猫の「分離不安」が増加しているのはなぜ?
分離不安とは
「分離不安」とは、一言で表せば「飼い主さんに依存しきっている状態」です。分離不安という字の通り、飼い主さんと離れてひとりになってしまうことで、極度の不安状態やパニック状態になってしまうという精神的な病気です。分離不安はもともと犬に多く見られる病気でしたが、ここ最近では猫の分離不安に悩む飼い主さんも増加してきました。
ひと昔前は人間と猫には距離があった
猫は基本的に単独行動の習性を持つ動物です。他の猫と仲睦まじくくつろいだり、地域猫の場合は子育てを強力し合うこともありますが、基本的に猫は単独で狩りをして生きていく動物です。群れの仲間で守り合う犬とは違い、猫は「自分の身は自分で守る」という自立の意識が強い動物です。
そのため、猫は犬に比べると自立心が強く、気ままで自由なイメージがあります。ひと昔前は当たり前のように野良猫がいましたし、家の中と外を自由に行き来するような「半野良」という在り方も一般的でした。その頃は、人間と猫の生活に少し距離があったのです。
完全室内飼いのマナー
しかし、現在では猫の完全室内飼いがマナーとも言えるほどに、猫の飼育の意識が変化しました。完全室内飼いとなった猫は飼い主さんと接する時間が増加し、生活の面倒のほとんどを安全な室内で見てもらう、という生き方になりました。
室内飼いの猫たちは、生まれてからなんの不自由も危険もなく過ごせるようになったため、猫の野生的な自立心が弱くなりやすくなった、というところが猫の分離不安が増加した理由の1つであると考えられています。
野良猫の保護活動をされている方の報告を見ると、野良猫として生きてきた猫は外に出たことのない猫に比べて、猫本来の警戒心と臆病さを強く持っていることが分かります。捕獲用ケージにごはんを用意して保護しようとしても、警戒心を解いて食べてくれるまでには相当な時間がかかります。野良として生きている子は空腹なはずなのに、それでも警戒心の方が勝るというのが猫という動物なのです。
猫も犬のように人間と濃厚に共生するように
イヌとヒト、ネコとヒト
犬は太古の昔から人間と生活を共にしてきました。野生のオオカミの中で飼いならしやすそうな性格の個体を手なずけたことが、家畜化のはじまりと言われています。一方、猫の場合も同じように人間の生活の中で生きてはいましたが、人間にしっかりと飼育されるようになったのは、犬よりもずっと後のことです。
猫は最初から家畜化されたわけではなく、猫の方が「人間の近くにいた方が安全だし、人間の食料に集まってくるネズミも食べれてお得だ」と認識し始めて、人間の活動区域の近くで生きるようになりました。
人間もまた、猫が近くにいてくれると食料を荒らすネズミを狩ってくれるのでWin-Winな関係でした。ネコとヒトの場合は、イヌのように生活を共にするというよりは「生活の一部を共有している」という方が近かったのです。
猫は使役も交配も行われてこなかった
犬の場合は徐々に人間に飼いならされ、やがて使役されるようになりました。犬を使役していく上で「水辺での狩りに特化した犬種」「穴に入って狩りをするのに特化した犬種」「家畜を追う犬種」などなど、使役する分野に特化した姿や能力の犬が品種改良によって生み出されてきました。
一方、猫は人間が使役する動物ではなく、お互いに近くにいるとWin-Winという関係で結ばれてきました。そもそも、単独行動で他者に従うという習性のない猫を使役するのは難しいことです。現在ではさまざまな品種の猫がいますが、使役されてこなかった猫の繁殖は、猫が「愛玩動物」となるまで人間が手を加えない自然まかせでした。
完全室内飼いで猫との距離が近くなった
このように、イヌとヒト、ネコとヒトの関わり方の歴史には大きな違いがあります。イヌとネコの野生の習性が違うため、人間との距離感もイヌとネコとでは違うものだったのです。しかし、猫の完全室内飼いが一般的になった現在では、猫も犬のように人間と生活を濃厚に共にするようになりました。
長く人間と寝食を共にしてきた歴史のある犬が、人間に依存してしまうということは考え得る事態でしたが、現在は猫もまた人間との生活の距離が近くなったために、人間(飼い主)への依存が問題視されるようになったと考えられます。
猫の「甘え」と「依存」の見極めポイント
最後に、肝心な「甘えと依存の見極めポイント」を3段階でまとめました。愛猫ちゃんが甘えん坊な性格の子の場合は、以下の3段階で甘えが依存になっていないかをチェックしてみましょう。
1. ひとりで問題なく過ごせる:青信号
飼い主さんにフレンドリーにコミュニケーションを図ってきたり、スリスリしたりモミモミする甘えの仕草を頻繁に行ったり、膝の上に乗るのが好きだったり、猫ちゃんが甘えん坊な様子であっても「ひとりでもくつろげる子」であれば依存度は低いと考えられます。
飼い主さんが在宅中に甘えてきたり後追い行動があっても、気が済めばひとりで違う場所に行ってウトウトする…といった様子なら「甘えん坊」の範囲内であり心配はないかと思います。
2. ひとりで居られなくなった:黄色信号
「ん?」と感じ始めるのは、出待ちや後追いの行動がしつこくなってきた時ではないでしょうか。飼い主さんがトイレやお風呂に入ってしまった時、または違う部屋に行ってドアを閉めた時など、飼い主さんの姿が見えなくなると、ドアの前でずっと鳴き続けてしまう子は要注意です。飼い主さんが移動すればすかさず後をくっついて回る子も、やや自立心が低めかもしれません。
また、飼い主さんにかまってもらえるまでちょっかいを出し続けてしまう子、飼い主さんが出かける際に落ち着きをなくす子も、依存気味であると言えるでしょう。ひとりでくつろいでいる時間と、飼い主さんに関わろうとする時間を比べてみてください。ひとりでいても、ゆったりとくつろげているかどうかは、猫にとって生活の質をはかる重要なポイントです。
3. ひとりの時に問題行動を起こす:赤信号
完全に依存しきってしまった場合、飼い主さんの姿が見えなくなると問題行動を起こすようになります。
- 大きな声で鳴き続ける
- 破壊行動
- トイレ以外での粗相
- 性格が凶暴になる
などの行動のほか、自分の身体を執拗に舐めたり噛み続けてしまう自傷行動を取ることもあるため、注意しましょう。問題行動が顕著になったら、甘えではなく依存になってしまっている可能性が高いでしょう。
見極めポイント
猫が飼い主さんに依存することの何が問題なのかというと、飼い主さんの不在によって猫ちゃんの精神が不安定となり、体調不良や問題行動に発展してしまう恐れがあるという点です。飼い主さんもお仕事や買い物などで、猫ちゃんにお留守番を任せる必要があると思いますが、その都度物を壊されたり暴れまわったりといった問題行動を起こしてしまうと困ってしまいます。
そして、極度の不安やパニック、自傷行動などによって猫ちゃんの心と身体に異常をきたしてしまうという点も大変心配です。猫ちゃん自身も、飼い主さんがいないことへのストレスを他の子よりも強く感じてしまうのは辛いことでしょう。
猫の「甘えん坊」と「依存」は
- ひとりでもいられるかどうか
- 心と身体が健やかであるかどうか
で見極めてみましょう。そして、猫本来の自立心を損なわないように適切な距離感で接することも重要です。問題行動の度合いが強い場合には、獣医師に医学的なアドバイスをもらいながら、改善していくことが大切です。
まとめ
今日のねこちゃんより:ノキア♂ / 3歳 / キジシロ / 5.8kg
甘えん坊の猫って本当にカワイイですよね。我が家の猫3匹のうち、黒猫のオスは依存体質であると気付き、適切な距離感を保つように心がけ始めました。
やはりその子は子猫の頃から、他の子と違って飼い主である私に過干渉だなと感じていました。甘えてくれるのはとても嬉しいのですが、甘えが依存になってしまった時に辛くなるのはその子自身です。その子の心と身体が健やかであるように、適切な接し方で「ひとりでいても安全な場所なんだよ」ということを理解してもらうことが大切だと思います。
猫ちゃんの気質はそれぞれ違いますので、もし私のように「この子は依存気質かも」と感じた子には少しだけ、注意深く接してあげてください。