猫が安心して身を委ねられる人とは?
猫と人間の関係性は、時代とともに変化しています。以前は農場のネズミ捕りや害虫駆除などの役割を担うワーキングキャットとして、家主の生活を支える存在でした。そして現代では、家族の一員として室内で生活し、飼い主さんの心を支える存在になっています。この時代の移り変わりによる影響は、猫にも及んでいます。
元々猫は、単独で逞しく生きてきました。野生では弱い姿を見せることも、誰かに頼ることもできません。いかなる状況も自分自身で的確に判断し、危機を回避しなければなりません。だから猫はとても忍耐強く、警戒心が強いのです。しかし、完全室内飼育が主流となった現代の猫は、野生で生き抜く環境ほど警戒する必要がなく、命懸けで狩りをする必要もありません。身の回りのお世話は皆、飼い主さんがやってくれます。そして危機が迫りきたときも、飼い主さんが全力で守ってくれます。
このように、日常のほとんどを人間に支えられるように変化した猫ですが、最初から人間と良好な関係が築けるとは限りません。野生を卒業した家猫であっても、野生の本能は残り続けています。そう簡単には警戒心がなくなることはなく、一歩引く形で人間を観察しています。そして心から信頼し、身を委ねることができるかどうかを見極めます。一体、猫が安心して頼れる人間とはどのような人なのでしょうか?いざというときに、猫が頼りにする人は次のような特徴を持っています。
1.猫が好む距離感を理解している人
猫は、つかず離れずの程よい距離感を好みます。常に誰かと一緒にいるよりは、同じ空間にいながらも自分の時間を楽しむ傾向にあるのです。だからといって人間に関心がないわけではありません。飼い主さんの行動を観察し、一日のスケジュールを把握します。そして、自分が甘えたいタイミングで甘えてくるのです。
このワガママのようにも感じられる猫の行動を理解し、調度良い距離感を保ってくれる人は猫にとって頼りやすい人になります。なぜなら、猫の習性や性格を理解してくれるので、助けを求めてたときには察してくれる可能性が高いからです。
2.静かな人
猫は騒がしい人や、リアクションが大き過ぎる人に対して苦手意識を持っています。猫にとって人間は何十倍もの体格差があり、遥かに大きな存在です。そこへ身振り手振りが大きく、何かにつけてリアクションが大きいと、猫はどのように感じるでしょうか?
恐らく人間が、ライオンやトラがあくびをしただけでも圧倒されるような感覚でしょう。逆に、静かで落ち着いた人は猫にも安心感を与えることができます。空気のように穏やかな人は、猫にとって心地よい存在になるのです。
3.香水をつけていない人
香りが穏やかな香水やボディミストは、人間にとっては癒しに繋がることがあります。しかし嗅覚が人間よりも優れた猫にとっては、たとえ軽い香りであっても苦痛に感じることがあります。特にアロマに至っては、猫の肝臓では分解できない成分を含むため危険とされています。よって、猫が安心して近寄れる人間は、特殊な香りを身につけていない人なのです。柔軟剤やシャンプーも、あまり香りが強すぎないほうが猫にとっては落ち着きます。
4.高い声で優しく話しかけてくれる人
日頃から優しく話しかけてくれる人は、自分に関心を持ってくれている相手として意識するようになります。更に、やや高めの声は心地よく感じます。一方、低音で話しかけられると「威嚇」と誤解されてしまうことがあります。猫を落ち着かせようと一生懸命声をかけても、あまり低い声ではかえって警戒心を煽ることになってしまうのです。猫と接する際には、穏やかに高めの声を意識して声をかけるようにしてください。
5.猫語を理解してくれる人
猫は人間のように言葉を話すことができません。その代わり耳やしっぽの動き、瞳孔の開き具合などの仕草によって気持ちを伝えてきます。このボディランゲージが発する猫語は、猫の感情を読み取るための重要な鍵になります。そしてその猫語をより多く理解できる人は、猫が頼りやすい相手になります。今求めていることを理解し、気持ちに応えてくれるからです。猫語については、後ほど詳しく紹介させていただきます。
猫に頼られる人はお世話上手!?
警戒心が強い猫が心から信頼を寄せる相手は、ただその場だけ優しくしてくれる人ではありません。日頃から身の回りのお世話を積極的にしてくれる人です。特に、次のような内容は猫にとって重要です。
- 食事の用意
- トイレ掃除
- 部屋の掃除
- 遊びに付き合う
猫が生きるうえで大切なことは、食事・排泄・睡眠です。その中で人間が関与することは、主に食事やトイレに関することでしょう。毎日一定の時間になると食事を用意してくれる人は、いわば母猫のような存在です。そして、綺麗好きな猫にとって、トイレが清潔であることは重要です。排泄することは自分のにおいを残すことになります。においがその場に残るということは、天敵に居場所を知らせていることになります。だから猫は、排泄後に砂をかける習慣があるのです。家猫の場合は、汚れたトイレを掃除することで完全ににおいを消すことができます。些細なことのように思えるトイレ掃除も、猫にとっては身の安全を守ってくれることに相当するといっても過言ではありません。
そして、同じく綺麗好きという理由から、生活空間も清潔であることが猫にとっては嬉しいものなのです。ダニや感染症予防という観点からも、できるだけ清潔な空間で生活することが好ましいのです。また、遊びに付き合ってくれることも、猫にとっては大きな喜びに繋がります。猫はひとり遊びが好きなイメージが強いでしょう。しかし、人と暮らす猫は一緒に遊んだりスキンシップをとることも、心を満たすために大切なことなのです。母猫が子猫と遊ぶことは、単なる遊びではなく狩りの練習という大切な役割を担っています。
社会化期の重要性
また、きょうだい同士の関わりは、戯れる力加減を学ぶ大切な機会です。猫が猫らしい生活を送るために、多くのことを学び、吸収していく生後半年までの時期を「社会化期」といいます。幼い猫が母猫やきょうだい猫と過ごすことが重要視される理由はここにあります。幼くして引き離されてしまった場合は、飼い主さんが代わりになって接してあげる必要があります。とはいえ、家猫の場合は独立することはないので、甘噛みの力加減や、好ましくないイタズラをされないように学ぶ機会を作ってあげましょう。信頼関係が適切に築かれた間柄であれば、ある程度のことはしつけることが可能です。猫の生活に密接に関わりながらも、適度な距離感を保つことを心がけることで、猫に頼られる飼い主さんになることができます。
飼い主さん嫌い!
ここで余談ですが、一生懸命な飼い主さんも嫌われてしまう瞬間があります。それは、爪切りやブラッシング、動物病院に連れていくなどの行為です。これも、日頃猫をお世話している中心的人物が担うことが多いでしょう。しかし、猫にとってはどれも苦手なことです。身の安全を守るためにはどれも欠かせないことではありますが、これを買ってでることで「嫌なことをする人」になってしまいます。でも、安心してください。あくまでも一時的に不機嫌になるだけです。日頃から良好な関係を築いていることで、信頼を失うことはありません。猫が心を許し、頼れる人はお世話上手な人なのです。
猫から見た飼い主さんの存在
猫は人間のことを、「身体が大きくなりすぎた鈍臭い猫」と認識しているといわれています。では、より身近な存在である飼い主さんに対してはどのように思っているのでしょうか?ここからは、猫から見た飼い主さんの存在についてご紹介いたします。
母猫
幼い頃から人間と暮らす猫は、飼い主さんを母親のように慕う傾向があります。食事、トイレ掃除など基本的なお世話をしてくれる相手だからです。また、思う存分甘えられる存在であることから、母猫のような存在として見ることがあります。猫はクールなようで、実はとても甘えっ子という一面を持っています。甘えたいと望んでいるときは、可能な限り応えてあげるようにしてください。より良い関係性を築くうえで大切な関わりになります。
きょうだい猫
一緒に夢中になって遊んでいる瞬間は、母猫というよりも、きょうだい猫という認識が強くなります。狩りに見立てた遊びを通して、ともに成長し、切磋琢磨するような関係なのです。また、甘噛みをしたり、飛びついてくる行動もきょうだいのじゃれ合いに似た行動になります。ここで大切なことは、危険なことや痛いことをしたときは「危ない!」「痛い!」など簡単な単語で注意することです。猫は人間が話す複雑な言葉を理解することはできません。しかしながら、日常でよく耳にする簡単なワードは覚えることができるのです。
どのように理解しているかというと、音や雰囲気から飼い主さんが伝えたいことを読み取っています。先ほどの社会化期の部分でも説明したとおり、母猫と同様にきょうだい猫との関わりも成長に欠かせません。飼い主さんをきょうだいのように思っているときは、躾をする良い機会と捉えましょう。
仲間
猫は犬とは異なり、群れ社会は存在しません。よって、誰かの指示に従う生き方を知らず、関係性においても上下関係はありません。猫が唯一、従う相手が存在するとすれば母猫になります。母猫の言うことが聞けなければ命に関わります。だから、母猫が禁じていることはせず、呼ばれれば必ず返事をします。血縁関係のない猫は概ね、横のつながりになります。相手がボス猫であっても明確な主従関係があるわけではありません。野生の世界では皆ライバル関係になりますが、家猫の場合は少々異なります。
社会化期に触れ合った相手は、猫以外の動物や人間でも仲間として認識するようになります。それは時に、飼い主さんに対しても同様のことがいえます。仲間として良い関係を築こうと近づいてくれることがあるのです。このような場合は、対等な立場として接してあげることが大切です。犬の場合は、飼い主さんのほうが立場が上であるとしつける必要がありますが、猫の場合は「群れ」という感覚自体がないために不可能なことです。ここで、無理に従わせようとする行為は、信頼関係を壊してしまう可能性があります。
猫はその時々の気分に応じて、飼い主さんを色々な相手に見立てています。これは一見すると気分屋のように感じてしまうかもしれません。しかし、柔軟に対応することが信頼につながります。愛猫が今、どのモードにいるのかを把握しながら接してあげましょう。こうすることで、猫にとっては頼りやすい存在になるのです。
よく使われる猫語
先に述べたように、猫にとって猫語を理解してくれる人は頼りになり、とても心強い存在です。そこで、ここからは日常的によく見られる仕草から猫語を読み取っていきたいと思います。
見つめながら「ニャー」と鳴く
あなたのことを見つめながら、「ニャー」と鳴いてきたときは、何か要求があるサインです。その内容は、主に次の3つです。
- お腹がすいた
- 遊んでほしい
- こっちを見て
目を見つめてくることや、鳴き声を発することは、要求の合図であるとともに信頼の証でもあります。通常、猫社会では目を合わせることはありません。相手の目を見るという行為は喧嘩を売る行動にあたるからです。
さらに鳴いて要求することも、自分自身の居場所や食事の在処を他の猫に知られてしまうことにつながります。野生の世界では食事の在処ひとつ取っても命懸けで守らなければならないほど過酷な環境といえます。よって、余程の信頼と安心感を得られる環境でなければ見られない行動になります。
前足でふみふみをする
猫は、ブランケットや飼い主さんのお腹の上を前足で揉むことがあります。これは通称「ふみふみ」と呼ばれる行動で、母猫を思い出すシチュエーションで見られます。全ての猫に見られる行動ではありませんが、親離れが早かった猫や、とても甘えっ子な猫は時々このふみふみをします。もし飼い主さんに直接、もしくは見つめながらこの行動を取っている場合は、飼い主さんが母猫と重なるほど安心できる存在だといえます。
耳を寝せて目を見開いている
猫が耳を寝せて目を見開き、瞳孔が大きくなっているときは警戒しています。更にしっぽを左右にバタンバタンと激しく動かしていたら、不機嫌のサインです。これらの行動が見られるときは、接近するのは危険です。少し離れた位置から様子を見るようにしましょう。そして、不機嫌になっている理由を探しましょう。
撫でている最中や、抱っこ中の場合は、「もう終わりにしよう」の合図になります。ここで速やかに中断することによって、怪我から逃れることができます。猫と良好な関係を築くためには、このように「やめて」のサインに気づくことも大切です。
お腹を見せて転がる
猫は急所である腹部を見せることは滅多にありません。ただし、心から信頼できる相手に対してはお腹を見せてゴロンと転がることがあります。これは、「遊ぼう」と誘っているサインになります。手が空いていれば相手をしてあげましょう。今すぐには難しいという場合も、完全に無視はしないでください。「後でね」と一言伝えてあげるだけで十分です。雰囲気から、今は無理なのだと察することができます。
その代わり、時間ができたら思う存分遊んであげるようにしてください。このバランスが、飼い主さんの邪魔をする行為や、イタズラの防止につながることがあります。
犬と猫では意味が違う
ところで、お腹を見せて転がる行動をどこかで見かけたことはありませんか?そう、犬が構ってほしいときに見せるサインです。そして、犬の場合はお腹を直接撫でてあげると喜びます。しかし、猫の場合はお腹を直接撫でてほしい訳ではありません。よほど慣れている相手、触れられても嫌ではない特定の相手でない限り、直接触れることはやめておきましょう。犬との暮らしが長く、猫と暮らすのは初めてという方は特に気をつけてください。
多く存在する猫語の中から、信頼関係を左右する大切なものを紹介させていただきました。猫はボディランゲージを用いて、実に様々な気持ちを伝えてくれています。猫のことをよく知らないと、「何を考えているのか分からない」という理由から、猫が怖いと感じてしまうこともあるでしょう。でも、本当はコミュニケーション手段が人間と異なるだけで、猫も案外お喋りなのかもしれません。
日々の暮らしの中で、少しずつ猫語を理解してあげてください。最後に、猫に対して我々が愛情を伝える猫語を紹介させていただきます。それは「ゆっくりと瞬きをする」ことです。これは猫の愛情表現で「大好きだよ」という意味になります。ある程度人馴れしている猫と目が合ったら試してみてください。
まとめ
今日のねこちゃんより:ゆず / ♀ / 3歳 / キジトラ / 4kg
猫は本来、誰かに頼ることはありません。しかし、幼い頃から人間と暮らす家猫は、成猫に成長しても子猫らしさを残していることが多いのです。だから、母親のような存在の飼い主さんにはずっと甘えていたいのです。そして、人を頼ることは家猫に限らず野良猫にも時々見られます。
例えば、野良の母猫に子猫を託されるケースです。これは、「この人ならきっと幸せにしてくれるはず」と思える何かがあるのでしょう。ことの真意は猫に直接尋ねなければ分かりませんが、心から信頼できる優しさや強さを持っている相手なのでしょう。猫と良い関係を築き、心を許してもらいたいと思ったときは、猫のペースに合わせることが最も重要です。
そして、一緒に暮らす猫の場合は積極的にお世話をしてあげていると、直接感謝の言葉をかけてくれることはなくても猫語で気持ちを伝えてくれるはずです。少し難しいことですが、時々猫の目線に立って考てみてください。そこに信頼に繋がる良いヒントが隠れているかもしれません。