猫の多発性嚢胞腎とは
猫の多発性嚢胞腎とは、腎臓に多くの嚢胞(液体が溜まっている袋状なもの)ができてしまい、腎臓の働きを低下させる病気です。
嚢胞の数が増えてきたり、嚢胞自体が大きくなってしまったりすると腎臓の大きさが大きくなり、倍以上になることもあります。
猫は体の構造上、腎臓に負担がかかりやすいため、進行するにつれて腎臓に大きなダメージをもたらし最終的には慢性腎臓病になります。人ではこの多発性嚢胞腎は、難病に指定されています。
猫の多発性嚢胞腎の症状
猫の多発性嚢胞腎は、もちろん個体差はありますが進行はゆっくりで少しずつ嚢胞が増えてきたり大きくなったりするため、初期段階では目立った症状がみられないことが多く、気づいた頃には進行していることが多いようです。
進行度によって徐々に腎臓の働きが悪くなるため、猫に発症しやすい慢性腎臓病と症状がとても似ています。
水をよく飲み頻尿になる
猫の多発性嚢胞腎は、慢性腎臓病と同様に水をよく飲み頻尿になります。徐々に腎機能が低下していくため、体内の老廃物がオシッコと一緒に排出されなくなるので、以前と比べてオシッコの色が薄くなったり、独特な臭いがしなくなったりしていきます。
食欲低下・嘔吐
進行してくると食欲不振・嘔吐に伴う体重減少がみられるようになります。しかし、通常の慢性腎臓病の場合は高齢猫に発症しやすいのに対し、多発性嚢胞腎は多くは3才前後〜10才頃と、比較的若い年齢でも症状が現れるのが特徴です。多発性嚢胞腎の重度の場合は、5〜7才頃で腎機能を失い、命を落としてしまいます。
猫が多発性嚢胞腎になる原因
人の多発性嚢胞腎も遺伝が原因であり、猫の場合もほとんどが遺伝性によるものといわれています。
常染色体優性遺伝が関与しており、母猫・父猫のどちらかが多発性嚢胞腎を引き起こす遺伝子をもっていることが原因といわれています。
親猫どちらかが多発性嚢胞腎の遺伝子を持っていた場合は、子猫に遺伝する確率は50%以上といわれており、はっきりしていない部分もありますが1000匹中に1匹の割合といわれています。
猫が多発性嚢胞腎になったときの治療法
多発性嚢胞腎の初期段階では、腎臓の大きさに変化が現れないため、なかなか早期発見することは難しいです。現段階では猫の多発性嚢胞腎に対する有効な治療法がみつかっておらず、完治することも残念ながらできません。
少しでも長生きできるように、腎臓機能の維持や病気の進行を遅くする対症療法となります。
水を体にとりこませる
猫は腎臓の働きが悪くなるとと体に必要な水分などを再吸収する機能が低下するため、必要以上に体内の水分を失ってしまい、脱水症状をおこしやすくなります。
また、老廃物がオシッコと一緒に排出されなくなるため、ますます腎臓の働きを悪くする悪循環に陥ってしまいます。
そのため、多発性嚢胞腎も腎臓病と同様にできるだけ水を多く飲ませることで、腎臓の働きの低下を補う必要があります。水飲み場の数を増やしたり、食事を水分含有量が多いウェットフードに切り替えてあげたりします。
しかし、状態によってはそれだけではまかなえず、体の中の水分量が不足し、脱水ぎみになっていることもあるので、そういう場合は点滴をする必要があります。
腎臓の負担が少ない腎臓食に切り替える
腎臓の働きを低下させる栄養素の中に、タンパク質やリンがあげられます。これらの栄養素は、猫が生きるために必要でもありますが、多発性嚢胞腎および腎臓病を発症している場合は、余分なリンが腎臓でろ過されず、体内に蓄積していき、タンパク質も腎臓を傷つける物質となります。
腎臓に負担かけないためには、なるべく食事中に含まれているタンパク質やリンを減らす必要があります。
症状に合わせて吐き気止めや造血ホルモン剤の注射をする
水分を補ったり、腎臓に負担をかけない食事に切り替えたりしても、猫の多発性嚢胞腎は徐々に進行してしまうため貧血、嘔吐など様々な症状が現れるようになります。
その場合は、症状に合わせて吐き気止めや造血ホルモン剤の注射をすることがあります。
猫が多発性嚢胞腎にならないための予防策
多発性嚢胞腎の遺伝子を持つ猫と交配させない
猫の多発性嚢胞腎の主な原因は遺伝性であるため、その遺伝子を持っている猫と交配させてしまうと生まれてくる子猫の半数以上が、多発性嚢胞腎を発症してしまいます。
もし生まれた子猫が多発性嚢胞腎を引き起こした場合、兄弟猫や同じ親から生まれた子猫も発症する恐れがあります。そのため、多発性嚢胞腎の遺伝子を持っている猫を交配(繁殖)させないことが大切になってきます。
去勢・避妊手術をすること
猫は犬や人と違い、交尾することでメス猫が排卵をおこす交尾排卵動物なので、交尾すると約100%の確率で妊娠します。多発性嚢胞腎の遺伝を防ぐ目的で、去勢手術および避妊手術をする必要があります。
成長期が終わる生後約6か月から手術をすることが可能になり、その時期になると発情期を迎えてしまうことがあるので、なるべく早めに手術することを勧めます。
多発性嚢胞腎になりやすい猫種
主にペルシャ猫やエキゾチックショートヘア、ヒマラヤンが多発性嚢胞腎の遺伝子があるといわれており、約半数がその遺伝子を持っているという研究発表がありました。
最近では、アメリカンショートヘアやスコティッシュフォールドの猫も、遺伝性の多発性嚢胞腎を発症していることが分かっています。
症状がでておらず初期の場合、一般的な検査では多発性嚢胞腎を診断することは極めて厳しいため、遺伝子検査をすることで、はっきり確定診断をすることができます。
まとめ
猫の多発性嚢胞腎のほとんどが、遺伝による先天的な腎疾患です。そのため、親猫に多発性嚢胞腎の遺伝子を持っている場合は、高い確率で子猫に遺伝するため、病気自体を防ぐためには、繁殖させないことしかありません。
現段階では、猫の多発性嚢胞腎を治す治療法がみつかっておらず、発症年齢が比較的若い傾向にあります。いろいろな研究で、発症しやすい猫種がいくつかあげられていますが、早期発見こそが少しでも寿命を伸ばすことができますので、全ての猫に若い頃から定期的に血液検査などを受けることが、今私たち飼い主が唯一してあげられることだと思います。