に来院した時点で末期の腎不全で尿毒症を起こしていたり、中毒物質を摂取してから異変に気づくまで時間がかかり腎臓に重い障害が残ってしまったことや異物誤飲で緊急手術をしたこともあります。いつもと違う何気ないサインこそが猫にとっては大事なSOSのサインかもしれないのです。そのため何らかのサインが見られた場合は自己判断によらず動物病院へ連れてきてください。
定期的に健康診断を受けることも病気の早期発見に
猫は症状をあまり出さず隠してしまうため、いくら注意していても病気のサインに気づきにくいこともあるかと思います。
昔と比べ獣医療の発達により猫の寿命は伸び、20歳以上長生きしている猫も珍しくないようになりました。しかし歳をとるスピードは変わりなく、換算すると人の4〜5倍もの早さといわれています。
つまり私たちにとっての1年は猫にとっては4〜5年経っているのです。そのため少し前まで元気だったが急に元気がなくなり病気になってしまったケースも少なくありません。
病気のサインに気づいてあげることもとても大切ですが、病気の早期発見のためにも定期的な健康診断を受けることも大切です。目安としては7〜8歳以下の猫は年に1回、それ以降の猫は半年に1回ほどをオススメしています。
まとめ
猫は病気になっていたり具合が悪くても症状を隠してしまいます。気づいたときには病気が進行している場合や、特に子猫では体がとても小さいので命を落とすことも少なくありません。
少しでも早く猫のSOSのサインを気づいてあげられるように健康時の状態や普段の猫の様子を気にしてあげたり、排泄物のチェックを行うことは大切です。
またちょっとしたサインでも実は重篤な病気の可能性も考えられるため、場合によっては飼い主さんの自己判断によって猫の命を左右してしまうこともあります。自己判断に任せず動物病院へ受診することを勧めます。
また人よりも早いスピードで猫は年をとるため、今が元気でも数ヶ月後、1年後には病気になることも考えられます。中には初期ではあまり症状が現れない病気もあるため、早いうちに見つけるためにも定期的な健康診断を受けてあげましょう。