猫が著者になって論文を発表
猫の「Chester(別名F.D.C. Willard)」は、すぐれた物理学論文の共著者です。といっても、この猫が実際に執筆したわけではありませんが。
1975年、米国ミシガン州立大学のJack Hetherington教授が原子の相互作用に関する論文を「Physical Review Letters」誌に掲載しました。
しかし原稿を提出する直前に、査読をした同僚から「本文では『我々』という表現を使っているが、著者はあなた1人だけではないか」と指摘されたのです。
そこで彼は、文章はそのままにして、著者をもう1人加えるという簡単な修正だけで論文を提出しました。その名が「F.D.C. Willard」なのです。F.D.Cというのは「Felix Domesticus Chester」(つまり「飼い猫Chester」)の略で、Willardはその父猫の名前でした。
大学から招致の通知も
この共著者の正体については、まもなく世間に知れ渡ってしまいました。しかし、人々は大喜びだったのです。
「実は猫だったとわかると、みんな大笑いしましたね」と教授。
その後も、1980年にフランスの科学雑誌に掲載された「固体ヘリウム」に関する論文が、F.D.C. Willardの名で執筆されています。
しかもF.D.C. Willardには、ミシガン州立大学物理学科から「ぜひ教鞭をとってほしい」との招致まであったのです。学部長からの通知には「高名な猫であられるF.D.C. Willard氏が当学で教えてくだされば、世界中の人々が歓喜にわき上がることでしょう」と書かれていました。
猫から発生した静電気が、偉大な発明のきっかけに
また、別の猫「Mačak」は、子供時代のNikola Tesla氏の飼い猫でした。彼はセルビア系アメリカ人の物理学者・発明家で、19世紀から20世紀半ばにかけて、電気やエネルギーに関する偉大な研究を発表しています。
Nikolaはこの猫を溺愛し、「世界で一番すばらしい猫」と呼んでいました。実はMačakは、かわいいペットとしてだけでなく、子供時代のNikolaに電気に関する興味を植え付けた重要な存在だったのです。
「ある夕方、Mačakの背中を撫でていたら、いきなり光の幕のようなものが発生して、家じゅうに響くほどのパチパチという音とともに、わたしの手から火花が飛び出しました。びっくりして声も出ませんでした。母は『火事になるかもしれないから、家の中では猫と遊ばないで』といったほどです」(1939年に12歳の少年に宛てたNikolaの手紙による)
この経験を話すと、父親は「電気のせいだ」と説明しました。Nikolaはこの現象についてその後もずっと考え続けました。
「電気を発生させる自然は、巨大な猫のようなものなのか?だとしたら、だれがその背中を撫でるのか?」と。
彼はこの疑問を数十年も持ち続け、やがて「回転磁場」を考案し、「交流による送電技術」を発明することになったのです。Mačakの背中から発生した電気は、この天才を触発する印象的な経験でした。
出典:
・17 of History's Coolest Cats
・Nikola Tesla's Cat and Other Feline Fascinations