猫伝染性腹膜炎って何?
「猫伝染性腹膜炎 Feline Infectious Peritonitis」もしくは、英語の頭文字をとって、「FIP」という病気を、みなさんはどこかで聞いたことがあるかと思います。
これはとても恐ろしい感染症で、発症した場合、そのほとんどは命を落としてしまう、致死率の高い感染症です。
治療法も確立されておらず、よくわかっていない部分も多いものであり、本当に数ある猫ちゃんの感染症の中でも、やっかいなものになります。
猫が猫伝染性腹膜炎になる原因
猫コロナウイルス
この病気は、「猫伝染性腹膜炎ウイルス」が原因で引き起こされます。
このウイルスは、「猫コロナウイルス」というウイルスで、実はこの猫コロナウイルス自体は、多くの猫ちゃんが持っていると言われています。
ある報告によれば、純血種の猫ちゃんの約6割が抗体(そのウイルスと戦うためにできたもの)を持っており、雑種の猫ちゃんは約3割が抗体を持っているそうです。
ここでまず覚えてほしいことは、この報告から、純血種の子の方が抗体を持っている確率が高い、つまり、多頭飼育や繁殖施設でもらってくる可能性が高いという点です。
コロナウイルスだけではFIPは発症しない
では、なぜコロナウイルスを持ってる子が多いのに、発症する子と発症しない子がいるのでしょうか。実は、ただの「猫コロナウイルス」は「FIP」を引き起こしません。
「猫コロナウイルス」が変異を起こして、「猫伝染性腹膜炎ウイルス」になることで、初めて「FIP」が引き起こされるのです。
猫コロナウイルスを持っている猫ちゃんのうち、5〜12%がFIPを引き起こすともいわれています。
猫伝染性腹膜炎の特徴
子猫、老猫で発症することが多い
FIPを発症した猫ちゃんの約7割が、1歳未満とされています。
もちろん、どの年齢でも発症するリスクはありますが、若い子と高齢の子での発症が多いとされています。
純血種に多い
そして、これは私の印象ですが、雑種の猫ちゃんよりも純血種の猫ちゃんの方が多い印象があります。これは上記でお話しした通り、繁殖施設などで感染するリスクが高いからだと思われます。
猫伝染性腹膜炎の症状
FIPには、2つのタイプがあります。
滲出(しんしゅつ)型(wet type)
名前の通り、
- 胸水
- 腹水
が溜まってくることが特徴です。お水のような液体ではなく、ドロッとした黄色の液体が溜まり、呼吸が苦しくなったり、お腹が膨れてきたりします。
非滲出(ひしんしゅつ)型(dry type)
いろいろなところに、「肉芽腫性病変」(しこりのようなもの)というものを引き起こし、様々な病態を引き起こします。特に目に症状が出やすい印象があります。
例えば、この肉芽腫が脳にできてしまえば、神経症状を引き起こします。
他には、
- 食欲不振
- 発熱
- 下痢
- 嘔吐
など、一般的に見られるような症状も見られます。
猫伝染性腹膜炎の診断
確定診断がとても難しいのも、この病気の特徴です。
特徴的な症状から仮診断はできるものの、確定診断のためには、病変部や胸水、腹水からそのウイルスがいるかどうかを病院外の検査センターに送って、確かめなければいけません。
ただ、これには多少の時間がかかること、たとえわかったとしても、確実な治療法がないことなどから、仮診断のまま治療に踏み切る獣医さんも多いかと思います。
猫伝染性腹膜炎の治療
治療法はない
根本的な治療法はありません。それがこの病気を難しくさせているところでもあります。
- 抗炎症薬の投与
- インターフェロン
- 点滴
- 水(腹水・胸水)を抜く
この病気の主体は、免疫の異常と体に炎症が起きているという点ですので、抗炎症薬の投与や、インターフェロンという、自分の免疫をあげるようなお薬が使われます。
あとは症状にあわせての対症療法が主な治療法となってしまいます。
例えば、点滴をしたり、お水がたまって苦しいならお水を抜いたりするような治療が行われます。
まとめ
この病気は1度発症してしまうと、ほとんどが命を落としてしまう病気です。
そして予防ができないということも大きな問題でもありますが、発症の要因に、
- ストレス
- 免疫低下
があげられてもいるので、難しいですが、なるべくストレスをかけずに猫ちゃんらしい生活をすること、そして多頭飼育や繁殖施設での感染が多いことから、しっかりとした衛生管理をすることも大切です。
まだまだわからないことが多いのもこの病気の特徴です。
多くの研究者の方が治療法などを研究されていますし、いろいろなお薬の効果も報告されていますが、なかなかまだ確実な治療法の発見には至っておりません。
私も、はやく治療法が確立され、多くの猫ちゃんの命が救われることを願っています。