猫の腎不全と療法食
猫ちゃんの慢性腎臓病は環境、遺伝、猫ちゃん自身の素因などが原因だと言われていますが、未だ完全には解明されていません。
慢性腎不全の治療は様々ありますが、ISFM(国際猫医学会)の慢性腎不全ガイドラインにおいて、良好な治療効果が認められているのは腎臓病療法食への変更です。
また、療法食への変更が与える生存期間についての論文はいくつかあり、2〜3倍延長すると言われています。では、通常食と腎不全用に調整された療法食は何が違うのでしょうか?
猫の腎臓病の療法食の特徴
通常食との大きな違いはタンパク質とリンの制限で、これらを制限することで尿毒症、高リン血症のリスクを低減することができると考えられています。
しかし、一方でタンパク質から得られるアミノ酸は生命活動に必要不可欠であり、制限しすぎることも問題になり、筋肉量減少、エネルギー摂取量低下による体重減少などの負の側面が発生する可能性があります。
そういった負の側面を考慮しても、慢性腎臓病の猫ちゃんには療法食を与えた方が疾患の進行を遅らせ、QOLを維持することができるのですが、果たして全ての腎不全を罹患している猫ちゃんにそれを適応して良いものでしょうか?
療法食にした方が良いというのは聞いたことがあるけれども、始める時期がわからないという飼い主さんは意外と多いと感じます。
猫の腎臓病の療法食、いつ始める?
IRISのガイドラインによると脱水・炎症・尿路閉塞など治療可能な事柄に関して、治療しながら血液検査・尿検査を並行して行っていくとされており、療法食の開始を考えるのはステージ2以降です。
ご存じの飼い主さんも多いと思いますが、猫ちゃんの慢性腎臓病にはステージがあります。
これはIRIS(国際獣医腎臓病研究グループ)が提唱しているステージングであり、血液・血圧・尿などの様々な検査結果から、4つのステージに分類するものです。
基本的な分類に使われるのは、血中クレアチニン濃度と言われるもので、この項目が上昇するのは腎機能の約3/4が障害を受けてからと言われており、発見する頃にはステージ2〜4と進行し、初期の段階で発見するのは困難でした。
しかし、近年、血中SDMA濃度の測定によって早期に診断できるようになり、そのおかげでステージ1などの初期の慢性腎臓病を発見できるようになりました。
初期の腎臓病の猫ちゃんには何をあげるべきか?
猫の腎臓病のステージが2〜4の慢性腎臓病では、診断の時点で療法食の開始を考慮しても良いと考えますが、ステージ1などの初期の段階ではどうでしょうか?
現状では猫の腎不全の初期段階で療法食を開始すると、疾病の進行を抑えることよりも筋肉量減少、体重減少などの負の側面の影響が上回ると考えます。
しかし、こういった現状から早期に慢性腎臓病を発見できた猫ちゃん向けの療法食が開発され、2019年3月から発売予定となっております。(k/d 早期アシスト,ヒルズ社)
この療法食は、従来のものよりもタンパク質の制限が控えられており体重・筋肉量の減少といった負の側面について配慮してあります。
このような療法食を作っているのは、今現在ヒルズ社のみになりますが、猫ちゃんは味の好みが変わるコも多いので、今後複数の会社からこのような製品が開発されることを願っています。
血中SDMAとは対称性ジメチルアルギニンといい、従来のBUN(血中尿素窒素)やCRE(クレアチニン)を測定するよりも早期に腎不全を発見することができる指標です。クレアチニンは腎機能が約75%喪失しないと上昇しませんので、クレアチニンが正常範囲を超えた時には正常な腎機能は25%しか残されていないということになります。しかし、SDMAは腎機能が平均40%喪失した時点で上昇します。猫では平均17カ月早く腎不全を発見することができます。