グルーミングの役割
猫の動向を観察していると、よく体をペロペロと舐めている光景が目に映るでしょう。これはグルーミングといい、綺麗好である猫はよく毛繕いをするのです。ちなみに自分の体を毛繕いする行動を「セルフグルーミング」といいます。猫がグルーミングをする理由は、主に次のような事柄が挙げられます。
- 清潔感を保つ
- 体温調節を行う
- 気分転換のため
- においを消すため
猫にあまり体臭が目立たないのは、グルーミングの効果です。冒頭でも説明したとおり、猫は綺麗好きな動物です。こまめに毛繕いをすることによって、常に清潔感のある体を保っています。猫は一日の3分の2は寝て過ごしていますが、残りの3分の1のうちの3割近くはグルーミングに費やすほど大切な日課なのです。毛繕いから得られる効果は身なりを整えるだけで留まりません。
人間のように汗腺のない猫は、体から汗をかくことができません。よって、体を舐めることで唾液を気化させて汗をかいています。夏場は熱を放出し、冬場はグルーミングによって毛をふわふわにすることで、断熱効果を得ています。また、気持ちを切り替えたいときにも毛繕いをします。
こんなグルーミングは注意が必要
もし、同じ部位を何度もグルーミングしているようであれば、ストレスがかかっている可能性が考えられます。何か心当たりがあれば、できるだけ改善するように心がけてください。
そして、重要な役割として、においを消すという理由でもグルーミングを行います。猫は警戒心の強い動物です。自分自身の体から常ににおいを消すことによって、外敵から身を守っています。人間に撫でられた後に毛繕いをする理由もこれにあたります。においを消されてしまうと聞くと、少々残念ではありますが、猫の本能的な行動なので理解してあげましょう。
余談ですが、猫は自分の体からは人間のにおいを消してしまいますが、逆に人間に自分のにおいを残すことがあります。これは信頼の証で、その人物は自分だけの特別な存在として認めてくれているのです。
猫同士でグルーミングするのはなぜ?
単独で暮らし、警戒心が強い猫は、他の猫と関わりを持つイメージがないでしょう。しかし実際には、他の猫の顔や体をグルーミングしている姿を見かけることがよくあると思います。この行動を「アログルーミング」といいます。アロとは英語で「非自己の、他」という意味を持つ言葉です。つまり自分以外の存在に対してグルーミングを施す行為をアログルーミングと呼びます。猫は次のような理由でアログルーミングを行います。
1.愛情表現
アログルーミングは心を許した者同士でしか見られない行動です。急所である首の近くに相手の顔が接近してくるというシチュエーションは、一歩間違えば命取りになります。それを敢えてするということは、とても親しい間柄なのです。
猫がはじめて他者に毛繕いをしてもらうのは子猫時代にまで遡ります。子猫は母猫に身を委ね、身なりを清潔に整えてもらい、排泄の手助けをしてもらいます。人間に例えるなら母親に抱かれ、優しく撫でてもらうイメージです。
猫も人間と同様に、母猫に優しく包まれて、毛繕いをしてもらうことで健やかに成長していきます。やがてアログルーミングはやがてきょうだい間でも見られるようになります。このように、愛情表現のひとつとして大切な役割を担っています。
2.親しみをこめて
アログルーミングは、血縁関係のみに見られる行動ではありません。血の繋がりがなくても、親しみを持った相手に対しては毛繕いをしてあげます。猫がアログルーミングをする相手には次のような特徴があります。
- メス同士
- オス猫とメス猫
- 猫以外の相手(人間や同居動物)
メス猫は子育てをする関係上、元々他の存在に対して毛繕いをすることに抵抗が少ない傾向にあります。だからメス同士で仲間意識を持つと、アログルーミングも自然と見られるようになります。
異性の猫同士も、親しくなればお互いにグルーミングができる関係を築くことができます。更に、アログルーミングを行うのは猫同士だけではありません。大好きな飼い主さんや、同居動物に対しても毛繕いをしてくれるようになります。猫が顔や手、場合によっては髪の毛を舐める行動は、このアログルーミングによるものなのです。
3.コミュニケーション
交流を深め、親しくなった猫同士にとってアログルーミングは次第にコミュニケーションの一環になります。海外においてキスやハグは挨拶であり、大切なコミュニケーションのひとつです。猫にとってもお互いにグルーミングをし合うことで挨拶をし、健康を気遣う言葉を交わしているような役割を果たしているのです。
そして更に、アログルーミングは信頼関係を深めてくれます。最初はぎこちない挨拶程度でも、徐々に距離を縮め、心から相手を信頼することで身を委ね合うことができるようになります。親しくなるうちに、相手が好むグルーミングができるようになっていきます。これが、より一層信頼関係を深めるのです。
オス同士はアログルーミングをしない!?
先ほど、アログルーミングをする相手の特徴について紹介しました。その中にオス同士という組み合わせはありませんでした。オス同士はアログルーミングをしないのでしょうか?実はケースバイケースで、基本的にはしないものの、特定の条件下ではオス同士でもグルーミングをし合うことがあります。
オス同士がアログルーミングをしない理由
基本的にオス同士でアログルーミングが見られないのは、縄張り意識の問題です。お互いに縄張りを主張し合い、その縄張りに踏み入る行為を許さない者同士で親しくなることは稀です。よって、多頭飼育でともに暮らす猫同士であっても、オス同士はあまりアログルーミングをすることはありません。
オス同士でアログルーミングをするケース
あまり目にすることのない、オス同士のアログルーミングも次のような条件下では見られることがあります。
- きょうだいという間柄
- 去勢手術済みの場合
同じ母猫を持つきょうだい間であれば、オス同士でもグルーミングをし合います。これは先ほど説明した愛情表現で、成猫に成長した後もきょうだいであれば親しくすることができます。これは性格にもよりますが、概ねそのような傾向があります。
また、去勢手術を済ませた猫であれば、オス同士でもアログルーミングをすることがあります。これは手術の効果により、熾烈な縄張り争いをする必要がなくなるためです。よって、これらの特徴を持つオス同士であれば、例外的にアログルーミングが見られるようになります。
アログルーミングのルール
猫同士がグルーミングをし合う場合、いくつかルールがあるようです。ただ闇雲に舐め合っているわけではないのです。アログルーミングの特徴は次のようなものが挙げられます。
- 先輩が後輩を舐める
- 気持ちよければ頭部の角度を変える
- 後輩がお返しをする
猫は犬の社会ほどの上下関係は存在しません。しかしボス猫に逆らうことはご法度とされ、恋の季節にメス猫にアプローチする順序もボスに優先権があります。
家庭で同居する猫同士でも、先住猫を先輩として敬う行動を取ります。アログルーミングにおいては、先輩猫(先住猫)のほうから後輩猫にすることがきっかけになります。この行動が見られ始めたら、親しくなるサインでもあります。互いと仲を心配していた飼い主さんも、ようやく肩の力を抜くことができるでしょう。
そしてグルーミングをしてもらう側の猫は、リラックスできるようになると次第に自分がグルーミングしてほしい部分を要求するようになります。目をつぶり、頭部の位置を変え、今最も毛繕いしてほしい部分を指定します。これが一段落すると、今度は後輩猫がお返しをします。これでアログルーミングが成立します。
猫にグルーミングして貰ったらどうする?
人間が、猫にグルーミングをしてもらった場合はどのようにお返しすれば良いのでしょうか?それは、顔や頭部などを撫でてあげれば大丈夫です。気持ち良いと感じてくれたら、自然と角度を変えて他の部位も要求してくれるようになります。アログルーミングは種を越えて、親しみや愛情を伝える手段なのです。
アログルーミングの注意点
アログルーミングはお互いに親しみをこめた行動であるため、多頭飼育の環境で見られる場合もあたたかい眼差しで見守ってあげることが大切です。しかし、気をつけてほしいことがあります。それは、グルーミングによる抜け毛です。
グルーミングの過程では被毛が抜け、多少の被毛を飲み込んでしまうことになります。少量程度であれば自然と排出されるため、問題ありません。注意が必要なのは「換毛期」と呼ばれる時期です。換毛期とは、四季の移り変わりによる気温の変化に対応するため、被毛が抜け、質に変化が生じることです。
3月頃に春の換毛期を迎え、夏毛へと生え変わり、11月頃には秋の換毛期を経て冬毛へと変化します。この時期は通常よりも被毛がよく抜けます。これは短毛種も長毛種も共通して起こる現象です。換毛期は飼い主さんがこまめにブラッシングをし、予め余分な被毛を除去してあげましょう。この手助けが、アログルーミングによる毛球症(もうきゅうしょう)を予防することができます。
毛球症って?
毛球症とは被毛の摂取量が多くなり、排出が追いつかなくなることで、胃や腸に毛玉が詰まってしまう病気です。主に長毛種に多い傾向がありますが、アログルーミングを頻繁にする猫は短毛種の場合も気をつけたいものです。毛球症は、最悪の場合死に至る危険性もあります。安全にアログルーミングをしてもらうために、換毛期には飼い主さんの配慮が必要不可欠なのです。
まとめ
今日のねこちゃんより:なつ&ゆず / ♂ / 3歳 / 雑種(ミックス) / 0kg
あまり仲間意識を持つイメージのない猫も、他者を大切にする優しさを秘めています。母子関係からスタートするアログルーミングが、きょうだい間、親しみを持った相手へと広がっていくのです。そして、その関係性は猫同士に留まることなく、人間や同居動物でも築くことができます。
親和行動に種は関係ないのでしょう。アログルーミングをする猫を見かけたら、そっと見守ってあげたいものですね。そしてそれを、愛猫が私たち人間にしてくれたら、ますます愛おしい存在になるでしょう。
人間は実際にグルーミングする方法でお返しをすることはできませんが、優しく撫でることで愛情を伝えてあげましょう。この小さなアクションが幸せの輪を広げていくのでしょう。