猫の命を奪うウィルス感染症の症状や治療法など

猫の命を奪うウィルス感染症の症状や治療法など

猫の命を奪う恐ろしいウィルスによる感染症をご存知ですか?これらの感染症は、感染力が強く、死亡率が高いうえにウィルスに対する直接的な治療法がない怖い病気です。そんな恐ろしいウィルスによる感染症から大切な愛猫を守るためにはどうしたらいいでしょうか。様々な感染症について感染経路、症状、治療法、予防法などを詳しく説明致します。

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記事の監修

山口大学農学部獣医学科卒業。山口県内の複数の動物病院勤務を経て、ふくふく動物病院開業。得意分野は皮膚病です。飼い主さまとペットの笑顔につながる診療を心がけています。

猫免疫不全ウィルス感染症

険しい表情の白い猫

猫免疫不全ウィルス感染症とは、主に屋外へ出る成猫に多く、特にオスに多くみられます。数年にわたって免疫が効かなくなり様々な症状を起こし、最終的には「猫後天性免疫不全症候群(猫エイズ)」を発症します。発症した猫は、ほぼ全てが死亡する、死亡率の高い病気です。

人のエイズウィルスと同類のレトロウイルスによるものですが、猫固有のウィルスですので猫以外に感染することはありません。一度このウィルスに感染すると体内からウィルスが消えることはありません。

感染経路

感染猫の唾液や血液にはウィルスが含まれており、主に「交尾」や「ケンカによる咬み傷」から新たな猫へと感染します。接触だけで感染する可能性は低いと考えられています。未去勢のオスは縄張り争いやメス猫の奪い合いなどでケンカや争いが絶えないためにメスよりも感染率が高くなる傾向にあります。

症状

ステージ1

感染から約2週間〜1ヶ月で見られ、1〜数ヶ月間持続します。

  • 発熱
  • リンパ節の腫れ
  • 下痢

などの症状がみられ血液の抗体検査が「陽性」と出ます。

ステージ2

無症状の時期が2〜4年続きます。この時期は無症状ですがウィルスは猫の体内でリンパ球を破壊し、徐々に免疫力を奪っていきます。無症状のまま寿命を全うする猫もいます。

ステージ3

猫後天性免疫不全症候群(猫エイズ)を発症します。

  • 全身のリンパ節の腫れ
  • 口内炎
  • 口の中の潰瘍
  • 口臭がキツくなる
  • ヨダレが多い
  • 皮膚炎
  • 鼻炎
  • 腸炎
  • 激しく痩せる
  • 嘔吐
  • 下痢
  • 食欲不振
  • 脱水
  • 貧血
  • 悪性腫瘍
  • 日和見感染

などがみられます。

ステージ3では日和見感染や悪性腫瘍に対する治療にも反応がなく、発症から数ヶ月以内に「死亡」してしまいます。
※日和見感染とは健康体では感染しない弱い病原体に感染することです。

治療法

残念ながらこのウィルスに感染すると体内から消えることはないため治ることはありません。少しでも免疫を高めるためにインターフェロンの注射を打つなど、症状を楽にするための対症療法を行います。

予防法

  • 猫エイズの予防接種を受ける
  • 猫を屋外へ出さない
  • 感染猫と接触させない
  • ケンカや屋外へ出たがるのを防ぐために去勢手術を行う
  • 屋外から猫を室内に入れて飼い始めるときは、必ず血液検査を受け感染していないかを調べる

猫白血病ウィルス感染症

顔を覆って寝ている猫

猫白血病ウィルス感染症とは、レトロウィルス科に属する猫白血病ウィルスによる感染症です。ウィルスに感染すると約1ヶ月かけて「口や喉のリンパ組織」「血液」「身体中のリンパ組織」「骨髄」の順でウィルスが勢力を広げていき、それに伴い様々な症状を引き起こします。

免疫力がしっかりしている猫は、身体中のリンパ組織にウィルスが侵入しないように自分でウィルスを排除出来ますが、免疫力が低い猫は骨髄へ侵入させてしまいます。骨髄へ侵入してしまうと、ウィルスが常に血液中に放出されてしまい、二次的に発生した病気によって3年以内に死亡してしまいます。

猫白血病ウィルス感染症の症状の酷さは、猫の免疫力によって異なります。生後間もなく感染した子猫の死亡率は100%、生後1ヶ月〜1ヶ月半は約50%です。

感染経路

水平感染

  • 感染猫とのケンカ
  • 身体を舐め合うグルーミング
  • 感染猫との食器の共有

感染猫の唾液には多量のウィルスが存在します。感染猫の唾液を体内に入れることで新たに感染してしまいます。

垂直感染

  • 出産
  • 母乳

感染猫の母猫から産まれた子猫は胎盤を通じてウィルスが移ってしまうことがあります。また感染猫の母猫の母乳からウィルスが移ることもあります。

症状

急性期

ウィルスに感染して約1ヶ月経つと、喉やリンパ節、血液中に侵入したウィルスの影響が出始めます。

  • 食欲の低下、もしくは一切食べない
  • 体重減少
  • 元気がない
  • 口内炎
  • リンパ節の腫れ
  • 貧血
  • 下痢
  • 発熱
  • 鼻水
  • 脱水

慢性期

急性期をなんとか生き延びても、ウィルスを排除出来なかった場合は体内に潜んでいるウィルスが1〜2年後に再び悪さをし始めます。

  • リンパ腫
  • 脾臓の腫大
  • 再生不良性貧血
  • 白血球減少症
  • 腎不全
  • 慢性の口内炎

などを発症し様々な症状が現れます。それが治癒しても、その後、悪性リンパ腫になる確率は健康な猫に比べて高くなります。

治療法

免疫を高めるためのインターフェロンの注射や、必要に応じて抗生物質を使い細菌感染を防ぎます。また慢性期に現れやすい悪性リンパ腫が発症した場合は、延命を目的とした抗ガン剤治療を行います。その他は主に対症療法になります。

予防法

  • 猫白血病ウィルス感染症の予防接種を受ける
  • 感染猫と接触させないために室内飼いにする
  • 感染しているメス猫は避妊手術を行い、子供を産まないようにする
  • 多頭飼育の家に新たに猫を迎えときは、白血病ウィルスの検査を行い集団感染を防ぐ
  • 感染猫と健康な猫を飼う場合は、完全に部屋を分け接触を断ち、食器も別々にする

猫ウィルス性鼻気管炎

赤い絨毯の上で凛とした表情の猫

猫ウィルス性鼻気管炎とは、ヘルペスウィルス科に属する猫ヘルペスウィルス1型による感染症です。猫ウィルス性鼻気管炎は、約2〜10日の潜伏期間を経て様々な症状を起こします。

免疫力の低い子猫や老猫は肺炎を引き起こすこともあり、治療が遅れると死亡してしまいます。また妊娠中の猫が感染してしまうと、流産や死産の原因にもなります。

感染経路

接種感染

感染猫の目ヤニや鼻水、ヨダレには多量のウィルスが含まれています。感染した猫がくしゃみをして飛び散った分泌物、猫同士の身体の舐め合い、母猫から子猫へのグルーミング、食器の共有などでウィルスが移ります。また感染猫を触った人間が他の猫を触ることで間接的にウィルスを移してしまうこともあります。

感染後の再発

一度ウィルスに感染して治っても、身体からウィルスが抜けることはありません。中枢神経にウィルスが潜んでおり、「ケンカ」「妊娠や出産」「多頭飼育」などのストレスがかかると免疫力が低下し、再発します。

症状

  • 食欲の低下
  • 発熱
  • くしゃみ
  • 鼻水
  • 目ヤニや涙が多い
  • 結膜炎や角膜炎
  • 口内炎

治療法

基本的には対症療法を行います。また二次感染を防ぐために抗生物質を使用する他、免疫力を高めるためにインターフェロンの注射をします。

予防法

  • 猫ウィルス性鼻気管炎の予防接種を受ける
  • 飼い主さんが野良猫を触ったら、必ず手を洗い、それから飼い猫を触るようにする

猫汎白血球減少症

どこか遠くを見つめる猫

猫汎白血球減少症とは、猫パルボウィルスの一種である猫汎白血球減少症ウィルスによる感染症です。腸炎を発症するのと同時に白血球の減少を引き起こします。猫パルボウィルスは非常に強いウィルスで感染力も強い傾向にあります。

最も発症しやすいのは生後3〜5ヶ月の子猫です。2〜12日間の潜伏期間のあと、食中毒のような「嘔吐」「下痢」などを引き起こします。2〜6ヶ月の子猫には重症になりやすく、1才以上の成猫には無症状や軽傷で済むことが多いです。

感染経路

感染猫との接触や、糞便や嘔吐物を口や鼻から入ることで感染します。
また猫がたくさんいるような屋外やペットショップ、繁殖所、動物病院などでウィルスを知らないうちに飼い主さんの靴や衣服に付着しウィルスを運ぶことになることもあります。そのため屋外へ出なくても感染する可能性がゼロとは限りません。

またパルボウィルスは屋外にて半年〜1年以上生存すると言われており、感染猫との直接的な接種がなくても地面にある糞便などから間接的に感染することもあります。

症状

  • 発熱
  • 元気がない
  • 黄緑色(胆汁の色)の液体を吐く
  • 下痢
  • 水溶性血便(トマトジュース状)
  • 貧血
  • 心不全による突然死(子猫)

治療法

治療は、二次感染を防ぐために抗生物質の投与や、下痢や嘔吐で失われた電解質や水分を補うための点滴や、貧血が酷い場合は輸血を行うなどの対症療法になります。また免疫力を高めるためにインターフェロンの注射をします。下痢や嘔吐が治ったら、体力を回復させるために少しずつ食事療法を行います。

予防法

  • 母猫からの免疫を受け取れるように、出産後24時間以内の初乳をしっかり飲ませる
  • 生後3週間以降、母猫からの免疫力が切れるころを見計らって猫汎白血球減少症の予防接種を受ける

まとめ

毛糸と戯れながら寝ている猫

これらの感染症は、死亡率の非常に高い恐ろしい病気です。危険な感染症から大切な愛猫を守るために予防接種をきちんと行い、飼育の仕方を工夫すれば、感染症から守ることが出来ます。

正しい知識をつけ、ウィルスに感染しないように気を付けましょう。

投稿者

40代 女性 しっぽ

実家の猫ちゃんの中で2匹目を拾ったときに、猫ちゃんは、すでに猫免疫不全ウィルス感染症に感染していて、治療に時間がかかりました。
鼻水がすごくて、目やにや涙が出て、下痢もしていて衰弱していました。危ない状態でしたので、すぐに獣医さんに診ていただきました。入院して1週間後に元気になり退院しました。1か月後に予防接種をし、トリミングもしてもらって綺麗になり家族の一員になりました。毎日、賢くておてんばですが、ひょうきんでかわいいです。
いま7歳で元気です。甘えるのが得意な猫ちゃんです。家族の皆に可愛がられてとても幸せに過ごしています。

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