老化という落とし穴
いきなりプライベートな話で申し訳ないのですが、先日19歳の長男猫を看取りました。その時、介護の時間を振り返って気づいたことがあったのです。それは、晩年の彼の問題ともいえる行動が、もしかすると認知症の症状だったのではないかということでした。
今考えると、色々なことが認知症の症状と合致します。しかし、生きている間は腎臓などの持病ばかりが気にかかり、認知症にまで考えが及びませんでした。それほど少しずつの変化でしたし、不可思議な行動も「年をとったのだから仕方がない」と考えていたからです。そして、夜鳴きが3年以上続いたにも関わらず、1度も獣医さんに相談しませんでした。
診察を受けていないので、彼が本当に認知症だったかどうかは不明です。しかし、もし、もっと早い段階で認知症を疑っていれば、そして獣医さんに相談していたならば、彼の晩年と私たち家族の生活はもう少し違うものになっていたかもしれません。
認知症ってどんな病気?
猫の認知症は何歳ぐらいから始まるの?
「認知症」とは、「日常生活がうまくいかなくなるほど、記憶力や思考力が低下する病気」のことです。様々な原因で起こりますが一般的に、老化に伴い脳に「老廃物」が溜まって起こる病気のことを指しています。
ある研究によれば、猫はだいたい8歳ごろから老廃物が溜まり始め、認知症の症状が出始めるのは11歳前後だとされています。(14~15歳だという人もいます。)
認知症の前触れ?
猫が「高齢」といわれるようになるのは7歳からです。7歳といえば、高齢用フードに買い換える時期ですね。そして、猫たちも以前に比べると
- 動きが鈍くなる
- 寝てばかりいる
- 食べ物の好みが変わる
など、行動や生活様式に変化が現れ始めるころです。
しかし、一見「年をとったから当たり前」に見えるこれらの変化も、実は認知症の前触れであることがあるようです。
認知症の診断は難しい
猫の認知症は、いわば消去法で決まる病気です。例えば病院の診察室に、最近気の荒くなった高齢猫がいるとしましょう。攻撃的になるのも認知症の症状の1つですから、飼い主さんが心配して連れてきたのです。
このような場合、獣医さんはまず身体に異常がないかを調べます。もしかすると骨や関節に問題が起き、痛さで怒っているのかもしれないからです。身体に異常がなければ、生活環境に変化がなかったかを飼い主さんに尋ねます。さらに問題がなければ、他の認知症の症状のある、なしなどを考え合わせ最終的に認知症の診断を下します。
認知症は治らないが予防法や対症療法はある
認知症は治りません。しかし、進行を遅らせるための研究は日々行われています。また、予防効果が見込めるフード、症状を緩和する薬や問題行動を回避するアイデアなどもたくさんあります。
我が家のように「老化だから仕方ないね」で済ませるのではなく、ぜひ何度でも獣医さんのところへ足を運び相談してみてください。
こんな症状があったら認知症を疑ってみよう!
認知症のチェック方法は色々ありますが、ここでは8項目挙げてみました。猫が認知症だと判断できるのは獣医さんだけですが、猫の変化を見つけられるのは飼い主さんだけです。7歳以上になったら時々チェックして、脳の健康度を測ってみてください。
1. あまり遊ばなくなる
百戦錬磨の高齢猫は人間の遊び方が下手だと相手にしてくれません。しかし、認知症の場合は面白くないというよりは、物事に対する興味を失って遊ばないという感じです。何か物音がしてもぱっと振り向かないなど、何となく反応が鈍いなと感じる場面が増えているかもしれません。
2. 飼い主さんにつきまとう
年を取って飼い主さんのストーカーになる猫がいます。常に飼い主さんにくっつきたがり、姿がなければ大鳴きして探し回ります。しかし、これは猫が不安を抱えている証拠。おそらく、判断力が低下して自信を失い、常に飼い主さんに触れて安心を得ようとしているのでしょう。
3. 食事の量が減る、または食べ過ぎる
食が細くなったり、あるいは食事をして間もないのにおやつをせがむようになったりします。この場合は認知症だけでなく、命に関わる病気が隠れていることも珍しくありません。食事量の増減がある場合には、とにかく検査を受けましょう。
4. 時々立ち止まって考え込こむ
どこかへ行こうとしてふと立ち止まり、じっと動かなくなります。まるで、何をしようとしてたか、どこへ行こうとしていたのかを忘れてしまい、困惑しているかのような姿です。ただ考えているだけかもしれませんが、本当にどうしていいのか分からなくなっている可能性もあります。
5. トイレの失敗
いつもと違う場所で用を足すことがあります。便秘や膀胱炎が原因であることも多いのですが、もしかするとトイレの場所が分からなくなって、耐えられずにそこにしてしまったのかもしれません。
6. 攻撃性が高まる
ちょっとしたことで突然怒り、他の猫や人間に攻撃をしかけることがあります。人間の場合でも、認知症の人は怒りの発火点が低くなっていることが知られています。猫も同じようなメカニズムで、怒りっぽく攻撃的になるのかもしれません。
7. 大声で鳴く(特に夜中)
理由は分かりませんが、突然大きな声で鳴き始めます。昼間鳴くこともありますが、夜中に鳴くことが多く問題となります。我が家では1~2時間おきに鳴いていましたので、常に誰かが睡眠不足でした。
8. 家の中をうろうろする
犬の徘徊は有名ですが猫にも見られます。当の犬や猫は、きっとどこかへ行く途中なのです。そして、迷子になっているのでしょう。部屋中をうろうろする場合もありますが、我が家の場合は猫ベッドから水飲み場の間を何度も往復していました。
医学的に見た認知症の症状「DISHA(ディーシャ)」
せっかくですので、もう1つ、医学の分野で使われている認知症の分類方法をご紹介しましょう。「DISHA」と呼ばれ、5つのタイプに分かれます。先ほどの8つは、この中から特によく見られる行動をピックアップしたものです。
D( Disorientation 見当識障害)
見当識とは、「自分が何者で、どこにいて何をしているかを判断する能力・機能」のことです。この機能が低下すると自分がどこにいるか分からなくなり、家の外はもとより、家の中でも迷子になったり、場合によってはつまずいたりぶつかったりします。また、家族や仲の良かった動物の認識が難しくなることもあるようです。
I(Interaction 接し方の変化)
見当識に問題を抱えた猫は、自分の置かれた状況が分からないので常に不安を感じています。その結果、不安を満たすために信頼する飼い主さんを頼りにし、つきまとったり過度に甘えるようになりがちです。また、相手のことが誰だか分からなくなっている場合には、飼い主さんであっても無視したり、攻撃的になったりするようです。
S(Sleep-wake cycle 睡眠周期)
体内時計が狂うのでしょうか、昼間寝て夜活動することが増えるようです。また、睡眠と覚醒の時間がずれてしまい不規則になってしまう傾向もあります。
H(House soiling トイレの失敗)
自分の居場所が分からなければ、当然トイレの場所も分からなくなります。また、猫は自分の居場所に不安を感じると、縄張り宣言(つまりマーキング)をして不安を解消しようとする傾向があります。その結果、トイレ以外で用を足すようになるのです。いずれも故意にやっているのではありませんから、怒っても効果はありません。
A(Activity 活動の変化)
今までとは違う行動、しかも「どうして?」と首をかしげたくなるような行動を取り始めます。フードを異常に食べる、部屋の中を無目的にうろつく、夜中に大きな声で鳴く、始めたグルーミングが終わらないなどが挙げられます。
まとめ
猫の認知症でよく見る症状を8つ挙げてみました。人間同様、猫の場合もある程度なら認知症の進行を遅らせたり、症状を緩和することが可能です。
ですから、7歳を超えたら折に触れてチェックをし、気がつくことがあればその都度獣医さんに相談しましょう。しかし、心穏やかに暮らすためには、「年をとったら仕方がない」と、老いをそのまま受け入れることも大切です。
我が家のように片方に偏ることなく、バランスをとりながら長寿生活を送らせてあげられるなら、それが1番幸せなのではないでしょうか。