猫の糖尿病とは
猫の糖尿病とは、膵臓から分泌される「インスリン」と呼ばれるホルモンの働きが悪くなることで、血液中の糖が過剰になってしまう病気のことをいいます。通常、猫が摂取した食べ物などに含まれる糖分は、分解されてブドウ糖になり、腸管で消化吸収された後に血糖(グルコース)として全身へと行き渡ります。
この時、重要な役割を担っているのがインスリンであり、インスリンの働きによってグルコースは、各細胞へと取り込まれます。インスリンの働きが悪くなると、グルコースを細胞へ取り込むことができず、血液中に多く残ってしまうことで糖濃度が上昇し、体の様々な機能に支障をきたすこととなります。また、猫の糖尿病は以下の2種類に分けられます。
猫の糖尿病①I型糖尿病
I型糖尿病とは、インスリン依存型とも呼ばれ、絶対的なインスリンの不足によって引き起こされます。猫のインスリンを分泌する細胞が壊れてしまうため、インスリン補給が必要となります。
猫の糖尿病②II型糖尿病
II型糖尿病は、インスリン非依存型と呼ばれ、体内で作られるインスリンの量が少ない、インスリンの働きが悪いことなどが原因となって引き起こされます。成人が患う糖尿病の約95%がこのII型とされており、猫においてもこのII型に近いものが多いとされています。
猫の糖尿病の原因
猫の糖尿病の原因は、主に以下の7つです。
猫の糖尿病の原因①早食い
猫の糖尿病の原因として、ご飯を早食いしてしまうことが挙げられます。猫の早食いが習慣化することによって、食事の度にインスリンが大量に分泌される状態が続き、徐々にインスリンの反応が鈍くなることがあります。
猫の糖尿病の原因②肥満
「生活習慣病」と呼ばれることもある糖尿病は、食べすぎ飲みすぎが原因となるイメージがありますよね。やはり猫の場合も、体に合っていない食事を続けたり、運動不足になったりすることで肥満に繋がり、それらが猫の糖尿病のリスクを上昇させる場合もあるようです。
猫の糖尿病の原因③基礎疾患
何らかの基礎疾患が猫の糖尿病を引き起こす原因になる場合もあります。インスリンを作り出す膵臓に起こった炎症はもちろん、甲状腺機能亢進症や腎臓疾患、肝臓疾患などに併発することもあります。
猫の糖尿病の原因④遺伝
猫の糖尿病の原因に、遺伝や特定の品種が関係しているという考えもあるようです。なかでも、バーミーズ、トンキニーズの糖尿病発症率は高いとされており、アビシニアン、ロシアンブルー、ノルウェージャンフォレストキャットなども挙げられます。
猫の糖尿病の原因⑤加齢
猫の糖尿病は、どの年齢でも起こりうる病気でもありますが、やはり7歳以上になると発症率が高くなります。加齢とともに基礎代謝の低下や、運動量の低下などが原因となるようです。
猫の糖尿病の原因⑥投薬
何らかの疾患に対して用いた薬が猫の糖尿病の原因となる可能性もあります。ホルモン剤の中には血糖値を上昇させるものもあり、膵臓に負担がかかる場合もあります。インスリンの働きに影響を与える薬もありますので、事前にしっかり獣医師と相談しておく必要があります。
猫の糖尿病の原因⑦体質
猫が糖尿病を発症しやすい原因として、猫本来の体質が関係していると考えられています。と言うのも、猫は長期間獲物が捕獲できなかった場合に、低血糖を引き起こさないために「インスリン抵抗性」が高い体質を有しています。猫が野生で生き抜くために進化したこの体質が、食事に困らないイエネコとしての生活では裏目に出てしまうようです。
猫の糖尿病の原因⑧ストレス
猫はストレスがかかると血糖値が上昇します。ストレスがかかるとストレスに対応するために体内でカテコールアミンが分泌され、インシュリンの分泌や活動が抑制されます。その結果、血糖値が上がります。
猫の糖尿病の症状
猫の糖尿病の症状は主に以下の7つです。
猫の糖尿病の症状①水をよく飲み、頻尿になる
猫が糖尿病になると、細胞に取り込まれなかった糖が血液中に溢れ、結果的に尿に漏れ出します。この尿中の糖によって摂取した水分が大量に尿として排泄されてしまうため、体内の水分量を補おうと猫の水分摂取量も増加します。
猫の糖尿病の症状②食事量の増加
猫が糖尿病になると血液中の血糖が利用できずエネルギー不足が起こります。、その状態が続くと体内で飢餓状態が起こります。そのため体内にエネルギーを補給しようとするため、食欲が増加することがあります。突然猫の食欲が増加し、徐々に減退していく場合もあるようです。
猫の糖尿病の症状③体重減少
猫の食事量が通常通り、または増加したのにも関わらず、体重が減少していく場合は注意が必要です。猫の糖尿病が進行し、脱水症状や栄養不足に陥っている可能性があります。
猫の糖尿病の症状⑤元気消失
猫の糖尿病が進行すると、元気がなくなりじっとしている時間が増えます。猫の食欲が減退することも多く、遊びにも興味を持たなくなることも。
猫の糖尿病の症状⑥白内障
猫の糖尿病が進行すると様々な合併症を引き起こす可能性があります。猫の場合、糖尿病が原因となって白内障を発症することは稀だとされていますが、猫の瞳が白く濁るなどの異変に気付いた場合は、早急にかかりつけ医を受診しましょう。
猫の糖尿病の症状⑤神経障害
猫の糖尿病の末期症状のひとつに神経障害があります。猫が足を引きずる、ふらつくなどの歩行障害が現れることがあり、なかでもかかとを床にベタッとつけて歩く「かかと歩き」が特異的症状として挙げられます。
猫の糖尿病の症状⑥糖尿病性ケトアシドーシス
猫の糖尿病は、上記でお話ししたような白内障や、神経障害の他にも腎疾患、肝疾患など重篤な合併症を引き起こす可能性があります。それらの合併症の中でも、最も深刻とされるのがこの猫の「糖尿病性ケトアシドーシス」です。猫の体は、インスリン不足に陥り、細胞内のエネルギーが不足すると、脂肪を分解することでエネルギー補給を行おうとします。その時に生成される「ケトン体」と呼ばれる物質が血液中に異常増加すると、様々な器官に害を及ぼします。
この猫の糖尿病性ケトアシドーシスを発症すると嘔吐下痢、食欲不振などの症状が現れ、昏睡状態に陥ってしまう可能性もあります。また、重篤化すると猫の体から除光液(アセトン臭)のような臭いがすることが特徴です。この猫の糖尿病性ケトアシドーシスを発症した場合、迅速に集中治療を施す必要があります。
猫が糖尿病を患った場合でも、糖尿病と上手く付き合っていくことができれば寿命を全うすることも不可能ではありません。しかし、猫の糖尿病の初期段階では、食欲もあり元気に見えることも多いため、発覚が遅れる場合も少なくありません。猫の糖尿病は、発症したからと言って必ずしも急激に進行するという病気ではありませんが、重篤な合併症を引き起こす可能性も十分にありますので、初期症状を見逃さないよう注意したいですね。
猫の糖尿病の治療法
残念ながら、猫の糖尿病を完治させる治療法は今のところ存在しないようです。稀に治療が必要なくなる場合もあるようですが、殆どの場合は一生涯、治療が必要となります。猫の糖尿病の治療法は、主に以下の3つです。
猫の糖尿病の治療法①インスリン投与
現在では、動物用のインスリンも販売されており、1日2回、猫の食事中または食後に専用の注射器でインスリンを皮下注射します。
猫が糖尿病を患った場合、血糖値をコントロールすることが重要になります。そのためにインスリンの投与が行われます。人が糖尿病を患った場合も、自宅でインスリン投与を行うことがありますが、猫の場合も同様に、獣医師の指示通りに在宅での医療ケアが必要になります。猫に投与するインスリンは、少な過ぎても多過ぎてもいけません。必ず獣医師の指示に従って行いましょう。
インスリンの投与自体は、さほど難しいものではありませんが「インスリンが効かない」「効きすぎて低血糖を起こす」など、様々な問題と直面することもあります。猫は人と違い、食事時間や食事量もきっちりと決まっているわけではないため、インスリンの投与量や、投与間隔などの調整が非常に難しいのです。
猫の糖尿病の治療を始める前に、投与量や間隔などを見極めるため、数日間動物病院へ入院させるという方法もあるようですが、飼い主さんと離れ、慣れない場所で過ごすことに対してストレスを感じる猫は多く、正確なデータが得られない場合も多いようです。入院中と退院後の環境の変化や運動量の違いなどから、猫の体にあったインスリン量を見極めるために1年以上を要したという飼い主さんもいらっしゃるようですので、獣医師と相談しながら時間を掛けてインスリンと付き合っていく必要がありそうですね。
また、定期的に血液検査を行い血糖値の確認を行います。血糖値を確認し、高血糖ならばインスリンを増やし、血糖値が低ければインスリンを減らすなどの調節が必要になります。1度決定したインスリンの量でずっと治療を行うのではなく、微調整が必要になることがほとんどです。
ちなみに猫のインスリン治療にかかる費用は、薬剤の量や回数によっても異なりますので一概には言えませんが、インスリン薬剤そのものは、1ヶ月に3,000円~8,000円程度であることが多いようです。動物病院によって金額が大きく異なる場合もあるようなので、事前にしっかりと相談しておきましょう。
猫の糖尿病の治療法②食事療法
猫の糖尿病の治療法として、インスリン投与と同時に重要になってくるのが食事療法です。現在では、動物病院だけではなくペットショップや、通販などで購入することができる猫用の療養食も増えてきています。糖尿病の猫に必要なのは、高たんぱくな食事とされており、糖尿病用の処方食や、高たんぱくなグレインフリーのプレミアムフードなどを選ぶ飼い主さんが多いようです。基本的には、糖尿病用の処方食を使います。
ただし、猫の糖尿病の食事療法を行う時、併発している他の病気がある場合は、注意しなければなりません。例えば、腎臓病の食事療法はたんぱく質の制限が基本であり、糖尿病においての食事療法と正反対です。愛猫が糖尿病を患った場合は、必ず獣医師と相談の上で、食事内容を決めるようにしましょう。ちなみに、猫の糖尿病の食事療法に必要な費用は、フードの種類や量によっても異なりますが1ヶ月あたり、3,500円~7,000円程度のようです。
猫の糖尿病の治療法③ダイエット
猫の糖尿病の原因が肥満であると考えられる場合には、上記のインスリン投与や食事療法と並行して体重コントロールも視野に入れて行われます。と言っても、人と違いダイエットの意思を持たない猫の体重コントロールは非常に難しいものでもあります。積極的に遊びに誘い、運動量を増やすなど、日々の積み重ねが大切です。
猫の糖尿病は、インスリン投与や食事療法などを正しく行うことで健康な猫と同じように生活し、寿命を全うすることもできる病気です。しかし、インスリン投与には低血糖を起こすリスクも伴うため、猫を置いて出掛けることが難しいことや、療養食を食べてくれない、治療費が掛かるなどの問題もあります。糖尿病は放置すれば症状は悪化する一方であり、「治療をしない」という選択をしないためにも猫を迎える時は、万が一の時に備えた医療保険への加入や、付き添える人は居るのかをしっかりと考えておきたいですね。
猫の糖尿病の予防法
猫の糖尿病の予防法①良質な食事
これは、猫の糖尿病に限らず言えることでもありますが、猫は本来「完全肉食動物」であり、高たんぱく質な食事を必要とします。炭水化物が多めのフードや合成着色用などの添加物が多く含まれているフードは注意しましょう。
猫の糖尿病の予防法②食事の回数
猫の糖尿病の原因となる早食い、一気食いを防ぐためにも猫の1回の食事量を減らし、食事の回数を増やします。1日の総給餌量を3回~4回に分けて与えてみましょう。それでも猫が一気に食べてしまう場合は、一気食い防止ボウルなどを利用するのもいいかもしれません。
猫の糖尿病の予防法③適度な運動
完全室内飼いの猫の場合、どうしても運動不足になってしまいがちです。キャットタワーはもちろん、棚やウォールシェルフなどを活用して猫に上下運動を促すのもいいかもしれませんね。おもちゃも電動おもちゃを取り入れるなどして、猫に刺激を与えてあげると遊びへの意欲が向上します。
適正体重以上の猫の方が糖尿病のリスクが高くなる傾向にありますので、肥満にならないように注意してください。
猫の糖尿病の予防法④定期的な健康診断
7歳までは1年に1度、7歳を過ぎると半年に1度、健康診断を受けましょう。ここで重要なのが信頼できるかかりつけ医を見つけることです。猫の健康診断はどこの動物病院でも受けることができますが、その都度違う動物病院へ行くと、些細な変化に気付いてもらうことが難しくなります。また、愛猫のことを一番よく知ることができるのは飼い主さんです。毎日自宅でも行えるボディチェックや食事量、オシッコやウンチの状態チェックも行い、異変にいち早く気付けるよう心がけたいですね。
まとめ
猫の糖尿病について 気をつけたい食事や治療法・予防法についてご紹介しました。糖尿病というと、人にとっても身近な病気であり、生活習慣が深く関わっているイメージがありますよね。しかし、どんなに日頃から愛猫の健康に気を配っていても、猫が糖尿病を患ってしまうこともあります。一生涯治療が必要だと言われると、とても不安になってしまうかもしれませんが、糖尿病を患いながらも長寿を全うした猫も居るようですので、まずは信頼できる獣医師に納得がいくまで治療法について話し合うことが大切ですね。