猫の「分離不安」とは?
「分離不安」とは?
「分離不安」とは、簡単に言えば「飼い主さん依存症」です。犬に多い病気で、最近猫にもみられるようになってきました。
依存のもととなるのは「恐怖」や「不安」の感情で、
- 置き去りにされるのではないか
- (1匹の時に)恐ろしいことが起きるのではないか
- なぜ一人ぼっちにされるのかわからない
という思いが原因と言われます。
そして、その恐怖や不安を振り払うために猫が必死に行動を起こした結果、飼い主さんにとって不愉快な出来事が起こってしまうのです。
不安が引き起こす依存状態
1匹でいる時に大きな不安にかられるのは、ひと言で言えば猫に自信がないかもしれません。
猫は怖いことがあれば、その場から逃げ出すことで怖さを解消しようとします。しかし、室内飼いの猫の場合、よほど大きなお家でも走って行ける場所がありません。それでも縄張り内(家の中)をきちんと把握し、体力にも自信を持っている猫なら、何かあってもそれをうまくかわすことができます。
ところが、縄張りや体力に自信のない猫はそれが上手にできません。そのため、常に不安を抱えることになり、飼い主さんに甘えてその不安を和らげようとするのです。
具体的な問題行動とは?
飼い主さんの在宅時に
- どこへでも(トイレの中でも)ついてくる
- とにかく膝に乗りたがる
- トイレやお風呂場のドアを閉めると大声で鳴く
- 外出を嫌がって大騒ぎをする
また、外出中に
- 留守中大声で鳴く
- 粗相をする(トイレの失敗やマーキング)
- 部屋の中を荒らしたり、物を壊わしたりする
- 体調を崩す(食欲不振や下痢嘔吐など)
- グルーミングのし過ぎ(はげるまでお腹を舐めるなど)
粗相や体調を崩すこと以外は、一見するとどんな猫でもしそうなことで、むしろ可愛さ倍増の瞬間かもしれません。しかし、これがだんだんエスカレートしてくると、可愛いだけではすまされなくなってくるのです。
原因は大きく分けると5種類
「分離不安」になる原因は、生まれながらの気質も多少関係あるかもしれません。シャムや、ポインテッドなどの甘えん坊気質の猫は、なりやすいのではないかと言われています。しかし、それが影響するのは育て方や環境次第。ほとんどの場合は、生まれてからの経験が原因となっているようです。
1. 生育環境
- 捨てられた経験がある
- 保護施設育ちで、あまり構われなかった
- ペットショップ時代が長かった
子猫時代、人間と上手くつながれないと猫は人間嫌いになります。しかし、いったんつながった経験を持つ猫は、人間を心から受け入れてくれるようになります。もし、そんな絆が出来上がった後に捨てられたり、隔離されるような環境に置かれると、また捨てられるのではないかと不安がり、極度の甘えん坊になっても少しもおかしくはないでしょう。
2. 環境の変化
- 引っ越し
- 進学や就職で家族が不在がち
- 家庭の事情で、長期間よそに預けられた
- 猫自身の長期の入院治療
- 結婚や出産で家族が増えた、減った
- 保護猫のトライアルで何度もNGになった
環境の変化は心身共にきついものです。人間でもしんどいのですから、理由も分からない猫にはなおさらです。ですから、辛い時期を乗り越えた後に、一時的に飼い主さんべったりになるのは、とても自然なことでしょう。しかし、その後も家庭内が落ち着かなかったりすると、猫の気持ちが静まらず、そのまま分離不安状態へ突き進むことがあるようです。
3. 飼い主さんとの距離が近い
- 留守番の経験が少ない
- ひとりっ子
- 飼い主さんが世話を焼き過ぎる
- 飼い主さんがペット依存症である
室内飼いの猫は、食事もトイレも室温管理も全て飼い主さん任せです。家の中に閉じ込められている状態ですから、生活全般を依存するしかありません。つまり、どの飼い猫も、ある程度の「飼い主さん依存症」ではあるのです。
しかし、心身共に健康な猫であれば、どんなに物理的に飼い主さんに依存していたとしても、精神的には自立し、どこででも生きられる野生味を失うことはありません。
ところが、飼い主さんが必要以上に猫にのめり込んで世話をしていると、猫も飼い主さんへの精神的依存度を高めていきます。最初は「とっても仲良し」だったのが、だんだん「なくてはならない存在」になり、最終的には双方向で依存し合う「共依存」になっていきます。
4. 留守中のアクシデント
- 留守中に地震や雷、大きな工事の音などがした
- 飼い主さんがなかなか帰らず、空腹感や不安感を味わった
それまで留守番が平気だった猫が、ある日を境に留守番を嫌がり、ストーカー的な行動をとり始めることがあります。そういった場合は、留守中に何か恐ろしいことがあったのかもしれません。
この場合、普通は数日経てば落ち着いてくるものですが、外出が重なったり似たようなことがまた起きたりすると、なかなか元の状態に戻れなくなることがあるようです。
5. 加齢・病気
- 認知症になった
- 耳が遠くなった
- 病気で具合が悪い
猫は年をとると共に、全般的に飼い主さんへの依存度を高めていく傾向にあります。また、病気で具合の悪い時も、初期の段階ではいつになく甘えん坊になるようです。
加齢や病気で身体が上手く動かない時に、猫が飼い主さんを頼るのは当然のことでしょう。しかし、ひどくなると夜昼を問わずにSOSを出すようになるのが、加齢や病気の特徴です。あまり活発には動けなくなるので、ストーカーと言うよりは、いつも猫に呼ばれているような状態になり、夜もおちおち寝ていられなくなります。
猫を分離不安から解放するには?
猫を分離不安から解放するには、猫の状態を把握し、ステップを踏んで問題解決への手がかりを見つけましょう。
分離不安解消の目標とは?
分離不安の状態にある猫は、飼い主さんが常にそばにいれば幸せかと言うとそうではありません。いなければもちろんのこと、一緒にいる場合でさえ、常にいなくなることを恐れているからです。
ですから、飼い主さんが常に家にいることが解決方法なのではありません。飼い主さんがいなくても1匹で眠り、1匹で留守番ができるほど、猫に自信を持たせることが目標です。
ただし、病気や認知症の場合には少し難しいかもしれません。彼らに対しては、安全面も含め、少しでも安心できる環境を整えることが目標となるでしょう。
破壊行動の意味を理解する
帰宅して、猫が粗相していたり何かを壊していたりすると「猫が仕返しをした」と考える方が多いのですが、それは間違いです。
猫の生態上、外出中の思いがけない場所でのおしっこやうんちは、不安のあまり縄張り強化を図ったものだと考えられます。また、猫が飼い主さんの嫌がることを繰り返したとしたら、それは飼い主さんの注意を引くためにやっている可能性が高いでしょう。普段から「これをすれば飼い主さんが怒って出てくる」ことを、猫は学習して知っています。おそらく猫は「怒らせれば帰ってくるかも」と、破壊行動を繰り返しているのでしょう。
退屈のあまり、普段はできないことにチャレンジしただけという可能性もあります。困った問題行動も、猫が不安を解消するためだったと知れば、多少優しい気持ちになれるのではないでしょうか。
猫に自信をつけさせる
不安でいっぱいの猫に自信を付けさせるためには、とにかくたくさん遊んであげるのも1つの方法です。不安を感じている時、猫は遊びません。逆に、部屋の中で思い切り遊べるようになれば、体力も自信も身に付き、部屋の中で堂々としていられるようになるものです。さらに、運動後の程良い疲れから、わざわざ飼い主さんに身体を寄せなくても、寝床でぐっすり眠るようになるでしょう。
しかし、つきまといがもう少し深刻な場合には、お留守番トレーニングが有効です。まず、数分から始め、少しずつ距離をおく練習をします。同じ部屋にいることに慣れたら、次は姿を消す練習をします。別の部屋へ行き、また帰ってきます。これが平気になってくれば、次は外に出てみます。そうやって少しずつ離れている時間を増やしていくのです。
そのためには、ひとりで遊べるおもちゃを用意したり、遊びで身体を疲れさせたり、いざと言う時用のシェルターを用意したりと、猫が安心して楽しく過ごせるような環境整備も欠かせません。
それでもダメなら薬に頼る
分離不安があまりに深刻な場合には、薬に頼ることも考えましょう。時に脳にダメージを負っていることもあるからです。
仮に症状が軽くても、ひとりで悩まず獣医さんに相談してみるのもいいでしょう。分離不安に対する知識や知恵をいただけますし、抗うつ剤のような本格的なお薬から、サプリメントによる不安の緩和方法も提示してくれます。また、病院によっては、針やお灸、漢方薬などの東洋医学からのアプローチも存在します。
原因究明も、獣医さんとならはかどるかもしれません。自分だけで抱え込まないというのも、早期解決の糸口ではないでしょうか。
まとめ
猫が「分離不安」つまり「極度の飼い主さん依存症」になることがあるのは、猫を限られた空間で飼育する以上負わなければならないリスクなのかもしれません。依存症というのはきついものです。
つい猫の問題行動ばかりに目が向いてしまいますが、猫が苦しんでいることにも目を向けてください。原因を探ることで猫の辛さを知り、そして、不安解消への第1歩を踏み出していただければと思います。