猫の感染症1.猫パルボウイルス感染症
猫パルボウイルス感染症は、パルボウイルスが原因で発症する感染症であり、猫汎白血球減少症や猫伝染性腸炎ともいわれています。
猫パルボウイルス感染症の症状
- 食欲、元気がなくなる
- 発熱
- 嘔吐、下痢
- 血便
- 脱水症状
感染後約7〜14日の潜伏期間を経てから症状が現れるようになり、初期段階では食欲や元気がなくなり39度以上の高熱がおきます。白血球の数が極端に減少してしまい、次第に激しい嘔吐や下痢をおこします。
ウイルスにより腸の粘膜が損傷されてしまうため、ひどくなると重度の血便をおこし脱水症状になります。特に体力がない子猫に感染すると重症になりやすいため、感染してからわずか1日足らずで命を落としてしまうことがあります。
また妊娠中の猫が猫パルボウイルス感染症に感染してしまうと、死産や流産をおこしやすくなります。
無事出産できたとしても、生まれてくる子猫に何かしらの先天的な異常がおこる場合があります。
猫パルボウイルス感染症の原因
猫パルボウイルス感染症に感染する主な原因は、感染している猫との接触や、感染猫の排泄物(尿・便)や吐物との接触といわれています。
しかし、この感染症の原因であるパルボウイルスは非常に強いウイルスなので、猫の体外に出ても最低で3か月、もって1年以上生存することができます。そのため感染猫に接触していなくても、人の服や靴などの間接的な要因で感染してしまうことがあります。
パルボウイルスは非常に感染力が強いウイルスなため、子猫や年齢が若い猫、ワクチン未接種の猫にかかりやすく、一般の消毒剤や紫外線、熱湯消毒をしても感染力は弱くならないため、一気に感染が広がってしまうので注意が必要な感染症です。
猫パルボウイルス感染症の治療法
猫パルボウイルス感染症に有効な治療法がないため、症状を軽減させる対症療法となります。インターフェロンや細菌感染防止に抗生物質の投与をしたり、脱水や血液バランスが崩れている場合は点滴治療も行ったりします。
感染初期段階で早めに治療を開始すれば生存率が高くなりますが、血便が出る、激しい白血球の減少など、状態が進行している場合は命を落とすことがほとんどです。また子猫やワクチン未接種の猫も、治療を行ったとしても効果の反応が悪く、命を落としてしまう確率が高いです。
猫の感染症2.猫伝染性腹膜炎
猫伝染性腹膜炎は、コロナウイルスの一種の猫伝染性腹膜炎ウイルスにより発症する感染症です。この感染症は子猫や高齢猫に多いといわれており、一度でも感染し発症すると致死率が約100%なため、非常に危険な感染症でもあり「FIP」と呼ばれています。
猫伝染性腹膜炎の症状
- 発熱
- 食欲の低下、体重減少
- 下痢や嘔吐
発熱や元気消失、食欲の低下に伴い次第に体重減少がおきます。特に子猫の場合は栄養不足により、発育不良がおきてしまいます。他にも下痢や嘔吐などの消化器症状や黄疸も起こります。
猫伝染性腹膜炎は症状から「ウェットタイプ(滲出型)」「ドライタイプ(非滲出型)」に分けることができ、それぞれ見られる症状に違いがあります。
ウェットタイプ(滲出型)
- お腹が膨れる
- 呼吸困難
ウェットタイプの特徴的な症状は、腹膜炎・胸膜炎などにより腹部や胸郭水が溜まってしまい、腹水や胸水の貯留がおこります。そのため、お腹が異様に膨れてしまい、呼吸が苦しくなり呼吸困難をおこします。
ドライタイプ(非滲出型)
- 肉芽腫
- 痙攣
一方でドライタイプの場合は、ウェットタイプのような胸水や腹水の貯留はおきず、肝臓・腎臓などの臓器や眼・脳などの炎症により肉芽腫ができます。肉芽腫が脳にできれば、ケイレン発作などの神経症状、眼の場合はブドウ膜炎などできた部分によって現れてくる症状が異なってきます。
猫伝染性腹膜炎の原因
猫伝染性腹膜炎を引き起こす根本的な原因は、猫腸コロナウイルスといわれており、ウイルス自体は非常に弱いため感染しても無症状や軽い下痢で済みます。
しかし、何らかのキッカケで猫コロナウイルスが突然変異がおき、猫伝染性腹膜炎ウイルスになることがあります。猫伝染性腹膜炎ウイルスは、伝染力が弱いため通常であれば感染する確率は少ないですが、突然変異する前のコロナウイルスは、簡単に感染するためトイレの共有やグルーミングによる猫同士の舐め合いにより感染します。
猫伝染性腹膜炎の治療法
現在では猫伝染性腹膜炎に対する有効な治療法はないため、成猫で1年、子猫は1〜2か月ほどで命を落としてしまいます。そのため感染症により痛みや苦しみから緩和させてあげる、延命処置が主な治療法となります。
猫伝染性腹膜炎を発症すると免疫機能の激しさで体が壊れてしまうため、免疫機能をコントロールさせるために免疫抑制剤やインターフェロンの投与をします。また点滴療法や2次感染予防に抗生物質を投与したり、腹水や胸水が貯留している場合は利尿剤も使ったりします。
猫の感染症3.猫免疫不全ウイルス感染症
猫免疫不全ウイルス感染症は、体を守る働きをする白血球がつくることができず免疫不全症候群を引き起こす感染症でもあり、「猫エイズ」とも呼ばれています。
猫免疫不全ウイルス感染症の症状
初期症状
- 発熱、食欲不振
- リンパ節の腫れ
- 口内炎
- 下痢、嘔吐
初期症状は特徴的な症状がなく発熱や食欲不振、リンパ節の腫れ、口内炎、下痢や嘔吐などの症状からおこり、数週間〜2か月間ほど続きます。その後症状が現れない潜伏期間に入り数か月〜数年間続き、中には潜伏期間後も症状が発症しないまま一生を全うする猫もいます。
猫免疫不全ウイルス感染症を発症した時の症状
- リンパ節の腫大
- 傷の治りが悪い
- 貧血
原因であるウイルスが動き出し、猫免疫不全ウイルス感染症を発症すると免疫細胞が異常に活発となるため、全身のリンパ節が腫大します。この感染症は白血球をつくることができず、免疫力が徐々に低下していくので口内炎や傷の治りが悪く、なかなか治らなかったり、皮膚にも症状が現れたりしてきます。
また猫免疫不全ウイルス感染症は骨髄に感染するので、白血球のみならず赤血球もつくることができなくなるため貧血に陥ります。そして最終的には完全に免疫機能が働かなくなってしまうため、侵入してくる細菌やウイルスなどに対して抵抗できず負けてしまい命を落とします。
猫免疫不全ウイルス感染症の原因
この感染症の原因である猫免疫不全ウイルスは、感染している猫の唾液や血液に多く含まれているため、猫免疫不全ウイルス感染症に感染している猫に噛まれることで感染します。
特に縄張り意識が強いオス猫の方が、メス猫よりも感染率が高く、2倍以上という報告もあります。また母猫が猫免疫不全ウイルス感染症に感染していた場合、生まれてくる子猫も感染している可能性があります。
猫免疫不全ウイルスは唾液や血液に存在しますが、弱いウイルスであるため、空気感染やグルーミングによる猫同士の舐め合い、食器の共有をしても感染しにくいといわれています。しかし、油断は禁物です。
猫免疫不全ウイルス感染症の治療法
残念ながら、猫免疫不全ウイルス感染症に対する治療法はありません。そのため、発症し現れた症状や病気に合わせて行う対症療法となります。
感染症にかかっている猫でも、症状が出ていない場合は特に治療することがありませんが、免疫力を維持させるためにインターフェロンの投与を行います。ですがこの感染症は体を守ってくれる免疫機能が低下してしまうので、傷の治りが悪かったり、様々な病気にかかったりしてしまうため対症療法しても限界があり、期待する効果が得られないこともあります。
猫の感染症4.猫白血病ウイルス感染症
猫白血病ウイルス感染症は、原因である猫白血病ウイルスに感染することで発症する感染症です。猫免疫不全ウイルス感染症とともに、猫にかかる代表的な免疫疾患の感染症でもあります。
猫白血病ウイルス感染症の症状
- リンパ節の腫大
- 発熱
- 元気がない、食欲低下
- 下痢
- 脱水
- 口内炎
- 貧血
- 呼吸困難
猫白血病ウイルス感染症にかかった場合、約2〜6週間後に猫の体全身にあるリンパ節の腫大や発熱がみられます。また元気・食欲低下や下痢、脱水、口内炎などをおこすことがあります。白血球の数が減少し免疫力が下がってしまうため、病気や傷の治りが悪くなるので、下痢が続いたり、口内炎が治らなかったり、歯茎が白い、体重減少などの症状が長期間続きます。
その後リンパ腫や腎不全、慢性的な口内炎、貧血など様々な病気をおこすようになります。白血球・血小板の数が減少するため免疫不全に陥り、免疫介在性溶血性貧血や呼吸困難をおこしてしまい、最終的には命を落とします。
発症すると対症療法的な治療を行っても1〜3年以内に死亡してしまうといわれています。
猫白血病ウイルス感染症の原因
猫白血病ウイルス感染症の原因であるウイルスは、感染している猫の唾液や血液に多く存在するため主に、感染猫と喧嘩した際にできた傷口やグルーミングによる猫同士の舐め合い、食器の共有で感染することがあります。
また母猫が猫白血病ウイルス感染症に感染している場合は、母子感染により生まれてくる子猫に感染することもあります。
猫白血病ウイルス感染症の治療法
猫白血病ウイルス感染症も完治する治療法がないため、感染し発症した症状や病気に合わせて行う治療法となります。リンパ腫を発症している場合は抗がん剤や放射線治療、外科的手術などを行い、免疫力が低下している場合は、インターフェロンや抗生物質を投与し免疫力を高めます。
しかし発症した病気や症状に合わせた対症療法を行うことはできますが根本的な治療方法がありません。そのため、猫白血病ウイルス感染症が発症した場合の余命は、約2〜3年といわれています。
猫から人にうつる感染症
猫ひっかき病
猫ひっかき病は、猫にひっかかれたり咬まれたりすることで、人に感染する人獣共通感染症でもあります。原因であるバルトネラ菌を保有したノミに吸血された猫から、ひっかかれたり咬まれたりしたときにできた傷口から人にうつります。
症状
- 傷口の腫れ
- 発熱、疼痛、リンパ節の腫れ
- 痙攣、意識障害
このバルトネラ菌は、猫にとっては常在菌なため猫に感染しても症状が現れてこないですが、人に感染した場合、数日〜2週間の潜伏期間後に傷口やその周囲の皮膚が大きく赤く腫れあがり、膿が出てくる場合があります。
また発熱、疼痛、リンパ節の腫れなどもおこり、数か月間続きます。
重度になるとリンパ節の腫れが起きてから1〜3週間後にケイレン発作や意識障害をおこし、脳炎を発症してしまう恐れがあります。
治療法
人に感染しても通常であれば自然治癒で治ることが多いですが、リンパ節の腫れや疼痛がひどい場合は抗菌薬を投与する場合があります。
しかし元々HIV(ヒト免疫不全ウイルス感染症)などの免疫疾患を持病として抱えている人や免疫力が低下していると重症化になりやすく、全身に広がってしまうため場合によっては死亡する恐れがあります。
トキソプラズマ感染症
トキソプラズマ症の感染症は猫だけではなく、感染した猫から人にうつる病気であり人獣共通感染症の一つでもあります。
原因であるトキソプラズマという原虫は猫や犬、豚、ウサギ、フェレットなどの哺乳類や鳥類に感染しますが、ネコ科動物以外はトキソプラズマに感染しても体外に出てくることはありません。
そのため、ネコ科動物だけが感染源であるトキソプラズマの虫卵を便と中に排泄されるため、それを触れた手で食事をしたことで口から体内に侵入し感染します。
胎児への影響
人に感染しても大人の場合は症状が現れないことが多く、発熱やリンパ節の腫れがおこることがあります。
しかし感染歴がない妊婦が妊娠初期にトキソプラズマに感染してしまうと、胎盤を介して胎児にうつってしまい高い確率で流産や死産をおこしたり、出産しても生まれてきた子が先天性トキソプラズマ症を発症したりします。
その場合、重度な後遺症を残す場合があり、テンカン発作などの神経症状や水頭症により脳に大きなダメージをあたえてしまい、その結果運動障害や視力障害をおこしてしまう場合があります。
猫がトキソプラズマを便で排出するメカニズム
猫の便にトキソプラズマの虫卵を排出するのは、猫が初めてトキソプラズマに感染したときのみで、感染してから3〜24日後に便に排出が始まり10日ほどまで続きます。
その後はトキソプラズマの虫卵を排出することはないため、トキソプラズマに既に感染している猫の場合は心配ありませんが、逆にトキソプラズマに感染していない猫の場合は注意が必要です。
まとめ
猫にかかる感染症はいくつかあり、ほとんどは感染している猫との接触により感染します。
今回紹介した「猫パルボウイルス感染症」「猫伝染性腹膜炎」「猫免疫不全ウイルス感染症」「猫白血病ウイルス感染症」の4つの感染症は、残念ながら現段階では完治する有効な治療法がありません。
そのため現れてくる症状に合わせて行う治療方法となってしまうため、発症してしまうと予後が厳しいのが現状です。
特に子猫に感染すると体力がないため、一気に衰弱し数日で命を落としてしまうことも少なくありません。
感染させないように予防することしかありませんので、ワクチン接種を毎年欠かさず接種したり、免疫力を下げないように清潔でストレスのない生活環境を整えたりすることが大事です。
最近では、保護団体から猫を引き取り飼育する飼い主さんが増えてきましたが、その保護猫の中には猫免疫不全ウイルス感染症や、猫白血病ウイルス感染症などの感染症を持っている可能性があり、既に先住猫がいる場合はうつる恐れがあるため注意しなければいけません。
猫免疫不全ウイルス感染症と猫白血病ウイルス感染症は、動物病院で検査することができます。
猫の感染症の中には人にもうつるものが存在するため、特に猫を飼っている飼い主さんは知っておく必要があります。
猫から人にうつる人獣共通感染症の中には、猫に感染しても無症状ですが、人にうつると何らかの症状が出てきたり重症化したりすることもあります。
またトキソプラズマ感染症のように、妊婦に感染するとお腹にいる胎児にも影響が及び、流産や死産、あるいは後遺症を持って生まれてくることもあるので注意が必要です。
猫と生活するに当たってお互いが健康で過ごせるように、この機会を通して少しでも感染症について理解していただけたら幸いです。