愛猫との同伴避難の実情とやるべき準備

愛猫との同伴避難の実情とやるべき準備

日本は地形上、多くの自然災害に襲われ、その対応や予防策が課題となっています。動物と暮らす飼い主さんにとっても深刻な問題です。今回は愛猫との避難について考えてみたいと思います。

動物を連れた避難の現状

抱きしめられる猫

災害時、人的被害が発生する可能性が非常に高く、既に被害が出ている際に出される「避難指示」。この避難指示が出た場合は、直ちに避難しなければ命に関わるほど危険とされる最終警告になります。この最終警告を受けたとき、通常であれば最寄りの避難所に避難するでしょう。

また、最近では災害に対する危機的意識が高まり、一歩手前の「避難勧告(避難することを勧めるが、強制ではない段階)」から避難する人も増えています。その一方で、強制力が高い避難指示が発令されても尚、避難を躊躇する人々がいます。それは、動物と暮らすご家庭です。

日本の約3割がペットを飼育

現在、日本では約3割の家庭が犬や猫などの動物と暮らしています。更に、2017年には猫の飼育頭数が犬を上回りました。単身の家庭でも、散歩がないことや、トイレの躾がしやすいなどの理由から猫と暮らす人が増えたのでしょう。つまり、避難しなければならない状況に陥ったとき、現代では猫を連れた被災者が多いことになります。猫をはじめとした動物連れでの避難にはまだまだ厳しい現実があります。だから、避難しなければ命の保証がないほど危険な状況でも躊躇ってしまうのです。

さて、動物を連れた避難について災害時のマニュアルではどのような決まりが定められているのでしょうか?「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」では次のように紹介されています。

同行避難を勧める

猫を抱く人

未曾有の大規模震災であった東日本大震災発生時、多くの動物と飼い主さんが離れ離れになり、再会できずに放浪してしまった結果、そこから更に犬や猫が増えるという問題が発生しました。言葉を話すことができず、全ての言葉を理解することができない動物たちは、「大切な人に見捨てられてしまった」と誤解してしまいます。

その誤解が生じる中で子孫が増えると、「人間を信じてはいけない」と子どもたちに教育してしまうのです。もちろん飼い主さんは見捨てたのではありません。それでも離れたままになってしまった場合の動物は、そのように認識してしまうのです。そして、街には「人への信頼をなくした動物」と「人を全く知らず、人を恐れる動物」が彷徨う結果になってしまいました。

このときの教訓を踏まえ、環境省によって新たに推奨されたのが「同行避難」です。同行避難は、避難指示が発令された際に動物を連れて一緒に避難することを指します。ここで大切なポイントがあります。同行避難とはあくまでも一緒に安全な場所へと避難することに留まるということです。同一の空間でともに避難生活を送ることはできず、避難所内外のペットスペースにペットを置き、人間のみ避難場所で避難生活を送ることとなります。ペットの避難スペースの環境や、条件については各自治体によって異なります。

理想は同伴避難

キャリーケースの中の猫

動物と暮らす人々にとって願うことは、動物と同じ空間で避難生活を送ることでしょう。先ほどの「同行避難」という言葉は、動物も同一条件で避難できることと思われがちです。しかしこの言葉は、飼い主さんの理想とは異なる現実が意味されています。人間も動物も、同じ条件で避難が可能な状況は「同伴避難」といいます。

「避難勧告」と「避難指示」という言葉が理解されにくいように、この両者も意味の違いが非常に分かりにくいものになっています。日頃から動物との暮らしに癒され、家族のように感じている飼い主さんの意向に最も寄り添う意味合いの言葉は「同伴避難」です。しかし、実際には同伴避難が可能な避難所は少ないのが現状です。その主な理由は次のようなものが挙げられます。

  • アレルギー疾患のある人も避難していること
  • 犬や猫が苦手で恐怖を感じる人がいること
  • 衛生面での問題が発生し得ること
  • 動物の行動面でトラブルが発生し得ることなど

同伴避難にはいくつかの問題がある

震災という、通常とは全く異なる危機的状況では、人間も極限状態にあるといっても良いでしょう。そのような状況下では普段以上にアレルギー疾患が悪化する可能性があります。そこへ、アレルギーの原因である犬や猫が同じ空間に避難してくるということは、非常に危険な状態を作りあげてしまうことになります。そして、ただでさえ不安が続く中、恐怖の対象が目の前に出現したらどうなるでしょうか?最悪の場合、パニック発作に襲われる被災者も出てくるでしょう。

また、排泄物や体の汚れ、ダニなどの問題もあります。更に、動物の鳴き声がストレスを増幅させてしまう可能性もあります。そして、これが更なるトラブルへと発展する恐れがあるのです。これらは、どれも配慮しなければならない重要なものです。特にアレルギーの問題は深刻であり、優先的に守られなければなりません。これらの現状から、避難所での同伴避難は厳密なルールを制定しない限り不可能に近いことなのです。

同行避難及び同伴避難のメリット

バッグの中の猫

同伴避難が困難な現状の中、同行避難が推奨されることにはあるメリットがあります。それは、動物と避難することによる安全性の担保です。東日本大震災のように、動物を連れての避難が全くできない環境では、敢えて避難しない道を選ぶ人が出てきます。それが救助要請を増やす要因や、犠牲者を増やす要因になります。しかし、せめて安全な場所まで一緒に避難できることで、助かる命が増えることに繋がります。また、飼い主さんが管理することで放浪する動物も減らすことができます。以上のような内容が同行避難が推奨されるメリットです。

今現在、動物を連れた避難においては「同行避難」までが限界に近いことが現状になります。この同行避難ですら各自治体によって対応は異なり、万全な体制とはいえない環境で動物が避難生活を送らなければならないこともあります。そして、避難所によっては完全に動物連れが不可能という場所も多く存在しています。たとえガイドラインで推奨されている内容であっても、実際の受け入れには厳しい現実があるのが実情です。

同行避難に備えてすべきこと

キャリーケース

いざという時に備えて、まずは「同行避難」が可能な避難所を探しておくことが重要です。各自治体に問い合わせるか、HPなどで確認をしてみましょう。このときに、可能であればペットがどのような形で避難生活を送ることになるのかも確認しておくと、その状況に応じた準備をすることができます。

猫に前もってしておくべきこと

猫と非難する場合、平常時に次のようなことをしておいてください。

  • ワクチン接種
  • 首輪やハーネスの装着
  • キャリーケースへの抵抗感を失くす訓練
  • 人馴れする
  • トイレの躾
  • 可能であれば避妊去勢手術を済ませる
  • 迷子札もしくはマイクロチップの装着

完全室内飼育が主流となる中、外部の猫との接触がほとんどないためにワクチン接種の必要性が問われるかもしれません。しかし、災害時はたとえケース越しであっても様々な動物と同じ空間にいることを余儀なくされます。過酷な状況下では直接接触することがなくても、病気や寄生虫などのリスクが高まります。

ワクチン接種証明書を避難袋へ

愛猫を守ると同時に他の猫への感染を予防する意味でワクチン接種は必要です。接種時期に応じて、なるべく接種することをお勧めします。接種後は証明書(原本又はコピー)を避難袋に入れておきましょう。また万が一に備えて、繁殖を望まない場合は避妊・去勢手術を受けさせておくことも大切です。

キャリーケースに慣れさせておく

猫はキャリーケースやケージに対してネガティブな印象を抱いてしまう場合があります。日頃から遊びの一環として、これらに入る習慣をつけておくとよりスムーズに入ることができます。更に首輪(セーフティ機能付き)やハーネスもスムーズに装着できるように、日頃から身につける習慣を付けておきましょう。首輪には、猫の名前・飼い主さんの情報を明記しておきましょう。もし可能であれば、マイクロチップを装着しておくことも安全策のひとつです。首輪のように紛失の恐れがないことが最大のメリットになります。かかりつけの動物病院に相談してみてください。

トイレの躾と人慣れ

そして重要なことは、トイレの躾と人馴れです。避難先では、最低限の躾はマナーになります。所定の位置で排泄できること、人や他の動物に慣れていることは大切なポイントになります。簡易トイレでの排泄もトレーニングしておくと良いでしょう。また、日頃からストレスにならない程度に生活音に触れさせるようにしてください。

飼い主さんがしておくべきこと

同行避難にあたり、飼い主さんにも前もって準備してほしいことがあります。それは次のようなものです。

  • 猫の情報を記録したもの
  • 飼い主さんの情報を記載したもの
  • 猫の食品及び飲料水
  • 食器類
  • 常備薬や救急セット
  • 首輪やハーネス、リード
  • ガムテープ
  • 洗濯ネット
  • 日用品各種

アナログ形式での情報を作成しておく

デジタル化が普及する現代では、主にスマートフォン(以下スマホ)に猫の写真や情報を記録していることが多いでしょう。自分自身の電話番号もスマホで情報を呼び出すことが可能なため、記憶していない場合もあるでしょう。普段の生活であれば問題ありません。しかし、非常時にスマホが使用できるとは限りません。水没や故障で起動しないことも考えられます。そこで役に立つのはアナログ式の記録です。猫の避難に関する情報が掲載されたリンク内で、フォームを入手することもできます。予め印刷し、それに沿って書き込むと、簡単に猫や飼い主さんの情報を作成することができます。

必要なものは避難袋に準備しておく

次に避難にあたり、必要なものを揃え避難袋に入れておく必要があります。ここで紹介したものは概ね優先的に用意してほしい順番に記載しています。フードや飲料水は5日以上は確保しましょう。特に療法食を必要とする場合、確実に食べられるものを準備するようにしてください。薬を服用している場合は、必ず常備薬も忘れずに入れておきましょう。避難先に持ち込むものは全て愛猫の名前をフルネームで書いておきましょう。また、ここで用意する飲料水及び救急セットは必ず猫用のものを用意しましょう。

洗濯ネットは避難時や、避難先で診察を受ける際に猫を入れると脱走防止に役立つためです。これも日頃から活用してみることをおすすめします。日用品とは、簡易トイレやペットシート、排泄物を処理する道具、ブラシ、ブランケット、おもちゃなどです。ガムテープは、ケージやキャリーケースが故障してしまった際の補修に役立ちます。

避難時の心構え

指に鼻をつける猫

非常事態に陥ってしまった際に、動揺するのは人間だけではありません。動物は特に、本能的に危機を察知する能力に長けているとされています。実際に思い返してみると、大きな災害の前には普段とは異なる行動を取っていたという報告が何例も挙げられています。大切な愛猫を守るために、次のようなことを心がけてください。

  • まずは飼い主さんが無事でいること
  • 避難所のルールを守ること
  • 愛猫の健康管理を責任持って行うこと
  • 他の動物連れの方と協力し合うこと

「人命優先」という言葉をよく耳にするでしょう。この言葉は、平凡な日常で聞くと動物を蔑ろにしているように感じてしまうかもしれません。でも、冷静に考えてみてください。飼い主さんが命を落としてしまったら、愛猫は誰が守るのでしょうか。非常時には、誰もが自分自身のことで精一杯です。だから、まずは飼い主さんが助かる努力をしてください。そして全力で愛猫を守ってあげてください。

非常事態での飼い主の重要性

災害という非常事態では、普段とは異なり猫も落ち着きをなくしてしまうでしょう。こういうときは、飼い主さんの声かけが重要な鍵になります。不安で我を失いつつある中、大好きな飼い主さんが声をかけてあげるだけでも安心できます。猫にとっては最も聞き慣れた心地よい音声だからです。

また、飼い主さんの不安な気持ちも猫に伝染すると覚えておきましょう。難しいことですが、できるだけ冷静さを保ち、愛猫を励ましてあげましょう。避難先では、その場所のルールを守るようにしてください。そして、愛猫の健康管理も飼い主さんが管理しましょう。猫は環境の変化が苦手です。食事や排泄が思うようにできなくなる可能性も予め理解しておきましょう。更に、他の動物連れの飼い主さんと情報交換をし、お互いに協力し合うことが大切です。

同伴避難の事例

抱っこされる猫

先にも述べたように、同伴避難にはクリアすべき課題が多く存在します。一見不可能なように思える同伴避難を実践した事例があります。それが、熊本県内にある動物病院です。ここでは熊本地震の際、運営する病院を「同伴避難ができる場所」として解放し、のべ1,500人の飼い主さんと千匹もの動物たちを受け入れました。どのような経緯で実践したのかを紹介させていただきます。

きっかけはやはりあの震災

動物病院を経営する院長は、東日本大震災を教訓に、避難場所として機能する病院作りを目指したそうです。免震工事で病院を建て直す際に、300人程度は収容できるスペースと自家発電、堅牢などを用意しました。熊本県でこれほどまでの対策が必要なのかという指摘もあったそうですが、院長は意志を貫き通しました。残酷なことに大地震が熊本県を襲いました。しかし、院長の機転のおかげで同伴避難が可能な環境として多くの人や動物を救うことができました。

院長自らが指揮を執る

同伴避難を想定してはいても、正式な避難所ではなかったため、物資には限界がありました。そこで院長が熊本市長に直談判し、支援物資が集まったそうです。そして院長の指揮の元、避難者をグループ分けし、病院のスタッフをリーダーに置くことでまとめたそうです。

避難所なのに明るい環境になった

大切な家族である動物が一緒に居られる環境は、何よりも安堵感でいっぱいだったでしょう。そして、避難者はみな動物に対する理解のある人たちです。院長の迅速な対応も相まって、その場は明るくなったそうです。

熊本県では、この他にも同伴避難を実施した避難所が複数あります。どのように課題を克服したのでしょう。それはベースになる避難場所は体育館などの広い場所、同伴避難の場合は別の空間に分けるというものでした。ここでは体育館から離れた校舎内のフロアや教室を活用し、アレルギーや動物を苦手とする人が不安にならないように対応しました。熊本県における事例は、一例に過ぎませんが貴重なものといえるでしょう。

まとめ

ウリ

まず、これまでの震災で被害に遭われた方や、今も尚、避難生活を余儀なくされておられる方にお見舞い申し上げます。そして、大切な人やしっぽのある家族を失われた方にお悔やみ申し上げます。とても悲しいことですが、平凡な日常はいつ危機に見舞われるか分かりません。大きな震災があった後は、猫と避難することについて意識するでしょう。しかし、時の流れとともに風化されてしまうことも事実です。

今や台風も勢力を増して襲いかかってきます。やはりいざと言うときに備えて、ハザードマップや同行避難についての確認をしておくことが重要でしょう。日本の約3割の家庭が動物と生活する中、同伴避難が普及していないことは残念なことです。熊本県の事例も、成功例のようでありながら、まだまだ課題はあるでしょう。それでも実践した経験のある事例として、全国各地で今後の避難所の在り方について検討するうえでの参考にしていただけたら嬉しいです。動物と暮らす人もそうでない人も、安心して避難できる環境が整備されることを願います。

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