猫ちゃんと診察のお話|なぜ病院が苦手なの?受診が必要な症状まで【現役獣医が解説】

猫ちゃんと診察のお話|なぜ病院が苦手なの?受診が必要な症状まで【現役獣医が解説】

病院が苦手な猫ちゃんは多く、定期的な受診や予防の際の通院には苦労されている飼い主さんも多いのではないでしょうか。できることなら動物病院に行かなくてもよいのではないか…きっとそんなことを思ったことのある飼い主さんもいるでしょう。なぜ猫ちゃんは病院が苦手な子が多いのか、どうしたら解決できるのか、お話させていただきます。

猫ちゃんは病院が苦手…なぜ?

隠れている猫

病院が苦手な猫ちゃんは多く、定期的な予防接種や体調が悪い際の受診もハードルが高い場合が多いです。

なぜ病院が苦手な猫ちゃんが多いのでしょうか。

嫌なことをされるから

猫ちゃんは自由気ままな生き物です。拘束をされたり、自分が嫌なことを無理やりされることを苦手とする子が多いです。

病院は注射や爪切りなどをするために保定をしたり、特に嫌がる場合は処置をするためにしっかりと拘束して抵抗できないようにすることが必要なこともあります。

また去勢手術や避妊手術、入院などで痛い経験やつらい経験をした猫ちゃんにとって、嫌な記憶と病院という場所が結びついていることが多いです。

病院という場所だけでなく、アルコールのにおいや白衣を着た人、獣医さんや看護師さんの声や雰囲気が嫌な記憶と結びついている可能性もあるでしょう。

ほかの動物の声やにおいを感じるから

猫ちゃんは警戒心の強い子が多いです。

病院に来ると、ねこちゃんの知っている生き物以外のにおいがたくさん感じられます。そして嫌がる悲痛な声が聞こえることも猫ちゃんの警戒心を高める可能性があります。

特にご家族や自分以外の動物が苦手な猫ちゃんの場合、警戒心はより強くなるでしょう。

待合室でいろいろなにおいや声におびえながら待つという経験が猫ちゃんにとって嫌な記憶となり、病院が苦手になることも多いです。

とにかく怖いから

おうちが大好きな猫ちゃんが多い中で、お外に出ることが嫌いという子はとても多いです。

おうちの中は自分のテリトリーであるため、リラックスできたり敵に対しては強気になれたりしますが、テリトリー外のお外では自身のにおいもせず、わからないことだらけで怖いと感じる子も見られます。

生活音などに慣れている場合は、おうちの外でも警戒心が和らぐこともありますが、知らない人や知らない動物のにおい、得体のしれない場所や自分の身に起こり得ることなどすべてが怖いと感じる場合があるでしょう。

恐怖心によって、ねこちゃん自身が処置をされる際にパニックになってしまい、押さえられて処置をすることになり、嫌な経験が記憶に残ると再び受診する際に嫌な場所や恐怖が思い出されるように悪循環となってしまうこともあります。

病院はどんな時に行かなきゃダメ?

病院にいる猫

猫ちゃんにストレスがかかり得るのではと考えると、受診を躊躇してしまう飼い主さんもいるでしょう。

しかしその判断が思わぬ命取りになることもあるはずです。どんなときに必ず受診が必要なのでしょうか。

症状がずっと続いているとき

症状といっても様々です。

  • かゆがっている
  • 気持ち悪そう
  • 下痢をしている
  • 歩き方がおかしい
  • 元気がない

気づきやすい症状として以上のことが挙げられますが、実際にはもっとたくさんの症状があります。

一時的なものでありあまりかゆがるしぐさが見られなくなった、一度だけの下痢や嘔吐で食欲がある、一時的に歩き方が変化が見られたがすぐに戻ったなどの症状の場合、様子を見てから受診を検討しても命の危険につながらない可能性が高いです。

疲れや食べたものによる消化器への負担で一時的な消化器症状が見られることもあります。おうちの猫ちゃんの体質や健康状態によって見られやすい症状なども、一緒に生活する時間が長くなってくるとわかるでしょう。

対処方法などを受診した際にかかりつけの先生に聞いておくことも安心につながります。

程度が悪化しているとき

もし様子を見るという選択をしたとしても、期間内であればどんな状態であっても様子を見ていて良いというわけではありません。

例えば、短期間の間にどんどん程度が悪化しているのであれば速やかな受診が必要です。

  • かゆがる時間が長くなった
  • かゆがり方が強くなり傷状になってしまった
  • 下痢や嘔吐の頻度が増している
  • 食欲の減退につながってしまった
  • 元気がない
  • 呼吸の異常も見られるようになった

特に呼吸に関して、猫ちゃんは呼吸数が増えている状態でも滅多に口を開いた状態での開口呼吸は見られることが少ないとされています。

口を開けて呼吸している様子が見られたら、命の危険に直結する可能性が高いため、速やかな受診が必要です。

程度の悪化が見られる場合、様子をそのまま見ていることで更なる症状の悪化につながる危険性が考えられるでしょう。その場合はできれば早めに受診するように方向性を変更することをおすすめします。

命の危険がありそうな場合

すぐに受診をしないと死に直結してしまう危険性のある症状の変化もあります。

  • ぐったりしている
  • ご飯を全く食べない
  • 意識がもうろうとしている
  • 口を開けて苦しそうに呼吸をしている

これらの場合、すぐに原因を究明し、原因に応じた処置をして状態を改善させる必要があります。
原因の究明のために、様々な検査は欠かせません。

最初の段階でお家でできることは少ないため、まずは動物病院を受診しましょう。このような場合、少しの様子見への選択肢の見誤りが生死を分けてしまう場合もあります。

どんなに動物病院が苦手な子であっても受診する選択をしてあげてください。

どうしたらねこちゃんでも病院が嫌いにならない?

キャリーケースにはいる猫

病院が苦手で、こまめな受診ができずに過ごしていると程度が悪化してからの受診になるケースが多いため、処置も多くなり、より病院が苦手になってしまう悪循環を作ってしまうこともあります。

では、どのような対策をとれば動物病院へのハードルが下がるのでしょうか。

病気でないときから動物病院にこまめに行く

猫ちゃんにとって動物病院=痛いことをされる場所という認識につながりがちです。

痛いことだけでなく拘束されて行われる爪切りや耳掃除なども同様に嫌なことという認識をする子が多いです。

例えば体重を測りに行く、聴診をしてもらいにいくなどの比較的猫ちゃんが嫌がらないことをしてもらうために受診をするということなどはおすすめです。

また猫ちゃんの周囲への警戒心などの特性に沿った診療システムや施設をもったキャットフレンドリークリニックと呼ばれる認定基準を満たしている動物病院も存在します。

猫ちゃんの苦手と感じるようなほかの動物の声や気配を感じにくいよう、猫ちゃん専用の待合室や診察室を設けていたり、猫ちゃんだけの診察時間を設定しているなどの配慮をされているかなどの基準が設けられており、基準が満たされている動物病院が猫ちゃんにやさしいキャットフレンドリークリニックとして認められます。

もしかしたら、動物病院を苦手としている猫ちゃんも受診のハードルが低くできるかもしれません。

キャリーケースなどに慣らす

動物病院への苦手意識を減らすことと同時に、移動の苦手意識を減らすことも必要とする場合があります。

動物病院という場所も苦手ですが、苦手な場所に結び付く移動や移動手段となるものも苦手と感じることが多いです。

キャリーケースを見るだけで逃げたり、飼い主さんが出かける準備をし始めるとそわそわして身を隠すというお話も聞きます。

まずは移動手段となるキャリーケースや車に乗ることなどに慣らすことも大切です。

病院に行くときにのみ使用しようとすると、慣れにくい場合もあるため、普段お家で過ごすときにキャリーケースの中でおやつを与えたり、何も移動をせずに車に乗るだけの機会を作り、最初は数分など短い時間から始めて徐々に時間を伸ばして成功できるように慣らすと良いでしょう。

ただし、猫ちゃんはパニックに陥って脱走をする可能性が高いため、キャリーケースなどに入れる際は脱走防止のために施錠をした空間で入ってもらうことや、必ずバッグやキャリーケースなどのしっかりと入り口が閉められるものに入ってもらったうえで車に乗せることなど注意すべき点はあります。

また、あまりにも嫌がったり怖がる場合、猫ちゃんが移動するのではなく往診などの別の手段も検討しましょう。

飼い主さんとの適切な信頼関係を築く

どんなに不安な環境であっても、飼い主さんへの信頼があると声掛けなどで不安が軽減されることもあります。

しかし猫ちゃんはそれぞれ飼い主さんとの距離感も好みが異なります。普段からどのような距離感を好むのか、どんなものを不安に感じてどういったことで安心できるのかということを把握することが猫ちゃんと飼い主さんの適切な信頼関係を築く第一歩になります。

飼い主さんがきちんと猫ちゃんのことを把握して尊重してくれると猫ちゃんから飼い主さんに対して距離を縮めてくれる場合もあります。

どんな関係性がベストという正解はありません。不安な時に飼い主さんの声を聴いたり触れてもらうことで猫ちゃんが安心できる関係性に慣れると理想的でしょう。

まとめ

飼い主と獣医師

動物病院への受診は健康で長生きをするために不可欠です。しかし、ストレスになり得ると思うと受診にも躊躇してしまうこともあるでしょう。

猫ちゃんとのお別れの時が来るときに、あのときにきちんと受診できていたら良かったという後悔のないよう、どんな時は受診をすべきという基準や動物病院へ慣れてもらうために飼い主さんと猫ちゃんで練習できる方法についてお話させていただきました。

かかりつけの先生との信頼関係も構築し、おうちの猫ちゃんの性格やこんな風に診察してもらいたい、こんなことができない場合にできることはあるかなどたくさんお話しすることもとても大切です。

ストレスなどの負担が軽減されながらうまく受診できるとより飼い主さんも安心できるはずです。

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