猫エイズにかかると長生きできないの?
ヒトのエイズが発見されたのは1980年頃でした。当時は正体が分からず、免疫不全によりカポジ肉腫やカリニ肺炎といった病気を発症して死に至る、怖い病気だという認識が世界中に広まりました。今では、ヒトのエイズは死ぬ病気ではなくなってきています。
猫エイズは、ヒトに感染するエイズウイルス(HIV) と近縁の、猫免疫不全ウイルス(FIV)に感染して発症する、猫の後天性免疫不全症候群です。ヒトエイズの衝撃のためか、猫エイズも長生きできない怖い病気だというイメージが強いようです。
確かに猫エイズは発症してしまうと対症療法しかなく、治癒できません。しかし猫エイズがどういう病気なのかを知り正しく対処すれば、必ずしも長生きできない病気だとはいい切れません。今回は、猫エイズについて解説していきます。
1.猫エイズに感染する原因
猫エイズは、HIVと同じレトロウイルスの仲間であるFIVに感染することで発症します。HIVとFIVは近縁ですが異なるウイルスなので、猫エイズが人に感染することはありません。犬への感染も認められていません。
FIVは、既に感染している猫の唾液や血液、尿の中に排出されます。主な感染原因は感染猫との喧嘩で、咬傷に付着した唾液から感染します。交尾そのもので感染することはないようですが、交尾をする時に雄猫が雌猫の首元に噛みつき、そこから感染するケースもあるようです。
猫エイズを発症していない無症状の猫でも、FIVのキャリアーであれば感染源となりうるため、注意が必要です。
2.猫エイズの病期と現れる症状
猫エイズは、下記の5段階のステージで進んでいきます。
急性期
FIVに感染して数週間〜数ヵ月の期間です。最もよくみられる症状が慢性潰瘍性口内炎です。喉の奥や上顎の歯肉がえぐれて炎症を起こし、大量の涎、ひどい口臭、痛くて食べられなくなるといった症状が現れます。
他には、発熱、慢性鼻炎、咳、下痢、結膜炎、皮膚炎などがみられる場合もあります。
無症候キャリア期
急性期の症状が落ち着くと、特に大きな症状は見られなくなります。いわゆる潜伏期です。数ヵ月から数年続き、場合によっては10年近く続く場合もあります。そのため、無症候キャリア期の間に寿命を全うし、発症せずに生涯を終わらせる猫もいます。
発症はしていませんがFIVのキャリアーです。他の健康な猫への感染源となるため、他の猫と接触させないように管理する必要があります。
持続性リンパ節腫大期
身体には、免疫機能を担う細胞が集まっているリンパ節が随所にあります。免疫でFIVの増殖を抑制できなくなってくると、全身にあるリンパ節が腫れてきます。それ以外は大きな症状は見られず、数ヵ月以内の短期間で次の病期に進むため、気付けないこともあります。
エイズ関連症候群期
免疫力が低下するために、細菌やウイルスに感染しやすくなります。口内炎、歯肉炎や、呼吸器、消化器、皮膚などのさまざまな疾患が現れます。口内炎等で口の中が痛み食べられないために、痩せてくることが多いです。
後天性免疫不全症候群期
猫エイズの末期で、免疫機能が完全に消失してしまいます。エイズ関連症候群期に現れた疾患は慢性化し、貧血、悪性腫瘍、日和見感染などのさまざまな症状が現れ、最終的には死に至ります。
3.愛猫が感染した場合の対策・注意点
一般的に、猫エイズとはエイズ関連症候群期以降の猫を指します。そして猫エイズを発症してしまうと、対症療法しか行なえません。つまり、愛猫がFIVに感染してしまった場合、飼い主さんが最も気をつける点は、エイズを発症させないことです。
発症さえしなければ寿命を全うすることができますし、実際エイズキャリアでも元気な猫ちゃんはいっぱいいます。
栄養バランスのとれた良質な食事とストレスのない住環境を整えることで、免疫力を極力落とさないように管理してあげましょう。
また他の健康な猫への感染源とならないよう、多頭飼いの場合は隔離する、家の外に出さないといった、感染拡大予防のための管理も必要になります。
4.愛猫を感染させないための予防策
最も重要なことは、FIVに感染させないことです。何よりの予防策は、感染している猫との接触を断つことです。下記の施策を参考にしてください。
- 完全室内飼いにする
- 同居猫にキャリアーがいる場合は隔離を徹底する
- 去勢避妊手術を含め、外への脱走を予防する
- 上記の徹底が難しい場合は猫エイズワクチンの接種も検討する
まとめ
猫を迎え入れたら、できるだけ速やかにFIVの抗体検査を行いましょう。もしも陽性だった場合も、「もう長生きできない」とがっかりする必要はありません。かかりつけの動物病院と相談をしながら、できるだけ発症させないことを念頭に置いた健康管理を心掛けましょう。一生発症せずに寿命を全うする猫もたくさんいます。
また、生後6ヵ月以前の子猫の検査でFIV陽性だった場合は、母猫からの移行抗体の影響である可能性があるため、検査からさらに2ヶ月以降に再検査を行うと良いでしょう。
室内飼いでも自由に外に出られるような生活をしている猫の感染率は15〜30%もあり、感染リスクは完全室内飼いの猫の20倍だといわれています。FIV陰性の猫は、外に出さないことで感染リスクを予防することが大切です。