つかまえた獲物から、新種のウイルスが

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2024年にフロリダ大学教授の飼い猫Pepperが、米国で初めての「ジェイロンウイルス」(Jeilongvirus)の発見に貢献し、一躍有名になりました。そして今年2025年にも、この猫は新種のウイルスに感染した動物を捕獲し、飼い主に届けるという快挙を成し遂げたのです。
今回発見されたウイルスは、エバーグレーズに生息するトガリネズミの死骸から発見されました。フロリダ州ゲインズビルの自宅近くで狩りをしたPepperは、その獲物を自宅へ持ち帰りました。
飼い主で、フロリダ大学のウイルス学者John Lednickyさんは、これを検査のために研究所に持ち込んだのです。その結果、このトガリネズミはこれまで見たことのないタイプの「オルソレオウイルス」(Orthoreovirus)に感染していることがわかりました。
オルソレオウイルスは、鳥類やヒト、オジロジカ、コウモリなど哺乳類に感染することが知られていますが、そのウイルスの起源はよくわかっていません。Lednickyさんらは、この研究結果を6月10日付「Microbiology Resource Announcements」誌に発表しました。
進化を続けるウイルス

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オルソレオウイルスは人間にも感染し、重症を引き起こすことがあります。大便や唾液を介して拡散し、通常は宿主の呼吸器系または腸管に感染します。
1950年代に初めて発見された当初は、これまで知られている疾患との関連がないと思われたため、「孤児ウイルス」と名付けられました。しかし現在、このウイルスは子どもの脳炎や、髄膜炎、胃腸炎といった症例と深い関連があると見られています。
LednickyさんらはPepperが運んだトガリネズミからウイルスを分離したあと、ゲノムを解析し、それが新しい株であることを発見しました。彼らはこれを「Gainesville shrew mammalian orthoreovirus type 3 strain UF-1」と名付けました。
実はウイルスは常に進化して新しい株を生み出すため、今回の発見はさほど驚くべきことではないのだとか。
「たとえば、2つの異なるウイルスが同時に宿主の細胞に感染し、両者の遺伝子が交換されることで新しい株が生まれることがあります」とLednickyさん。
「探せば新しい株は必ず見つかるものなのです。だから次々と新しいウイルスが発見されていきます」
今後も「猫助手」として活躍が期待される

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オルソレオウイルスの人間や動物への感染頻度、人間に対してどれほどの病気を引き起こすのか、そしてどのような方法で感染を広げるのかなど、依然としてわからないことが数多くあります。
これまで米国のシカ、中国の養殖ミンク、日本のライオンからはほぼ同一の遺伝子を持つオルソレオウイルスが発見されていますが、これは同じメーカーの飼料を介して感染した可能性が高いと考えられています。
今後研究者らは、新たに発見されたこのウイルス株が人間や野生動物に及ぼすであろう脅威を探っていく考えです。今のところ、これが懸念すべきものかどうかはわかっていません。
なお、Pepperにはとくに変わった症状も見られず、元気だということです。今後も獲物をつかまえることで、科学研究への貢献を続けていくことでしょう。