猫の混合ワクチンの種類とその効果
ワクチンとは、感染症を予防するために接種する薬液のことをいいます。細菌やウイルスに感染すると、それらを体内へ追い出そうとする抵抗力、つまり対抗物質が生まれます。この原理を利用して無毒化した、または毒性を弱めたワクチンを体内に送り込み、抗体を作り出します。この抗体によって、体内に病原体が入り込んだ場合でも発症を抑えたり、症状を軽度で済ませたりする事ができるため、ワクチンの接種が推奨されています。
日本で使用されている主なワクチンは、大きく分けて2種類です。
- 生ワクチン
- 不活化ワクチン
ワクチンの種類①生ワクチン
生ワクチンは、その名の通り「生きた」病原体の毒性を弱めて接種するワクチンのことです。生きている病原体が体内で増殖し、免疫を高めていくので接種の回数が少なくて済むというメリットがあります。また、生ワクチンの場合は自然感染した場合とほぼ同等に近い抗体を作り出すことが可能であると考えられており、長期的な効果が期待できるとされています。しかし、生きたままの病原体を体内へ送り込むというだけあり、副作用が強く出る可能性も懸念されています。
ワクチンの種類②不活化ワクチン
不活化ワクチンは病原体を不活化、つまり殺したものから、抗体を作り出すために必要な成分を取り出してワクチン化されたものです。不活化ワクチンの場合は病原体が体内で増殖しないため、十分な抗体を作り出す為には複数回の接種を要します。また、生ワクチンに比べて抗体効果や、持続期間が短いことからアジュバンドと呼ばれる「抗原性補強剤」を同時接種する場合もあります。
日本で使用されているワクチンは、効果持続期間が約1年のものが多く、一般的には年に1度の接種が推奨されています。しかし、猫のワクチン接種に関してアメリカでは2~3年に1度の接種でも効果に変わりがなかったという研究結果も報告されている事から、近年では獣医師によってその期間の定めについて多少違いがあるようです。
また、完全室内飼いである場合の猫のワクチン接種についても様々な意見があります。ワクチン接種による副作用や、注射部位肉腫と呼ばれる注射の針を刺した部位に悪性の腫瘍が発症する病気等を懸念し、完全室内飼いの猫にはワクチンを勧めない獣医師もいるようです。注射部位肉腫の発症を防ぐために、同じ部位に続けて注射しないよう気を配って下さる獣医師もいます。気になる場合は相談してみましょう。
これは、猫のワクチンに限らず言えることですが、長年に渡ってワクチンの安全性や必要性について研究・討論されていますが、まだまだ「正解」と言える答えは見つかっていないようです。現段階では、猫のワクチン接種についての判断は、飼い主さんに委ねられています。猫のワクチン接種についてしっかりと理解することで、愛猫の健康を守りましょう。
猫の3種混合ワクチンについて
まず、猫が接種するワクチンは「混合ワクチン」と「単体ワクチン」に分けられます。一般的なのが混合ワクチンで、数種類の病原体に対するワクチンを混合したものをいいます。そのなかでも、「コアワクチン」と呼ばれ、全ての猫が接種すべきと考えられているのがこの「3種混合ワクチン」です。猫の3種混合ワクチンを接種することによって、以下の病気を予防することができます。
- 猫ウイルス性鼻気管炎
- 猫カリシウイルス感染症
- 猫汎白血球減少症
猫の混合ワクチンで予防できる病気①猫ウイルス性鼻気管炎
猫ヘルペスウイルス、猫インフルエンザ、猫コリーザ等と呼ばれる猫ヘルペスウイルス1型(FHV-1)が原因となって発症する上部呼吸器感染症です。一般的に「猫風邪」とひとまとめにして呼ばれる事も多く、その名の通り咳やくしゃみ、鼻水、発熱等、人間の風邪とよく似た症状が出ます。
しかし、ただの風邪と考えて放置すれば、結膜炎や角膜炎、皮膚炎とその症状は広がっていき、重篤化、最悪の場合死に至る可能性も十分にあります。また、このウイルスは強い感染力を持つことから、多頭飼いの場合等は驚異的なスピードで感染が拡大します。主な感染源は接触感染で、感染猫に触れた人間の手等から、間接的に触れることで感染する可能性もあります。
猫の混合ワクチンで予防できる病気②猫カリシウイルス感染症
猫カリシウイルス感染症とは、ネコカリシウイルス(FCV)に感染することによって引き起こされ、上記の猫ウイルス性鼻気管炎と同様、「猫風邪」「猫インフルエンザ」等と呼ばれている感染症です。この猫カリシウイルスも非常に感染力の強いウイルスで、接触感染、空気感染で感染が拡大します。猫カリシウイルス感染症を発症した場合、高熱や鼻水等の他に口内炎や舌炎等が主症状として現れるのが特徴です。
猫の混合ワクチンで予防できる病気③猫汎白血球減少症
猫汎白血球減少症とは、猫汎白血球減少症ウイルス(FPV)と呼ばれるパルボウイルスの一種によって発症する感染症です。猫汎白血球減少症は、「猫伝染性腸炎」「猫ジステンパー」と呼ばれる事もあり、非常に強い感染力と致死性を持つ病気です。猫汎白血球減少症に感染した場合、激しい嘔吐や下痢、食欲不振等の症状が現れます。
猫汎白血球減少症は、主な感染経路は経口感染や垂直感染(妊娠中の母猫が感染した場合、胎盤を経由して胎児に感染する)です。感染猫との直接的な接触はもちろん、動物病院や公園、ペットショップ等で飛沫したウイルスを鼻や口から吸いこむことで感染する場合もあります。ウイルスが人間の衣服に付着し、ウイルスが運ばれる可能性も十分にあります。
これらの病気は、完全室内飼いであっても防ぎきれない可能性が十分にあります。ベランダや、玄関から飛び出してしまったほんの一瞬で感染してしまう可能性もありますし、人が衣服にウイルスを運んでしまう可能性もあります。また、これらの病気には特効薬はなく、対症療法が用いられます。特に猫汎白血球減少症は、感染後の消毒、無毒化が難しいとされていますので、まず感染しないよう予防を徹底する事が重要になります。愛猫の命を守るために、完全室内飼いや単頭飼育である場合も3種混合ワクチンの接種は必要といえます。
猫の4種混合ワクチンについて
猫の4種混合ワクチンは、上記の3種混合ワクチン(猫ウイルス性鼻気管炎・猫カリシウイルス感染症・猫汎白血球減少症)に「猫白血病ウイルス感染症」予防が加えられたワクチンです。
- 猫ウイルス性鼻気管炎
- 猫カリシウイルス感染症
- 猫汎白血球減少症
- 猫白血病ウイルス感染症
猫の混合ワクチンで予防できる病気④猫白血病ウイルス感染症
猫白血病ウイルス感染症は、猫白血病ウイルス (FeLV)を原因として発症する感染症です。猫白血病ウイルス(FeLV)に感染すると、口やのどのリンパ組織から血液へ、体中のリンパ組織から骨髄へと、おおよそ1ヶ月程の時間を掛けて体を蝕んでいきます。この時期を急性期と呼び、食欲不振や体重減少、下痢、貧血、発熱等の症状が現れます。
この時点で、免疫力が不十分であり、骨髄へのウイルス侵入を許してしまった場合、ウイルスが血液へと持続的に放出されてしまい、白血球減少症や腎臓病等、二次的な疾患によって命を奪われます。主な感染経路は、接触感染と垂直感染(妊娠中の母猫が感染した場合、胎盤を経由し、胎児に感染する)です。
猫の5種混合ワクチンについて
猫の5種混合ワクチンで予防できる病気は、上記の4種混合ワクチン(猫ウイルス性鼻気管炎・猫カリシウイルス感染症・猫汎白血球減少症・猫白血病ウイルス感染症)に「猫クラミジア感染症」の予防が加えられたワクチンです。
- 猫ウイルス性鼻気管炎
- 猫カリシウイルス感染症
- 猫汎白血球減少症
- 猫白血病ウイルス感染症
- 猫クラミジア感染症
猫の混合ワクチンで予防できる病気⑤猫クラミジア感染症
猫クラミジア感染症とは、猫クラミジアと呼ばれる細菌に感染することによって引き起こされる鼻炎、結膜炎、呼吸器症状等の事を指します。中でも、ねっとりとした目ヤニを伴う結膜炎が特徴的です。猫クラミジアの感染経路は接触感染、垂直感染(妊娠中の母猫が感染した場合、胎盤を経由し、胎児に感染する)で、猫から人へと感染したケースも報告されています。強い感染力を持ち、症状が重篤な場合は気管支炎や肺炎を引き起こす場合もあります。
猫の7種混合ワクチンについて
猫の7種混合ワクチンは、上記の5種混合ワクチン・猫ウイルス性鼻気管炎(猫カリシウイルス感染症・猫汎白血球減少症・猫白血病ウイルス感染症・猫クラミジア感染症)に猫カリシウイルス2種を加えたワクチンです。
- 猫ウイルス性鼻気管炎
- 猫カリシウイルス感染症(3種)
- 猫汎白血球減少症
- 猫白血病ウイルス感染症
- 猫クラミジア感染症
というのも、猫カリシウイルスには複数の種類があり、3種・4種・5種で予防できる猫カリシウイルスは1種です。この7種混合ワクチンでは、それと別のカリシウイルスを予防できるワクチンが2種追加されています。つまり、7種混合ワクチンでは、3種類のカリシウイルスを予防できるということになります。
猫の混合ワクチンの選び方
猫の混合ワクチンの種類についてご紹介しましたが、意外と種類が多いですよね。種類が多くて一体どのワクチンを接種すればいいのか分からないと悩む飼い主さんも多いようです。確かに、とにかく多くの種類のワクチンを打てばいいという訳ではありませんよね。そこで、猫の混合ワクチンの選び方についてご紹介します。
完全室内飼いの場合
まず、完全室内飼いの場合でも、コアワクチンと呼ばれる「3種混合ワクチン」の接種は非常に重要となります。猫の混合ワクチンで予防できる病気についてご紹介しましたが、3種混合ワクチンで予防できる病気は、完全室内飼いであっても十分に感染する可能性がある病気ばかりです。また、特効薬もなく、重篤化する恐れもありますので、ワクチン接種による予防が大切です。
一般的には、4種混合ワクチン、5種混合ワクチンに加えられる猫白血病ウイルス感染症、猫クラミジア感染症は、感染猫との密な接触によって感染することから、他の猫と会う機会が一切ない場合は必要ないと考えられています。ただ、猫自身は外に出ないけれど、他の野良猫が出入りすることがある場合等は、感染のリスクを考慮しなければなりません。その場合は、5種混合ワクチン、または7種混合ワクチンを検討しましょう。
外に出入りしている猫の場合
外に出入りしている猫の場合は、さまざまな感染症のリスクがあります。喧嘩や交尾だけでなく、グルーミングやエサの共有等での感染も考えられますので、5種混合ワクチン、または7種混合ワクチンを検討しましょう。
これらはあくまでも目安であり、猫の混合ワクチン接種については、愛猫の体調や生活環境等に基づいて選ぶ必要がありますので、獣医師としっかりと相談して下さいね。猫のワクチン接種は、年に1度とはいえ多頭飼いの場合は、大きな出費になりますよね。しかし、感染症を発症してしまった場合の治療費は、もっと莫大になる可能性もあります。5種混合ワクチン、7種混合ワクチンになるとやはり金額が大きくなってくるので、やはり完全室内飼いを徹底して、愛猫を感染症のリスクから守るのも大切です。
猫の混合ワクチンの副作用
これは、猫の混合ワクチンに限らず言えることですが、100%副作用のないワクチンはありません。ただ、猫の混合ワクチン接種による副作用は、殆どないと言われています。しかし、ワクチンの種類でも説明したように、ワクチンとはウイルスを体内に取り込み抗体を作る仕組みを利用しています。その為、やはり副作用が伴う可能性があることも頭に置いておかなければなりません。
非常に稀ではありますが、ワクチン接種後すぐにけいれんを起こしたり、激しい嘔吐を繰り返したりする「アナフィラキシーショック」を引き起こす、重度な副作用反応が出る可能性もあります。他にも、体が浮腫んだり、目が腫れる等の副作用反応もありますので、出来るだけかかりつけの動物病院が午後も診察している日を選び、午前中にワクチン接種を済ませておくと安心ですね。
元気がない、食欲がないという場合は、動物病院へ行った事や注射された事での一過性のショック状態である可能性もありますが、明らかにぐったりしている場合はすぐにかかりつけ医を受診しましょう。猫がワクチンを接種する時は、しっかりと事前に健康状態をチェックし、接種後はなるべく安静に過ごすよう気を付ける等の工夫も大切です。
猫の混合ワクチンの料金
猫の混合ワクチンの料金は、病院によって様々ですが、おおよその目安は以下の通りです。
- 3種混合ワクチン 4,500円~5,000円程度
- 4種混合ワクチン 5.500円~7,500円程度
- 5種混合ワクチン 6,000円~9,000円程度
- 7種混合ワクチン 7,500円~10,000円程度
猫の混合ワクチンの料金には、問診、触診等の簡単な健康チェックが含まれている場合も多く、動物病院によっては爪切りを行ってくれる場合もあります。動物病院のホームページに、ワクチン接種の料金が詳しく掲載されている場合もありますので、事前にチェックしておくと安心ですね。
ちなみに、現在単体でのみ接種が行われている猫エイズウイルス感染症(猫後天性免疫不全症候群)や、混合ワクチンにも含まれている猫白血病ウイルス感染症の単体ワクチン接種の料金は3,500円~5,000円程度のようです。
まとめ
猫の混合ワクチンについて、その種類や効果、料金等をご紹介しました。我が家で暮らす完全室内飼いの愛猫は年に一度、三種混合ワクチンを接種しています。コアワクチンと呼ばれるこの三種混合ワクチンを受けないということは、私達人間が何らかのウイルスを持ち帰ってしまう危険性と常に隣り合わせであるということです。
また、動物病院やペットホテルに預ける場合、このワクチン接種証明書の提示が必要な場合も多くあります。旅行に行かない、外泊しないと考えていても、突然飼い主さんが入院してしまったり、お仕事で出張が決まってしまったりする可能性もあります。愛猫の健康の為にも、今一度猫の混合ワクチン接種について改めて考えてみて下さいね。