60年ぶりの改修工事の一環で、2016年に修理が行われた日光東照宮の「眠り猫」。修復された猫は、薄目を開けた状態であった。その後は、眠っているからこそ平和な時代の象徴であるとして、目を閉じた状態に修正された。ふたたび眠りにおちた「眠り猫」。この猫の彫刻は、何を意味するのだろうか。
薄目を開けた「眠り猫」
眠り猫は、日光東照宮の奥宮に通じる東回廊の潜り門(くぐりもん)の上部に彫られている。世界遺産に登録されている東照宮には、徳川家の初代将軍「徳川家康」が祀られている。
家康亡き後、孫にあたる3代将軍家光が、今ある豪華絢爛な社殿に改修を行った。東照宮には、重要文化財や国宝に指定されている建造物や彫刻品が多くあり、眠り猫も国宝に指定されている。
日光東照宮に平成の大修理と称される大がかりな改修工事が始まったのは平成25年。その際に眠っているはずの眠り猫の眼が、なぜか薄目を開けた状態になった。
修復は大正・昭和期の図面を参照して行われ、彩色はこの図面に沿ったものとされている。実際に時代によっては、眠り猫が薄く目を開けていたという伝承もある。
「眠り猫」が意味するものとは
眠り猫は、家康公の墓所がある奥社へ続く東回廊の門に家康公を守るように掲げられている。思いのほか小さな猫の彫刻は、牡丹の花の下で眠っている。この門をくぐり抜けた眠り猫の裏には、竹林で戯れている2羽の雀の彫刻がある。
つまり、猫が眠っているおかげで雀も安心して遊んでいられるというわけだ。ここでの猫は、眠ることで平和の象徴とされている。
また、眠り猫は禅問答の「牡丹花下眠猫児(ぼたんかかすいびょうじ)」に着想を得たともいわれている。
牡丹の花の下で気持ちよさそうに眠る仔猫。
人が近づくと、さっと逃げてしまった。
本当に寝ていたのか?
それとも寝たふりだったのか?
問答は延々と続きそうだが、寝たふりをした猫は家康公であるという説もある。ふだんは寝たふりをして周囲の様子をうかがっているが、いざとなると素早く行動する。徳川家康の生き様を表したのが眠り猫だというのだ。
小さな眠る猫の彫刻は、見る者によってその意味するものが変わると言えそうだ。