致死率の高い猫の病気『FIP(猫伝染性腹膜炎)』診断するのが難しいのは何故?

【獣医師監修】致死率の高い猫の病気『FIP(猫伝染性腹膜炎)』診断するのが難しいのは何故?

猫伝染性腹膜炎(FIP)、いわずとしれた極めて致死率が高くいまだ有効な治療法が発見されてはいない疾患です。病態やウェットタイプ、ドライタイプなどの説明は他の記事でもたくさんあると思うので今回はその診断の難しさと研究レベルでの治療法の紹介をメインにお話ししたいと思います。

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記事の監修

山口大学農学部獣医学科卒業。山口県内の複数の動物病院勤務を経て、ふくふく動物病院開業。得意分野は皮膚病です。飼い主さまとペットの笑顔につながる診療を心がけています。

猫のFIP、実は診断が超難しい!

横になる猫と検査結果を見る獣医師

猫伝染性腹膜炎、又の名をFeline Infectious Peritonitis(FIP)。
言わずと知れた、猫ちゃんの致死性が極めて高い疾患の1つですが、その名前ばかりが一人歩きしているように感じます。

この疾患に関しては、獣医師先生それぞれで意見が違う点が多々あると思いますが、極めて予後が悪いという点では、認識が一致していると思います。

ネットを探せば、FIPに関する情報は多くヒットすると思うので、一般的な説明は、それらの記事に委ねるとして、今回は臨床獣医師の立場から、そんな『FIPの診断』についてお話ししたいと思います。

猫のFIPは実際どのような検査をするの?

顕微鏡で検査する獣医師

FIPを診断する。
これだけ名の知れた病気なので、検査ですぐ判明すると思われる飼い主さんは多いかと思われますが、実はFIPの診断はかなり難しいです。

2種類のFIP

FIPには、胸腔や腹腔内に体液が貯留するウェットタイプと、貯留が見られないドライタイプがあります。
ウェットタイプであれば、胸水・腹水をreal PCR検査という遺伝子検査の結果が陽性であれば、かなり強く疑うことはできます。

しかしドライタイプを含め、現状FIPを確定診断できるのは、死後の剖検あるいは組織切除しての病理検査のみと言われています。
では、一般的にFIPを疑う場合、どういった検査をするのでしょうか?

血球系検査(CBC)

軽度から中程度の貧血、リンパ球減少、好中球増加が見られることが多いです。

生化学検査

免疫グロブリンが増加することにより高蛋白血症を示し、他にはビリルビンや肝酵素などの肝パネルの上昇や、腎パネルの上昇を示すこともありますが、病変の発生部位により必発ではありません。

猫コロナウイルス(FCoV)抗体検査

FIPはコロナウイルス科に属しているウイルスが原因とされており、それに対する抗体量を測定し感染しているかどうか調べるのですが、FIPウイルス以外のコロナウイルス科のウイルスに感染している場合でも、上昇するのでこれだけでFIP感染の判断はできません。

細胞診

胸水・腹水貯留がある場合には、その性状によりFIPの診断の一因になることがあります。
貯留液が麦わら様の黄色を示し、粘稠度が高く、そこに含まれる細胞成分が細菌感染の見られない炎症細胞が主体であれば、ウェットタイプのFIPである疑いが強くなります。

遺伝子検査(Real Time PCR法)

胸水・腹水中や病変が認められる組織や細胞中に、FIPウイルスに特異的な遺伝子変異が存在するかを検査する方法です。
この検査で陽性が出れば、FIPである可能性がかなり高まりますが、検体中にウイルス数が少ないと陰性となる場合もあるので、単独で確実に診断できる方法ではありません。

以上のような検査法が挙げられますが、どの検査も単独では判断できません。
臨床現場では、これらの検査結果と実際の猫ちゃんの臨床症状を合わせて考えて、暫定的に診断していきます。
1つの検査での確定診断は、極めて困難です。

猫のFIPの治療の現状

山盛りの本の上にいるグレーの猫

これは診断も含めてのことなのですが、これだけ獣医療が発展してきている現在でもFIPについて進展したことはほとんどありません。
世界中の先生が日夜研究をされていますが、確実な診断法、治療法は確立していないのが世界的な現状です。

私たち獣医師も、論文で効奏したといわれる治療法を取り入れて治療を試みるのですが、残念な結果に終わることがほとんどです。

では現状不治の病にどのような治療があるのか?
研究段階では、シクロスポリン療法やTNF-αモノクローナル抗体が有効だという論文もあり、FIP感染をコントロールできている猫ちゃんもいるようですが、致死率が極めて高い疾患には間違いありません。

時々、FIPが完治したというような話を聞きますが、その多くは診断が間違っていてFIPではなかっただけであると思われます。
また、FIPが発生しやすい環境として集団生活している猫群であるといわれており、単独飼いではほとんど発生しません。

これには、FIP発病のひとつの要因としてストレスが大きなファクターといわれているので、既に多頭飼いのおうちでは、極力ストレスフリーな生活をさせてあげたいですね。

まとめ

検査のために獣医師に採血されている猫

有名なようで意外と診断が難しいFIP。
これといった予防法、治療法もなく予後は極めて悪いですが、近い将来に特効薬が開発されることを心から望んでいます。

唯一できることといえば、できるだけストレスフリーな生活をさせてあげるようにしてあげましょう!