腎臓病、それは猫の宿命
多発性嚢胞腎とはー人間にもある遺伝病ー
- 遺伝で発症する
- 多くはゆっくり進行する
- 早期発見・早期対応が大切
『多発性嚢胞腎』はその名の通り、丸い袋状のものが腎臓にたくさんできる病気です。少しずつ増えたり、大きくなることで、腎臓を圧迫して正常な腎機能に支障をきたします。(袋状の『嚢胞』は、1mmから、1センチ以上になります)
早い猫では生後2か月半ほどで発見されることもあります。
幸いなことに多発性嚢胞腎は、急性の腎臓病とは違い、ゆっくり進行します。腎不全の症状を起こすのは平均7歳ぐらいと言われていますが、緩やかに進行するので腎不全の症状を呈さない緩やかに進行するので腎不全の症状を呈さない。
猫の平均寿命もどんどん延びています。たとえ多発性嚢胞腎でも、飼い主さんが早期発見でケアできれば、データは伸びてくるかもしれません。遺伝で発症しますので、もし発症した場合はそのことをブリーダーさんにお伝えすることはとても大切なことになります。
※多くのブリーダーさんはこの遺伝子もつ猫の交配しないよう気を付ける必要があります。
多発性嚢胞腎に関わる遺伝子
この病気には、《PKD1》という遺伝子がかかわっています。この遺伝子は、人間の腎臓病でも見つかっており、人間の場合は難病指定がされています。
片方の親猫がこの遺伝子を持っていた場合、約半分の子猫に遺伝します。両親ともにこの遺伝子を持っていた場合、1匹には遺伝せず、4匹に1匹が死んでしまいます。
また、この遺伝子は肝臓にできる嚢胞とも関係があるようです。特にペルシャ猫では肝臓のチェックも行うとベストでしょう。
2019年の研究で分かった『腎臓病になりやすい猫種』
2019年6月に出た研究の要旨によると、特に気を付けるべき猫種がわかってきました。
日本国内におけるPKD1遺伝子変異による多発性嚢胞腎の疫学的評価』
この研究の目標は、猫のPKD1遺伝子変異の疫学的特質と臨床的特徴を測定することである。 (中略)そして、PKD1変異の血液検査を行った結果である。最も高いPKD1変異を持っていたのはペルシャの46%、スコティッシュフォールドの54%、アメリカンショートヘアの47%であった。とはいえ、雑種においてもPKD1変異は高頻度で見られた。
昔からペルシャに多い病気だということが言われてきましたが、最新のデータでも裏付けられた形です。また、スコテッィシュ、アメショにおいても、ペルシャと交配を行っていたという歴史から、どうしても発生頻度が高いようです。また、変異しやすい遺伝子でもあり、雑種にも珍しい遺伝子ではないと分かりました。
- ペルシャ(46%)
- アメショ(47%)
- スコテッシュ(54%)
この猫種が家族にいる方は、特に腎臓の健康に注意したほうがよさそうです。
※別の論文ではペルシャの短毛種のエキゾチックショートヘアにも注意が必要とのこと
猫の腎臓病を早期発見するためには
腎嚢胞があっても、普通のクレアチニン検査で数値が上がるのは3歳ごろのようです。それでは、もっと前からリスクに備えるためにはどうしたらよいでしょうか。
早期発見のための研究
腎臓の問題が疑われる猫ちゃん、そうではない猫ちゃんを混ぜて、多発性嚢胞腎を早期発見できないかチャレンジした研究があります。
そこでは、超音波検査で腎嚢胞が見つかったうち85-96%がPKD1変異、残りは別の遺伝子変異などが見つかったそうです。(生後2か月ほどで見つかるのも超音波検査です)嚢胞腎が見つかった場合は、高い確率でPKD1の変異を疑うことになるようです。
この研究は少し前のものですが、さらに超音波はよい機械が出てきていますので、超音波検査が多くのクリニックに入っているのは心強いですね。
多発性嚢胞腎の遺伝子所有の有無を知りたい場合は、遺伝子検査が可能な検査機関に血液を送り、遺伝子検査をしてもらうことになります。
腎臓に嚢胞があるということは、腎臓には負担がかかっているということです。
進行がゆっくりであるため何らかの症状が出た後に検査を行い、多発性嚢胞腎であることがわかっても、腎臓へのダメージがすでに大きく出ていることが予測されます。早期発見・早期対応が大切な病気と言えるでしょう。
まとめ
ペルシャはとても性格が穏やかで、さまざまな猫種の作出や、維持のための交配に使われてきました。
しかし、歴史の長い猫種で、ある時期まで近親交配が禁止されていなかったことがあります。
現在、健康な遺伝子を残す取り組みがブリーダーさんの中からも始まっています。
多発性嚢胞腎は血液検査を行うことで遺伝子の有無を確認できる病気です。発生率の高い猫種では早めに遺伝子検査を行い、陽性(遺伝子を持っている)の場合は、今後の生活や治療について担当の獣医師としっかり話し合いをしていきましょう。人間では早期発見で維持したり、あるホルモンを阻害することで嚢胞を作らせないお薬が実用間近のようです。
猫では以下のようなことがケアとして行われています。
- トイレを清潔に保つ(感染症の予防)
- ACE阻害薬
- 猫の腎臓病食
- こまめな水分の補給
最近、今まで原因がよくわからなかった病気の研究や違ったアプローチの治療研究などが進んでいます。
この病気によく効くお薬がはやくできることを願ってやみません!
参考文献
http://news7a1.atm.iwate-u.ac.jp/~hospital/disease/pkd.html
(岩手大学付属動物病院 多発性嚢胞腎)
https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/31155548
(The Journal of veterinary medical science2019Jun03)
https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/19046910
(Journal of feline medicine and surgery2009Jun01Vol. 11issue(6))
https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/2215575
(The New England journal of medicine1990Oct18Vol. 323issue(16))
http://www.twmu.ac.jp/NEP/idensei-jinshikkan/nouhoujin.html
(東京女子医大腎臓内科 多発性嚢胞腎)
http://www.canine-lab.jp/pdf2/catl.pdf
(ケーナインラボ 多発性嚢胞腎遺伝子検査 資料)