猫の病気『猫伝染性腹膜炎』とは?2つのタイプや原因なども解説

猫の病気『猫伝染性腹膜炎』とは?2つのタイプや原因なども解説

猫の命に関わる「猫伝染性腹膜炎」は、発症するとどのような症状を引き起こすのでしょうか?何が原因で猫伝染性腹膜炎を発症するのでしょうか?猫伝染性腹膜炎の2つのタイプについてもご紹介します。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

猫伝染性腹膜炎の原因は?

ニットにくるまって体温計を挟んでいる猫

猫伝染性腹膜炎(FIP)は、猫コロナウイルスによって引き起こされる病気です。猫コロナウイルスは、主に糞を介して猫の間で伝播します。人のコロナウイルスとは異なるウイルスですので、猫から人に猫コロナウイルスが移ることはありません。FIPは若い猫で多く発症し、非常に進行が早く亡くなってしまうことも多い恐ろしい病気です。

猫コロナウイルスは、もともと多くの猫が感染するウイルスです。猫コロナウイルスは猫腸コロナウイルスとも呼ばれ、感染しても無症状か軽い下痢を起こすだけのことが多く、感染した猫は一時的または長期間にわたって糞の中にウイルスを排泄します。

しかし、この猫コロナウイルスが猫の体内で突然変異を起こし猫伝染性腹膜炎ウイルスへと変化してしまうことが有るのです。猫コロナウイルスがFIPウイルスになると、体のあちこちで炎症を起こして様々な病変を作ります。その結果、短い間に命を落としてしまうことになるのです。

猫コロナウイルスの突然変異がなぜ起こるのか、実はまだ解明されていません。しかし、ストレスが大きく関わっていると言われています。

猫伝染性腹膜炎には症状によって2つのタイプがあります。次に、その2つのタイプについて説明いたします。

1.ウェットタイプ(滲出型)

猫を診る獣医師の手

1つ目は「ウェットタイプ(滲出型)」で、腹水や胸水が溜まるのが特徴です。次に説明するドライタイプより、ややウェットタイプの発症が多いと言われています。どちらのタイプでも、発熱が続く、元気や食欲がない、痩せていく、脱水などの症状が見られます。

進行した場合には貧血、黄疸、下痢や嘔吐など、様々な症状が現れます。ウェットタイプでは、腹水の貯留によってお腹が膨れたり、胸に溜まった水が肺を圧迫して呼吸困難を起こすこともよくあります。

症状は発熱や嘔吐、下痢などです。脱水や貧血、黄疸の症状が現れることもあります。鼻水や鼻詰まりが見られることも。溜まった水が肺を圧迫するので、呼吸困難を引き起こすこともあります。

一般的にウェットタイプは進行がとても早いです。診断から数日~10日程度で亡くなってしまうこともあります。

2.ドライタイプ(非滲出型)

布団の上で横になっている猫

もう1つは「ドライタイプ(非滲出型)」です。これは、腎臓や肝臓などに肉芽腫(しこり)ができることが特徴です。肉芽腫は、脳や眼にできることもあります。肉芽腫の部位によっても症状が異なりますが、腎臓や肝臓に障害が出たり、痙攣発作や行動異常が見られることもあります。飼い主さんに見えやすい症状として、目の変化(虹彩が濁ったり色が変わったりする、白目が赤くなる)が見られることもあります。

ウェットタイプと比べて進行が緩やかで、一時的に症状が治まることもありますが、再発します。

ウェットタイプと比べて進行がは緩やかなこと多いですが、特に初期は発熱や元気・食欲がないだけが症状であることも多く、ウェットタイプより診断がつきにくいこともあります。

どちらのタイプになるかは猫自身の免疫が関わっていると言われています。また、両方のタイプの症状を同時に現したり、最初はウェットタイプだったけれども途中からドライタイプに変わるなどということもあります。

猫伝染性腹膜炎の治療法・予防法とは

マスクをしている猫

猫伝染性腹膜炎の治療法は、人の新型コロナウイルス感染症の流行にも関連して、ここ数年で目まぐるしい進化をとげています

以前は、治癒率が高いと考えられていても日本で未承認であったり、安全性に疑問があったりする薬での治療例が日本でも多くあったようですが、最近は新型コロナウイルス感染症の治療薬として日本でも承認されたレムデシビルや海外から輸入できる動物用医薬品による治療を行う動物病院が増えてきているそうです。

これらの薬でも治らない場合もありますし、治療期間の長さや薬が高価であることなどから新しい薬による治療はいつでも誰でもできるわけではないかもしれませんが、FIPが不治の病と言われなくなる日が近づいているのかもしれません。

治療効果はあまり望めないものの、従来から行われているFIPの治療には、お腹や胸に溜まっている水を抜く、ステロイドなどで炎症を抑える、インターフェロンでウイルスを抑えるなどがあります。

猫伝染性腹膜炎にはワクチンがありません。いくつかの国で売られているワクチンがありますが、一般的にその使用は推奨されていません。

猫コロナウイルスへの感染を防ぐことも困難なので、普段からできる予防はFIPをできるだけ発症させないためのものになります。ストレスをかけない、多頭飼いをしない、多頭飼いの場合にはできるだけ密にしない(一部屋には仲の良い猫3匹まで、など)、トイレはいつも清潔に保つ、などが具体的な予防法として提唱されています。

FIPは純血種や多頭飼いされている猫で多いと言われていますが、どんな猫でも、そして上記のような予防を行っていても発症する可能性はあります。

まとめ

ウイルスの画像と猫

大切な猫の命に関わる病気、猫伝染性腹膜炎。猫コロナウイルスがFIPウイルスに変異する原因ははっきりおらず、治療法は目まぐるしい進化をとげていますが、発症から数日で亡くなってしまうこともあるいまだに恐ろしい病気です。ワクチンはないので、効果的な予防は難しい病気です。

猫伝染性腹膜炎に限らずどんな病気でもそうですが、猫は言葉で体調が悪いことを伝えられません。猫の異変には早く気づけるよう、日頃からスキンシップやコミュニケーションを大切にしたいですね。

気になることがあれば、迷わず動物病院を受診しましょう。

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