猫が描かれた日本画
色鮮やかな油絵や水彩画も良いですが、たまには和紙に描かれた趣のある日本画の世界も良いものです。不思議と引き込まれる猫が描かれた日本画の世界へ…出発進行!
竹内栖鳳
By Takeuchi Seihō - [1], Public Domain, Link
戦前に活躍された日本画家さんで、竹内栖鳳さんが描いた猫の日本画は「班猫」が有名です。
ある日、外出中に猫の姿を見た竹内栖鳳さんは、猫の絵を描こう!と急に思い立ったそうです。そしてそのきっかけとなった、猫の飼い主の八百屋さんに頼み込み、猫を譲りうけました。
室内で猫を自由にさせ、猫の動きや表情をひとつひとつじっくりと観察しながら描かれた日本画の作品がこの「班猫」でした。さすが細かいところまで観察していただけあって、キジ柄の再現や微妙な色の変化、首と肩の骨の動き、猫の身体の柔らかさなど、とてもしっかりと日本画に表現されています。
菱田春草
By Hishida Shunso - Eisei Bunko (now at Kumamoto Prefectural Art Museum, Japan), Public Domain, Link
明治期に活躍された日本画家さんで、従来の決まった描き方に捉われず、様々な新しい技法を取り入れながら絵を魅せることにとても優れた画家さんでした。あの有名な横山大観さんにも「春草君の方が僕よりもずっとうまい。もし春草君が生きていたら僕の絵は10年進んでいた」と言われたほどです。
しかし、今でこそこのダイナミックで挑戦的な技法は日本画界に新風を吹かせたと評価されていますが、当時は難色を示す人の方が圧倒的に多く、なかなか理解を得られなかったといいます。
そんな菱田春草さんが描いた猫の日本画「黒き猫」も、当時は当たり前だった輪郭線を引く描き方をあえて極力使わないようにし、“朦朧体”と呼ばれる全く新しい描き方で描かれた、日本画の作品のひとつでした。輪郭線をとっぱらい、水を垂らして滲ませた紙の上に絵の具や炭を乗せ広げていく朦朧体によって描かれた黒猫は、猫のふわふわした毛並みや独特の丸み、もっちりとした生き物らしさを感じられ、まるで絵の中で生きているようですね。
歌川国芳
Public Domain, Link
江戸時代末期に活躍した浮世絵師さんで、常にたくさんの猫たちと暮らし、日本画を描くときも猫を膝に抱えながら、さらには弟子たちにも「猫の日本画、描いてみない?」とおススメしてしまうほど自他共に認める大の猫好きだったそうです。
猫が亡くなれば回向院へ運び供養し、きちんと仏壇と戒名入りの位牌も用意し、忘れないように猫の名前をノートにしたためておくほどの溺愛ぶりでした。
そんな歌川国芳さんが描いた、日本画の猫の絵は、一風変わった遊び心溢れる作品が多いのが特徴です。
中でもすごいのがこちらの日本画、「其のまま地口 猫飼好五十三疋」“そのまま ぢぐち みやうかいこう ごじうさんひき”と読み、東海道五十三次と猫を掛けたものです。東海道五十三次というのは、東海道にある53件の宿場のことです。
この53の宿場がある地名と、猫の仕草を語呂合わせで描いた日本画の作品で、
- 日本橋=2本の鰹節を持って二本出汁
- 品川=白顔
- 川崎=蒲焼
- 神奈川=嗅ぐ皮
- 程ヶ谷=喉かい
- 戸塚=二十日鼠のはつか
- 藤沢=鯖を咥えたぶち猫でぶちさば
- 平塚=子猫が『育つか』
- 大磯=(獲物が)重いぞ
- 小田原=ねずみに逃げられて無駄走りしているどら猫でむだどら
- 箱根=ねずみに餌を取られてふて寝(へこ寝)する猫で「へこね」
- 三島=三毛猫が化け猫(魔物)で三毛ま
- 沼津=なまず
- 原=どら(という猫)
- 吉原=お腹までぶち模様のぶち腹
- 蒲原=てんぷら
- 由比=鯛
- 興津=起きず
- 江尻=かぢり
- 府中=夢中
- 鞠子=張り子
- 岡部=赤毛
- 藤枝=狩りが下手なぶち猫でぶち下手
- 島田=(魚が)生だ
- 金谷=猫の名前が「タマや」
- 日坂=食ったか
- 掛川=化け顔
- 袋井=袋に頭を突っ込んで袋い(り)
- 見付=寝つき
- 浜松=鼻熱
- 舞坂=抱いたか
- 新居=洗い
- 白須賀=じゃらすか
- 二川=当てがう
- 吉田=起きた
- 御油=来い
- 赤坂=(メザシの)頭か
- 藤川=ぶち籠
- 岡崎=尾が裂け
- 池鯉鮒=器量
- 鳴海=軽身
- 宮=親
- 桑名=食うな
- 四日市=寄ったぶち
- 石薬師=いちゃつき
- 庄野=飼うの
- 亀山=化け尼
- 関=牡蠣
- 坂下=アカの舌
- 土山=ぶち邪魔
- 水口=皆ぶち
- 石部=みじめ
- 草津=こたつ
- 大津=上手
- 京=猫に捕まったねずみの悲鳴「ぎやう」
となっています。語呂合わせというか親父ギャグ?というか…、とにかくユニークで、日本画の作品であることは間違いないですね。猫1匹1匹が生き生きとしていてじっくり見たくなる日本画です。
鳥高斎栄昌
江戸時代に活躍していた浮世絵師さんで、主に女性を描いた日本画が多く残されています。その中でも「郭中美人鏡」という日本画の作品には、美人と猫が戯れる様子が描かれていて、今で言えばインスタ映え間違いなしな日本画になっています。
日本画の猫ちゃんはリードがついているので、きっとこの美人さんの飼い猫ちゃんなのでしょう。かんざしをおもちゃがわりにして遊んでいますね。
美人さんは「いつものことなんですのよ、オホホ」というような感じで余裕ありな表情をしています。
まとめ
猫を描いた日本画、いかがでしたか?
技術面にもこだわり、表現にもこだわり、そして遊び心にもこだわり、同じ猫でも日本画の作家さんによって全く違った魅せ方をしてくれるので飽きずにいつまでも見られちゃいます。
是非これを機に、様々な日本画たちに興味を持っていただけたらとても嬉しいです。