グルグル回って、ぶつかって…
数年前に16歳で亡くなったオジイニャンのために作った「お食事台」の話です。
オジイニャンは、亡くなる2年ほど前から、やたらめったら早いスピードで円を描くように歩きまわるようになっていました。猛スピードで回るうちに、描いている円がどんどん小さくなって、最終的には一つ所でグリグリグリグリと回転して座り込んでしまいます。人間がスイカ割りをするときに、棒をオデコにくっつけて一つ所でグルグル回りますが、ちょうど、あんな似た感じです。
自分の意思ではない行動
回っている時のオジイニャンは、自分でもコントロールができないようでした。回りながら、ところ構わずゴンゴンぶつかっては、コマ回しの駒がはじかれても回転を続けるようにグルグルとやっては、またゴンゴンぶつかるのです。
そのため、当時の我が家は「プチプチ特需」でした。テーブルやいすの脚、家具の角など、オジイニャンがぶつかりそうな、ありとあらゆる箇所をカバーする必要がありましたので、「荷物についてくるプチプチは、プチプチしてはいけない」という御達しが出ていたのでした。
病院に相談するも
獣医さんに相談したところ、認知症の症状か、あるいは少し前から出るようになっていた「てんかん」の発作の影響かもしれないとのこと。どちらにしても、何か治療で止められるわけではなく、付き合っていくしかないですねぇ、となりました。
まるで童話の少女
アンデルセンの童話で「赤い靴」というお話があります。女の子が履いた赤い靴が勝手に踊りだして、脱ごうにも脱げなくて、女の子はどんなにヘトヘトクタクタになっても、強制的に延々と踊り続けるハメになってしまった…という、とってもしんどそうなお話なのですが、オジイニャンは、まさにそんな感じでした。
一番困ったこと
自分で回りたいわけでもないのに、グリグリ回転して、あちこちぶつかって、倒れてハァハァ言っていても、まだ回りはじめてしまう。自分で自分の体を止められない様子は、なかなかに壮絶でした。
餌をまともに食べられない
中でも、一番かわいそうだったのは食事でした。一日中グルグル回っているので、今までよりお腹は空くらしく、ものすごくご飯を欲しがるのですが、食べようとしても身体が回ってしまい、頭がお皿の所でストップしないで通り過ぎるので、全く食べられないんですね。
どうすることも出来ない
さらに、回りながら頭を下げて食べようとするので、上下もひっくり返ってしまって「なんとかトルネード」みたいな、3次元でよく分からない状態になってしまいます。むやみにお皿の中に顔を突っ込むだけになったり、踏んづけてひっくり返してしまったり、もう、しっちゃかめっちゃかでした。
手で口元に持って行って何とか食べさせるのですが、不自然な食事の仕方は食べる方も疲れるようで、「もっと食べたいけど、もう食べられない」という感じで途中でやめて、また少ししたら食べに来てグルグル・・・というのを繰り返していました。
愛猫のために作った食器台
とりあえず、頭を下げないで食べられる台があったら、今のような3Dでの混乱は収まるんじゃなかろうか?縦の回転が止まって横に回るだけなら、食べる間は体をおさえてやれば食べられるなぁ、と思い、ネットで「猫の食器台」なるものを探そうとしていたところ、夫が何やら作り始めました。小一時間ほどで作ったのがこちらの台です。
「この人は、やることがいっつも中途半端に雑いんだよなぁ。なんで、ちゃんと図って作らんのだ?なんか、はみ出してるし。」と、若干イラッとした私でしたが、実は、この「はみ出しているところ」が肝だったのです。
このように、柱にピタッと引っかかるので、オジイニャンがグルグル回ってぶつかっても、お食事台が動かない、で、回っているオジイニャンも、この台に引っかかるから、それ以上は回らんのではないか?という寸法です。おお、画期的。
お食事台の材料
- 適当なサイズの木切れ 天板1枚、脚になる板2枚
- 釘、もしくは木工用ボンド
- カーペットやフェルトなど、摩擦の大きそうな生地の切れ端 ※写真は、カーペットを買う時にもらったサンプルです。
作り方
①固定したい場所の幅と、挟む「柱」の幅を図ります。
※我が家の場合、構造上、ちょうど挟める「柱」がありますが、普通は、こんなおあつらえ向きのものは無いと思います。
椅子の脚など固定可能な物を「柱」にしてもらえたらと思います。
②「天板」の横幅はAより狭く、縦幅は食器のサイズに合わせて適当にします。
③「脚になる板」の横幅はAより長くして、ひっかけられるようにします。高さは猫ちゃんが食べやすそうな高さにあわせてください。
④Bの幅に合わせて「天板」に「脚になる板」をくっつければ出来上がり。
※椅子の脚が写真のように斜めになっている場合、Bの幅は「脚になる板」で挟める幅と考えてください。
※椅子を使う場合、よっぽど重たい椅子でないと、回る猫ちゃんは椅子ごと動かしてしまうと思います。猫ちゃんのお食事中は、誰かが椅子に座って「重し」になってあげましょう。
※椅子の脚に「お食事台」が当たって傷がつく事が考えられます。椅子の脚にプチプチなどを巻くか、「お食事台」の内側にフェルトを貼るなどしてください。
実際に使ってみて
思惑通り、台が動くことも無く、回り続けようとするオジイニャンも「空ぶかし」のような状態で、足は動いているものの、その場に留まることができていました。お皿に頭を突っ込んでも、カーペットが滑り止めになって、ある程度はお皿が逃げないで止まってくれました。
とはいえ、この「お食事台」を使っていても、徐々にずれていくお皿を戻したり、徐々にずれていくオジイニャンの体を戻したりしたりと、付きっ切りになるのは仕方がありませんでした。そのため、残念ながらオジイニャンが食べているところの写真は撮れておらず、この度は、若いモデルさんで撮影をしております。
最後に
オジイニャンが亡くなって数年が経ちましたが、この「お食事台」を見ると、一生懸命にご飯を食べていたオジイニャンのことを思い出して、いつまでも捨てられないでいます。
猫は、本当に「自分で食事が出来なくなったら終わり」なのですが、生きていられる間は、しんどくても必死で食べます。オジイニャンは、本当に、ギリギリまで「生きる」ことを頑張ってくれました。
今、我が家にいる猫たちも、やがて年をとっていきます。高齢になっても回らないでいて欲しいものですが、せっかく我が家の仕様に合わせて作ったオーダーメイドな「お食事台」。今は元気な猫たちが、うつむいて食べるのがしんどいお年頃になった頃、また、登場させようかと思っています。