猫に漢方薬を使ってもいいの?注意点や飲ませ方

猫に漢方薬を使ってもいいの?注意点や飲ませ方

漢方薬は人間の医療でも使用されており、自然の原料から作られていて西洋薬よりも副作用が少なく、西洋医学では効果がなかった症例に対して漢方薬を使用したことで改善される例があることから、最近では猫に対しても漢方薬を取り入れている動物病院が増えてきています。中には気になっていた飼い主さんも少なくないと思います。実際に猫に漢方薬を飲ませて問題はないのでしょうか。また猫に漢方薬を飲ませることで、どのような効果が得られるのか、注意点も踏まえて詳しくお話ししたいと思います。

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記事の監修

東京農工大学農学部獣医学科卒業。その後、動物病院にて勤務。動物に囲まれて暮らしたい、という想いから獣医師になり、その想い通りに現在まで、5頭の犬、7匹の猫、10匹のフェレットの他、ハムスター、カメ、デグー、水生動物たちと暮らしてきました。動物を正しく飼って、動物も人もハッピーになるための力になりたいと思っています。そのために、病気になる前や問題が起こる前に出来ることとして、犬の遺伝学、行動学、シェルターメディスンに特に興味を持って勉強しています。

猫の病気の治療には漢方薬が効果的?

様々な種類の漢方

西洋医学では一般的に血液検査やレントゲン検査などをおこない、突き止めた原因や病気に対して薬を処方する治療がメインとなります。

例えば動物の人工透析はまだあまり普及しておらず、高齢猫に多い慢性腎不全でも人間のように人工透析をすることが難しいためのが現状です。以前は点滴による脱水の補正と腎臓の負担を軽くするための食事療法、尿毒症を防ぐための投薬が治療のメインでしたが、最近は腎機能の低下そのものを抑制する薬が使われるようになってきています。猫ちゃんの状態をより良くするために、漢方薬はそれらの治療と一緒に使うことができるでしょう。

最近では慢性腎不全以外にも再発を繰り返す膀胱炎や慢性の皮膚病など、西洋医学では完治させることが難しい病気や、特定の病気が診断されなくても体調不良によって苦しんでいる猫ちゃんに対して漢方薬を使用する動物病院も徐々に増えてきています。

私たち人間でも病気や症状によって西洋医学では治療が難しい場合には、漢方薬を併用することがあります。

漢方薬で猫の病気は完治するの?

カーペットの上で横になっている猫

漢方薬を処方する動物病院が増えるにつれ、様々な意見が聞かれますが、漢方薬を使ったからといって病気が必ず完治するわけではありません。しかし、漢方薬は猫に対しても効果があるようです。

一般的な治療では病気の原因に対してダイレクトにアプローチしますが、漢方は猫自身の自然治癒力に働きかけ免疫力をアップさせて症状が改善されるようにサポートする治療法となります。

猫の死因第一位である腎不全は現在の獣医療では完治させることはできず、全身の様々な臓器に悪影響を及ぼし、猫のQOL(生活の質)を大きく下げる病気です。腎不全による高血圧は網膜剥離を起こすこともあります。そんな腎不全に対しても漢方薬を使用することもあります。

漢方薬と西洋医学を組み合わせて使うのが主流

猫に注射をする男性獣医師

漢方薬はカッコンやオウゴン、ニンジン、ハッカ、カミツレなど様々な植物や、シベリア霊芝などのキノコ類など、自然の材料を用いた生薬を組み合わせたもので、病気や症状に対してだけではなく、ストレスやなんとなく元気がないなど、原因は分からない体調不良に対して使うことができます。

基本的には西洋医学の治療と組み合わせて使うことが主流となっています。

症状によっては西洋医学では改善が見られなかった症例に対して、漢方薬を使用したことで良くなったケースもありますし、私たち人間と同様に猫も漢方薬を使うことで体質改善やQOLの維持、向上に効果があると考えられます。

漢方薬が使われる主な病気について

病院で診察を受けている猫

漢方薬は病気だけではなく個々の症状に合わせて処方されることが多く、猫では「てんかん」「癌」「口内炎」「慢性腎不全」「皮膚疾患」などで使われることが多いようです。

てんかん

てんかんは脳の神経回路の異常により全身性または部分的なケイレンや意識障害を発作的に起こす脳の疾患です。いきなり体が倒れて手足をバタバタと動かしを口から泡やヨダレを出す全身性の発作や、四肢や顔などの一部にケイレンを起こす部分発作があります。

場合によっては完全に意識が消失し、失禁することもあります。発作は、数秒〜数分でおさまります。ですが重度では何度も立て続けに発作が起きたり、重責発作を起こす場合があります。

猫のてんかんはあまり多くは見られませんが、一般的に抗てんかん薬による治療となります。漢方の医学ではてんかんは「肝」臓の病気と考えられています。肝臓に分類される臓器は自律神経の機能に携わるため、神経伝達を整える目的で漢方薬を使用することがあるそうです。

慢性腎不全

慢性腎不全は少しずつ腎臓機能が低下していく病気で、15才以上の高齢猫では80%以上で慢性腎不全を持っているといわれています。

腎不全の症状は腎機能の約70%が失われて初めて出るようになり、また失われた腎臓の機能は元に戻ることはないため、いかに早い段階で腎機能の低下に気づき西洋薬や漢方薬、食事による治療で腎機能の低下を抑えられるかが大事になります。腎不全が進行すると貧血傾向になるため、血をつくる目的で漢方を取り入れることもあるようです。

失われた腎臓の機能は元に戻ることはできないため、いかに早い段階で漢方薬による治療を取り入れた対策や予防が大事といわれています。多くが低タンパク質の腎臓食を選択しますが、腎不全により貧血傾向になるため血をつくる目的で漢方を取り入れることもあります。

下痢

下痢とは便の水分量が異常に多い状態のことを指します。通常であれば便の水分量が70%程ですが80%を超えると柔らかい軟便、90%を超えると水様便となり、血が混じる血便を伴うこともあります。

下痢の原因としてはパルボウイルスなどのウイルス性や、細菌性、寄生虫性などの感染によるものや、食事による消化不良や食物アレルギー、また異物誤飲やストレスなど様々な原因があげられます。

一般的な治療では主に抗生剤や整腸剤を使用しますが、下痢に効果のある漢方薬もあります。

癌(悪性腫瘍)

猫も獣医療の進歩により寿命が伸びたことにより、癌の発生率があがり猫の死因上位にあります。乳腺腫瘍や悪性リンパ腫、血管肉腫などがあげられ、猫は腫瘍の約8割が悪性といわれています。

そのため腫瘍そのものの治療の他に、免疫力をつけたり、癌に伴う痛みやストレスを緩和してQOLを向上させる目的で漢方薬を使用することがあります。

実際に漢方薬を使用したことで食欲が出てきたり、余命宣告より長く生きることができたという声もあります。癌を持つ猫で漢方薬をする場合は、でその目的は癌を治すことではなく、いかに癌とともに長く元気な状態を作り出すということになります。

難治性の口内炎

私たち人間と同じように猫も口内炎になることがあります。多くが猫カゼの原因といわれている猫カリシウイルスや猫ウイルス性鼻気管炎ウイルスなどが原因です。

また猫免疫不全ウイルス感染症(FIV)や猫白血病ウイルス感染症(FeLV)、糖尿病などによる免疫低下によるものや、腎不全により口内炎を発症することがあります。

原因や症状の度合いによりますが、一般的な治療では抗生剤やインターフェロン、ステロイド剤などを使用します。

しかし猫の口内炎の多くが難治性で完治が難しく、薬によっては副作用が生じることがあります。特に高齢になると特定の病気にかかるというよりも様々な不調が起きるため、漢方薬を取り入れるた治療方法が向いていることもあるでしょう。

実際に漢方薬を飲ませたことで出血量が減ったり、口周りがベトベトしなくなり綺麗になったと効果を認める声があるようです。

皮膚疾患

皮膚を痒がったり毛が抜けたり、カサブタがある、被毛や皮膚がベタベタするなどの皮膚トラブルが猫でも起きることがあり、ノミやハウスダストなどのに対するアレルギーや、真菌症やストレスによる脱毛などがあります。

原因や症状によりますが免疫力の低下や、腸内環境の悪化などが皮膚トラブルにつながっていることもあり、漢方薬を使用し免疫力を上げたことで症状が改善したケースがあるようです。

猫の漢方薬はどこで処方してもらえるの?値段は?

薬局で患者に対応する薬剤師

猫に飲ませる漢方薬は病気や症状などによりますが、漢方薬局で処方してもらえる場合があります。ですが最近では動物病院でも病気による痛みや苦痛の緩和や、ストレスなどを少しでも軽減させるために漢方薬を処方したり、相談にのってくれる病院もあるので、まずはかかりつけの獣医師に聞いてみるといいでしょう。

かかりつけの動物病院で漢方の取り扱いがない場合には、ペットへの処方の経験も豊富な漢方薬局や漢方に詳しい動物病院をインターネットで検索することができます。漢方に詳しい獣医師は鍼灸やホメオパシーなどの代替療法を行っている獣医師も多く、そのようなキーワードで検索すると良いかもしれません。また、漢方や鍼灸などの勉強会や教育を行っている獣医師の団体もいくつかあり、例えば日本ペット中医学研究会(https://j-pcm.com/)では会員病院を検索することができます。

漢方薬と聞くと粉のイメージがあると思いますが、錠剤タイプの漢方薬もありますので、猫が飲みやすい形状の漢方薬を選ぶとよいでしょう。

処方する漢方薬によりますが1ヶ月にかかる値段は5000円程のことが多いようです。症状や処方する漢方薬によっては、一般的な動物病院で処方される西洋薬より安くおさえることができたり、副作用の心配が少ないといったメリットもあります。

犬や猫のペットに対しての漢方薬を販売している漢方薬局から入手する場合、その薬局が獣医師と連携していなければ必ず使用の際には獣医師に相談してください。

猫に漢方を飲ませる上手な方法

シリンジで薬を飲まされている猫

漢方薬は私たち人間でもとても苦いものが多いので、猫でも嫌がったりなかなか飲んでくれないケースが多いようです。猫に漢方薬を投薬する場合、どのような方法で飲ませたらいいのでしょうか。

いつも食べているフードやおやつに混ぜる

一番すぐにできる方法としては、いつも食べているフードに漢方薬を混ぜて与えることです。特に猫が好きなおやつに混ぜてみるなど、好きなものと一緒に与えてみるといいかもしれません。

しかし混ぜて与えて一回で全部食べきることができなかったり、漢方の苦味で食べてくれなかったりすると、全量を服用できず漢方の効果が十分に発揮されないため、少量のフードに漢方薬を混ぜたものを与え、それを全部食べてくれたらいつもの量のフードを与えることで確実に漢方薬を飲ませることができるでしょう。

水で溶いたものを飲ませたりフードに混ぜたりしても良いかもしれません。あまり大量の水で混ぜると飲みきれなくなるでしょうが、様々な濃さを試してみると丁度良い濃さが見つかるかもしれません。水ではなくささみのゆで汁やはちみつを少し溶かしたものと混ぜても良いかもしれません。

フードやおやつに混ぜると食べてくれない場合、柔らかいチーズや投薬補助用のタブの中に漢方薬を入れてしまう、おいしいもので漢方薬を包んでしまう方法もあります。

カプセルに入れて投薬する

フードやおやつに混ぜたり、ミルクやお湯で溶かす飲ませ方もありますが、どうしても漢方の苦味で食べなかったり、飲んでくれない場合が多いかと思います。

人間の場合も苦い薬に対してオブラートで包んで飲ませる方法があるように、猫の場合も投薬用の空のカプセルに漢方薬を入れて飲ませる方法があります。

オブラートでは口が小さい猫では喉に引っかかる恐れがあるため、カプセルを用いた投薬の方がスムーズに飲ませることができます。

空のカプセルは様々な大きさのものが薬局で売られています。猫が飲みこみやすい小さなサイズのカプセルを選ぶと良いと思います。カプセルを飲ませた後は水をシリンジで飲ませたり喜んで飲んでくれるささみのゆで汁などを飲んでもらうと、喉や食道に万が一カプセルが張り付いていても胃まで流れてくれるでしょう。

愛猫に合った治療プランを考えてみましょう

男性獣医師と猫を抱いた女性の飼い主

ほとんどの動物病院では一般的に病気や症状に応じた治療をおこなう西洋医学がメインとなりますが、免疫力を高めたりQOLの維持、向上などを目的とした漢方薬による治療も猫にも効果があるといわれています。

特に高齢猫に多い慢性腎不全や悪性腫瘍など、完治させることが難しい病気や慢性や再発を繰り返す皮膚病、難治性の口内炎など、痛みや苦しんでいる猫ちゃんに対して漢方薬による治療を取り入れている動物病院も増えてきています。

病気や症状によっては高額な治療費となったり、西洋薬による副作用が生じる場合でも、漢方薬による治療をおこなったら費用が抑えられ、副作用なく症状が改善されたとの声も多数あげられています。

獣医師は治療プランを提案しますが、それを実行するかどうか、どの治療にするのかを決めるのは飼い主さん自身になります。漢方薬に詳しい獣医師もいればそうではない獣医師もいます。詳しくはなくても漢方薬を取り入れてくれる獣医師もいます。もし大事なパートナーである愛猫のために漢方薬を使用してみたいという場合は、しっかりと獣医師と相談して悔いのない選択をしていただければと思います。

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