重症筋無力症とは

私たち動物が体を動かすためには、まず脳からの指令が必要です。その指令が神経を介して全身の筋肉に伝わり、私たちは体を思い通りに動かすことができます。
重症筋無力症とは、脳からの指令を伝えるはずの神経の接合部で問題が起こり、指令が正常に筋肉に伝わらなくなってしまう病気です。
脳からの指令が途中で途切れてしまうので、筋肉が脱力したり、思い通りに動かなくなったりします。
どのように発生する?

脳からの指令が全身の筋肉に伝わるまでには、複数の神経が存在し、その隣り合う神経と神経の間には僅かな隙間があります。
この隙間で隣り合う神経へと情報伝達を行っているのが「アセチルコリン」という物質です。そして、神経の両端には「アセチルコリン受容体」と呼ばれるアセチルコリンを受け止めるための「手」のようなものが存在します。
重症筋無力症には、生まれた時から起こる先天性の場合と、年齢を重ねてから発生する後天性の場合があり、先天性の場合には、神経の「手」にあたる「アセチルコリン受容体」が、生まれつき欠損していたり、正常に働かなかったりすることで病気が発生します。
後天性の重症筋無力症は、何かしらの原因で神経の「手」である「アセチルコリン受容体」を壊す「抗体」という物質が突如作られてしまうことで起こります。
「抗体」が作られてしまう理由は、胸腺腫、胆管癌、骨肉腫などの腫瘍が原因のこともありますが、原因不明で突如発生する場合も多いです。
なりやすい猫種や年齢はある?

重症筋無力症の原因の一つとして、遺伝子が関連しているという一説もあり、アビシニアンとソマリは猫種として重症筋無力症が好発する報告があります。
また、発生しやすい年齢は、3歳と10歳に多いという報告があります。
症状

重症筋無力症の猫の症状としては、
- 疲れやすい
- あまり動かない(歩けない)
- 鳴かなくなる
- 吐出:食道に異常が出やすい(巨大食道症)
- 誤嚥性肺炎:吐出や嘔吐が原因で二次的に発生
などが認められます。
対処法

重症筋無力症の治療は、薬物療法を中心として行われます。
「アセチルコリン」の働きを助ける薬や、免疫を抑制して「抗体」をなるべく作らせないようにする薬などを使用します。
また、腫瘍が原因の場合には、腫瘍に対する外科手術や内科的治療を行います。
さらに、嚥下困難などの症状が出ている場合には、誤嚥性肺炎を防ぐためにも「食道チューブ」や「胃ろうチューブ」の設置が行われることもあります。
まとめ

猫の重症筋無力症は比較的稀な病気です。
しかし、合併症である誤嚥性肺炎などを起こすと、一気に状態が悪化することもあるため、早期発見と適切な治療を受けることが大切です。
四肢の軽いふらつきや嘔吐などは、高齢の猫には比較的よく見られる症状ですが、「歳だから」と見過ごさずに、小さな変化でも獣医師に相談してみることが、この病気の早期発見につながるかもしれません。