猫の門脈シャントとは
- 門脈シャントとは毒素が猫の全身に巡ってしまう疾患
- 「シャント」は本来不要である異常な血管の事
- 猫が門脈シャントになる確率は2%
猫の門脈シャントとは
門脈シャント(門脈体循環シャント)とは本来、肝臓で解毒されるはずのアンモニア等の毒素が、門脈と全身の静脈を繋ぐ余分な血管(シャント)によって全身を巡ってしまう疾患です。
食事で摂取したたんぱく質が体内で代謝されると同時に、アンモニアや短鎖脂肪酸等の毒素が作りだされます。本来、これらの毒素は腸管から吸収され、門脈を通って肝臓に運ばれ、肝臓内で無毒化されます。
門脈シャントは何らかの原因で門脈が枝分かれしてしまっている場合、毒素を持ったままの血液が、本来通るべき肝臓を通らずに体循環と合流してしまう事で、毒素が全身を巡り様々な症状を引き起こします。
この門脈シャントを猫が発症する確率は2%とされており、人や犬に比べると低い確率になっています。その為、一般的にはあまり知られていない疾患でもあります。また、門脈シャントは、以下の2種類に分類されます。
肝外性シャント
本来不要である異常な血管「シャント」が肝臓の外にあるタイプを「肝外性シャント」と呼びます。猫の場合、この肝外性シャントを発症するケースが多いとされています。基本的にシャントは1本であるとされていますが、稀に複数本発症した場合、それを「多発性シャント」と呼び。外科的治療も困難であるとされています。
肝内性シャント
本来不要である異常な血管「シャント」が、肝臓の中にあるタイプを肝内性シャントと呼びます。肝内性シャントは、肝外性シャントと比べて外科手術が難しいと言われています。
猫が門脈シャントになった時の症状
門脈シャントは、全身に毒素が巡ってしまう為、様々な合併症を引き起こす可能性があります。その為、症状は多岐に渡り、特異的な症状が少ない為、診断が難しいとされています。
門脈シャントの症状
- 肝性脳症による異常行動
- 攻撃行動
- 流涎
- 食欲不振
- 嘔吐下痢
- 盲目
- てんかん
- 沈鬱
- 多飲多尿
- 血尿
- 呼吸困難等の呼吸器障害
- 発育不全
- お腹が膨らむ
主にこれら門脈シャントの症状は、以下の状態に陥る事によって生じるとされています。
猫の門脈シャントから陥る病気『高アンモニア血症』
まず、猫が門脈シャントになった時、アンモニアを尿素へと変換し、無毒化するという機能が低下する事によって血液中のアンモニア濃度が異常に高まってしまう「高アンモニア血症」に陥ります。また、アンモニアが脳にまで達する事で「肝性脳症」を引き起こします。
猫の門脈シャントから陥る病気『高尿酸血症』
窒素代謝異常により血液中の尿酸濃度が異常に高まる「高尿酸血症」を引き起こす事で、尿酸アンモニウムの結晶や結石が見られる場合もあります。
猫の門脈シャントから陥る病気『肝性脳症』
- 食欲不振
- 沈鬱
- 全身のけいれん等
- 一時的な盲目
- ボーっとする
- ふらつく
- ヨダレが増える等の症状
なかでも、門脈シャントから高アンモニア血症に陥る事で発症する「肝性脳症」による症状によって、飼い主さんが異変に気付くケースが多いようです。
肝性脳症の症状は、食欲不振や沈鬱、全身のけいれん等様々ですが、一時的な盲目によって物にぶつかる、歩行が困難になる等の症状が出る場合もあります。
特に食後1時間~2時間の間は、アンモニア濃度が上昇する為、ボーっとする、ふらつく、ヨダレが増える等の症状が強く出る事が確認されています。
猫が門脈シャントになった時の治療法
猫が門脈シャントになった時の治療法についてご紹介します。
門脈シャントの外科的治療
主に、門脈シャントを完治させる為の手段は外科手術になります。開腹手術によって、シャントの結紮を行います。門脈シャントが発生した場所や、その他腎機能の状態によってもその方法は異なりますが、主に以下のような方法が用いられます。
シャントの結紮
開腹手術でシャント部分を結紮する方法です。この治療法は主に肝外性シャントの場合に用いられ、シャントの部位によっては、完全結紮が難しく、複数回に渡って手術を要する場合があるとされています。
アメロイドコンストリクター
アメロイドコンストリクター(血管閉鎖ディバイス)と呼ばれる装置を用いて血管を徐々にしめていくという方法です。この方法も主に肝外性シャントの場合に用いられる術法です。
経静脈的コイル塞栓術
肝内性シャントの場合、肝外性シャントよりも血管へのアプローチが難しく、上記の方法では治療が困難とされていました。しかし、肝内性シャントにも対応できる術法として近年用いられているのが「経静脈的コイル塞栓術」です。カテーテルによって塞栓用コイルを血管内へ入れ、シャント血管を塞ぎます。
門脈シャントの対症療法
門脈シャントの部位や、その他の状態によって外科治療が困難とされる場合には、対症療法が用いられます。対症療法とは、主となる疾患に対してではなく、その他の主な症状を緩和させる為に行われる治療の事を言います。姑息的療法とも呼ばれ、その場その場で表面的な症状を軽減させる為に行われます。
門脈シャントではなく基礎疾患の治療と予後
- 門脈シャント外科治療後の予後が良~優良である猫:59%
- 門脈シャント外科治療後の予後が良~優良である犬:94%
他の何らかの基礎疾患によって、門脈シャントが生じている場合は、まず原因となっている基礎疾患の治療が行われます。
門脈シャントは、内科的治療による症状のコントロールは難しいとされている為、基本的に根治の為には外科的治療が必要となります。しかし、門脈シャント外科治療後の予後が良~優良である猫は59%とされています。
犬の場合は予後が良~優良である場合が94%とされている事を考えると、猫の外科治療の予後は不良と言えます。また、その原因は不明とされています。状態により治療法は異なりますので、獣医師の説明をしっかりと聞きましょう。
猫が門脈シャントになる原因
猫が門脈シャントになる原因は、先天性と後天性の2種類に分けられます。
門脈シャントになる原因が先天性の場合
- 門脈シャントが奇形によるもの
- 門脈シャントは1歳未満の猫がなりやすい
- ヒマラヤン、ペルシャが門脈シャントの好発種
先天性門脈シャントは、遺伝による奇形によって生じると考えられています。先天性遺伝の門脈シャントには「左胃~後大静脈シャント」「門脈~後大静脈シャント」が多いとされており、1歳未満での発症が多く見られます。特にヒマラヤンや、ペルシャ等の品種にみられます。
後天性の門脈シャント
後天性のシャントの場合、門脈圧亢進症や門脈高血圧による肝炎や、肝硬変等が原因となり発症する事が多いと考えられています。後天性の多くが、胃腸と肝臓を繋ぐ門脈の血圧が、何らかの原因で異常に高まってしまう事で、シャントが形成されます。
猫が門脈シャントにならないための予防法
猫の門脈シャントは、予防が難しい病気です。なかには、門脈シャントと診断されない場合もあると言われている程です。しかし、動物医療の発達より、門脈シャントを早期に診断、治療する事ができる動物病院も増えてきています。
門脈シャントの診断ができる病院の特徴
愛猫の様子がおかしいが、かかりつけの動物病院では原因を特定できないという場合は、門脈シャントの診断ができる門脈造影等を行っている設備の整った病院に紹介状を書いてもらいましょう。
予防が難しい門脈シャントは、早期発見、早期治療を要します。愛猫の異変に気付く事ができるのは、飼い主さんです。定期的な健康診断や健康チェックで早期発見を心がけましょう。
猫の門脈シャントの治療ができる病院
門脈シャントの診断には、主に以下の方法が用いられます。
- 門脈造影(造影剤を使ったCT検査)
- 超音波検査
- 肝生検
- シンチグラフ
- X線検査
- 血液検査
まず、猫の門脈シャントを疑う場合にかかる動物病院選びの目安として、門脈造影等と呼ばれるCT検査を行っているかどうかを確認しましょう。多くの動物病院は、院内設備をホームページ等に掲載されています。
また、大学病院等は、紹介状がないと受診できない場合も多いので、かかりつけ医に門脈シャントを診断、治療できる病院を聞いてみましょう。
猫の門脈シャントは、発症率も低い為、門脈シャントの専門医を見つける事は難しいかもしれません。ただ、猫の血管系外科手術を多く行われている獣医さんは、全国にいらっしゃいます。
猫の門脈シャントについて、外科治療の内容をブログで紹介されている獣医さんも見かけた事がありますので、直接問い合わせてみるのもいいかもしれません。
猫の門脈シャントの治療費
- 一度目:15万円~20万円以上
- 二度目:10万円以上
- 門脈シャントの治療全て合せると50万円以上
猫が門脈シャントになってしまった時の治療費については、治療を受ける動物病院や、用いる術法等によって様々です。しかし、シャントの部位によっては複数回に分けて手術を行う場合も多い事から、治療費は決して安いものではありません。
実際に、猫の門脈シャント手術を経験した飼い主さん方のお話しをまとめると、一度目の手術費用に15万円~20万円以上、二度目の手術費用に10万円以上掛かったという声が多くありました。その他、麻酔や点滴、入院費用等が加算され、最終的に50万円以上になる場合が多いようです。
愛猫が万が一、門脈シャントを患ってしまった場合の事を考えると、ペット保険への加入や貯金等、何らかの対策をしておく必要がありますね。
まとめ
- 門脈シャントとは毒素が猫の全身に巡ってしまう疾患
- 「シャント」は本来不要である異常な血管の事
- 猫が門脈シャントになる確率は2%
- 猫の門脈シャントから陥る病気『高アンモニア血症』『高尿酸血症』『肝性脳症』
- 治療の方法:結紮(けっさつ)、血管を徐々にしめていく、カテーテル
- 門脈シャントの原因:門脈シャントが奇形によるもの、1歳未満の猫、ヒマラヤン、ペルシャが好発種
- 門脈シャントは予防が難しい病気
- 門脈シャントの診察(門脈造影のCT検査)ができる病院で検査をする
- 治療費は50万円以上はかかる
- 高額医療に備えてペット保険に加入する事が大切
猫の門脈シャントについてご紹介しました。
猫の門脈シャントは、他の疾患と比べても発症率が低く、まだまだ認知度の低い疾患でもあります。特異的な症状が少ない為、獣医師でも診断が難しいとされる門脈シャントですが、飼い主さんがしっかりと知識を蓄えておく事で、愛猫の異変にいち早く気付く事ができるかもしれません。
また、門脈シャントなどの治療はお金もかかりますので門脈シャントなどの高額医療に備えて貯蓄や保険など対策を取る事も大切です。
40代 女性 しゅーる
30代 女性 しの
予防法がないというのも不安です。
そして、治療も高額になるので、経済的にも大変ですが、猫ちゃんは、家族ですから助けてあげたいですよね。
治療は大学病院やもしくは、血液内科の勉強をよくしている獣医さんを調べて連れていきましょう。
少しでも、予後が楽に暮らせるように考えてあげたいですね。
30代 女性 はなこ
しかも、高アンモニア血症にもなり命が危なかったのです。
わたしは、その時には門脈シャントを知らなかったのでどんな病気かを獣医師によく説明を受けて、勉強しました。とても、怖い病気だったのでどうなってしまうのだろうと心配しました。治療は長くかかりましたし、里親探しに時間がかかりましたが、友人が飼ってくれることになり、それからは、だんだん元気になって安心したことを思い出します。
高齢になった今でも、元気に楽しく過ごしているのだそうです。