猫の宿命「腎臓病」とは?患いやすい理由、主な症状から治療の流れまで現役獣医が解説

猫の宿命「腎臓病」とは?患いやすい理由、主な症状から治療の流れまで現役獣医が解説

シニア猫ちゃんにとっては、最も飼い主さんが気にされている病気の一つ「腎臓病」。早期発見するために気を付けておきたいサインや、治療について解説していきます。

猫の「腎臓」とはどんな臓器?

水を舐める猫

腎臓は、体内の不要な代謝物を外に排泄する器官であり、同時に水分や電解質の濃度調整もおこなう重要な臓器です。

背中側にある左右一対の豆型の臓器であり、猫ちゃんの体型によっては触診で身体の外から触れる場合もあります。

左右の腎臓からはそれぞれ尿管が出ており、膀胱に繋がっています。さらに膀胱から尿道を通り、尿が排泄される流れです。

猫に腎臓病が多い理由とは?

猫は元々砂漠地方などの生物であり、飲水量が少なくても生きていけるように尿を濃縮する能力が高く、

その分腎臓に負担がかかりやすいのではないかと考えられています。

猫の死因の多くを占め、加齢によって発症する腎臓病は「猫の宿命」とまで言われるほどです。

猫の「腎臓病」の症状

検査を受ける猫

腎臓病は早期発見がとても難しい病気です。血液検査で腎臓の値が高くなる頃には、腎機能の1/2~3/4が失われている状態です。

定期的な健康診断での腎機能のチェックは勿論、ご自宅でも猫ちゃんのこんな症状に気を付けて見てください。

尿量が増える、尿が薄くなる

腎臓は流れてくる「原尿」から多くの水分を再吸収し、濃縮して尿にします。

その機能が衰えるため、水分を十分に再吸収できず薄い尿が多量に出るようになります。

若いころに比べて尿の匂いが少なくなった、色が薄くなったなどのサインは見逃さないようにしましょう。

水をよく飲む

腎臓での水分の再吸収が上手くできなくなると、体外にどんどん水分を排出してしまうため、補うように水を多く飲むようになります。

それでも身体の水分が足りなくなってしまい、脱水を起こすようになります。

多頭飼いのお宅などは、飲水量を日々チェックするのは難しいかもしれませんが

「前より水を飲みに行く姿をよく見るな」と思ったら気を付けましょう。

食欲が落ちる

腎臓病が進行すると「尿毒症」といって、本来腎臓から排泄されるべき毒素や代謝物が体内にとどまって蓄積されていくことで、食欲が低下します。

食べたくても気持ちが悪くて食べられない状態になり、嘔吐などの症状も起きてきます。

痩せてくる

食欲低下により摂取カロリーが減ってくると、「タンパク異化」といって自分の筋肉をカロリーに変えて生命を維持するような働きが起きます。
そのため、食欲低下も相まってさらに体重が減って痩せていきます。

「もう年だから」と食欲低下や体重減少を放っておくと、腎臓病を見逃してしまいます。

口臭が強くなる

尿素やアンモニアが体内に蓄積されることによって口臭が強くなります。高齢の子では歯石や歯周病などによる口臭もあるため、匂いの変化に気を付けましょう。

腎臓病の検査と診断方法

獣医と猫

血液検査

多くの場合はまず、血液検査をおこないます。

尿素窒素(BUN)やクレアチニン(CRE)の上昇がないか、リンやカルシウム、また電解質に異常が出ていないかなどを調べます。

しかし前述したように、血液検査で異常が出る頃には腎機能の多くが失われている状態になります。

若いうちから定期的な血液検査をおこない、変化を見逃さないようにしましょう。

レントゲンや超音波などの画像検査

腎臓の形や状態を詳しく知るために、画像検査をおこないます。

腎臓の大きさに左右差がないか、嚢胞が出来ていないか、腫瘍がないかなどを調べます。

腎機能をはかるために、造影検査をおこなう場合もあります。

腎臓病には急性腎臓病というものもあり、

腎盂腎炎や腎結石などによる障害、腫瘍などの場合には原因を適切に治療することで腎機能の回復が望める場合もあるため、画像検査は欠かせません。

尿検査

腎臓病の状態を把握するのに、尿検査が必要となります。

尿比重を測ることで、尿の濃縮能力がどの程度落ちているかを見ることが出来ます。

また、タンパク尿が出ている場合には予後に影響するため投薬などを開始する場合があります。

膀胱炎が見つかる、またそこから腎盂腎炎を疑うようなケースでは抗生物質の投与が必要となる場合もあります。

血圧の測定

腎臓病が高血圧の原因となる、また高血圧が腎臓病を悪化させる場合があります。
また、高血圧は網膜の出血や剥離を引き起こすことがあり、視力に大きな影響を与えます。

そのため、高血圧が確認されたら血圧を下げる薬を使用します。とはいえ、病院が苦手な猫ちゃんは、それだけで血圧が上がってしまう子もいます。

人間のように待合室に血圧計を置いて測ることは困難なため、定期的な通院や検査でゆっくり慣れていくことが必要です。

腎臓病の治療方法

診察中の猫

腫瘍や炎症、結石などを伴わない腎臓病は、基本的には「治らない病気」です。

徐々に進行していくことで、最終的には死を迎えてしまいますがその進行を上手にコントロールすることが出来れば、年単位で維持することが可能です。

投薬

タンパク尿が確認された時、高血圧が確認された時などには内服薬による治療が提案されます。

猫ちゃんは元々、薬を飲むのが苦手なことが多いです。

食欲があるうちは、フードやオヤツに混ぜることで薬を飲むことができても食欲がなくなってしまうと、それも難しくなります。

若く健康なうちから、「口を触る」「口を開ける」「物を飲み込ませる」ことに慣れさせるようにトレーニングすることが必要です。

近年、腎臓の血流を良くする薬なども開発がされており、腎臓病の初期段階から投薬を提案できることも増えてきました。

また、かかりつけの動物病院と相談しながら、サプリメントなどを上手に活用していくこともできます。

補液

腎臓の血流量を上げ、脱水を改善させ、体内の老廃物を希釈するためにも補液は腎臓病のスタンダードな治療法の一つです。

状態の悪い時には、入院して静脈からの点滴をおこなうことでより迅速に脱水の改善をはかりますが、腎臓の値がある程度落ち着いたら、通院や自宅での皮下点滴に切り替えます。

皮下点滴は水分の吸収はゆっくりですが、短時間で終えることが出来るため猫ちゃんの入院ストレスをなくすことができます。

状態によって数日に一度、1週間に一度など、間隔を調整していくことも可能です。

勿論、定期的な血液検査をおこない腎臓の数値が今どの程度なのかを把握していくことが大切になります。

貧血の治療

腎臓では「エリスロポエチン」という、骨髄に働きかけて赤血球を作らせるホルモンが分泌されています。

腎機能の低下により、このホルモンの分泌も低下し、慢性的な貧血になることがあります。

このため、ホルモン製剤を注射で投与することによって貧血の改善をはかる治療をおこないます。

腎臓病の療法食

市販のキャットフードにも、「腎臓病に配慮した」とうたわれているものが多く存在しますが効果がしっかりと証明されている、動物病院処方の「療法食」を使用することをおすすめします。

また、同じ泌尿器系だからと「下部尿路疾患用」のフードと混同されがちですが組成や効果が全くの別物ですので、お気を付けください。

腎臓病に配慮したフードは、基本的には「タンパク質」「塩分」「リン」を制限していますが「タンパク質」や「リン」は少なければ少ないほど良いというものではありません。

必要最小限の量はキープした上で、カロリーはしっかりと摂らせ、しかも猫ちゃんの嗜好に合い、長く続けられるものが望ましいです。

猫ちゃんは食べ物の好みが厳しい子が多いです。療法食はどうしても、市販のフードに比べて嗜好性が落ちることがありますが各メーカーが味を何種類か用意するなど工夫を凝らしていますので一つの療法食がダメだったからといって諦めずかかりつけの動物病院で相談してみてください。

まとめ

抱えられる猫

腎臓病は治らない病気です。しかし早期に発見し治療を開始し、検査を重ねることによって年単位で病気のコントロール、維持をすることは決して無謀なことではないのです。

猫ちゃんが一日でも長く、辛くない日々を過ごせるように腎臓病のサインを見逃さないようにしましょう。

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