【動物介護士が解説】シニア期や病気を抱えた猫へのトイレ介護のポイント

【動物介護士が解説】シニア期や病気を抱えた猫へのトイレ介護のポイント

シニア期に入ったり病気になったりして、トイレ介護が必要になる猫ちゃんもいますよね。今回は、そんな時に知っておきたい介護の方法やポイントについて、動物介護士資格も持つペットケアアドバイザーが解説します。

トイレ介護には配慮や工夫が大切

トイレから出てきた猫

猫のトイレ介護について詳しく知らなかったとしても、「なんだか大変そう」というイメージを持つ人は多いかと思います。

そのイメージの通り、たとえ体の小さな猫であってもトイレの介護は精神的にも体力的にも大変で、飼い主さんにとって大きな負担となることが多いです。

しかし、トイレの介護で大変な思いをするのは、じつは飼い主さんだけではありません。介護をされる側である猫ちゃんにとっても、大きなストレスとなりやすいのです。

排泄は生きていくための基本本能

私たちが生きていく上で大切なことには、さまざまなものがありますよね。その中でも「排泄」は食事と同じくらいに重要で、生命の維持を行う“生理的欲求”を満たすためにも必要なことです。

その基本本能でもある排泄を思ったように行えなくなったらどうでしょうか…?ぜひ、みなさんもご自分の身に置き換えて考えてみてください。

きっと、もどかしくてつらい思いでいっぱいですよね。でもそれは、猫ちゃんにとってもまったく同じことが言えるのです。

その“愛猫のつらさ”を忘れないことは、今後のトイレ介護でとても大切なポイントにもなります。

つらさを軽減するために介護を行う

愛猫が自分の思ったように排泄できないつらさやもどかしさは、残念ながらゼロにはできないかもしれません。

それでもご家族の工夫や配慮によって、その猫ちゃんのストレスを軽減することはできます。

また、「介護」と聞くと寝たきりの子や下半身に障害があり自力で排泄できない子を想像する方も多いでしょう。

しかし、今回お話しするトイレ介護は「猫のストレス軽減」が目的なので、自力で排泄はできるものの失敗が多くなった子へのサポートも含まれます。

猫ちゃんと暮らす人に無関係な方はいませんので、ぜひ最後まで読んでみてください。

自力で排泄できる猫のトイレ介護

トイレトレーと猫

まずは、失敗は多くても自分でトイレで排泄できる子への介護についてお話します。

飼い主さんがすぐに取り組めるものばかりですので、シニア期や病気を抱えた猫ちゃんとの暮らしの参考にしていただければ幸いです。

猫のトイレ介護1:トイレの深さを変える

「最近トイレでの失敗が増えたな」と感じている飼い主さんは、まず猫ちゃんのトイレ環境の見直しを行いましょう。

若い頃には難なくまたいで入ることのできていたトイレでも、シニア期に入ってから思うように足が上がらず入れない…という子はとても多いです。

いつもトイレの手前までは行くのに中に入らないままおしっこをする子の場合、こうした理由から仕方なくそうしていたのかもしれません。

シニア期に入っていたり病気を抱えていたりする猫ちゃんには、なるべくフチが浅くなっているトイレを用意してあげましょう。

「浅いと外に飛び散るかも」と不安な場合には、スロープなどを今のトイレの横に設置するのでも大丈夫ですよ。

トイレ介護用のスロープやステップ台は多く市販されていますので、愛猫に合ったものを選んであげてくださいね。

猫のトイレ介護2:体を支える

足腰が弱っている猫ちゃんの場合、体がふらついて上手く踏ん張ることのできない子もいるかと思います。こうした時には愛猫が排泄の体勢を取りやすいように、飼い主さんが体を支えてあげましょう。

飼い主さんは猫ちゃんの前か後ろにしゃがみ、腰あたりに優しく両手を添えます。

無理に猫ちゃんの体を持ち上げたり動かしたりせず、愛猫が自然な排泄の体勢でいられるようにイメージして支えてあげてくださいね。

猫のトイレ介護3:お腹のマッサージをする

シニア期に入ると、お腹や肛門周りの筋力も低下します。そのため、シニア期の猫ちゃんで便秘になってしまう子は珍しくありません。

3日ほどうんちが出ていない場合には、お腹をマッサージして排便を促しましょう。猫ちゃんがリラックスしている時を見計らって、お腹に「の」を描くように優しくマッサージします。

うんちを出そうと飼い主さんが力を入れてしまうと、愛猫の内臓にダメージを与えてしまう危険があります。マッサージはあくまでも優しく撫でていってくださいね。

便秘は対処しないままでいると病気につながることもあるので、マッサージをしてもなかなかうんちが出ない場合には、早めにかかりつけの動物病院を受診しましょう。

猫のトイレ介護4:オムツは“最後の手段”に

寝たきりだったり認知症などの病気によって排泄のタイミングが上手く掴めなかったりする猫ちゃんの場合には、オムツを使うという選択肢もあります。

しかし、オムツは猫のQOL(生活の質)を下げることもある…とご家族がしっかり理解をした上で使用する必要があります。

「QOL」というのは、介護で使われることの多い用語で「クオリティ・オブ・ライフ」の略です。

自分で歩いて、自分でごはんを食べて、自分でトイレに行き排泄して…といった、普段は「当たり前」と思ってしまうような猫が生活する上での行動を保ち、最期の時まで愛猫が愛猫らしく過ごすのを守ること。

これこそが、猫の介護を行う大きな目的でもあるのです。

もちろん、飼い主さんの心労を減らすのも猫の介護を行う上では重要なことですから、オムツを使うのは決して悪いことではありません。

ですが、愛猫のQOLを維持するためにも、オムツはできる限り“最後の手段”としてとっておくことをおすすめします。

寝たきりの子の場合でも、毎日オムツだとお尻周りの皮膚が炎症を起こしやすくなります。

猫ちゃんの様子や飼い主さんのお世話のできるタイミングも考えながら「今日はオムツなしで過ごしてみよう」など、適度に使用するのもいいですね。

自力で排泄できない猫のトイレ介護

猫と獣医師

病気によって自力で排泄ができない子の場合、膀胱を圧迫して排尿をさせる「圧迫排尿」や肛門に指を入れて直腸に溜まった便をとる「摘便」が必要です。

しかし、この方法が必要となるのは「排泄機能がなくなった」と獣医師から診断を受けた場合です。冒頭にもお話した通り、排泄は基本本能なので完全になくなってしまうことはありません。

ですが、病気によっては自力での排泄が困難になり、こう診断されることも十分にあり得ます。

猫ちゃんに圧迫排尿や摘便が必要と診断された場合には、必ず担当の獣医師からレクチャー指導が入ります。

誤った方法で行うと猫ちゃんの内臓に負担をかけてしまう危険があるため、飼い主さんの自己判断で行うのは絶対にやめましょう。

圧迫排尿や摘便は嫌がる猫ちゃんも多く、飼い主さんにとっても精神的に大きな負担となります。

病気の内容や猫ちゃんの体調などにもよりますが、カテーテルに切り替えるという手もありますから、少しでも不安に思うことがあれば担当の獣医師さんや動物看護士さんに相談してみてくださいね。

猫のトイレ介護で大切なポイント

トイレの介助は、介護の中でも最も配慮や工夫が必要なものです。そのため、戸惑ってしまう飼い主さんも珍しくはありません。

大変なことも多い愛猫のトイレ介護ですが、行う際に忘れてはいけない特に大切なポイントを3つお話します。

ポイント1:失敗しても叱らない

大切な愛猫とは言え、トイレ介護は飼い主さんのストレスにもなりやすいものです。度重なる失敗に声をあげて叱りたくなることもあるでしょう。

ですが先ほどもお話した通り、「思うように排泄できない状態は愛猫にとってもつらいことなのだ」というのを決して忘れないようにしてくださいね。

失敗が多いと、つい叱りたくなってしまう気持ちもとてもよくわかります。そんな時には深呼吸をして心を落ち着けてください。

そして、叱るよりも「どうしたら失敗が減らせるのか?」ということをご家族で考えていきましょう。

猫ちゃん自身も、上手く排泄できないことをきっと不安に思っています。なので、きちんとトイレで排泄ができた時には「上手にできたね」と優しく声をかけ、安心させてあげてくださいね。

ポイント2:お尻周りは常に清潔に

ペットシーツやオムツで排泄する子だけではなく、トイレで排泄できる子であっても、自分で上手くグルーミングできないでお尻周りに汚れがついてしまう猫ちゃんは多いです。

汚れをそのままにすると、皮膚が炎症を起こしたり感染症を引き起こしたりする危険もあります。飼い主さんはこまめにお尻周りをきれいに拭いて、清潔を保つように意識しましょう。

ウェットティッシュで拭く際にはアルコール配合のものだと猫ちゃんへの刺激が強いので、ペット用や赤ちゃん用のものを使うようにしてくださいね。

ポイント3:1人で抱え込まないように

トイレの介助に限ったことではありませんが、「自分の猫だから」とたった1人で介護に取り組む飼い主さんも多いです。

しかし、このように飼い主さんが1人で介護を抱え込むと、介護疲れから精神疾患に発展したり愛猫が旅立った後にはペットロスが重症化したりすることもあります。

猫ちゃんへの介護を1人で頑張ろうとする心意気は素晴らしいと思います。でも、それだけが猫ちゃんへの愛情につながるわけではありません。

飼い主さんは1人で介護を抱え込まずに、他のご家族や周囲の人と一緒に取り組むようにしてくださいね。

もしも1人暮らしだったり周囲に頼れる人がいなかったりする場合には、時々ペット介護サービスや動物病院の一時預かりを利用するのもおすすめです。

適度に力を抜いて、愛猫の介護を行っていきましょう。

執筆者情報

写真
Rapport Ciel
代表・ペットロスカウンセラー・ペットケアアドバイザー
松永由美

以前はトリマーとして従事していたが、愛犬の死をきっかけにペットロスカウンセラーへと転身。現在では、Rapport Cielの代表として、ペットロスカウンセラーやグリーフケアを行う一方で、Webライターとして動物に関する様々な記事の執筆を行う。
著書「ペットロスで悩んだときに読んでほしい愛犬の死がきっかけで平凡主婦がペットロスカウンセラーとなって起業した話: 「意外」と驚かれるペットロスとの向き合い方 (ラポールブックス)

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