人にも感染する『猫ひっかき病』症状や予防法を解説 子どもや高齢者には危険な場合も

人にも感染する『猫ひっかき病』症状や予防法を解説 子どもや高齢者には危険な場合も

「猫ひっかき病」は、猫にひっかかれたり噛まれたりしたときに起こる感染症です。原因菌が、猫の爪や唾液を通して人に感染するのです。菌を保有していても、猫は健康である場合がほとんどなので注意が必要です。この記事では、猫ひっかき病の症状や予防法についてお伝えします。

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記事の監修

麻布大学獣医学部獣医学科卒業後、神奈川県内の動物病院にて勤務。獣医師の電話相談窓口やペットショップの巡回を経て、横浜市に自身の動物病院を開院。開院後、ASC永田の皮膚科塾を修了。皮膚科や小児科、産科分野に興味があり、日々の診療で力を入れさせていただいています。

「猫ひっかき病」という病気

猫に引っかかれた手

猫ひっかき病は、バルトネラ・ヘンセラという細菌による人獣共通感染症です。

保菌猫に引っかかれたり噛まれたりすることで、傷口から体内に細菌が侵入し感染します。猫の保菌率はおよそ2割程度とされており、感染しても猫自体は無症状のため、菌を持っているかどうかは外見では判断できません。猫同士では主にノミを介して感染が広がります。

この猫ひっかき病と似たような感染症として「パスツレラ症」があります。これは猫の唾液中のパスツレラ菌が原因で、国内にいるほぼすべての猫が保菌しているといわれています。

いずれの感染症も、猫には無症状の細菌が原因です。猫が元気できれいに見えても、油断しないことが大切です。

猫ひっかき病で見られる症状

寝込む男性

人慣れしていない猫と接触したときや、爪が伸びた状態の子猫と遊んでいるときなど、猫の意図にかかわらず爪でひっかかれたり噛まれたりすることがあります。

皮膚を傷つけると、たいてい傷口周辺は赤くなってしまうものです。しかし猫ひっかき病では、ミミズ腫れのような盛り上がりや膿をもったできものが数日続きます。

この皮膚症状から1週間くらい経つと、傷から近いところ(首や脇の下、鼠径部など)のリンパ節が腫れ上がります。圧迫されるような痛みを伴うとともに、38〜39度の発熱や全身の倦怠感、頭痛などが出ることもあります。これらの症状は数週間続くことが多いとされています。

ただしこれらの症状はそれぞれの人の状態によって異なります。疑わしい症状があったら、すぐに受診することをおすすめします。

なお、免疫力の低い子どもや高齢者などは、発熱や倦怠感が重くなるだけでなく、結膜炎や視力低下、めまい、腹痛など非典型的な症状が出ることがありますので、リンパ節の腫れや発熱が見られたら、早めに病院を受診しましょう。

猫ひっかき病の予防法

爪切りされる猫

猫ひっかき病を避けるには、ひっかかれないようにすることが何より重要です。とはいえ、猫を飼っていれば、うっかり爪が伸びていて引っかかれてしまうこともあるでしょう。

そうした避けられないリスクの中でも、ほんの少し気を付けるだけで感染を抑えることが可能です。

猫との接触時の注意点

猫が興奮気味のときや人慣れしていない猫には、直接の接触はできるだけ避けることが安全です。

とはいえ、保定や保護などで触らなくてはいけない場合は、猫が驚いて暴れてしまわないようにゆっくりと接してください。ケガ防止に洗濯ネットやバスタオル(猫の上からかぶせて視界を遮る)、場合によっては皮革グローブなどの利用も効果的です。

特に子猫は、遊んでいないときでも突然じゃれついて足を噛むことがあります。十分に注意してください。

傷の適切な処置法

引っかかれたり噛みつかれたときは、すぐに流水で傷口を洗い流し、消毒剤を使って清潔にしておきましょう。

流水での洗浄は皮膚表面を洗い流すだけで発症を完全には防げませんが、それでも傷口付近の菌や汚れを減らす効果があります。

その後、数日間は傷口の赤みや腫れなどを観察し、傷口の周辺が腫れてきたときや発熱やリンパの腫れなどの症状が見られたら、すぐに医療機関を受診してください。多くは自然に軽快しますが、ケースによっては抗菌薬が使われることもあります。

猫の衛生管理

猫ひっかき病の原因菌は猫同士でノミを介して感染が広がるため、飼い猫のノミ駆除をしっかりやっておくことが重要です。完全室内飼いの猫でも、飼い主がノミのいる場所にいた場合、靴の裏に付着したまま室内に持ち込んでしまうことがあります。

また、爪切りを定期的に実施することで、ひっかき傷のリスクを軽減できます。爪が長く鋭いほど深い傷になりやすく、細菌が体内に侵入する危険性が高まるためです。

リスクが高い人は特に注意

感染症の重症度は、免疫に左右されます。猫ひっかき病も、健康な人では軽症で自然に治ることが多い反面、小さな子どもや高齢者、がん治療中の人や免疫抑制剤を使用している方などは思いがけず重症化する可能性があります。

特に小さなお子さんは、猫との接し方が不適切になりがちなため、猫と接するときには保護者がしっかりと見ていなければいけません。

高リスク者は感染そのものはもちろん、薬の副作用などから治療上の選択肢が限られることもあるため、そもそもの傷を負わないよう細心の注意が必要です。

まとめ

爪が伸びている猫

「人畜共通感染症」と聞くと、とても恐ろしい病気のように感じますが、猫ひっかき病は、予防を心がければリスクを大きく下げられる感染症です。

飼い猫では、ノミの駆除と爪切りをこまめにすることが大事です。また、猫の性格や慣れ具合によって接し方を調整し、機嫌が悪いときは無理に構わずそっとしておくなど、猫の気持ちを尊重することも大切な対策です。

万が一、引っかかれてケガをしてしまった場合、経過をメモしておき、腫れや発熱が見られたらすみやかに病院を受診しましょう。

猫の健康だけでなく、自分自身の健康にも気を配ることが、猫と暮らすうえで大切な心がけのひとつです。

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