猫は本当に飼い主を見下しているの?
「ヒト」という動物は猫よりはるかに大きいので、猫がまともに対抗できる相手ではありません。ですから猫にとって人間は、潜在的に怖い生き物のはず。しかし、猫を飼っているとなぜか猫から下に見られたり、こき使われたりしているような気がしてきます。どうしてそう感じてしまうのでしょう?
1つには、対象物を擬人化してしまう人間のクセが原因なのかもしれません。私たちは猫の生態をよく知らないまま、猫を飼い始めることが多いようです。猫には猫の作法があることをきちんと分かっていないので、例えば呼んで無視された時、人に侮辱された時と同じ感情を抱いてしまうようなのです。
猫は賢い生き物ですから、人間を馬鹿にすることがあるかもしれません。しかし、猫を擬人化した上での勘違いも多いようです。おかしな被害妄想にさいなまれないために、ありがちな行動を見ていきましょう。
1. 呼んでも知らん顔
名前を呼んで猫が「ニャン!」と応えなければ、人は「無視された!」と感じます。しかし、そもそも猫は、声を出して相手を呼ぶ習慣のない生き物なのです。
発情期、あるいは子猫に呼ばれた母猫でもなければ、おとなの猫が鳴いて応える義務はないのです。しかし、もし呼ばれた時には、猫は猫なりの方法でちゃんと返事をしています。例えば、
- 耳を動かす
- しっぽを動かす
- 顔を向ける
- まばたきをする
- ゴロゴロいう
など、猫のお返事は静かながらバラエティ豊かです。もちろん、「ニャン」と返事をしてくれるおしゃべり猫ちゃんも少なくありません。しかし、よほどの事情がない限り、猫の返事は音を立てないのが原則なのです。
眠っているのに名前を呼ばれて、必死でしっぽで返事をしようと頑張る猫ちゃんもいれば、見つけてくれるまでずっとゴロゴロいっている子もいます。「ニャン」以外の方法で返事をしていないかどうか、今一度観察してみてくださいね。
2. 都合のいい時にしか寄って来ない
かなりの方が「猫は自分の甘えたい時やおやつがほしい時だけにしか寄って来ない」と思っているようです。しかし、人間の方も、自分が撫でたい時に、好き勝手に抱いたり撫でたりしているものです。猫にしてみれば、眠たい時に撫でられたので「止めて」とひと噛みしたら、「冷たい!」といわれる。猫にも言い分がある気がしませんか?
この「猫身勝手説」には、猫が「呼んでも来ない」という憤りも多少含まれているようです。しかし、「呼んだら来る」という習慣も、猫のルールブックには載っていません。呼べば返事をしたり、「おいで」といわれて来たりする猫たちは、成長の過程で知らないうちに何らかの条件付けがされているのです。
もし、呼べば来る猫になってほしいと思うなら、おやつを使って「おいで」トレーニングをするといいでしょう。我が家では、定時のご飯時に「おいで」といいながら床を2回トントンと叩くことで、4匹の猫に「おいで」を教えました。毎回行っているうち、彼らはおやつなしでもやって来る猫になってくれました。
3. 飼い主さんにお尻を向ける
我が家にも飼い主にお尻を向けて座る子がいます。最初は「なぜお尻なんだ?!」とずいぶん憤慨したものです。人間社会では背中を向けるのは拒絶の印ですし、飼い主としては可愛い顔を向けていてほしかったのです。
しかし、テレビ番組などで大型猫の特集を見ているうちに、背中を向けるのも安心と信頼のポーズなのだと分かるようになってきました。
猫がわざわざ近寄ってお尻を向けて座る時、それは「なでて」のサインかもしれません。何か怒っているのかもしれませんし、お願いごとがあるのかもしれません。いずれにしても猫は甘えに来ています。最高に頼りにしてるよ、と全身で訴えているのですから、これは受け入れざるを得ませんでした。
お尻を向けた猫は、背中で色々語ります。なかなか雄弁で面白いので、ぜひじっくり観察してみてくださいね。
4. 高いところから見下ろす
猫は高いところが大好きです。これは本能的なもので、自分より大きな捕食者から逃れるために、木の上を利用していたことの名残りでしょう。
キャットタワーやタンスの上に登った猫は、上から部屋を見渡します。この時、見下ろす目つきが原因なのでしょうか、なぜか人間は猫を「偉そうだ」と感じてしまうようです。他にも、肘をついていたり、やけに偉そうな体勢だったりして、ますます感じ悪さがつのります。
しかし、飼い主さんも本当はご存じの通り、猫に悪気はありません。ただただリラックスしているだけなのです。
もしこの時、猫に苛立ちを覚えるとしたら、それは見る方に余裕がなくなっているのかもしれませんね。猫は飼い主さんの気分に敏感ですから、苛立ちや不安がうつってしまう可能性があります。そうなるとますます悪循環に陥ることになりかねません。そうなる前に、人間側がひと息入れてみること。それが、猫と平和に付き合う上での最大の秘訣かもしれません。
5. 飼い主さんをいいようにこき使う
猫(イエネコ)は、分類上は家畜(人間に飼われて役に立つように改良されてきた動物)の仲間です。しかし、実際にはほとんど手を加えられず、今すぐ野生動物として生きて行けるほどタフな生き物です。
ですから、食べたい時に食べ、出したい時に決まった場所で出す。これをゆるがせにはできないのです。もし家の中で、そのルールが飼い主さんによってあやふやにされる時、猛然と抗議することになります。
しかし、実際のところ、猫たちは猫なりにかなり我慢してくれています。その上で、「寝坊したり帰宅が遅れたり、あるいはトイレ掃除を怠けたり!それは籠の鳥であるボクたちのせいじゃない!」そう思っているのではないでしょうか。
6. 好き嫌いをいう
猫は小さい頃に食べたものをかたくなに守って食べるといわれます。しかし、新しい味を全く受け入れないわけではありません。むしろ新しいものが気に入って、今まで食べていたフードに口をつけなくなることは珍しくありません。
しかし、猫にだって味の好みはあるのです。ある動物園のブログでは、そこのライオンは牛肉が大好きで、他の肉では食いつきが悪い、と紹介されていました。これが野生状態なら、そのライオンは好んでスイギュウ狩りをするのでしょう。猫たちは決して味オンチではないのです。
ただ、元気な頃は味が決め手のようですが、高齢猫では、舌触りがカギを握っているようです。また、病気で鼻が利かずに食べ物だとわからない場合や、食欲自体が落ちていることもよくある話です。とはいえ、出したフードに砂をかける仕草をされると、腹が立ちます。
しかし、人間たるもの、「これしかないの?」という顔をされてもぐっと我慢です。最初に「何か食べない理由があるのではないか?」と考える習慣が、猫の健康を守ることにつながります。
7. かまってくれと要求する
- 広げた新聞の上に乗る
- テレビの前に座り込む
- 膝にのしのし乗って来る
- こちらを見ながら机の上のものを落とす
- そばでうるさく鳴く
- 物陰に隠れて飛びついてくる
猫は辛抱強く諦めない性格、言い換えればかなりしつこい性格ですから、たいてい人間が根負けしてしまいます。しかし、これらの行動は、かつて人間が不用意に反応して、猫に学習させてしまった結果です。
猫たちは偶然の1回をちゃんと理解し覚えています。そして、手に入れた武器を着実にブラッシュアップし、気付いた頃には人間には太刀打ちできないほどパワーアップさせているのです。これに対抗するには、何が起きてもとにかく無視し続けるしかありません。しかし、猫は人間がそれほど強い意志を持った生き物ではないことを知っています。
個人的には、この人間らしい意志の弱さこそが、猫に下に見られる原因だと思うのです。同時に、これこそが猫と生活する醍醐味でもあるとも思うのですが、いかがなものでしょうか。
8. 噛んだり爪を出す
猫は相手を信用していても、嫌なことをされれば噛んだり、爪を立てたりして相手を制止します。しかし、それでも制止が効かなかったり、そもそも信用できない相手だったりすると猫は容赦なく攻撃します。
これも我が家の猫の例ですが、ある人に上から目線で威嚇して猫パンチを繰り出したことがありました。その方は猫をからかっていたのですが、端から見ても少ししつこかったので、猫が怒ってしまったのです。その猫は性格がとても穏やかな子だったので、内心ひどく驚きました。おとなしい猫でもいざとなったら遠慮はしない。それが猫のルールだと知った瞬間でした。
つまり、人慣れしていない野良猫でもない限り、きつく攻撃されるのは人間の側に猫を苛立たせる何かがあるのだということです。「おまえだけは容赦しない」と思われるのは、見下されているのとほぼ同じ。何とか友好的な解決方法を模索したいところです。
まとめ
猫を飼い始めて20年。下に見られてるかなと思うことは多々ありました。しかし、そんな中で学んだことは「猫を上から目線で見ないこと」
猫に下に見られている気持ちになる1番の理由は、色々な要求を毎日しつこくされ続けるからかもしれません。飼い主さんの中には、半ばふざけて半ば本気で「私は猫の下僕」と公言する方もいらっしゃるほどです。
しかし、猫が要求しているのは、とても自然なことばかり。室内飼いだからこその要求だといえるかもしれません。
猫を思い通りにしようとする限り、猫から困惑の目で見られますし、人間側にストレスがたまります。しかし、適度な距離を保っていれば、猫も人間を尊重してくれます。たまにうるさい時もありますが、それは相手が人間でも同じこと。お互い様だと考えて相手を見つめることが大切なのではないでしょうか。