猫のお腹は急所

よく知られているように、猫のお腹は急所のひとつです。お腹には重要な臓器が集中していて、なおかつ、背中と違い、骨によって守られていません。たとえば、野生下で敵にお腹を攻撃されたら、ケガをするか、最悪の場合、命を落としてしまいます。
丸まって眠ったり、お腹側から暖を取ったり、みなさんの愛猫が普段からお腹を大切に扱っているのも、野生時代の習性の名残です。今でも特別な理由がない限り、自らお腹をさらすことはありません。
同じように、繊細な神経が密集しているシッポもまた急所であり、間違って踏んだり、ぎゅっとつかんだりすると、たとえ飼い主さんであれ、怒られるか、飛んで逃げられてしまいます。
猫にとってお腹は、命に関わるデリケートな部位です。では、なぜ現在の飼い猫がそれほど大切なお腹を「ヘソ天」みたいにさらすようになったのでしょうか?そのプロセスと猫の真意について、次のトピックで説明します。
猫がお腹を見せる意味とは?

猫がゴロンと横たわってお腹をさらす状態を「ヘソ天」と言います。「ヘソ天」には、「甘えたい!」「リラックス中!」「ゴハンが欲しい!」「遊んで欲しい!」などの気持ちが込められています。
野生時代には絶対にありえない姿ですが、愛猫が「ヘソ天」を大胆に披露してくれるのも、飼い主さんを深く信頼しているからです。毎日の健康的な食事、居心地のいい寝床、キャットタワーなどの設備面もバッチリ。退屈したら、飼い主さんが率先して遊んでくれます。
猫は、快適な暮らしに満足すると、もともと備わっていた警戒心が消え失せます。そして、身も心も開放的になって、ダイナミックにお腹をさらします。つまり、「ヘソ天」とは、飼い主さんを含め、今いる環境が猫にとって「楽園」そのものであることの証です。
ところが、ひと筋縄ではいかないのが猫で、同じお腹をさらす状態でも、ケンカ中ではまったく違った意味が出てきます。
次のトピックでは、ケンカ中の「腹見せ」行動にどんな真実が隠されているのか、解き明かしていきます。
ケンカ中の「腹見せ」は起死回生の一撃を狙う!?

業界筋では、猫の戯れ合いをプロレスにちなんで「ニャンプロ」と言いますが、その最中に、一方の猫がダラリと寝そべって、相手猫にお腹をさらす場面があります。
一見すると、犬のケースと同じで、戦意喪失、全面降伏、つまりは「負けました!」と降参する姿に思えるかもしれません。
実は、熱狂的な「ニャンプロ」ファンである観衆(飼い主さん)の予想とは異なり、お腹をさらした側の猫は、まさに相手猫への反撃を冷静に狙っています。
その証拠に、今度、白熱する一戦を試しにじっくり観察してみてください。ケンカ中、「参りました!」ポーズの猫が相手の攻撃を4本の脚で制しつつ、なおかつ、スキを狙って反撃に転じていることがよくわかるはずです。
4本脚で立つ猫は、通常、攻撃を仕掛けようにも前脚の2本しか使えません。ところが、いったん寝そべりスタイルに転じれば、4本脚を攻守両面で活かせます。
お腹をさらしながら4本脚をバタバタさせる姿は、「ヤダヤダ!」とぐずる幼い子供のように見えますが、いまだ戦意を失わない、猫なりの「ファイティングポーズ」と言えます。
このように、観衆(飼い主さん)を巧みに欺きながらも、我が手に勝利を呼び込もうとする――猫のケンカ中の「腹見せ」行動の背景には、非常に合理的な判断が潜んでいるわけです。
まとめ

普段の猫は急所であるお腹を大切に守って暮らしています。ところが、幸せな暮らしに浸るうちに、「まぁ、いいっか」と大胆な気持ちになって、豪快にお腹をさらしても平気になります。その姿は、まるで無防備な赤ちゃんです。
今回は、ケンカ中の「お腹をさらす」行為に隠された真意を明らかにしました。
結論から言うと、降参しているかのような姿勢は、ズバリ、「反撃」が狙いです。そこには、4本脚を自由に操れるゆえの攻撃性と防御性、両方の目的が含まれています。
今度、愛猫同士のバトルが勃発したら、レフリー役を務めつつ、4本脚の変幻自在な妙技をじっくり鑑賞してみてください。