猫伝染性腹膜炎と診断されたら。治療法と飼い主にできること

猫伝染性腹膜炎と診断されたら。治療法と飼い主にできること

猫伝染性腹膜炎(FIP)をご存知ですか? 猫伝染性腹膜炎は、猫の命にかかわる大変怖い病気です。愛猫が猫伝染性腹膜炎と診断されたら、どうしたらいいでしょうか? 病気について正しく知り、大切な猫ちゃんのためにできることをしてあげたいですね。

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記事の監修

北里大学獣医学科卒業。埼玉県内の動物病院で勤務医をしながら教育・研究にも携わっており、大学では『伴侶動物の鉄代謝』をテーマに研究しています。『猫は小さな犬ではない』という格言のもと、何よりも猫ちゃんの健康と福祉の向上を一番に考え、日々の診療に励んでおります。

腹膜炎とはお腹に炎症が起こること

タオルの上で横になる猫

腹膜炎とは、お腹の臓器の外側を覆う膜に炎症が起こることです。特に猫ではある種のウイルス性の腹膜炎に注意が必要です。ウイルス感染による腹膜炎は、完治することが難しい病気だからです。

もっとも危険な病気「猫伝染性腹膜炎(FIP)」

猫に聴診器を当てる獣医師の手

ウイルス感染によって起こる猫伝染性腹膜炎

ウイルスによる危険な猫の腹膜炎は、正しくは猫伝染性腹膜炎(FIP)と言います。その名の通り、ある種のウイルスの感染によって引き起こされる腹膜炎です。

ネコ腸コロナウイルスが猫の体の中で突然変異することで猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPウイルス)となり、多臓器に炎症を起こして、様々な症状が現われます。完治することは難しく、猫にてとって非常に恐ろしい病気です。

猫伝染性腹膜炎には2種類ある

猫伝染性腹膜炎には2種類あり、ドライタイプとウェットタイプに分けられますが、ドライタイプの経過中にウェットタイプを発症することもあります。

ドライタイプでは、脳や肝臓、腎臓、腸管など様々な部位に肉芽腫ができます。肉芽腫ができる部位によって、てんかん発作や肝・腎不全など、様々な症状が現われます。ウェットタイプは、猫の胸やお腹に水が溜まり、お腹が膨れたり、呼吸困難に陥ったりします。

一般的には発熱や脱水、食欲が落ちるなどの初期症状が見られます。ウェットタイプの方がドライタイプよりも診断がつきやすいですが、診断されてからの余命が短いのも特徴です。現在でも治療法が確立されていないので、対症療法しかありません。

発症から死亡期間まで、短い場合は数日から10日程度です。治療によって、症状が軽くなることはありますが、治ることはなく、結果的には死に至ってしまいます。

猫伝染性腹膜炎の診断

猫伝染性腹膜炎は、腹水などの特徴的な症状が見られる症状が見られる場合を除き、判断が難しいです。特徴的な症状がない時は、血液検査、細胞検査、遺伝子検査など様々な検査をします。

猫伝染性腹膜の原因は、ネコ腸コロナウイルスが体内で突然変異したFIPウイルスによるものですが、このウイルスが突然変異するの原因は、猫のストレスや免疫力の低下と言われており、そのため子猫や老猫など、免疫力が低い猫が発症しやすいと言われています。猫は完全室内飼いにし、多頭飼いの場合は猫の頭数分のトイレを用意し、こまめに掃除しましょう。できるだけ部屋掃除も行い、猫の生活環境を清潔にしておきます。

猫伝染性腹膜炎の予防

猫伝染性腹膜炎はウイルスの突然変異によるものなので予防することはできません。その発生にはストレスが深く関係しているのでなるべくストレスの少ない生活を心がけてあげましょう。

猫伝染性腹膜炎について詳しく知りたい方は、こちらをご覧下さい。
https://nekochan.jp/cat/article/2167

腹膜炎を引き起こす他の病気

タオルにくるまった猫と薬品の瓶

腸閉塞

腸閉塞は、異物や腫瘍などで腸が詰まってしまう病気です。腸が詰まることで、便やガスなどがたまり、お腹が膨れてしまいます。この時、猫はお腹に痛みがあるので触られるのを嫌がることが多いです。

腸閉塞で腸の血管が圧迫され、腸組織が壊死してしまうと腸内の内容物が腹腔内へ漏れることがあり、そうすると腹膜炎の原因にもなります。この場合は開腹手術が必要です。腸閉塞の症状は、嘔吐や下痢、食欲が落ちたり元気がなくなります。

リンパ腫

リンパ球ががん化した悪性の腫瘍が、リンパ腫です。その中で消化管にできるものを消化器型リンパ腫と言います。

消化器型リンパ腫は、高齢猫に多い病気です。症状は下痢や嘔吐、血便などですが、他の病気と間違われやすいので、発見が遅れる傾向にあります。

消化管のリンパ腫が大きくなると腸閉塞になったり、患部の腸管が破れて、腹膜炎になってしまうこともあります。リンパ腫の治療では、主に抗がん剤を用いた化学療法が行われます。

子宮蓄膿症

子宮蓄膿症は、子宮内の細菌感染により膿がたまる病気で、避妊手術をしていないメス猫は常に発症リスクがあります。子宮蓄膿症になると発熱、多飲多尿、食欲減退などの症状が現われます。

子宮蓄膿症が悪化すると下痢や嘔吐、脱水などが起こり、さらに悪化すると子宮が破れて細菌が漏れ出ることで、細菌性腹膜炎を起こすことも。最悪の場合死に至る怖い病気です。早期発見が大切で、早く手術を行うことが重要になります。

胆のう炎

胆のう炎の症状は、元気や食欲がなくなる他に、腹痛や嘔吐、黄疸が見られることもあります。胆のうが破れて胆汁が漏れ出すと重度の腹膜炎を起こすので、手術が必要になります。

胆のう炎はすぐに命にかかわる病気ではありませんが、進行してしまうと命に関わることも。軽症のうちから早めの治療が大切です。

猫伝染性腹膜炎に感染した愛猫にできること

横になる猫の頭をなでる手

過ごしやすい環境を作る

猫伝染性腹膜炎は有効な治療薬がない恐ろしい病気です。治療を続けることてもも長く生きられないことがほとんどです。

ですので大切なのは、治療をしながら、猫ちゃんがストレスなくリラックスして過ごせる環境を作ってあげることです。

できる治療をしてあげる

猫伝染性腹膜炎は、有効な治療法が確立されていないので、治療は抗生物質の投与や、抗炎症薬の投与など主に対症療法です。腹水や胸水が溜まっている時は、水を抜きます。

猫ちゃんの症状を和らげ、少しでも長く生きるためにも治療は必要です。取れる方法は限られていますが治療は続けながら、様子がおかしい時はすぐに動物病院へ連れて行けるようにしましょう。

安楽死を考える

猫伝染性腹膜炎で症状が重い場合、獣医さんから安楽死の提案をされることもあります。安楽死は、病気と治療で辛い思いをしている猫ちゃんを、これ以上苦しめないための選択肢のひとつです。

非常に難しい問題ですが、最終的に決めるのは、猫ちゃんの飼い主さんです。獣医さんとよく相談しながら、安楽死か延命治療か決めなくてはなりません。

セカンドオピニオンも視野に入れて

大切な猫ちゃんに納得のいく治療を受けさせるために、主治医とは別に他の獣医さんの意見を聞くという方法もあります。

人間では一般的になってきたセカンドオピニオンですが、猫の飼い主さんでもセカンドオピニオンを検討する人は増えています。セカンドオピニオンには、これまでの検査結果や治療、薬などのデータを提示する必要があります。言いにくいかも知れませんが、主治医の先生にお願いしてみましょう。

猫伝染性腹膜炎と診断されたら

ストールにくるまって飼い主さんに抱かれる子猫

猫伝染性腹膜炎は、ウイルスによって発症する、猫の命を奪う恐ろしい病気です。大切な猫ちゃんが腹膜炎と診断された…その時、飼い主さんは動揺してしまうと思います。

病気で苦しむ猫ちゃんを見ているのは、本当につらいものです。少しでも猫ちゃんが心地よく過ごせるよう、生活環境を整え、獣医さんと相談しながら治療をしていきましょう。

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