猫のてんかんはどんな病気?
「てんかん」とは何らかの原因により突然、脳にある神経細胞の多くが興奮状態になり、異常な電気信号が出てしまうことで体のコントロールが不能に陥り、発作的に全身性の痙攣や意識障害などを起こす脳の病気です。
てんかんは犬では約100頭に1頭の割合で発症するのに対し、猫はおよそ100頭に1頭以下(約1〜5%)であるといわれています。猫のてんかんは「症候性てんかん」と「特発性てんかん」に大きく分けることができます。
てんかんによる発作により猫が高い所から落ちてしまったりなど場合によっては命に関わることがあります。また、発作中に猫が体をバタバタさせ暴れて床に激しく打ち付けたり、頭を家具の角にぶつけてしまうこともあります。
猫のてんかんの症状
猫のてんかんでも現れてくる症状は様々で、脳のどこの部分が異常な興奮状態を起こしているかによって変わってきます。
てんかんによる発作の症状は一部分の筋肉の痙攣やひきつけ(部分発作)、あるいは全身的に起こる大きな痙攣(全般発作)の2つに分けることができます。
全般発作の症状
大脳の広い範囲で異常な興奮状態が起こることで発作が発生します。体全身に起こる大きな痙攣の場合は猫の意識がないことが多く、突然猫が気を失って倒れ体を反らすように硬直し、四肢がピーンと突っ張り激しく体をバタつかせます。
また口をクチャクチャさせてヨダレを垂らしたり、失禁などすることもあります。
基本的に全身性のてんかんによる発作は2〜3分程度でおさまり、その後何もなかったかのようにケロッと元に戻ったり、あるいは元の状態に戻るまで時間がかかることもあります。
てんかんによる発作の頻度が多くなると一回の発作時間が長く続いたり、短い間隔で何回も発作を起こしたりと重責発作となる恐れがあります。猫の脳に大きなダメージを与えてしまうため重度の後遺症を残してしまったり、命を落とすこともあるため直ちに発作をとめる対処が必要です。
部分発作(焦点性発作)の症状
全身性の発作と比べ、部分発作は大脳のある一部だけに起こるため、その部分と関係する体の一部に発作が発生します。猫の片足だけピーンと突っ張ったり、体の一部だけがビクビクしたりします。
また猫の意識に関連する脳の部分に起こると猫の顔面がピクピクと痙攣したり、口から大量のヨダレがでる、飼い主さんが名前を呼びかけても反応がなく、瞳孔が大きく開いた状態になることがあります。
【閲覧注意】猫がてんかん発作を起こしている動画
猫のてんかんは突然発作が起きるため、ショッキングな映像が流れるかと思いますので気分が悪くなってしまったり、衝撃的な映像が苦手な方は控えてください。
この猫のてんかん動画は4才3ヶ月の三毛猫のてんかんによる痙攣発作を起こしている動画です。
猫がてんかん発作を起こしたときの対処
- 無理に猫を抑えたりしない
- タオルや毛布などに猫を包み、安全確保してあげる
- 安全な場所へ避難させる
- 嘔吐物が喉に詰まらせないように配慮する
- できれば記録として動画撮影を
てんかんによる発作は突然起きるので、驚いて「何とかしなきゃ」と焦ってしまうかと思います。
特に全身性てんかんの場合は猫の意識がなくなってしまうため、無理に押さえつけたり大きな声で呼びかけても発作がおさまることはありません。逆に刺激となり発作を誘発してしまったり、手を噛まれるなど危険です。
キャットタワーの上や階段などの高い所で猫が発作を起こした場合は転落する恐れがあるためタオルや毛布などで猫を優しく包み、安全な場所へゆっくり下に下ろしてください。
また猫が発作を起こしたときに突然走り出したり暴れてしまうことがあります。猫が暴れて家具などに頭をぶつけたり、床に激しく打ち付けて怪我しないように配慮する必要があります。
猫がてんかんによる発作を起こした場合、それを止めることは残念ながらできません。自然とおさまるまで見守ってあげたり、怪我しないように配慮するとともに、その時のてんかんの様子をメモしておくといいです。
できれば猫が、てんかんを起こしている時の動画をスマートフォンなどで撮影すると、獣医師に伝わりやすく分かりやすいです。
猫のてんかんの原因
症候性てんかんの原因
「症候性てんかん」は脳の外傷や脳腫瘍、脳炎など何らかの脳による損傷が引き金となって発生するてんかんの事を指します。猫のほとんどが症候性てんかんが原因といわれており、様々な病気が出てくる7歳以上の高齢猫に多くみられます。
脳疾患によって発作が誘発して起こるので、完治は難しく状態によっては頻回にてんかんが起こる可能性があります。MRIなどの検査にて猫の脳に異常が見られた場合は症候性てんかんの疑いがあると考えられます。
また内科的の疾患や猫伝染性腹膜炎などによるウイルス感染が原因で発作を起こすこともあり、てんかんによる発作以外に様々な症状が見られたり、容態が安定していてもてんかん発作を起こすこともあります。
特発性てんかんの原因
何らかの病変が原因で猫がてんかんを起こす症候性てんかんと違い、「脳腫瘍など明らかな病変がないのにも関わらずてんかんが起きることを「特発性てんかん」と呼びます。
特発性てんかんは原因が不明で色々な検査をおこなったとしてもハッキリとした異常がみられず、遺伝的な要因も考えられます。3歳になるまでの間つまり比較的若い猫に発症する傾向があり、天気や音、光、環境の変化などによるストレスが引き金で突然猫がてんかん発作を起こすこともあります。
症候性てんかんと比べて特発性てんかんは主にてんかん発作だけで、それ以外の麻痺などの神経症状は見られません。
てんかん以外で発作を起こす病気
- 低血糖
- 肝性脳症
- 尿毒症
- 心臓病
- 中毒など
猫が発作を起こす原因のほとんどがてんかんですが、てんかん以外にも低血糖や肝性脳症、末期の腎不全による尿毒症のほか、不整脈や心筋症などの心疾患というように脳以外の病気により発作が起きることがあります。
また鉛や農薬、殺虫剤などによる中毒が原因で猫が発作を起こしてしまうこともあるため十分な注意が必要です。
このように猫のてんかんは原因によって発作の頻度がまちまちで、毎日起きることもあれば月1回や年に1回ということもあります。
発作の頻度が少ないと一見治ったと思いがちですが、いつ、どんな時に発作が起きるのか分からないため常に気をつける必要があります。てんかんは軽い発作ですが10分以上発作が長く続いたり、何回も立て続けに発作が起きる際は注意です。
猫のてんかんは何回も発作が起きてしまうと脳が損傷を受けてしまい、更に発作が起きやすくなってしまいます。発作の頻度が増え病状が悪化してくると治療が困難になるため、すぐに動物病院へ連れてきてください。
猫のてんかんの治療法
てんかん薬を与える
猫のてんかんはハッキリとした原因が分かっていない場合は発作を防ぐことが難しいことがあります。そのため猫のてんかんの治療は基本的に発作の頻度を減らしたり、発作が起きても重症化しないように「抗てんかん薬」を飲ませます。
飲ませたことで発作が全く起きない猫もいますが、抗てんかん薬はあくまでも発作を抑える目的で使用し、完治させる薬ではないのです。そのため自己判断で勝手に抗てんかん薬をやめると再び発作が起きやすくなってしまうため、ほとんどの場合は一生飲み続ける必要があります。
どの薬にも副作用があるように抗てんかん薬も副作用が起きることがあります。ですが抗てんかん薬の種類や容量、服用期間、猫の体質などによって多少異なってくるため強く副作用が生じることもあれば、全く現れないこともあります。
抗てんかん薬の主な副作用は以下にまとめてみました。
- 薬の代謝により肝臓に負担がかかる
- 逆に食欲減退や元気がなくなる
- 嘔吐下痢
- 体がふらついたり、ボーっとする
詳しい副作用については以前私が抗てんかん薬の副作用について紹介したことがあり、気になる方はそちらの記事も一緒に読んでいただけたら嬉しいです。
薬を飲ませることで、てんかんによる発作を防いだり症状を軽減することができ、うまく薬のコントロールができれば一般的な猫の寿命まで生涯を過ごすこともできます。基本的に抗てんかん薬は一生飲み続ける必要があり、長期に渡っての投与による副作用の不安や状態によって薬の容量も調節することもあります。
猫の状態によっては抗てんかん薬だけではなく、猫のてんかんに効果があるサプリメントを併用することもあります。
てんかんの治療費
猫がもしてんかんになった場合、どれくらい治療費がかかるか気になると思います。てんかんを診断する検査はできませんが、てんかん以外の病気の疑いがあるかどうか調べることがあります。
脳内疾患の検査はMRI検査や脳脊髄液検査などがあります。特殊な検査となりますので動物病院によりますが検査センターにて検査を依頼したり、大学病院ではないと検査できないこともあります。
ちなみに私が勤務している動物病院も特殊な検査機械はありませんので、飼い主さんが撮った動画やてんかんの度合いなどにより、治療するかどうか判断していきます。
もし抗てんかん薬を飲ませることになった場合、薬の値段は1ヶ月でおよそ3000円〜5000円、6000円程かかると思います。ですが一生薬を飲み続ける必要があるため、薬による効果やコントロールできているかどうか定期的に血液検査をおこない、お薬がしっかり効いているのかをみる血中濃度がどの程度なのか調べる必要があります。この血液検査も特殊な検査ですので10000円かかる場合があります。
そのため数万円で済むこともあればMRI検査など特殊な検査をした場合は10万円以上もかかったケースもあるそうです。
ペット保険に加入していれば治療費の負担がある程度軽減できますがどこまで検査をするのか、治療内容も含めて獣医師とじっくり相談することが大切だと思います。
まとめ
猫のてんかんは発症率は低いですが何らかの脳の損傷やキッカケで突然てんかんが起きることも考えられます。
体の一部だけがピクピク痙攣することもあれば、硬直して激しく四肢をバタバタさせるなど症状が様々で、ほとんどの方が突然の発作を目の当たりにしてパニックになると思います。
つい発作を何とか止めようと押さえつけてしまうと返って逆に刺激となり発作を誘発したり、場合によっては猫の意識が完全になく無意識で手を噛まれてしまう恐れがあり危ないです。
辛いかもしれませんが、そっと自然と発作が落ち着くのを見守ることも選択肢の1つです。もし猫が高いところにいる場合は落下防止のためにそっと下に下ろしてあげたり、床や家具に激しくぶつからないように毛布などで体を包んであげるなど配慮させてあげる必要があります。
抗てんかん薬を飲ませてあげることで発作の予防や症状を軽減することができ、平均的な寿命まで生きることができます。猫によってはうまくコントロールできることもあれば、薬を飲んでいても発作が起きたり、副作用が生じることもあります。
場合によっては薬の容量を調節する必要もありますので、猫の容態に変化があるのかどうか日々気にかけてください。またどのように治療するのか獣医師と相談しながら、その子に合った治療プランを考えていくことも大切だと思います。
30代 女性 ひなた
うちの猫ちゃんがてんかん発作を初めて起こしたときには、死んでしまうのかと思い、すごく焦りました。しばらくすると、起き上がりスタスタと歩きだすので、またまた驚きました。
獣医師に相談をしますと、それはてんかんの発作ではないかと言われて、納得しました。
検査を受けたあとに、やはりてんかんのようだということになり治療のために飲み薬を頂いて一定期間飲ませ続けました。すると、発作の回数も減っていき、老猫になったいまは、ほとんどてんかん発作は起こりません。安定した生活が送れて治療ってありがたいなと感じています。