行ったり来たり…猫がうろうろする理由
愛猫が同じところをうろうろする光景を目の当たりにすると、飼い主さんのほうが落ち着かなくなるかもしれません。
その行動が何かのルーティーンであれば微笑ましいですが、まるで何かに取り憑かれたように繰り返されると心配になりまよね。
猫が行ったり来たりを繰りかえす行動には、どのような気持ちが表れているのでしょうか?謎めいた行動に潜む心理状態についてご紹介いたします。
1.落ち着かない
同じ場所を何度も行き来する行動は、見るからに落ち着きのない様子です。人間も何か気にかかることがあると落ち着かず、うろうろすることがあります。猫もそれと同様です。
落ち着いて寛ぐことができない心境に陥っている、若しくは環境に問題がある可能性が考えられます。
2.不安を抱えている
猫は、日常の些細な変化に不安を感じます。その不安の原因は、必ずしも目に見えるものばかりではありません。飼い主さんの雰囲気や体調の変化など、飼い主さん自身も無自覚である場合があるのです。
目には見えぬもの、自覚することが困難なものに対して対応することはとても難しいことです。しかし、現に愛猫が不可解な行動をとっているとすれば何かしらのトラブルがあるのでしょう。
愛猫が不安要素を探る際は、飼い主さんにも急な環境の変化がなかったか見つめ直してみることが大切です。もしも心当たりがあれば、愛猫のためにも飼い主さん自身が落ち着ける環境を整えるようにしましょう。
3.ストレスを感じている
漠然とした不安とは異なり、より具体的な内容に対するストレスが原因でも落ち着きのない行動は見られます。日常生活を送る中で、猫がストレスに感じやすい事柄は次のようなものが挙げられます。
- 引越し(大々的な模様替えも含む)
- 自宅もしくは周辺の工事による騒音
- 家族が増える
- フードの急な変更など
これらは、先ほどの不安よりも把握しやすい内容でしょう。気分を変えるために行った模様替えも、猫にとっては大きな環境の変化です。また、急激な変化としてはフードを急に変えてしまうこともストレスになります。
療法食への急な切り替えは、ある程度仕方のないことかもしれません。それ以外のケースでは、既存のフードに新たなフードを混ぜ、徐々に切り替えることが理想的です。
4.構ってほしい
寂しがり屋で甘えん坊な猫は、他の猫に比べて飼い主さんがそばにいてくれることを強く願う傾向にあります。常に自分を優先してほしいのです。しかし、飼い主さんには飼い主さんの生活があります。愛猫の理想を叶えることは困難です。
愛猫も、そのような飼い主さんの事情を多少は理解しているでしょう。それでも要望が通らないと気を引こうとします。その手段のひとつとして、行ったり来たりを繰りかえす行動をとることがあります。
動機が気を引くことである場合、すぐに要望に応えることは控えたほうが良いでしょう。落ち着くまで待ち、それから構うようにしましょう。これは、愛猫が不可解な行動を取れば相手をしてくれると学習してしまうことを回避するためです。
同じ場所を行き来するだけならば、それ程問題ではないかもしれません。しかし、これがエスカレートすると他にも問題が生じてしまう恐れがあります。
5.脳の病気の可能性
ある一定のゾーンを行き来したり、周回している場合は、脳に病気が潜んでいる可能性も考えられます。代表的な病気は次の二種類です。
- 認知症
- 脳腫瘍
認知症においては、概ね高齢の猫に発症します。脳腫瘍に至っては若年層でも発症する場合があります。前者は主に脳の萎縮、後者は腫瘍が脳を圧迫することで脳機能に問題が生じます。
そして、いずれの場合も徘徊(傍から見れば宛もなく歩き続ける行動)が出現することがあります。これが病気によるうろつきの正体です。
認知症や脳腫瘍が背景にある場合は、獣医さんと治療方針についてしっかり話し合うことが大切です。徘徊に対する対処法は別の項で詳しくご紹介いたします。
うろうろするだけじゃない!猫の常同障害とは?
同じ行動を過剰に繰り返す行動を「常同行動」といい、それが日常生活において支障をきたすものに発展する場合は「常同障害」といいます。一見難しい言葉のように感じられますが、例を挙げてみるとイメージしやすくなるでしょう。
- 同じ場所をうろうろする
- 自分自身の被毛を繰り返しむしる
- 自分自身のしっぽを追いかける(尾追い)など
何れも、何かに駆り立てられるように繰り返し行われます。その原因は複数の要因が複雑に絡み合って起こることがあります。
常同障害はなぜ起こる?
先ほど紹介したように、常同障害の原因は様々なものがあり、尚且つそれらが重複しています。その主な要因についていくつかご紹介いたします。
性格によるもの
猫にもそれぞれ個性があり、皆異なる性格を持っています。中でも不安になりやすく、些細な環境の変化においてストレスを感じやすい猫は常同行動を取り、それがやがて常同障害へと発展する可能性があります。
不安やストレスについては、先ほど紹介したような内容が挙げられます。常に怯え、リラックスできていない、すぐに隠れてしまうなどの様子が見られる場合は要注意です。
早期離乳、早期別離
通常、猫は長くて生後6ヶ月頃までには独立します。それまでの期間は、母猫やきょうだい猫と一緒に生活します。そして、生後2ヶ月を目安に離乳します。この期間は人間でいう、乳児や幼児のようなイメージです。母猫と過ごすことでスキルを身につけるだけではなく、精神的な安定も得られます。
これが不十分のまま引き離されてしまうことは、後々トラブルが発生する可能性を秘めています。早期別離の場合、「社会化期」と呼ばれる猫としての生きる術を学ぶ期間を、思うように過ごすことができないまま成猫になってしまいます。
完全に右も左も分からないうちに、社会へと放り出されてしまうのです。これでは強い不安やストレスを感じやすくなって当然でしょう。
皮膚のトラブル
皮膚炎を起こしやすい猫の場合、皮膚炎が常同障害の引き金になることがあります。そのきっかけは小さなことです。
- 皮膚に痒みが生じて掻く
- 掻くことで一時的に痒みから解放される
- 再び痒みが生じ、その患部を更に強く掻く
- この一連の流れを学習し、習慣化する
- 無意識のうちに掻きむしるようになる
要は悪循環です。同じ場所を掻きむしる癖が見られる場合は皮膚をチェックし、動物病院で適切な治療を受けるようにしましょう。
年齢や性別
年齢は、成熟期にあたる1歳くらいが好発年齢になります。概ね2~4歳までが注意の必要な年齢です。ただし、要因によってはこれに該当しないケースもあります。
性別は、どちらにおいても注意が必要です。一部オス猫に多いという報告がある一方で、変わらないとする報告も存在します。よって、性別による差にはあまり固執しないようにしてください。
猫種
一部猫種において注意が必要です。それは、シャム猫をはじめとするアジア系の猫、及びそれらの交配種です。これらの猫種に共通して起こりやすい常同行動は、ウールサッキングになります。このワード自体は聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか?
実はウールサッキングも常同行動に含まれます。これは毛布やブランケットなど、母猫を連想させるような対象に繰り返し吸い付き、場合によっては食べてしまう行動です。ウールサッキングは、早期離乳もリスクファクターになります。しかしこれに限らず、アジア系の猫種には注意が必要なのです。
一緒に向き合おう!常同障害への対処法
往復を繰り返す行動をはじめとし、常同障害に見られる行動は飼い主さんを困惑させてしまいます。愛猫が常同行動をするようになったら、どのように対応すれば良いのでしょうか?
ここからは、常同障害において着目すべき視点と対応についてご紹介いたします。
絶対に叱らない
たとえ飼い主さんを悩ませる行動だとしても、絶対に叱らないでください。愛猫自身も、好んで困らせているのではありません。「必ず理由がある!」という意識を持ち、愛猫を叱責するのではなく、状況を整理することに力を注ぎましょう。
手段は問いません。動画と一緒にそのときの状況や、周辺で起きた出来事などをメモに残しておくと冷静に振り返ることができます。
常同障害かルーティンかを見極めること
猫は賢い動物です。一緒に暮らす飼い主さんの行動は、ある意味何でもお見通しです。たとえば、飼い主さんが台所の戸棚を開けたら食事の準備が始まるという習慣です。そして、フードが出てくるまでの間うろうろするという猫の行動は、ルーティンです。これに困る事情がない限り、続けさせても大丈夫です。
しかし、客観的に見て理由が見当たらないのにも関わらず、行ったり来たりを繰りかえす場合は注意が必要です。原因を見つけるためにも、動画を撮っておきましょう。
病気が疑われる場合は病院へ
脳の病気をはじめ、皮膚炎や尿路結石など背景に病気が疑われる場合は速やかに動物病院へ行きましょう。
何らかの疾患が認められる場合は、その治療をすることで改善することが多いでしょう。まずは病気を治し、心身ともに健康な状態を目指しましょう。
脳の病気が原因である場合
脳の病気が原因の場合は常同行動に加え、性格が激変したり、頻繁に物にぶつかるなどのトラブルが発生することがあります。
そして、このケースでは常同行動自体を完全に制御することは難しいでしょう。だからといって、室内を徘徊させるにも限界があります。そこで、可能であれば子供用のプールを用意し、そこにペットシートを敷き詰めて歩かせると怪我のリスクが減少し、より安全になります。
生活環境を整える
現代では完全室内飼育が主流となっています。基本的にはメリットが多いものの、運動量がやや少なくなってしまう場合があります。若い猫は特にエネルギーが有り余り、その結果が常同行動として表れる可能性があります。
猫は上下運動や、狩りに見立てた遊びを好みます。そして、見晴らしの良い場所で寛ぐことを習慣とする傾向があります。できる限り、猫らしい生活が送れるように環境を整備しましょう。
新たな猫を迎える場合は慎重に
本来、単独行動で生活する猫にとって家庭は自分自身の縄張りです。そこへ新たな猫が加わるということは、いわば縄張りを荒らす侵入者になります。
特に未去勢のオス猫が生活するご家庭に、新たなオス猫を迎える際は、可能な限り先住猫の去勢手術を済ませることがベターです。
その他にもデリケートな性格の猫や、独占欲が強く人間に対しても嫉妬する猫がいるご家庭では、慎重にならなければなりません。
重要なのは人間の都合ではなく、先住猫の気持ちです。多頭飼育の全てが問題ではないため、先住猫の気持ちを尊重しつつ、より良い時期を見極めるようにしてください。
一緒に向き合う姿勢を大切に
常同障害に限った話ではありませんが、愛猫が困り行動を取るようになったときは愛猫だけに目を向けても改善することはありません。
ここでの愛猫の立ち位置は「問題を抱えている本人と推測される人」です。つまり、一見すると猫の困り行動がトラブルの原因と思われていながらも、背景には愛猫を取り巻く全てが原因である可能性があるということになります。
住宅環境、飼い主さんの言動や関わりを持つ事柄の全てに目を向けて、初めてスタートラインに立てたことになります。
問題となる行動を改善するためには、多方面からアプローチするようにしましょう。また、そのためには動物病院で一度相談することも第一歩になります。「飼い主さんも一緒に向き合う」というスタンスが鍵を握ることになるでしょう。
まとめ
愛猫がうろうろするという行動は些細なものです。突如、それが気になり始めると違和感を覚えるかもしれません。そして、見ている飼い主さんが不安に陥ることもあるでしょう。
どのようなトラブルも、まずは冷静に状況を整理することが重要です。診察を受けることになった場合、その手がかりとなるのは生の情報です。動画を撮ることをお勧めします。
一口に行ったり来たりするといっても、その理由は様々です。そして、仮に飼い主さんを取り巻く環境が原因であってもご自分を責めないでください。自責の念に駆られ、悲しむ飼い主さんの姿を見ると余計に不安になってしまいます。
愛猫のためにできることを考え、行動すること。そして、自分自身の生活を見直すチャンスと前向きに捉え、小さな目標から少しずつ向き合うようにしましょう。愛猫と、一緒に課題をクリアしていくことはより良い関係を築くステップに繋がるでしょう。