寒い時期に注意したい猫の事故5つ

寒い時期に注意したい猫の事故5つ

冬場は自然と火を使う機会が多くなります。ストーブやこたつ、ホットカーペットなど一歩間違えば火災の原因になってしまいます。今回は、冬場に多い猫の怪我や事故についてご紹介いたします。

SupervisorImage

記事の監修

日本獣医生命科学大学卒業。北海道の大学病院で獣医師として勤務。一般診療をメインに行いながら、大学にて麻酔の研究も並行して行う。「動物と飼い主さんに寄り添った治療」を目標に掲げ、日々診療に励んでいます。

冬場に多い猫の怪我や事故~室内に潜む危険~

毛繕いする猫

夏場は猛烈な暑さから身に危険を感じ、すぐさま安全を確保する行動をとるでしょう。しかし、冬場は寒い地域に住んでいなければ、それほど危機感を感じることはありません。それは、暖房器具を駆使することで室内を暖かく保つことができるからです。そして猫と暮らしていても、冬場は夏ほど危険ではないと思われがちです。

たとえ寒さに弱いイメージが強い猫も、室内で暮らしている分には寒さに震えることはありません。しかし、冬場の室内にも危険が潜んでいます。気をつけないと大惨事になりかねない冬場の猫の怪我や事故についてご紹介いたします。

1.低温火傷

湯たんぽに乗る猫

低温火傷とは通常の火傷とは異なり、40~50℃程度の低温のものに長時間晒されている状況下で起こる火傷のことです。高温のやけどでは、熱いものに触れることで瞬時に熱いと感じます。しかし、低温火傷の場合は温度が低いため、瞬時に熱いとは感じずに自覚がないまま火傷が進行してしまいます。

低い温度による火傷のため、それほど危機意識がないかもしれませんが、ある意味では高温火傷よりも厄介といえるでしょう。この低温火傷は、人間よりも猫のほうがリスクが高い傾向にあります。それには次のような特徴があります。

  • 体温が高い(平熱が38~39℃)
  • 被毛で覆われている

これらの特徴には、熱さを感じにくい条件が揃っています。つまり、猫は体の構造上、暑さに鈍感なのです。そして、知らぬ間に低温火傷を負っていても被毛で覆われているために、飼い主さんが気がつきにくい点も理由の一つです。猫が低温火傷を負う原因は主に次の3つです。

低温火傷の原因となりうるもの

  • ホットカーペット
  • こたつ
  • 湯たんぽ

どれも寒さ対策として重宝されるものであり、とても身近なものです。これらを好む猫は多く、寒さを感じると自らすすんでそれらに近づいて暖を取ることも多くあるでしょう。特にホットカーペットは、程よい温かさからうたた寝をしてしまうことがあります。猫がホットカーペットを好み、よく眠るようであれば、温度を低めに設定するようにしましょう。

こたつも同様です。猫と共有する場合は、温度を上げすぎないように気をつけましょう。湯たんぽは一見、こたつやホットカーペットと比べると危険なものに感じるかもしれません。しかし、最初から低めの温度で作り、厚手のカバーを被せることで安全に使用することができます。飼い主さんの配慮があれば、こたつやホットカーペットよりも低温火傷のリスクが低くなるのです。寒さ対策として活用する場合は、基本的に人間が少々物足りなさを感じる程度が適温だと覚えておきましょう。

低温火傷が疑われる時

万が一低温火傷を負ってしまった場合は、応急処置として患部を濡れタオルや氷嚢なので10分程度冷やし、動物病院へ連れていきましょう。猫の低温火傷は気づきにくいものですが、注意深く観察していると次のようなサインを発していることがあります。

  • しきりに同じ部分を舐める
  • その部位に触れられることを拒む
  • 皮膚に赤みや水膨れが見られる
  • 皮膚がただれる
  • 患部の被毛が禿げている

愛猫が暖を取っている最中や、その後にこれらの行動が見られた場合は要注意です。低温火傷のリスクを下げる行動を取るとともに、日頃からよく観察するようにしましょう。火傷は処置が遅れると跡が残るだけではなく、患部からバイ菌が侵入し感染症を引き起こす恐れがあります。少しでも異変を感じたら迅速に行動しましょう。

2.酸欠

こたつで寛ぐ猫

猫が酸欠を起こしやすい場所はこたつの中です。こたつは温かさを保つために密閉された空間になります。人間が通常の使い方をしている分には、まず酸欠にはならないでしょう。本来こたつとは、下半身を温める役割を担うもので、全身を覆うものではありません。しかし猫は、こたつの中に入って暖を取ります。猫がこたつの中にいる際に、我々が真っ先に気にするのは低温火傷の心配でしょう。だから設定温度を低くしておくことは意外と意識することができます。では、酸欠はどうでしょうか?

日頃、全身でこたつの中に入る習慣のない人間にとって、こたつの密閉性を意識することはないでしょう。こたつは布団によって密閉され、熱が逃げない構造になっています。猫がこたつを使用している場合は、設定温度だけではなく酸欠も意識するようにしてください。酸欠を回避する方法は時々布団をめくることです。若しくは最初から布団の一部をめくっておき、空気の通り道を確保しておきます。

しかし人からすればいくら猫でも、暑さや苦しさを感じたらこたつから出てくるのではないかと思うでしょう。そこが盲点なのです。先のホットカーペットのように、うたた寝から寝入ってしまうことがあります。すると、知らぬ間に酸欠になっていることがあるのです。さらに年をとった猫さんは特に感覚が若い子に比べて鈍ってしまっていることもあるので特に要注意です。だから、飼い主さんが気にかけてあげなければなりません。万が一猫が酸欠になってしまった場合、次のような症状が見られます。

酸欠が疑われるサイン

  • チアノーゼが見られる
  • 開口呼吸をする
  • ヨダレを垂らし呼吸が荒くなる
  • 体に触れると明らかに熱い

チアノーゼとは、舌の色が紫色に変色することです。次いで開口呼吸とは、口を開けて「ハァハァ」と呼吸する行動です。犬はよくこのような行動をとり、多少のヨダレを垂らすことがあります。しかし、猫は通常時にこれらの行動は絶対に見られません。

猫も我々と同様に、基本的には鼻で呼吸をしています。よって、開口呼吸やヨダレを垂らす、呼吸が荒くなるとうのは非常事態なのです。酸欠は進行すると意識を失います。こたつ内で異変を感じたら急いで救出し、動物病院に連絡するようにしてください。

3.脱水

水を飲む猫

夏場は暑さから喉の乾きを感じます。そして、冬場も意外と喉の乾きを感じることはありませんか?その正体は乾燥です。冬場は空気自体も乾いており、室内が乾燥しやすくなっています。そして、そこへ暖房器具などの温風が加わることでさらに乾燥を悪化させてしまいます。

猫は元々乾燥した砂漠地帯で暮らしていた動物です。よって、水分補給をする習慣があまりありません。人間の場合は、喉が渇けば水分を欲し、自ら意識的に補給します。猫の場合は習性上、それが困難なのです。寒い冬は、夏場以上に水を飲まなくなってしまいます。寒い時期の猫に尿路結石や腎臓病が多くなるのはこのためです。

さらに、こたつに入る行為やホットカーペットで暖を取る習慣が、これに拍車をかけてしまいます。冬場も夏場と同様に、積極的に水分を補給できる環境を整えるようにしましょう。それには次のような方法があります。

猫に水分を補給しやすくする方法

  • 水をぬるま湯にする
  • ウォーターサーバーを設置する
  • ウェットフードを活用する
  • 水場を増やす

猫は飲水に対する強いこだわりを持っています。ここではぬるま湯を紹介しましたが、実際には愛猫が好むもので構いません。真の目的は水分補給をしてくれることにあるので、愛猫が飲みやすいと感じる温度にしてあげてください。循環式のウォーターサーバーを活用するのも手段のひとつです。

また、水だけでは困難な場合は、冬場だけ定期的にウェットフードを活用すると水分を補うことができます。これは、通常のドライフードと組み合わせる形で大丈夫です。ただし、ウェットフードは保存が効かないことや歯石が付きやすくなるなどのデメリットもあります。取り入れる際には、使い切ることや歯の点検をすることを意識しておきましょう。

4.熱中症

治療する猫

熱中症というと夏場の印象が強いでしょう。しかし、猫の場合は冬にも熱中症を引き起こす可能性があります。その主なリスクファクターはこたつです。原理は酸欠と同様です。密閉された空間であるとともに、高温多湿とまさに熱中症を起こしやすい環境になります。最悪の場合は死に至ります。次のような症状が見られたら要注意です。

  • パンティング(ハァハァと荒い呼吸をする)
  • けいれんを起こす
  • ぐったりしている
  • 嘔吐するなど

まず、ぐったりした状態で嘔吐している場合は、体を横向きに寝かせます。これは、吐物による窒息を防ぐためです。さらに手で口を開け、吐物がないかを確認します。あれば掻き出すようにしましょう。そして、脇の下や頚部など太い血管が通っている部位を冷やします。応急処置を済ませたらそのまま動物病院へ連れて行きます。

暑い夏場であれば症状から熱中症を疑うことができますが、冬場は認識があまりないために見逃してしまう恐れがあります。よって飼い主さんは、冬でも熱中症を引き起こすことがあることを知っておいてください。そして愛猫の行動を把握し、状況から熱中症を疑うようにしましょう。特に高齢の猫ちゃんは要注意ですので、気を付けましょう。

5.火災

ストーブにあたる猫

空気が乾燥している冬場は、火災のリスクが高くなります。そして、飼育している動物が火災の原因を作ってしまうことも度々報告されています。火災は全てを失うばかりでなく、周囲の家にも影響を及ぼします。大惨事になる前に、猫がいるご家庭では特に火災の恐ろしさを意識しておきましょう。火災を防ぐ方法は次のようなものがあります。

  • 暖房器具はチャイルドロックを活用する
  • 外出時はガスの元栓を切る
  • コンセント類は抜いておく
  • ストーブの周辺に燃えやすい素材のものを置かない

猫は学習能力が優れています。スイッチを押して点火するストーブは、飼い主さんの行動から押せば作動することを覚えてしまいます。すると、中には意図的にスイッチを押してしまう猫もいます。たとえ無意図的であっても、危険は行為には変わりません。チャイルドロック機能があるストーブはチャイルドロックをしておくと安心です。機能がない場合は、火傷の予防も兼ねてストーブ自体を柵で囲うようにしてください。ガスコンロも何かの拍子にスイッチを押してしまうことがあります。外出時にはケージに入れるか元栓を閉めるようにしましょう。

そして、意外な盲点はコンセント類です。これらは静電気によってショートする危険性があります。コード類をガジガジ噛んでしまったり、また、猫がスプレー行動をしてしまった場合にもショートする可能性があります。必要なもの以外は、使用後は速やかにコンセントから離脱させるようにしましょう。飼い主さんが在宅中であっても危険は潜んでいます。ストーブ周辺に燃えやすいものは置かない習慣を徹底してください。火災の大きな原因である乾燥も、加湿器を活用したり、敢えて室内に洗濯物を干すなどの対策を講じておきましょう。

冬場は愛情を込めて「猫バンバン」を!!

車に乗る猫

猫にまつわる冬場の事故は、室内に限ったことではありません。家族である愛猫は室内飼育をしていても、外には外猫の身に危険が及ぶ事故があります。段々と寒さが厳しくなる時期には、猫たちが暖を取れる環境を求め自動車のボンネットに侵入してしまうことがあります。そして、それに気づいてもらえずにエンジンを掛けてしまうことで痛ましい事故が発生します。そこで密かに広がっているのが「猫バンバン」です。

猫バンバンとは、人間が乗車前にボンネットを軽く「バンバン」と叩くことで、猫に意向を伝えます。ボンネットに潜んでいる場合は音に反応して出てくる場合があります。このように事故を未然に防ぐ運動なのです。しかし、ボンネットに侵入している猫が必ずしもすんなり出てくるとは限りません。臆病な猫は、音に驚いて更に奥へと入り込む危険性があります。

野良猫が多い地域にお住まいの方は叩くだけではなく、気になる場合はボンネットを開けて確認してみてください。猫好きとして、猫の命を奪うことは辛い体験になります。冬場は少し時間に余裕を持って行動してみましょう。

安全に冬を乗り越えるためにできること

あたたまる猫

愛猫が安全に冬を乗り越えるためには、飼い主さんの配慮が欠かせません。ここからは、意識して実行してほしい対策をご紹介いたします。

乾燥対策

乾燥のリスクについては先ほど説明した通りです。ただし、乾燥が招く危険には続きがあります。乾燥は火災や脱水を引き起こすだけではなく、風邪の原因にもなります。これは人間のみならず猫にとっても同様です。特に子猫や高齢の猫が暮らすご家庭では風邪をひかせないように気をつけてあげましょう。

猫風邪は人間の風邪とは異なり、自然治癒が困難であることが多いです。食欲がなくなる、頻繁にくしゃみをする、元気がないなどの異変があれば必ず病院に連れていきましょう。そして、これを予防するために乾燥対策は欠かせません。湿度を50~60%程度をキープできるように加湿器を使用したり、水分を含むものを室内に置いておきましょう。

温度差に注意する

猫にとって危険なのは単に寒い環境だけではありません。最も危険なのは激しい温度差がある環境です。冬場になると「ヒートショック」という言葉を耳にするようになるでしょう。これは、暖かい部屋から寒い浴室など温度差が大きい環境に移動した際に血圧が急激に変動し、失神や心筋梗塞を引き起こす現象です。これは猫にも起こり得る現象です。

特に心臓に持病を抱えている猫や、遺伝的に心臓疾患のリスクを抱えている猫は要注意です。猫が快適に過ごせる室温は18~26℃です。子猫や高齢の猫の場合は+2~3℃になります。これは人間の適温とほぼ同じになります。つまり、我々が過ごしやすいと感じる室温にすることで、猫も快適に過ごすことができるということなのです。そして廊下との温度差を少なくするために、少々もったいないですが暖房をつけた状態で時々扉を開けるようにしましょう。

涼しい場所へ移動できるようにする

熱中症や酸欠、脱水を予防するために、暖かい空間から涼しい空間へと避難できるようにしておきましょう。猫は寒さに弱いと思われがちですが、皆がそうではありません。先ほどの適温でも分かるように、完全室内飼育という環境であればそれほど部屋を暖めることに尽力することはないのです。安全な寒さ対策としては、冬仕様の猫ベッドを用意することです。

寝具を好まない場合は、ダンボールでも構いません。窓辺を避けた涼しい場所に設置しておきましょう。留守番をさせる際も、室温を上げすぎないように暖房の入タイマーや切りタイマーを上手に使い分けましょう。

まとめ

ちゃろ

室内・室外ともに冬場は猫にとって危険なことが多く存在しています。そしてそのほとんどは、飼い主さんが意識することで予防できるものです。特に火災に対する危機的意識は、日頃の生活の中では実感がわかないでしょう。ましてやその原因を愛猫が招くなど想像もしないはずです。しかし、これは大袈裟なことではありません。万が一のときに大切な存在を失わないように防災意識を持っておいてください。

また、怪我や病気にも注意しましょう。例に挙げたこたつも、飼い主さんが様子を見ながら安全に使用するのではあれば問題ありません。猫用のこたつやホットカーペットなども購入することができます。これは人間用に比べると安全な作りになっています。それでも万全ではありません。これらの商品を使用する際も十分気をつけるようにしましょう。

スポンサーリンク