猫にあわびは危険!「耳が落ちる」の言い伝えは本当だった

猫にあわびは危険!「耳が落ちる」の言い伝えは本当だった

猫にあわびを与えると、耳が落ちるから与えてはいけない、という言い伝えがあります。実際に、あわびを与えるのは猫にとって良くないようです。猫にはあわびを食べさせてはいけないとされる言い伝えについてご紹介します。

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記事の監修

日本獣医生命科学大学卒業。北海道の大学病院で獣医師として勤務。一般診療をメインに行いながら、大学にて麻酔の研究も並行して行う。「動物と飼い主さんに寄り添った治療」を目標に掲げ、日々診療に励んでいます。

猫にあわびを食べさせてはいけない理由

餌を食べる子猫

猫が光線過敏症を引き起こす

猫があわびを食べると、光線過敏症(日光皮膚炎)を引き起こし、皮膚に様々な症状がでるために、与えてはいけないとされています。光線過敏症とは、日光があたることで、皮膚に丘疹や紅斑、水疱などの皮膚症状が現れる病気です。

光線過敏症の原因

春先の2月から5月にかけて、あわびの中腸腺という部分に、あわびが食べた海藻に含まれるクロロフィルが溜まっていき、強毒化します。なぜ、春先にあわびの中に蓄積したクロロフィルが強毒化するのかは、はっきりとわかっていません。

毒の成分は、あわび内のクロロフィルの誘導体で、分解されて生成された、ピロフェオホルバイドaという化学物質です。この化学物質に可視光線が当たると、強い蛍光を発して、活性化しあわびが活性酸素を作り出します。

あわびの中に作り出された活性酸素は、脂肪酸などを酸化して、過酸化脂質を作り出します。過酸化脂質が色々な場所に影響をあたえ炎症反応を起こさせるため、あわびの中腸腺を食べた猫の耳に、かゆみや痛みといった症状を引き起こします。

あわび以外の毒素のある貝

貝の中では、あわび類であるクロあわび、エゾあわび、メガイ、トコブシなどのミミガイ科の巻貝や、サザエなどがこの毒素を持っています。

光線過敏症の症状

  • 赤み
  • 腫れ
  • 痛み
  • かゆみ
  • 耳の変形

猫の場合、体内にあわびの毒素が入ると、皮膚が薄く毛細血管が透けている耳に炎症が起こって、赤みや腫れ、痛みやかゆみなどが起こります。

特に皮膚の薄い耳介部分に症状が出ると、猫はかゆくて何度もかきむしっているうちに、耳介部分が傷つき、ひどくなると取れてしまうといったことも起こります。

人間でも、あわびの毒素の部分を食べて、光線過敏症になることがありますが、人間の場合は、日光が当たりやすい顔面や手などにかゆみや痛みなどの症状が出ます。

猫の場合は、耳の症状がひどくなると、耳がかさぶたで覆われてしまったり、耳が変形したりします。日光皮膚炎になった耳の部分は、さらに日光にさらされやすく弱くなるので、長期間紫外線を浴びることで、皮膚がんである扁平上皮がんに進行してしまうこともあります。

あわびを食べると猫の耳が落ちる

海と猫

和漢三才図会

猫、烏貝の腸を食へば、則ち、耳欠落す、往々之を試むるに然り

これは、1712年の江戸時代に発行された百科事典「和漢三才図会」にある一節です。意味は、「猫がからす貝の腸を食べると、耳が落ちてしまうので、与えてはいけない」となります。からす貝は、日本の湖沼などの淡水に住んでいる二枚貝です。

あわびとからす貝は違いますが、日本では古く縄文時代の遺跡からあわびの殻が出土しているため、あわびはよく食べられていたことが伺えます。

俗説正誤夜光璧

その後、1728年に発行された医学書の俗説正誤夜光璧にも、「猫があわびのはらわたを食べるというのは作り話ではなく、実際にあわびを食べた猫の耳が先から焦げたようになって欠けてしまい、ついには根元の部分だけになってしまった」という記述があります。

また1840年代の「朧月猫の草紙」という絵入り娯楽本にも、医者の格好をした猫が耳の不調を訴える猫に対して、からす貝を食べると耳にできものができて耳が落ちる、と説いている場面があります。

江戸時代の俗説

これらのことから、江戸時代には、貝(あわび、からす貝など)を食べると猫の耳が落ちる、ということは俗説としても浸透していたと考えられます。また、江戸時代の初期から、あわびの殻が猫用の食器として使われていた、ということもわかっています。猫に人間が食べないあわびの内臓を与えていたとしてもおかしくはないでしょう。

飼い猫に貝類の内臓を与えたり、漁師さんがあわびなどの貝を採って、さばいた時に捨てた内臓を野良猫が食べたりして、猫が光線過敏症になり耳を掻いているのを見たことから、猫があわびを食べると耳が落ちる、という話は知れ渡ったと考えられます。

江戸、明治、大正、昭和

あわびを食べると猫の耳が落ちる。この俗説は、江戸時代、明治時代、大正時代と伝わって、昭和の時代にも語り継がれることとなりました。昭和の時代には、水産大学の教授が、東北地方で現地の漁師から「あわびの内臓を食べた猫の耳がうるしにかぶれたようになって、引っ掻いているうちに取れてしまった」という話を確認しています。

あわび以外でも猫に貝は与えない

港の猫

あわび以外の貝も、猫には与えない方が良いとされています。

あわび、トリ貝、サザエ、トコブシ

あわび貝を始めとして、トリ貝、サザエ、トコブシは、猫が食べると光線過敏症になる可能性があります。あわびなどの貝を、どの程度食べると猫に症状が出るのかはわかっていませんが、猫の体は人間よりもずっと小さいので、少しの量でも、あわびなどは与えないほうが良いと言えます。

ホタテ、ツブ貝、ハマグリ、アサリ、しじみ

ホタテやツブ貝にはチアミナーゼという酵素があり、チアミナーゼはビタミンB1欠乏症を引き起こします。猫がビタミンB1欠乏症になると、嘔吐や食欲不振、運動障害などが起きることがあります。重症化すると、けいれんを起こす、ふらつくなどして命にかかわることもあります。

チアミナーゼは青魚やイカ、タコなどにも含まれているので、あわびと同様に猫には与えてはいけません。ただし、加熱したホタテの貝柱は、キャットフードの材料に使われていたりすることもあります。しかし猫にどのような影響があるかわからないため加熱、非加熱どちらでも、貝類はあえて猫に与える必要はないでしょう。

まとめ

貝と猫

猫があわびを始めとした貝類を食べると、あわびの内臓に含まれるピロフェオホルバイドaという毒素によって、光線過敏症になって耳がかぶれたようになり、かゆみのために掻くことで耳が欠けたりします。

江戸時代から言われている、猫があわびを食べると耳が落ちる、という説は実際に根拠のあるものであったと言えます。

あわび以外の貝類でも光線過敏症になる可能性があるほか、二枚貝やタコやイカなどに含まれるチアミナーゼのためにビタミンB1欠乏症になったりすることがあるため、あわびだけではなく、貝類や生の魚介類は基本的に与えないほうが良いでしょう。

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