猫に起こるフレーメン反応とは?
猫の飼い主さんであれば、愛猫が何かの匂いをクンクン嗅いだ後に、真ん丸な目で口をぽかーんと半開きにして固まっている姿を見たことがありませんか?
その際に見せるとぼけた顔を見るのが大好きな飼い主さんも多いことと思いますが、この仕草を「フレーメン反応」と呼びます。
このフレーメン反応とは、猫が他の動物の「フェロモン」の匂いを嗅ぎ分けているときに示す仕草で、特に発情期やテリトリーを確認する時に多く見られる現象です。猫のフェロモンは本能を刺激する独特な匂いで、普通の匂いと異なり分子が大変細かく繊細なことが特徴です。
フレーメン反応は、この複雑な匂い嗅ぎ分けようと意識を集中させているときに見られる反応で、人間には変顔に見えますが、猫にしてみれば真剣に情報を分析しているときの表情なのです。
フレーメン反応するのは猫だけではない
また、フレーメン反応というと猫特有の仕草と思っている飼い主さんも多いですが、猫以外にもフレーメン反応を示す動物がいることをご存じでしょうか。
同じネコ科の動物であるトラやライオンは猫と同じような反応を見せますし、犬や馬、コウモリなどの一部の哺乳類だけではありますがフレーメン反応をする動物が存在します。
ただ、犬のフレーメン反応はあまり表情に出ないため飼い主さんでも気づかないことが多いのですが、よく分かる例としては、馬の「笑っている」と表現される歯をむき出した表情がフレーメン反応であると言われています。
また、これとは逆に去勢や避妊手術を受けている飼い猫では全く反応を示さなかったり、反応していてもほとんど表情が変わらない猫もいるそうです。
フレーメン反応を見かけたら
犬の嗅覚は人間の1億倍も優れていると言われていますが、犬よりは劣るものの猫の嗅覚も私たちの数万倍から数十万倍もあります。常にあらゆる場所に鼻を近づけて自分の知らない匂いを嗅ぎ分けているのは、自分の周辺の異変を一刻も早く察知するためでしょう。
このように、フレーメン反応はもともと猫が持っている至って普通の習性なので、見かけた場合は邪魔をせずにそっと見守ってあげましょう。
臭いわけではない!フレーメン反応が起こる理由
フレーメン反応している表情は、どう見ても匂いに驚いているようにしか見えません。「そんなに臭いのか・・」と思ってしまいますが、前述の通り猫の嗅覚は人間の数万倍以上も発達しているので、そんなにしっかり嗅がなくても分かるはずです。
では、どうしてフレーメン反応が起こるのでしょうか。また、変な表情になってしまうのはなぜなのでしょうか。
フェロモンを嗅ぎ分けようとしている
フレーメン反応が起こる最大の理由は、フェロモンの嗅ぎ分けをしているためです。フェロモンは動物の体内で生成される匂い物質で、性別や発情の有無など個々の重要な情報を含んでいます。
ただ、このフェロモンは鼻では嗅ぎ分けできないため、鼻ではないもうひとつの嗅覚器官である「ヤコブソン器官」を使って分析する必要があります。
なぜフレーメン反応で口が半開きになるかというと、そのヤコブソン器官が口内の上あご付近にあることが理由です。いかにも臭くて変顔をしているように見えますが、変顔をしているのは口を開けてヤコブソン器官に多くの空気を送り込みながらフェロモンの嗅ぎ分けを行っているためなので、臭いことが理由ではありません。
危険がないか確かめている
もうひとつの理由に、自分のテリトリー内に危険がないかを確かめているということがあります。人間でも異臭を感じたらその原因を調べますが、それは猫も同じです。
猫のフェロモンは肉球や頬、お尻などの臭腺から分泌されていますが、これを周囲にこすりつけることで自分のテリトリーを主張しています。自分以外のフェロモンが付いていないかを調べて安全を再確認するために、フレーメン反応をしているのです。
体調を確認している
私たち人間は自分や相手の表情や顔色で体調を確認することができますが、猫はそれができません。しかしお尻からでるフェロモンは肉球や頬よりも濃く、体調によって匂いが変化するため、愛猫がお尻の匂いを嗅いでいるときは体調確認していると思って良いでしょう。
猫がフレーメン反応を起こしやすい匂いとは?
猫がフレーメン反応をする理由はフェロモンを感じるためということが分かりましたが、では、そもそもフェロモンとは一体どのようなものなのでしょうか。
そこで生物学的に調べてみたところ、「同種の個体間でのみ作用する化学物質」となっていました。したがって、猫が反応するのは「猫のフェロモン」だけということになりますが、屋内で生活することの多い猫にとって、どのような匂いが反応を起こしやすいのでしょうか。
自分の体の匂い
自分が猫なのですから、自分の体の匂いにも当然反応します。毛づくろい中、特にお尻周りをグルーミングした後にフレーメン反応をしているのを見たことがある飼い主さんも多いのではないでしょうか。
自分の匂いで反応するもの不思議な話ですが、飼い猫は他の猫と接する機会がほとんどないため、自分のフェロモンを確認することが癖になっているとも言われています。また、自分の寝床や匂いのついた毛布に反応することもあります。
他の猫のお尻の匂い
これは多頭飼いの場合に多いですが、お互いのお尻の匂いをクンクン嗅いでいる光景を見たことがないでしょうか。
これが正にフェロモンによってお互いの情報を調べている状態で、自分の知っている猫であることを確認したり、発情期かどうかを確かめているのです。なお、猫にとってお尻は急所でもあるため、匂いを嗅がせるのは信用している相手だけとなっています。
飼い主の足や汗の匂い
人間の汗や足の裏の匂いには、猫のフェロモンに似た成分が含まれていると言われています。そのため私たちが脱いだ洋服や靴下、足などの匂いを嗅いでフレーメン反応をしている場合は、汗の匂いに反応していたり外出から戻った飼い主さんの匂いを調べて自分が知っている人であることを確認しています。
ただ、臭くてフレーメン反応している訳ではないと分かっていても、自分の匂いを嗅いだ後に変な顔をしている愛猫を見てしまうと、ちょっと複雑な気持ちになってしまいますね。
マタタビやハッカ系植物の匂い
「猫にマタタビ」という言葉がありますが、マタタビには「イリドミルメシン」、ハッカ系植物には「ネペタラクトン」という成分が含まれており、これが猫の性フェロモンと構造が似ていると言われています。
そのためマタタビやハッカ系ハーブのキャットニップを与えると、これらの成分によってフレーメン反応を示すことがあります。爪とぎに付いているマタタビ粉や、キャットニップの入ったぬいぐるみなどを与えてみればフレーメン反応を確認できるかもしれません。
洗剤に反応してしまうことも
猫のフェロモンと構造が似ているかは不明ですが、石鹸や洗剤、特に塩素系の漂白剤にフレーメン反応を示す猫がいるそうです。
確かにお風呂上りに寛いでいると愛猫が寄ってきて匂いを嗅いでいることがありますが、これは石鹸や洗剤の匂いに反応しているのかもしれません。ただ、これらの成分を舐めてしまったり体に付いてしまうと、健康に害を及ぼす可能性があるので注意が必要です。
フレーメン反応とマーキングの関係
フレーメン反応と大きな関係があるマーキングは、単独行動を好む猫にとって重要な生理反応です。
マーキングの目的は主に「ここは自分のテリトリーである」というアピールをすることで、自分が出すフェロモンは自分だけのものであるため、排泄物や分泌物を擦り付けることで他の猫に対して自分の存在を示しています。
マーキングの方法には爪とぎや顔を擦り付ける、スプレー行為などがありますが、この中で猫と一緒の生活をしていて困ることがスプレー行為です。
スプレー行為は通常よりも臭く濃い尿であることが特徴で、後ろ向きに立ったまま尾を垂直に上げ、広範囲に勢いよく吹き付けるように行います。
その原因が発情に関係していることから去勢していないオス猫に多い行為ですが、環境の急激な変化などで不安やストレスを感じている場合は、去勢したオスや避妊したメス猫でも行うことがあります。スプレー行為の対象となるのは主に家具や壁で、自分の寝床や食事場所には行いません。
爪とぎをする理由は古くなった外側の爪を剥がす他に、肉球にある臭腺から分泌されるフェロモンをマーキングするという意味があります。
また、顔を擦り付けるのは額や口の両側、顎の下からもフェロモンが分泌されるからで、それをマーキングすることで所有権を主張しています。
家のあちこちでマーキングして困っている飼い主さんもいるかもしれませんが、フレーメン反応とマーキングにはこのような密接な関係があるため、大目に見てあげてはいかがでしょうか。
まとめ
フレーメン反応は単独飼いの猫ではあまり見ることはできませんが、多頭飼いなら比較的よく見られる光景です。私たちは見た目や記憶で相手のことを確認しますが、猫の場合は見た目ではなくフェロモンで相手を確かめています。
初めてフレーメン反応している表情を見ると「どうしたんだろう・・」と心配になってしまうかもしれませんが、猫にとってはごく普通の生理反応だったのです。
反応するのが排泄物やお尻なだけに、私たちからするとどうしても「臭い」ことが理由のように思えますが、この変顔にこんな深い意味があったとは驚きです。
必死に匂いを嗅いでいるのを目撃したら近づいて表情をじっくり見たくなりますが、真剣に分析している途中なので邪魔をせずに優しく見守ってあげましょう。